ネアンデルタール人由来の遺伝子に起因する新型コロナウイルス症の重症化

 ネアンデルタール人(Homo neanderthalensis)由来の遺伝子に起因する新型コロナウイルス症の重症化に関する研究(Zeberg, and Pääbo., 2020)が報道されました。日本語の解説記事もあります。この研究はオンライン版での先行公開となります。今年(2020年)、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の世界的大流行は、かなりの感染率と死亡率をもたらし、100万人以上の命をうばいました。SARS-CoV-2により起きる症状は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)と呼ばれ、無症状もしくは軽症から呼吸不全への急速な進行まで、症状が大きく異なります。SARS-CoV-2の世界的大流行の初期には、主要な危険因子として、高齢や性別(男性であること)やいくつかの併存疾患が明らかになりました。

 しかし、これらの危険因子は、無症状か軽症の感染者がいる一方、重症になる感染者がいる理由をじゅうぶんには説明しておらず、遺伝的危険因子が役割を果たしている可能性もあります。初期の研究で、COVID-19と関連する2ヶ所のゲノム領域が特定され、一方は6個の遺伝子を含む3番染色体で、もう一方はABO式血液型を決定する9番染色体上の領域です。その後、COVID-19ホストジェネティクスイニシアチブ(Host Genetics Initiative、略してHGI)から新たなデータセットが公開され、3番染色体上の領域が、ゲノム規模において重度のCOVID-19と有意に関連する唯一の領域とされました。この領域のリスク多様体は、COVID-19では人工呼吸器を必要とするリスクを最大3倍とします。

 3番染色体上の重度のCOVID-19と最も関連する遺伝子多様体は、すべて高い連鎖不平衡(複数の遺伝子座の対立遺伝子同士の組み合わせが、それぞれが独立して遺伝された場合の期待値とは有意に異なる現象)にあります。つまり、集団内で相互に強く関連しており、49400塩基対にまたがります。「コア」ハプロタイプは、さらに弱い連鎖不平衡にあり、最大333800塩基対のより長いハプロタイプを有します。そうした長いハプロタイプの一部は、ネアンデルタール人(Homo neanderthalensis)もしくは種区分未定のホモ属であるデニソワ人(Denisovan)からの遺伝子流動により現生人類集団にもたらされました。現生人類は、ネアンデルタール人と6万~5万年前頃(関連記事)、デニソワ人とは54000~44000年前頃(関連記事)に交雑したと推定されていますが、ネアンデルタール人(関連記事)もデニソワ人(関連記事)も、現生人類と複数回交雑したのではないか、と推測されています。そこで、COVID-19と関連すると推測されるハプロタイプがネアンデルタール人もしくはデニソワ人に由来したのかどうか、調べられました。

 COVID-19関連研究で提示された多様体は、非アフリカ系現代人集団において高い連鎖不平衡にあります。これらの多様体のリスクアレル(対立遺伝子)は、クロアチアのヴィンディヤ洞窟(Vindija Cave)遺跡で発見された5万年前頃のネアンデルタール人女性(Vindija 33.19)のゲノム(関連記事)ではホモ接合型で存在する、と明らかになりました。「コア」ハプロタイプを構成する13ヶ所の一塩基多型のうち、Vindija 33.19では11ヶ所がホモ接合型です。一方、南シベリアのアルタイ山脈のデニソワ洞窟(Denisova Cave)遺跡で発見された130000~90900年前頃のネアンデルタール人女性(デニソワ5)のゲノム(関連記事)と、アルタイ山脈のチャギルスカヤ洞窟(Chagyrskaya Cave)で発見された8万~6万年前頃のネアンデルタール人女性(チャギルスカヤ8)のゲノム(関連記事)では、これらの多様体のうち3個が見られますが、デニソワ洞窟で発見されたデニソワ人女性(デニソワ3)のゲノム(関連記事)では、これらの多様体が存在しません。333800塩基対のハプロタイプでは、重度のCOVID-19と関連するアレルは同様に、Vindija 33.19のゲノムと一致します。したがって、リスクハプロタイプは、クロアチアのネアンデルタール人(Vindija 33.19)の対応するゲノム領域に類似しており、南シベリアのアルタイ山脈のネアンデルタール人2個体(デニソワ5およびチャギルスカヤ8)にはあまり類似していません。

 次に、49400塩基対のコアハプロタイプが、50万年以上前に存在したネアンデルタール人と現代人の共通祖先に由来するのか、調べられました。ネアンデルタール人と共有される現代人のハプロタイプが長いほど、共通祖先起源である可能性が低くなります。それは、世代ごとの組換えによりハプロタイプはより短い断片に分割されていくからです。1世代29年、組換え率を100万塩基対あたり0.53 cM(センチモルガン)、ネアンデルタール人系統と現生人類系統との分岐年代を55万年前頃、ネアンデルタール人と現生人類との交雑を5万年前頃と仮定すると(関連記事)、このハプロタイプがネアンデルタール人と現生人類の共通祖先に由来するとの想定は除外されます。333800塩基対のネアンデルタール人的なハプロタイプでは、ネアンデルタール人と現生人類の共通祖先に由来する確率はさらに低くなります。したがって、COVID-19と関連するリスクハプロタイプは、ネアンデルタール人から現生人類へと交雑により受け継がれた、と推測されます。この推測は、3番染色体のこの領域におけるネアンデルタール人から現生人類への遺伝子流動を特定した、いくつかの以前の研究と一致します。Vindija 33.19とのこのハプロタイプの密接な関係は、現代人に遺伝的影響を残したネアンデルタール人の大半が、アルタイ山脈のネアンデルタール人2個体(デニソワ5およびチャギルスカヤ8)よりもVindija 33.19の方に近い、という推測と一致します。

 現代人のゲノムに存在するネアンデルタール人のハプロタイプは、現代人集団の他のハプロタイプよりもネアンデルタール人のゲノムに類似している、と予測されます。49400塩基対のハプロタイプとネアンデルタール人および他の現代人のハプロタイプとの関連を調べるため、このゲノム領域に関して、1000人ゲノム計画の5008のハプロタイプが分析されました。ネアンデルタール人のゲノムで見られる位置が含められ、1000人ゲノム計画において、1本の染色体だけでみつかる多様体と、1回だけ見られるハプロタイプは除外されました。これは、450ヶ所の可変位置を含む253の現代人のハプロタイプをもたらしました。10回以上見つかったそのようなハプロタイプと関連する系統の関係が調べられ、重度のCOVID-19と関連する全てのリスクハプロタイプは、高網羅率のネアンデルタール人3個体(デニソワ5、Vindija 33.19、チャギルスカヤ8)のゲノムとクレード(単系統群)を形成する、と明らかになりました。このクレード内では、そうしたリスクハプロタイプはVindija 33.19と最も密接に関連します。

 1000人ゲノム計画の個体群の中で、ネアンデルタール人由来のハプロタイプはアフリカではほぼ完全に存在せず、アフリカ人集団へのネアンデルタール人からの遺伝子流動が限定的で、おそらくは間接的だった、という知見(関連記事)と一致します。現代人の各地域集団におけるネアンデルタール人のコアハプロタイプの頻度は、アジア南部で30%、ヨーロッパで8%、先住民系とヨーロッパ系とアフリカ系など多様な地域系統の混合であるアメリカ大陸では4%、アジア東部ではそれ以下です。本文中では言及されていませんが、オセアニア(パプアニューギニアとオーストラリア)でも高頻度で、とくにパプアニューギニアではアジア南部諸国並に高くなっています。最も頻度が高い国はバングラデシュで、63%の人々がネアンデルタール人のリスクハプロタイプを少なくとも1コピー有しており、13%の人々がこのハプロタイプをホモ接合型で有しています。したがって、他のリスク要因、とくに高齢者に加えてネアンデルタール人のハプロタイプは、特定の集団においてCOVID-19リスクの実質的な要因かもしれません。これと明らかに一致して、イギリスのバングラデシュ出身者は、一般的な集団よりもCOVID-19で死ぬリスクが2倍高くなっています。

 ネアンデルタール人由来のリスクハプロタイプの頻度が、現代人集団において、アジア南部では30%なのに対して、アジア東部ではほぼ0%に近いことは意外です。アジア南部とアジア東部との間のこのアレル頻度の違いの程度は異常で、過去に選択の影響を受けてきた、と示唆されます。じっさい、以前の研究では、ネアンデルタール人のハプロタイプはバングラデシュにおいて正の選択を受けてきた、と示唆されています。現時点では、この理由について推測しかできませんが、可能性の一つは、他の病原体に対する保護です。また、ネアンデルタール人由来のリスクハプロタイプの頻度は、アジア東部において、おそらくはコロナウイルスもしくは他の病原体に起因する負の選択により減少した可能性があります。いずれにしても、3番染色体上のCOVID-19リスクハプロタイプは、特定の集団で高頻度に達した他のネアンデルタール人およびデニソワ人の遺伝子多様体と類似していますが、SARS-CoV-2の世界的大流行のため、今では負の選択下にあります。

 ネアンデルタール人由来の領域のどの特徴が、重度のCOVID-19リスクをもたらすのか、そうした特徴の影響がCOVID-19、他のコロナウイルス、あるいは他の病原体に特有なのか、現時点では不明です。機能的特徴が解明されると、関連する病原体へのネアンデルタール人の感受性について推測できるかもしれません。しかし、現在の世界的大流行に関しては、ネアンデルタール人からの遺伝子流動が悲劇的な結果をもたらすことは明らかです。


 以上、ざっと本論文について見てきました。COVID-19の程度に遺伝的要因も関わっていることは間違いなく、それが本論文で指摘された3番染色体上の領域である可能性はほぼ確実でしょう。現代人においてCOVID-19を重症化させる要因となるリスクハプロタイプが、ネアンデルタール人由来である可能性も高そうです。本論文は、このネアンデルタール人由来のリスクハプロタイプの頻度が地域により大きく異なることを示しました。これが遺伝的浮動である可能性も考えられないわけではありませんが、本論文が指摘するように、アジア南部とアジア東部において異なる選択圧が作用した、という可能性の方がずっと高そうです。アジア南部では何らかの病原体に対する正の選択が、アジア東部ではコロナウイルスもしくは他の病原体に対する負の選択が作用したのではないか、というわけです。今後、ネアンデルタール人由来のリスクハプロタイプの機能的特徴の研究が進めば、この問題も詳しく解明されるようになるのではないか、と期待されます。

 また、このネアンデルタール人由来のリスクハプロタイプが、高品質なゲノム配列の得られているネアンデルタール人3個体のうち、アルタイ山脈の2個体(デニソワ5とチャギルスカヤ8)ではなく、クロアチアの1個体(Vindija 33.19)の方とずっと類似している、との知見も注目されます。これは、非アフリカ系現代人全員の主要な祖先集団と交雑し、非アフリカ系現代人全員のゲノムにおけるネアンデルタール人由来の領域の多くをもたらしたネアンデルタール人集団が、Vindija 33.19に近かったことを示唆します。

 ネアンデルタール人は核ゲノムでは、デニソワ5(東方系統)とその他(西方系統)の大きく2系統に区別されます(関連記事)。西方系統でも、チャギルスカヤ8はVindija 33.19を含むヨーロッパの個体群とは大きく異なる系統に位置づけられます。コアハプロタイプを構成する13ヶ所の一塩基多型のうち、ネアンデルタール人においては、Vindija 33.19で11ヶ所がホモ接合型なのに対して、アルタイ山脈のデニソワ5とチャギルスカヤ8では3個が見られ、デニソワ人(デニソワ3)では見られません。これらの一塩基多型は、まずデニソワ人系統と分岐した後のネアンデルタール人系統で生じ、それが固定したのは、西方系統でもチャギルスカヤ8系統と分岐した後のヨーロッパ系統においてだったのかもしれません。

 ユーラシア西部ではデニソワ人の存在が確認されていませんが、現代アイスランド人のゲノムにはわずかながらデニソワ人由来の領域があり(関連記事)、ヨーロッパのネアンデルタール人のゲノムではデニソワ人由来の領域が殆ど或いは全く検出されなかったので(関連記事)、非アフリカ系現代人全員の祖先集団と交雑したネアンデルタール人集団は、Vindija 33.19を含むヨーロッパ系統とも異なる、まだ発見されていないかゲノムデータが得られていない個体により表される、と推測されます。このネアンデルタール人集団はアジア南西部、おそらくはレヴァントに存在し、ヨーロッパ系統のネアンデルタール人集団とは異なり、そのゲノムには一定以上デニソワ人由来の領域が存在した、と考えられます。


参考文献:
Zeberg H, and Pääbo S.(2020): The major genetic risk factor for severe COVID-19 is inherited from Neanderthals. Nature.
https://doi.org/10.1038/s41586-020-2818-3

大河ドラマ『麒麟がくる』第26回「三淵の奸計」

 朝倉義景は織田信長とともに足利義昭を奉じて上洛すると決断しますが、すでに足利義栄が14代将軍に任命されていました。しかし、義栄は病もあって上洛できず、義栄を将軍に推挙した近衛前久の立場は危うくなります。義昭は越前に入り、義景が烏帽子親となって元服します。しかし明智光秀(十兵衛)は、朝倉重臣の山崎吉家から、朝倉家中が上洛に関して一枚岩ではない、と聞かされます。じっさい、宴の場で朝倉一門の朝倉景鏡は上洛に反対します。景鏡に周辺諸大名の上洛の意思問われた光秀は、上杉も六角も動かないだろう、と返答して上洛の困難を主張し、上洛に前向きだった義景の機嫌を損ねます。伊呂波太夫に徴発されたこともあり、光秀は信長を訪ね、単独での上洛を要請し、信長は上洛を決断します。光秀の主張を受け入れ、義昭は新たに織田領となった美濃に行く決断を下します。義景は激昂し、義昭を美濃に出国させまいとしますが、三淵藤英は上洛に反対の朝倉景鏡と山崎吉家を抱き込んで義景の嫡男の阿君丸を毒殺し、義景の気力を失わせ、義昭の出国を義景に承諾させます。

 今回は、朝廷における近衛前久と二条晴良との対立にもそれなりに時間が割かれました。本作における近衛前久の扱いは意外と大きく、今後も重要な役割を果たすのかもしれません。あるいは、本能寺の変に深く関わるのでしょうか。光秀はいよいよ世に出ることになりますが、すでに残り半分以下のわけで、確実で有名な光秀の事績はこれから描かれることになります。事績が不明な時代の光秀を長く描きすぎではないか、とも思うのですが、本能寺の変へと向かう話の流れの中で、これまでの描写が活かされるのではないか、と期待しています。