ケブカサイの古代DNA解析

 絶滅したケブカサイ(Coelodonta antiquitatis)のDNA解析結果を報告した研究(Lord et al., 2020)が報道されました。この研究はオンライン版での先行公開となります。ケブカサイは寒冷適応の大型草食動物で、後期更新世においてユーラシア北部全域に広範に分布しており、14000年前頃に絶滅しました。ヒトと気候変化が絶滅の潜在的要因として提案されてきましたが、ケブカサイがヒトの到来と気候変動によりどのように影響を受けたのか、知識は限られています。

 そこで、ケブカサイの絶滅に先行する遺伝的多様性の変化を調査し、北極環境へのケブカサイ(ケサイ)のゲノム適応を垣間見るために、較正年代で5万年以上前から14000年前頃のケブカサイ1頭(ND035)の核ゲノムと14頭のミトコンドリアゲノムが配列されました。核ゲノムを得られた1頭は、較正年代で18530±170年前と推定されています。平均ゲノム網羅率は13.6倍で、ゲノムの70%以上が網羅率10倍以上です。DNA断片の平均長は84塩基対で、全体では28180718ヶ所の高品質の一塩基多型が特定されました。この1頭と他の13頭から完全なミトコンドリアゲノム配列が得られ、平均深度は7.5~912.8倍です。以下、各標本の出土地とミトコンドリアゲノムに基づく系統樹を示した本論文の図1です。
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●集団史

 14頭のミトコンドリアゲノムで13の固有のハプロタイプが特定されました。これらは大きくクレード(単系統群)1と2に区分され、これらは最高事後密度(highest posterior density、HPD)95%で440000~116000年前(205000年前)に分岐し、ケブカサイの絶滅近くまで存続しました。クレード1で他の系統と154000年前(95%HPDで326000~91000年前)に分岐したウランゲリ島(Wrangel Island)の単一標本(ND030)を除いて、両クレード間もしくは各クレード内における地理的もしくは時間的構造の指標はありませんでした。ND030のみの特有系統は、草原が温暖期に森林と低木の低地へと変わったため、この場所の南方に好適生息地が少ないことによる、ウランゲリ島の孤立の結果かもしれません。ウランゲリ島の標本を含む将来の研究により、ウランゲリ島とシベリア北東部の隣接地域との間の潜在的な遺伝的構造の調査が可能になるでしょう。

 ミトコンドリア系統は、ケナガマンモス(Mammuthus primigenius)で観察されたパターンと同様に、深い分岐の3クレード(クレード1のND030系統およびその他の系統とクレード2)が存在します。マンモスにおけるこのミトコンドリアゲノム構造は、間氷期の待避所における孤立の結果かもしれない、との仮説が提示されてきました。ケブカサイとマンモスにおいて類似の構造が見つかったことから、これらの種が過去の気候温暖化に対応した、と示唆されます。ミトコンドリア系統樹のクレード1および2の内部では、短く未解決の分枝が、95%HPDで86000~20000年前と最近の多様化を示唆します(分岐点CおよびD)。人口統計学的分析では、14000年前頃の絶滅まで過去11万年のうち約10万年、雌の有効集団規模(Nef)で一定の集団規模維持のモデルが最も支持されます。しかし、さほど支持されないものの、代替的仮説ではNefの拡大が示唆され、系統樹で観察された各クレード内の系統の最近の多様化と一致します。

 ケブカサイの集団史をさらに調べるため、核ゲノムに基づいてペアワイズシーケンシャルマルコフ合体(PSMC)分析が用いられました。PSMC分析は、ペアの相同染色体を小領域に区切り、端の小領域から逐次マルコフ性にしたがって合祖時間(合着年代)を推定するという原理とアルゴリズムに基づき、これにより1個体から過去の個体数が推測されます(関連記事)。有効集団規模(Ne)は、前期更新世において100万年前から次第に増加し、191000~130000年前となる海洋酸素同位体ステージ(MIS)6の152000年前(95%信頼区間で274000~111000年前)に21000と最高に達します。その後、Neは127000年前(95%信頼区間で226000~94000年前)から29700年前(95%信頼区間で40000~26300年前)にかけて1/10に減少し、ここから急速に拡大しました。Neはその後、核ゲノムが得られた1個体(ND035)の年代(較正年代で18500年前)まで一定したままで、これはケブカサイの絶滅の約4500年前となります。

 後期更新世においてNefがNeよりも高いと推定されたことは、雄に偏った拡散と雌の定住性で説明できるかもしれません。しかし、現生サイ、たとえばクロサイ(Diceros bicornis)やシロサイ(Ceratotherium simum)では性的に偏った拡散の証拠はほとんどなく、この説明はケブカサイに当てはまらない可能性が高そうです。代わりに本論文で提示される仮説は、ケブカサイにおける相対的に高いNefは、雄の繁殖成功の分散が大きい結果であり、これはシロサイで報告されてきた事例と類似している、というものです。複数の雄と雌のケブカサイからの核ゲノムデータの将来の分析が、この問題をさらに調査し、その行動へのゲノムの洞察を提供するのに必要となるでしょう。

 MIS6に至るまでNeで観察された増加は、集団拡大を示しているかもしれませんが、代替的な説明として、集団分化とミトコンドリア分析で特定された2クレードの分岐に起因するかもしれません。この2クレードが、異所性、おそらくは間氷期に形成され、これらの集団はその後MIS6の間かその後に拡大して融合し、ミトコンドリアデータで観察された系統地理学的構造の欠如をもたらした、という可能性が高そうです。したがって、MIS6で観察されたNeのピークは、集団構造がPSMCに影響を及ぼすと知られているように、集団の増加というよりはむしろ、集団分化の効果かもしれません。MIS6に続いて、Neは130000~115000年前頃のエーミアン(Eemian)間氷期と最終氷期の始まりを通じて減少し、33000年前頃に最小となりました。

 PSMCは標本の年代より2万年前の期間におけるNeの推定では能力が低下しますが、本論文では29700年前頃の増加が観察されました。この増加はケブカサイの短いミトコンドリアDNA(mtDNA)に基づく以前の推定、および本論文のミトコンドリアゲノムで観察された各クレード内の多様化と一致しますが、その時期にNeの拡大が示唆されないケナガマンモスのデータとは対照的です。本論文では、観察されたケブカサイのNe増加が、気候的に不安定なMIS3からより気候が安定した寒冷化したMIS2の移行と関連しているかもしれない、との仮説が提示されます。MIS2は、寒冷適応種にとって、シベリア北東部で適した生息地が形成された期間と示唆されました。

 しかし、ケブカサイはNe増加を経ていますが、ケナガマンモスのような他の慣例適応分類群は安定したままでした。したがって、MIS2はケブカサイにとって、氷河のツンドラステップが優勢で、集団拡大を可能とするような、とくに適した生息地をもたらしたかもしれません。代替的な説明では、Ne増加は、ケブカサイのような非常に特殊化した草食獣の範囲が収縮したので、集団の融合を表している一方で、そのより広範な分布により示されるように生態学的にもっと柔軟だったかもしれないマンモスは一定のNeを維持した、とされます。

 PSMC分析の限界のため暫定的ですが、本論文の結果が示唆するのは、ケブカサイの集団規模が29700年前頃の拡大後はND035標本の死まで一定のままだったかもしれない、ということです。本論文のミトコンドリアデータはさらに、特定された2系統が推定される14000年前頃の絶滅の300年以内まで存続したことから、絶滅近くまでの集団の安定性を支持します。35000年前頃に始まるシベリア北東部へ向けての生息範囲の漸進的縮小にも関わらず、化石記録が示唆するのは、ケブカサイが依然として18500年前頃までは広範に存在していたということで、これは本論文の推定集団規模が安定したままである理由を説明するかもしれません。

 興味深いことに、いくつかの他の哺乳類からのデータは、後期氷期の待避所としてのシベリア北東部の重要性を強調します。たとえば、最近の分析では、現生オオカミ系統はシベリア北東部に起源がある、と示唆されており、北アメリカ大陸への移住の前に現生人類(Homo sapiens)集団の混合がシベリア北東部で起きた、との仮説が提示されています(関連記事)。同様に、最終氷期極大期(Last Glacial Maximum、略してLGM)後にシベリア北東部に存在した、ウマやバイソンやクビワレミングのミトコンドリア系統もひじょうに分岐しており、この地域におけるいくつかの分類群の長期の集団継続性が示唆されます。以下、Neの推移を示した本論文の図2です。
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●ゲノム多様性と絶滅

 ケブカサイのゲノムは1000塩基対につき平均約1.7のヘテロ接合性箇所があります。これは、1000塩基対当たりのヘテロ接合性箇所では、以前に報告された、本土マンモス(1.25)や現生スマトラサイ(1.3)やキタシロサイ(1.1)やミナミシロサイ(0.9)で観察されたゲノム多様性よりも高くなります。ホモ接合連続領域(ROH ;両親からそれぞれ受け継いだと考えられる同じ対立遺伝子のそろった状態が連続するゲノム領域)に基づくと、50万塩基対以上のROH領域を考慮した場合、近親交配率(FROH)は5.9%と推定されます。さらに、ROHの96%は50万塩基対以下で、ROHの最大長は250万塩基対です。

 ケブカサイにおけるこの近親交配水準は比較的低く、たとえば、非アフリカ系現代人集団と同等です。しかし、近親交配の水準は、後期更新世の本土マンモスで観察された水準(FROHが0.83%)より高く、遠い関係にある個体群間の交配による関連性がある程度示唆され、これはマンモスと比較して、その時点でのより高い集団構造、および/もしくは、減少した在来集団規模が原因かもしれません。しかし、この結果は、長期の小集団規模と関連する近親交配の増加を示した、ウランゲリ島の4300年前頃のマンモス(FROHが23.3%)とはひじょうに対照的です。

 まとめると、ケブカサイにおける核とミトコンドリアゲノムの多様性の分析は、本論文で分析された個体群に先行する集団規模の衰退の証拠も、小集団に典型的な高い近親交配の指標も提供しません。ケブカサイの絶滅における人類の役割を排除できませんが、本論文の結果からは、シベリア北東部における現生人類の到来はケブカサイの衰退と相関していなかった、と示唆されます。しかし注意すべきなのは、シベリア北東部の最初の人類の証拠は31600年前頃で、一時的な居住を表しているかもしれないことと、現時点では、MIS3~2においてまばらな人類存在の証拠しかないので、人類はケブカサイに限定的な負の影響しか与えなかったかもしれない、ということです。

 全体として、少なくとも18500年前頃までのケブカサイの安定した集団規模を示す本論文の知見が示唆するのは、絶滅に向かう最終的な衰退は急速で、絶滅前の4500年以内(ND035標本の年代から絶滅までの期間)に始まった、ということです。放射性炭素年代測定法の証拠に基づくと14600~12800年前頃のボーリング-アレロード(Bølling-Allerød)間氷期と一致した可能性が高い、この深刻で急速な集団衰退は、ケブカサイの絶滅がこの時期に特徴的な気候および植生の変化によりおもに引き起こされた、と示唆するかもしれません。ユーラシア全域で、ボーリング-アレロード間氷期は、森林と樹木の多い被覆の増加により特徴づけられました。以前の研究では、ボーリング-アレロード間氷期のシベリアにおける低木ツンドラおよび樹木の生物群系による匍匐性植生の置換は、降雪量の増加と組み合わされ、ケブカサイの絶滅につながった可能性が高い、と提案されました。絶滅への衰退の時期と速度をよりよく理解するには、絶滅事象により近い個体群の追加のDNA解析が必要です。


●寒冷環境への適応

 19556のタンパク質をコードする遺伝子全体で非同義置換(アミノ酸置換をもたらすミスセンスや機能喪失)を調べることにより、スマトラサイと比較したケブカサイにおける適応の予備的評価が行なわれました。全体として、細胞構成要素組織もしくは生合成、局在化、繁殖、生物学的調節、刺激への応答、発生過程、代謝過程を含む、生物学的過程と関連する非同義変異の1524の同定可能な遺伝子が見つかり、そのうちのいくつかは有意に過剰出現しています。他の寒冷適応大型動物種の以前の分析とは対照的に、マンモスの北極環境への適応において役割を果たしていたと考えられていた、脂肪沈着および概日リズムの変化と関連する遺伝子における非同義多様体は観察されませんでした。

 しかし、89の遺伝子では、ケナガマンモスとケブカサイの両方が、寒冷耐性への適応と関連しているTRPA1(Transient Receptor Potential subfamily A)を含む、正の選択かもしれない非同義多様体を有していました。TRPA1を含む、TRPチャネルをコードする遺伝子における正の選択を受けた多様体は、寒冷適応分類群で最近報告されました。さらに、両方の種で機能喪失変異を有する1遺伝子である、カリウムチャネル関連のKCNK17がありました。KCNK17はKCNK4のパラログ(遺伝子重複により生じた類似の機能を有する遺伝子)で、通常の機能ではTRPA1やTRPM8を含むTRPタンパク質発現を抑制する、と示されてきました。したがって、この遺伝子は低温の知覚に関与しており、ノックアウトされると、寒冷適応に役割を果たすかもしれません。

 ケブカサイで適応的に重要かもしれなかった遺伝子をさらに特定するため、全ての特定された17888のミスセンス変異が3指標(アミノ酸指標、実験的交換可能性、アミノ酸非類似性)に従って位置づけられ、タンパク質構造物理化学的特性への影響が評価されます。これにより、3指標全てで類似の結果が得られました。アミノ酸指標の分布は二峰性で、変異の大半はタンパク質構造でほとんど弱い変化から中程度の変化が予測されます。しかし、アミノ酸指標を有する284の多様体があり、アミノ酸の物理化学的特性の最大の変化を示唆します。これらの多様体のうち83は41の異なる嗅覚受容体遺伝子で、この遺伝子群の進化において頻繁な遺伝子の獲得および喪失が起きていたことと一致します。


●まとめ

 本論文のゲノム多様性分析は、ケブカサイの集団史および生物学の理解にいくつかの示唆を与えます。まず、ミトコンドリア系統間の深い分岐の発見は、中期更新世における動的な進化史を示唆し、おそらくは集団の分裂とその後の融合により特徴づけられます。

 次に、ミトコンドリアゲノムと核ゲノム両方の分析から、絶滅へと向かうケブカサイの最後の衰退は急速で、18500年前頃の後まで始まらなかった、と示唆されます。これは、ケブカサイのNeが、シベリア北東部における人類の到来後、約13000年経つまで縮小し始めなかったことを示唆します。しかし、これは人類が後にケブカサイの絶滅に関わった可能性を排除しません。たとえば、人類によるケブカサイの狩猟が、ケブカサイ集団の成長率を減少させた結果、絶滅を加速したかもしれません。しかし、現時点でのデータを考慮すると、ボーリング-アレロード間氷期の開始と関連する環境における変化がケブカサイ絶滅の主因だった、という可能性が高いようです。18000~14000年前頃の追加のゲノム分析により、最終的な集団衰退がボーリング-アレロード間氷期と一致する程度のさらなる調査が可能であるはずです。

 最後に、ケブカサイの適応的な遺伝的多様性の予備的評価は、温度感覚に関わる遺伝子(TRPA1)を含む、いくつかの生物学的過程と関連する遺伝子における非同義置換の範囲を特定しました。まとめると、これらの知見は、絶滅種の以前には未知の進化過程の解明におけるゲノムデータの有用性を強調し、第四紀後期における人口統計学的変化の時期と速度をよりよく理解するための、他の大型動物相の人口統計学的軌跡の調査の必要性を示します。


参考文献:
Lord E. et al.(2020): Pre-extinction Demographic Stability and Genomic Signatures of Adaptation in the Woolly Rhinoceros. Current Biology, 30, 19, 3871–3879.E7.
https://doi.org/10.1016/j.cub.2020.07.046