クローヴィス文化の年代

 クローヴィス(Clovis)文化の年代に関する研究(Waters et al., 2020)が報道されました。本論文はクローヴィス文化の各遺跡の信頼性が高い年代を提示していてたいへん意義深く、今後の研究で長く参照されるでしょう。長い間、アメリカ大陸における最古の文化はクローヴィスで、クローヴィス文化からその後の南北アメリカ大陸の技術が派生した、と考えられてきました(クローヴィス最古説)。クローヴィス文化は、両面石器や披針形縦溝彫り尖頭器(lanceolate fluted projectile point)や石刃石核や石刃や骨器により特徴づけられます。しかし、クローヴィス文化以前の文化が南北アメリカ大陸で見つかったため、クローヴィス最古説は今では否定されています(関連記事)。

 しかし、クローヴィス文化の年代測定は、クローヴィス文化集団と後期更新世のアメリカ大陸における人類の移動および大型動物の絶滅との関わりの解明に重要です。2007年に、クローヴィス文化は13000前頃(以下、基本的に放射性炭素年代測定法による較正年代)からわずか200年しか続かなかったかもしれない、との研究が公表され(関連記事)、議論となりました。その後の諸研究ではクローヴィス文化の年代について、たとえば13390年前頃と推定されるなど(関連記事)、始まりが繰り上がる傾向にあります。また一部の研究では、クローヴィス文化の期間が1500年以上の可能性も指摘され、そうならばクローヴィス文化が14000年以上前に出現した可能性も考えられます。

 本論文は、放射性炭素年代測定法の新たな較正曲線IntCal20(関連記事)を用いて、クローヴィス文化の諸遺跡の新たな年代を提示します。「信頼できる」標本は、地質学的に攪乱されていな状態で発見された骨・象牙・歯・枝角・木と炭と定義されました。堆積物や土壌(攪乱があるため)・貝殻(現代の地下水の影響や海洋リザーバー効果のため)・炭化有機物(標本分類の困難さや地下水の影響のため)は、短い間隔の放射性炭素年代測定には適さない、と本論文は指摘します。クローヴィス文化の正確な年代測定にはまず、遺跡がクローヴィス文化なのか、判断する必要があり、その指標はクローヴィス尖頭器とされました。信頼できる放射性炭素年代測定結果が得られたクローヴィス文化遺跡は以下の通りで、図1の赤丸となります(曖昧な年代の遺跡は青三角)。遺跡の()数字は図1と対応します。以下、本論文の図1です。
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●サウスダコタ州ランゲ・ファーガソン(Lange-Ferguson)遺跡(5)
 13095~12990年前

●コロラド州デント(Dent)遺跡(9)
 12970~12845年前

●オクラホマ州ドメボ(Domebo)遺跡(7)
 12905~12820年前

●ペンシルベニア州ショーニー・ミニシンク(Shawnee-Minisink)遺跡(6)
 12885~12770年前

●オハイオ州シェリデン洞窟(Sheriden Cave)遺跡(4)
 12830~12770年前

●ワイオミング州ラプレレ(La Prele)遺跡(10)
 12915~12835年前

●ワイオミング州コルビー(Colby)遺跡(3)
 12820~12800年前

●オクラホマ州ジェイクブラフ(Jake Bluff)遺跡(1)
 12755~12745年前

●モンタナ州アンジック(Anzick)遺跡(8)
 12905~12840年前。以前の研究では、埋葬された男児(Anzick-1)と骨角器の年代が12900~12725年前頃と推定されていました(関連記事)。この男児のDNAも解析されています(関連記事)。

●バージニア州サボテン丘(Cactus Hill)遺跡(2)
 12820~12745年前。サボテン丘遺跡では、クローヴィス文化以前の人類の痕跡(20585~18970年前頃)の可能性が指摘されています(関連記事)。


 これら10遺跡が、クローヴィス文化の信頼できる年代となります。これらの年代から、クローヴィス文化はアレレード(Allerød)期末の13050年前頃に最初に出現した、と示唆されます。テキサス州のオーブリー(Aubrey)遺跡とメキシコのエルフィンデルムンド(El Fin del Mundo)遺跡の年代からは、クローヴィス文化が13400~13300年前に出現したと示唆されますが、地質学的および生物地球化学的問題のために、その年代は曖昧です。

 13050年前という最初のクローヴィス文化遺跡の年代は、北アメリカ大陸西部および南アメリカ大陸における非クローヴィス文化石器複合と同年代です。アメリカ合衆国山間西部では、基底部有茎を伴う披針形尖頭器により特徴づけられる西部有茎伝統が少なくとも、オレゴン州ペイズリー洞窟群(Paisley Caves)で13000年前(関連記事)、アイダホ州クーパーズフェリー(Cooper’s Ferry)遺跡で13400年前(関連記事)にさかのぼります。南アメリカ大陸の南回帰線以南では、特徴的な有茎魚尾尖頭器の年代が12900年前となります。これらのデータは、更新世末にアメリカ大陸では少なくとも三つの同年代の石器複合が存在し、クローヴィス文化はその一つだった、という証拠となります。オーブリー遺跡やエルフィンデルムンド遺跡で示唆されるように、クローヴィス文化が13400年前頃に始まったとしても、クローヴィス文化は北アメリカ大陸の有茎尖頭器と同年代となります。

 クローヴィス技術の起源は依然として明ですが、証拠からは、クローヴィス文化きょくたんな気候と生物の変化期に北アメリカ大陸の氷床の南で発達した、と示唆されます。現在の遺伝的モデルからは、後期更新世にアメリカ大陸へと単一の早期の移住があった、と示唆されます。多くの遺跡の考古学的証拠からは、16000~15000年前頃までにアメリカ大陸には人類が存在した、と示唆されます。これは、クローヴィス文化の起源が、北アメリカ大陸における最初の遺跡群の両面石器や石刃や骨器技術にあることを示唆します。

 クローヴィス文化は12750年前頃に突然終了します。これは年代的にヤンガードライアスの寒冷事象と、古生物学的にゾウ目の絶滅と一致します。考古学的には、クローヴィス文化は、アメリカ合衆国の大平原のフォルサム(Folsom)技術および東部の縦溝彫り尖頭器伝統の出現直前に消滅します。対照的に、アメリカ合衆国西部での有茎尖頭器の製作は、クローヴィス文化終焉後も継続します。クローヴィス文化の起源とその広がりについて調べるには、さらに多くの遺跡での、厳格な基準の年代測定が必要です。


参考文献:
Waters MR, Stafford TW, and Carlson DL.(2020): The age of Clovis—13,050 to 12,750 cal yr B.P.. Science Advances, 6, 43, eaaz0455.
https://doi.org/10.1126/sciadv.aaz0455