アルタイ地域の前期上部旧石器時代の骨角器

 アルタイ地域の前期上部旧石器時代(Early Upper Palaeolithic)の骨角器に関する研究(Belousova et al., 2020)が公表されました。骨角器と個人的装飾品は、文化的独自性の要素で、アジア北部と中央部における最初の上部旧石器時代社会の年代的指標でもあります。アジア北部および中央部における最古の骨角器群は、アルタイ地域の初期上部旧石器時代(Initial Upper Paleolithic)および前期上部旧石器時代の遺物で記録されており、そのほとんどはカルスト洞窟から得られ、その微小気候は有機物遺骸の優れた保存に貢献しています。これらの遺物のほとんどはデニソワ洞窟(Denisova Cave)に由来し、最近直接的および間接的な年代測定結果が得られました(関連記事)。デニソワ洞窟以外ではそうした遺物はずっと少ない、と確認されています。本論文では、カラボム(Kara-Bom)開地遺跡の前期上部旧石器時代遺物群の直接的な放射性炭素年代を伴う、シカの枝角の尖頭器の分析結果が提示されます。

 カラボム遺跡はロシアの中央アルタイ地域の山間盆地に位置します(北緯50度43分23秒、東経85度34分27秒)。カラボム遺跡は、初期上部旧石器時代の中央アルタイ地域で起きた技術的・適応的・文化的過程に関する優れた情報源です。カラボム遺跡の上部旧石器時代の文化的層序系列には、二つの考古学的遺物群が含まれており、同じカラボム伝統とされていますが、発展の異なる段階と関連づけられています。IntCal13による較正年代は、48000~34000年前頃(以下、較正年代)です。

 本論文で取り上げられるのは、2017年に行なわれた動物相遺物群の再分析で特定された尖頭器です。これは1991年にM-8区画の1~2層で発見され、考古学的区分では38500~34000年前頃の上部旧石器時代1と相関しています。上部旧石器時代1の石器インダストリーは双方向のプリズム式および狭面石核からの石刃と小型石刃の製作により特徴づけられます。石器一式には、再加工された石刃や尖頭器や掻器や収斂型削器が含まれます。使用痕分析からは、アカシカ(Cervus elaphus)の枝角の表面の大半は、乾燥化や腐食や他の堆積効果に覆われている、と示唆されます。この観察結果は、その層序的背景に関する情報と一致しています。機能的には、このアカシカ製の枝角は、複合狩猟兵器の要素として解釈されます。カラボム遺跡の前期上部旧石器時代層では、以前にはシカ遺骸が確認されていませんでした。そのため、旧石器時代の住民が遺跡から離れた場所で道具を製作した可能性が示唆されます。この枝角の段階的な割れ目からは、この枝角が動物遺骸とともに遺跡に運ばれ、その解体後に廃棄された、と示唆されます。この枝角の直接的な放射性炭素年代は、34000~32450年前頃です。

 骨角器技術は、カラボム伝統の本質的な部分です。カラボム遺跡のシカの枝角には、アルタイ地域の他の上部旧石器時代遺物群と対応するものもあります。デニソワ洞窟で発見された前期上部旧石器時代(50000~34000年前頃)の遺物には、研削技術を用いた骨や枝角や牙で作られた尖頭器が含まれます。デニソワ洞窟の2個の骨製尖頭器は、直接的に加速器質量分析法(AMS法)による放射性炭素年代測定法が適用され、48100~42600年前頃と推定されています。ストラシュナヤ洞窟(Strashnaya Cave)で発見された断片的な尖頭器の年代は、49100~45600年前頃と23200~22900年前頃です(関連記事)。45700~42000年前頃となるウシュレプ6(Ushlep-6)遺跡の前期上部旧石器時代第8層では、牙製尖頭器のある他のインダストリーが確認されています。他のずっと新しい尖頭器は、アルタイ地域北部丘陵地帯の遺跡で表面採集されており、年代は21700~14500年前頃です。アルタイ地域外では、類似の年代の最も近い類似構成の遺跡として、38200~30000年前頃となる南シベリアのクズネツクアラタウ(Kuznetsk Alatau)や、35400~33000年前頃となる中国南部の馬鞍山(Ma' anshan)洞窟や、33400~30800年前頃となるシベリア北極圏のヤナ(Yana)があります。

 アルタイ地域の旧石器時代の骨製尖頭器の年代データは、ユーラシアで最古級の骨角器であることを示します。カラボム遺跡の前期上部旧石器時代層のシカの骨角器は、直接的に年代測定されたアルタイ地域の骨製尖頭器としては最古級となり、遺跡の他の年代と一致します。上部旧石器時代1文化は、南シベリアとアジア中央部の初期上部旧石器時代文化の直接的後継者なので、アルタイ地域におけるカラボム伝統の上限年代を示します。


参考文献:
Belousova NE. et al.(2020): The Early Upper Palaeolithic bone industry of the Central Altai, Russia: new evidence from the Kara-Bom site. Antiquity, 94, 377, e26.
https://doi.org/10.15184/aqy.2020.137