大相撲七月場所千秋楽

 これまで当ブログでは名古屋場所と表記してきましたが、東京の両国国技館開催となったので、七月場所としました。今年(2020年)は新型コロナウイルスの流行により、春場所が無観客での開催、夏場所が中止となり、七月場所は名古屋ではなく東京開催で、観客は2500人までに制限されました。色々と批判はあるでしょうが、千秋楽まで無事開催されたことは何よりでした。2011年もそうでしたが、今年も、「平穏な日常」がいかに大切なものなのか、またそれがいかに脆いものなのか、改めて痛感しています。

 優勝争いは、白鵬関が10日目に全勝で単独首位に立ち、このまま独走するのかと思ったら、11日目・12日目と連敗し、しかも膝を痛めて13日目から休場に追い込まれました。白鵬関といえども、出稽古禁止で調整が難しかったこともあるでしょうし、全盛期よりも力が落ちていることもあるのでしょう。全盛期の白鵬関ならば、こうした展開で優勝を逃すことはほとんどなかったでしょう。2日目から途中休場となった鶴竜関はもっと深刻で、いつ引退しても不思議ではありません。横綱不在が近いうちに現実化するかもしれず、相撲協会も不安でしょう。

 白鵬関の途中休場により、優勝争いは、次の横綱候補である新大関の朝乃山関と、幕内に戻ってきた元大関の照ノ富士関が引っ張ることになりました。両者は13日目に1敗同士で対戦し、照ノ富士関が上手さと力強さを見せて勝ちました。14日に、照ノ富士関は正代関に敗れて2敗となり、朝乃山関は照強関の注文相撲にはまった感じで負けて3敗となりました。これで、優勝争いは2敗の照ノ富士関と3敗の朝乃山関・正代関・御嶽海関に絞られました。

 千秋楽は、結び前の一番で照ノ富士関と御嶽海関が対戦し、結びの一番で朝乃山関と正代関が対戦するという、優勝争いに絡む4人の対戦が組まれました。照ノ富士関が勝てば優勝が決まりますが、御嶽海関が勝てば久々の巴戦(3人では1994年春場所以来)になるという点でも、大いに注目されました。照ノ富士関と御嶽海関の一番は、照ノ富士関が外四つながら両上手を取って速攻で寄り切って勝ち、実に2015年夏場所以来となる2回目の優勝を決めました。結びの一番では朝乃山関が厳しい攻めで正代関を押し出して勝ち、12勝3敗としました。

 照ノ富士関の復活は見事でしたが、脆さもあり、全盛期の力にはまだとても及ばないと思います。しかし、大関再昇進は難しいかもしれないものの、関脇にまで戻る可能性は高そうです。御嶽海関と正代関が近いうちに大関に昇進するかもしれないとはいえ、朝乃山関は次の横綱の最有力候補と言えるでしょうが、まだ実力が足りないのは否めません。とはいえ、鶴竜関の引退が見えてきて、白鵬関も全盛期からは随分と衰えていますから、近いうちに横綱に昇進する可能性は低くないでしょう。ただ、今場所後半の崩れ方を見ると、横綱に昇進できるのか、不安も残ります。横綱不在を避けるためにも、朝乃山関にはもう一段階上の強さを身に着けてもらいたいものです。

 貴景勝関は11日目に勝ち越しを決め、12日目から休場となりました。貴景勝関は今場所明らかに状態が悪かったのですが、何とか勝ち越して角番を脱出できたのは何よりでした。貴景勝関は研究されてきており、怪我も絶えないため、押し相撲一本で横綱に昇進するのは難しそうで、白鵬関と鶴竜関が引退したとしても、大関の地位を維持するのが精一杯となりそうです。とはいえ、四つ相撲での貴景勝関の弱さを見ると、これから四つ相撲に変えようとしたら大関陥落の可能性は高そうですから、今後も押し相撲を貫くのがよいのでしょう。

ホラアナライオンのmtDNA解析

 絶滅したホラアナライオン(Panthera spelaea)のミトコンドリアDNA(mtDNA)解析結果を報告した研究(Stanton et al., 2020)が公表さました。ホラアナライオンは更新世末(最後の化石記録は較正年代で14219±112年前)に絶滅するまで、全北区全域で頂点捕食者でした。ホラアナライオンは現生ライオンより大きく、更新世の洞窟芸術からは、ホラアナライオンには鬣がなかった、と示唆されます。しかしホラアナライオンは、集団生活や求愛儀式のようないくつかの行動的特徴を現生ライオンと共有していました。

 ホラアナライオンの分類に関しては議論があり、ライオン(Panthera leo)の亜種(Panthera leo spelaea)もしくはトラ(Panthera tigris spelaea)とより密接に関連している、と主張されてきました。とくに、ホラアナライオンと現生ライオンとの間の分岐年代の分子推定は、研究によりかなり異なっており、60万年前頃とも、293万~123万年前頃とも推定されています。以前の研究では、ATP8と制御領域の348塩基対に基づき、ホラアナライオンにおける二つの主要なmtDNAハプログループ(mtHg)が特定され、標本の年代とそのmtHgとの間には関連があり、一方のmtHgは41000年前頃に消滅した、と示されました。

 頭蓋と下顎の形態学的分析では、アラスカのヤクート(Yakutia)とカナダのユーコン準州のホラアナライオンはヨーロッパのホラアナライオンよりも小さいと示され、ベーリンジア(ベーリング陸橋)のライオンは異なる亜種(Panthera spelaea vereshchagini n.subsp)と結論づけられました。しかし、ホラアナライオンに関する全ての遺伝学的な先行研究は、小さなミトコンドリア断片のみを用いたか、限定的な標本数に基づいていたので、ホラアナライオン間およびホラアナライオンと現生ライオンとの間の系統的構造は、ほとんど未解決のままでした。

 この研究では、ホラアナライオンの全生息範囲を対象に、放射性炭素年代測定法の限界(5万年前頃)を超えた古い年代化石記録も含めて、31頭のホラアナライオンのミトコンドリアゲノム多様性が調査されました。また、複数の新たな放射性炭素年代が測定され、遺伝的データを利用しての曖昧もしくは放射性炭素年代測定法の限界を超えた年代の標本の年代推定と、ライオンとホラアナライオンとの間の分岐年代の推定と、ホラアナライオンの種内ミトコンドリア多様性の調査が可能となりました。以下、本論文で分析されたホラアナライオン標本の位置と年代を示した本論文の図2です。
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 ミトコンドリアゲノム分析では、ホラアナライオンと現生ライオンはそれぞれクレード(単系統群)を形成します。ホラアナライオン標本の年代は、おもに放射性炭素年代測定法に基づいていますが、それが利用できなかったり、限界年代(5万年前頃)を超えたりしたような場合は、遺伝学的に年代が推定されました。これらに基づき、ホラアナライオンと現生ライオンとの分岐は185万年前(信頼区間95%で291万~52万年前)と推定されました。これは以前の推定年代(293万~123万年前)とおおむね一致します。一方、全ゲノム配列を活用して、派生的アレル(対立遺伝子)と雄X染色体とミスマッチ率から、化石記録に依拠せずに推定された両者の分岐年代は50万年前頃です(関連記事)。放射性炭素年代のみを用いて分析した場合の両者の推定分岐年代は55万年前頃(396万~17万年前頃)です。本論文は、分子時計の不確実性も考慮して、より妥当と考えられる化石記録も考慮した古い推定分岐年代の方を採用しています。ただ、この推定年代は化石記録による較正に大きく依拠しているので、将来改訂される可能性もある、と本論文は指摘します。

 ホラアナライオンにおけるもっとも深い推定分岐年代は97万年前(信頼区間95%で161万~20万年前)で、他の個体群と最も早く分岐したA系統は、シベリア北東部のビリビノ(Bilibino)で2008年に発見された643394年前の1個体のみで代表されます。ただ、この標本の出所が不確かなことや、この標本と同一個体かもしれない他の標本の年代が61000年前や28700年前と推定されていることなどから、本論文はA系統の推定に関して注意を喚起しています。

 ホラアナライオンにおける次に深い分岐は578000年前(信頼区間95%で124万~108000年前)で、残りの標本はこのクレードBとクレードCに分類されます。クレードBには419000~28000年前頃の標本が、クレードCには311000~136000年前頃の標本が含まれます。興味深いことに、mtHgと地理との間には強い関連性がありました。クレードBとCの間には地理的重複もありますが、クレードBはほぼベーリンジアに限定され、1標本を除いてヤナ川の東方で発見されました。クレードCはオランダからシベリア東部までユーラシア全域に分布しますが、1標本を除いてベーリンジアでは見つかっていません。28000年前頃より新しい標本は全てクレードCに分類され、クレードBはホラアナライオンの絶滅の1万年以上前に消滅したかもしれません。以下、ホラアナライオンの系統関係を示した本論文の図1です。
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 本論文の結果は、ホラアナライオンが前期更新世に現生ライオン系統と分岐した、と示唆します。前期更新世は、159万年前頃のホラアナグマの分岐や、250万年前頃のアフリカとユーラシアのハイエナの分岐など、大型動物相の多様化において重要な時期だったようです。本論文の結果は、ホラアナライオンと現生ライオンを形態と遺伝的データに基づいて異なる種と仮定した以前の研究と一致します。mtHgに基づくと、ホラアナライオン系統では、971000年前頃にA系統とBC系統が分岐し、578000年前頃にB系統とC系統が分岐した、と推定されますが、いずれも完新世の前までに絶滅しました。これらの分岐は、現生ライオン亜種間の分岐よりもかなり古くなります。

 ホラアナライオンのB系統とC系統は中期更新世に分岐し、それ以降は異なる地域に分布していたようです。この地理的分布は、ホラアナライオンでもベーリンジア個体群の頭蓋と下顎がヨーロッパ個体群よりも顕著に小さい、という以前の知見と一致します。さらに、ホラアナライオンはベーリンジア個体群とヨーロッパ個体群とで獲物の好みが違っていた可能性が高く、前者はバイソンとウマを、後者はトナカイを選好したようです。これも、本論文が提示した遺伝的データと一致し、ベーリンジアのホラアナライオンは亜種(Panthera spelaea vereshchagini)と考えられます。ただ、本論文の知見はあくまでもmtDNAに基づくものなので、核ゲノムではもっと複雑なホラアナライオンの進化史が見えてくるかもしれません。


参考文献:
Stanton DWG. et al.(2020): Early Pleistocene origin and extensive intra-species diversity of the extinct cave lion. Scientific Reports, 10, 12621.
https://doi.org/10.1038/s41598-020-69474-1