『卑弥呼』第45話「死と誕生」

 『ビッグコミックオリジナル』2020年9月5日号掲載分の感想です。前回は、山社(ヤマト)においてヤノハとナツハが対面したところで終了しました。今回は、暈(クマ)の国の以夫須岐(イフスキ)にて、鞠智彦(ククチヒコ)がイサオ王の館に向かう場面から始まります。鞠智彦は、新たな墓が築造中であることに注目します。本作では、この墓が奥津城(オクツキ、神道式の墓)と呼ばれています。この墓は円墳のようです。鞠智彦配下のウガヤは、これが誰の墓なのか、知りません。墓の築造を眺めていたイサオ王に、配下が鞠智彦の到着を報告し、ここに通すよう、イサオ王は命じます。誰の墓なのか、鞠智彦に尋ねられたイサオ王は、末の弟のための墓と答えます。墓の準備にはまだ若いのでは、と鞠智彦は怪訝に思います。イサオ王は、末の弟は息子のタケルと同い年で、タケルの死で自分は、人はいつ死ぬか分からないと学んだ、と鞠智彦に言います。面会したヤノハがどのような人物だったのか、イサオ王に尋ねられた鞠智彦は、奸智に長けた曲者だった、と答えます。その答えを聞いたイサオ王は、笑顔で鞠智彦に共に酒を飲もう、と提案します。息子亡き後、鞠智彦は息子同然なので、腹を割って話したい気分だ、とイサオ王は言います。すると鞠智彦は、鞠智の里の銘酒を2甕持ってきたので好都合、と応じます。

 山社(ヤマト)では、ミマアキがナツハの世話をしているようです。ナツハの食事を持ってきたミマアキは、山社に来て10日になるのに、自由に表に出られず苦労をかける、と詫びます。ミマアキはヤノハから、ナツハは客人なので最高のもてなしをするよう命じられていました。何か必要なものがあるか、ミマアキに尋ねられたナツハは、何も意思を示しませんが、ミマアキは、こちらからはお願いがあると言い、ナツハの土笛を預かりたい、と要望します。ヤノハはヌカデを呼び、ナツハの顔を近くで見ることに反対するミマト将軍とイクメを説得するよう、支持します。ヤノハがナツハのいる(軟禁されている、と言うべきでしょうか)小屋を見ていたことに気づいたヌカデは、なぜヤノハがナツハにそれほど興味を抱くのか、ヤノハに問いかけます。ヤノハはやや躊躇って恥じらいながら、遠目で見た時、皆が醜いというナツハを自分は美しいと思ったので、どちらが正しいのか間近で確認したい、と答えます。ナツハがどれほど危険かまだ分からないので、判断がつくまでもう少し待つよう、ヌカデはヤノハに進言します。そこへミマアキが現れ、ナツハには少なくとも敵意はなさそうだ、と言います。ナツハは狼や犬を自在に操る土笛をミマアキにあっさりと渡していました。

 イサオ王と鞠智彦は、イサオ王の館らしき場所で宴を始めます。盃が見事なことに感心するイサオ王に、鞠智の里の陶部(トウノベ)の作だ、と答えます。鞠智の里の酒人(サカト)が丹精込めた命の水をお召し上がりください、と鞠智彦はイサオ王に勧めますが、イサオ王の方は、まず鞠智彦から飲むよう勧めます。躊躇う鞠智彦に、宴では客人が先に酒を飲むものだ、とイサオ王は言います。鞠智彦が酒を飲んだのを確認して、イサオ王も酒を飲み、美味い、と言います。日見子(ヒミコ)と名乗る女(ヤノハ)は自分が示した和議を受け入れたのか、とイサオ王に問われた鞠智彦は、拒否し、戦わない戦いを望むと言ってきた、と答えます。暈と山社が永久に睨み合っていれば、筑紫島(ツクシノシマ、九州を指すと思われます)は平和だろう、というわけです。面白いことを考える、とイサオ王は感心したように言います。どうするのか、鞠智彦に問われたイサオ王は、韓(カラ、朝鮮半島でしょうか)に行く道が閉ざされるなら論外で、那(ナ)や伊都(イト)と組もうとも叩き潰せ、と厳しく答えます。すると鞠智彦は、ヤノハの提案をイサオ王に伝えます。暈の社(ヤシロ、現在の八代市でしょうか)から速岐(ハヤキ、現在の佐世保市早岐でしょうか)に向い、庇羅島(ヒラノシマ、平戸島でしょう)より韓へ出向するなら、暈の舟を阻む理由はない、とヤノハは鞠智彦に提案していました。つまり、韓より鉄(カネ)の輸送を黙認するということか、とイサオ王に問われた鞠智彦は肯定します。タケルならどうするか、とイサオ王に問われた鞠智彦は、タケル王は日見彦(ヒミヒコ)なので、自分に判断を任せるだろう、と答えます。そなたならどうするのか、とイサオ王に問われた鞠智彦は、長引く戦は無益なので、日見子(ヤノハ)の提案を受け入れる、と答えます。

 イサオ王は侍女を退出させ、タケル王の館を訪問し、形見の品を取ってきた、と鞠智彦に伝えます。イサオ王はそこでトンカラリンの迷路を詳細に記した地図を見つけ、タケル王の屍を回収し、骨や腕や胸にいくつかの傷がついていたことに気づきました。鞠智彦はイサオ王に、タケル王はトンカラリンで自決したと伝えており、イサオ王はそれが嘘だと気づいていましたが(35話)、タケル王の遺骸を確認してそれを確信した、というわけです。イサオ王は鞠智彦に、今築造中の墓は息子のタケル王のもので、そこにはそなたも入る、と鞠智彦に伝えます。すると兵士2人が現れて鞠智彦を拘束します。話を聞いてほしい、と訴える鞠智彦に、息子のタケル王が日見彦の器ではなかったことを重々承知しているが、自害するよう説得せよと命じたのに、嬲り殺しにした、とイサオ王は厳しい表情で言い渡します。イサオ王はまず鞠智彦の手と脚を斬り、墓の頂に首だけ出して埋め、1日1回水を与える、と伝えます。鞠智彦は泣き叫び、後悔し、苦しみながら死んでいく、というわけです。イサオ王はその後で、鞠智彦の頭蓋骨を館に飾るつもりです。ところが、鞠智彦を拘束していた兵士2人が突如飛び道具で刺されて死亡します。鞠智彦は、館の者を全員殺したので、覚悟するよう、イサオ王に迫ります。自分を殺すのか、と愕然とするイサオ王は吐血します。イサオ王は、酒ではなく盃の縁に毒が塗られていたことに気づき、落命します。倒れたイサオ王を見ながら、自分が新たな暈の王である、と鞠智彦が言い放つところで、今回は終了です。


 今回やや意外だったのは、ヤノハがまだナツハの顔を近くで見ていなかったことです。前回の描写では、わりと近くで見ていたような感じでしたが。ヤノハは、皆が醜いと思うナツハの顔を、遠目で見た時に美しいと感じたので、どちらが正しいのか間近で確認したい、と考えています。この好奇心の強さがヤノハの強い個性となっていますが、義母が案じたように(40話)、それが身を亡ぼすことにもなりかねません。ナツハはヤノハを深く憎悪しているヒルメから、ヤノハを死よりもっと恐ろしい目に遭わせ、全てを奪い取ってやるよう、指示を受けています(39話)。ヤノハに土笛をあっさりと預けたナツハですが、どのような策でヤノハを陥れようとしているのか、注目されます。ヤノハのナツハへの好奇心は、今回の描写では単に顔の美醜だけのように思いますが、あるいは、ヤノハはナツハが弟のチカラオかもしれない、と気づいているのでしょうか。ヤノハがナツハ顔をまだよく見ていないとしたら、弟の顔を忘れてしまったようですから(17話)、弟と確信できなくても不思議ではありません。まあ、ナツハがチカラオと確定したわけではありませんが、これまでの話の流れからは、その可能性は高そうですから、ヤノハがナツハは弟だと気づいてどのような反応を示すのか、楽しみです。

 ヤノハとナツハとの関係も気になりますが、今回は鞠智彦とイサオ王の駆け引きが主題だったと言えるでしょう。ヤノハからイサオ王を殺すよう示唆された(43話)鞠智彦がどう動くのか、気になっていましたが、答えはイサオ王の殺害でした。イサオ王が鞠智彦を殺そうと考えたのは、息子のタケル王を嬲り殺しにされたからというよりは、自分の指示に叛き、嘘をついていたからのように思います。冷酷なイサオ王は、自分へのわずかな反逆も許さないのでしょう。イサオ王が毒を警戒しているのは明らかで、鞠智彦にまず酒を飲むよう勧めたところでは、さすがの鞠智彦もイサオ王には敵わないのかな、とも思いましたが、これまでの鞠智彦とイサオ王の登場回数からして、このまま鞠智彦が殺されることはないと考えたので、鞠智彦がどう切り抜けるのか、楽しみでした。その後、鞠智彦が平然と酒を飲み、それを見たイサオ王が酒を飲むところを、鞠智彦が慎重に観察しているような描写から、盃に毒を塗っているのだろうな、と予想できました。イサオ王は大物感のある人物でしたが、鞠智彦の方が一枚上だった、というわけです。イサオ王を毒殺した鞠智彦は、自分がイサオ王として暈の国に君臨するつもりなのでしょうか。鞠智彦は刺青を入れており、日見彦(卑弥弓呼)にはなれないでしょうから、自分の息子(鞠智彦に子供がいるのか、明示されていませんが)か縁者か配下の者をタケル王として、日見彦と称させるつもりでしょうか。鞠智彦が暈の王となったことで、山社連合と暈との「冷戦」も確定的になった、と言えそうです。今後は、サヌ王が建てたとされる、本州(さらに特定すると、おそらくは現在の奈良県)にあるらしい日下(ヒノモト)の国も絡んできそうですから、山社連合と暈との「冷戦」構造が確立しても、ヤノハと山社の危機はまだ続きそうで、面白い展開が続くのではないか、と期待しています。

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