森祇晶『責任者の條件 勝利への九つの設計図』

 青春文庫の一冊として、青春出版社から1999年3月に刊行されました。本書は、同じ題名で青春出版社から1997年4月に刊行された単行本の文庫化です。本書の刊行時期は、著者が西武の監督を退いて横浜の監督に就任する前で、著者は一般的には名将として高く評価されていたように思います。もっとも、本書刊行の前年に、著者が巨人監督に就任するという話が大きく報道され、巨人ファンの反対で立ち消えとなったので、文庫本刊行の頃には、著者への嫌悪感は単行本刊行時よりも上がっていたかもしれません。

 本書の内容ですが、全体的に抽象的となっており、単にプロ野球ファン向けではなく、一般的・普遍的になっています。おそらく著者も編集者も意識してのことでしょう。その分、プロ野球ファンの読書が期待するような具体的な話はやや少なくなっており、個人名が伏せられていることも多く、少なからぬ読者が期待していただろう醜聞めいた話に具体性が欠けているところもありますが、著者の対外向けの姿勢からは、こうしたやや「堅苦しい」内容になることには納得できます。そのため、著者は親交のあった野村克也氏よりも一般人気が低かった、とも言えるでしょう。

 もちろん、本書にはプロ野球に関する具体的な話も多くあり、興味深いものも少なくありませんでした。たとえば、石毛宏典氏を将来の指導者と見込んで、選手時代から監督・コーチ会議に呼んでいた、というような話です。今にして思うと、見込み違いも甚だしかったわけですが、私も当時は、石毛氏が監督に向いていると考えていました。達川光男(晃豊)氏もそうでしたが、現役時代に監督としての資質を見抜くのは、私のような見識のない人間には難しいものです。また、全体的に綺麗事との印象は否定できません。たとえば、清原和博氏について著者は、自律的で自主的に練習・行動のできる選手として高く評価していますが、今になってみると、著者が節穴だったか、当時はまだスター選手だった清原氏に忖度したか、自分の指導が間違っていなかったことを示したかっただけではないか、と勘ぐってしまいます。まあ、高校野球のスター選手で、オーナーのお気に入りだった清原氏を厳しく指導するのも、監督としてはなかなか難しかったかもしれませんが。

 選手の自主性と言えば、著者は、西武には自主管理のできる選手がそろっており楽だろう、と評論家やマスコミによく言われたものの、そこに持っていくまでの過程に苦労がある、と力説します。確かに、当時の西武の戦力といえども、ほぼドラフト制下の選手ばかりだったにも関わらず、監督として9年間でリーグ優勝8回、日本一6回を達成できる人はきわめて少ないでしょう。その意味で、著者の選手を使う力量は優れていると言えますが、けっきょく著者の横浜での監督時代を考えると、その前の監督だった広岡達朗氏と、広岡氏の前任で森監督時代のほとんどの期間で管理部長だった根本陸夫氏の功績が大きかったのではないか、と思います。本書のような功績を残した人の「ビジネス本」は少なくありませんが、常識論になってしまうものの、やはり鵜呑みにするものではない、と改めて思い知らされます。

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