『卑弥呼』第49話「かりもがり」

 『ビッグコミックオリジナル』2020年11月5日号掲載分の感想です。前回は、クラトがヤノハの命により殺され、それを知らないミマアキが呑気にクラトを呼んでいるところで終了しました。今回は、ミマアキが棺に納められたクラトの遺骸を前に嘆き悲しんでいる場面から始まります。クラトに刺さっていた矢は暈(クマ)のものなので、クラトは暈の物見(モノミ、間者)と遭遇して殺されたのではないか、とヌカデは推測します。報復として暈を攻めろということか、とヤノハに問われたヌカデは、クラトは忠臣だったので、間髪を入れず暈に宣戦布告せねば、山社(ヤマト)の顔が立たない、と言います。ヤノハに意見を問われたテヅチ将軍は、戦人ゆえに政治には進言しない、と断ったうえで、今なら勝機はある、と答えます。タケル王が死に、その父親のイサオ王まで死んだ今、鞠智彦(ククチヒコ)をはじめとして暈の軍閥が覇を唱えて内乱状態に陥るのは必至なので、それに乗じて攻め込めば、暈の領土の半分は手に入る、というわけです。一方イクメは、弩が暈のものだとしても、暈の者がクラトを殺したとは限らず、大義のない戦いをすれば人心は離れる、と戦に反対します。殯は今日で最後となり、ミマアキはその後で清めの沐浴をして明日には楼観に参じるだろう、とイクメから聞いたヤノハは、ミマアキの意見も聞いてみる、と言います。

 暈の以夫須岐(イフスキ)では、鞠智彦が円墳状の墓に参っていました。そこへタケル王の兄が現れ、この墓にはイサオ王とともに、トンカラリンで殉死した者も葬られていると聞いたが、なぜだ、と問いかけます。鞠智彦はタケル王の兄を兄(ニ)タケル様と呼んでいます。暈の諸王がイサオ王の葬儀に参列したのに、長男が来ないので心配していた、と鞠智彦は笑顔で言います。すると兄タケルは、父のイサオ王が自分ではなく弟(タケル王)を世継ぎに選んだ時から折り合いが悪い、と言います。鞠智彦と兄タケルはイサオ王の館で酒を飲みます。この館に住むつもりではないだろうな、と兄タケルに問われた鞠智彦は、兄タケルの帰還まで留守を預かっていただけだ、と笑顔で否定します。自分がイサオ王となることはどう思うか、と兄タケルに問われた鞠智彦は、返答に詰まります。まさかイサオ王を名乗るつもりか、と兄タケルに問われた鞠智彦は即座に否定し、鞠智彦の一族は丞相(大夫)の身分で、代々のイサオ王に仕える定めだ、と笑顔で答えます。では、今より自分に仕えよ、と兄タケルに命じられた鞠智彦は真顔になり、暈には兄タケルのカワカミ家の他に、イ・ヤ・サジキ・カマの四家それぞれにタケル王がいるので、これら五家が集まって話し合い、選ばれた方こそ真のイサオ王ではないか、と鞠智彦は指摘します。どの家も元は同じ取石(トロシ)の一族で、取石最古の家はカワカミなので、その宗主がイサオ王になって何が悪い、と兄タケルは鞠智彦に言います。さらに兄タケルは、父のイサオ王は病死と聞くが本当の死因は何だ、と鞠智彦に問いかけます。すでに、鞠智彦が謀反を起こしたとか、山社の志能備(シノビ)の仕業とかいった噂が流れていました。どちらが正しいか答えよ、と兄タケルが鞠智彦に迫ると、イサオ王は賊に襲われた、と鞠智彦は答えます。その賊は山社の者か、と兄タケルに問われた鞠智彦は、その可能性はある、と答えます。では、山社を攻めろ、と兄タケルに命じられた鞠智彦は、即座に断ります。山社は那(ナ)・伊都(イト)・穂波(ホミ)・都萬(トマ)と同盟を結んだので、この国々に戦を仕掛けるのは愚か者の所業だ、というわけです。山社が同盟を結んだ国として末盧(マツロ)が挙げられていませんが、小国なので無視されたのでしょうか。鞠智彦の返答を聞いた兄タケルは激昂し、酒杯を鞠智彦に投げつけ、鞠智彦の顔に当たります。兄タケルは家臣を呼び、生きたまま生皮を剥いで鞠智彦を殺そうとします。すると、鞠智彦の配下の志能備が現れ、兄タケルを警固していた者たちは、出された酒を飲んで血を吐き全員死んだ、と兄タケルに告げます。鞠智彦は即座に兄タケルを斬殺し、その死体を前に、四家のタケル王は、獰猛な兄タケルの殺害を条件に全員自分を支持した、自分は新たな日見彦(ヒミヒコ)が現れるまで暈の統治を任されている、と言います。鞠智彦は配下の志能備に、イサオ王は長男の兄タケルの謀反により落命し、丞相の鞠智彦が仇を討ったと国内に触れて回るよう、指示します。

 山社ではミマアキが楼観に参じ、ヤノハはミマアキを慰めます。ヤノハはミマアキに、最愛の友で、ヤノハの忠臣であるクラトを殺した暈との戦を望むか、と尋ねます。那国王の加勢は間違いなく、今戦えば勝機はある、とテヅチ将軍は言いますが、ミマアキは反対します。確かに勝機はあるものの、暈の兵を根絶やしにするほどの大勝はありえず、反撃を受けることになるので、今度は山社が多くの犠牲を出す、とミマアキは説明します。ではどうするのか、とヤノハに問われたミマアキは、国境で戦わず睨み合う、と答えます。束の間の平和でも何百年ぶりのことだ、というわけです。その返答を聞いたヤノハは満足そうな表情で、自分も同じ考えだと言います。楼観でヤノハと二人きりになったミマアキは、ヤノハに残酷な人だ、と言います。自分が悲嘆に暮れていても、怒りに駆られて戦を選ばないような冷静な判断ができるかどうか、ヤノハは試したのではないか、というわけです。ミマアキがヤノハに、自分が昼の政治を司るのに適した人物なのか、知りたかったのだろう、と指摘し、ヤノハが満足そうな表情を浮かべるところで、今回は終了です。


 今回は、暈の情勢と、ヤノハに試されるミマアキの器量が描かれました。暈は分割統治体制ではないか、と以前から予想していましたが、やはり、五家が王を名乗り、その上にイサオ王が君臨する、という連合体制のようです。兄タケルは、外見ではさほど小物感がありませんでしたが、言動がいかにも小物なので、初登場回での退場はもっともといった感じです。鞠智彦と兄タケルが酒を飲み始めたので、イサオ王の時のように毒殺するのかと思ったら、斬殺だったのでやや意外でしたが、イサオ王殺害の仇討ちによる斬殺という辻褄合わせだったので、納得しました。鞠智彦は、新たな日見彦が現れるまで暈を統治する、と言っていますが、暈は『三国志』の狗奴国と思われ、卑弥弓呼(日見彦)がいると見えるので、この後で誰かが日見彦に擁立されるのかもしれません。それが誰なのか、鞠智彦との関係がどう描かれるのか、注目されます。

 山社では、ミマアキがヤノハの期待通りの返答で、今後「昼の王」に就任することが確実になった、と言えそうです。ただ、『三国志』では、卑弥呼(日見子)を補佐したのは弟だとされており、ミマアキ(彌馬獲支)の地位は姉のイクメ(伊支馬)や父のミマト(彌馬升)よりも低いので、あるいはヤノハの弟のチカラオと思われるナツハが、ヤノハを政治面で補佐するのかもしれません。ただ現時点では、ナツハは志能備として優れているものの、政治的手腕はまだ発揮していません。ナツハがヤノハの弟なのか、ということも含めて、山社(邪馬台国)の政治体制が今後どう確立していくのか、という点も楽しみです。