接触仮説の検証

 接触仮説を検証した研究(Mousa., 2020)が公表されました。日本語の解説記事もあります。集団間の社会的偏見は集団間の有意義な協調を通じて軽減できる、という広く認められた接触仮説は、平和促進を目指す現実世界の戦略の基盤としての役割を果たすことが多く、それに一部基づいて、世界では外集団との接触に焦点を合わせた平和構築計画に何十億ドルもの資金が費やされています。しかし、この仮説の仮定を厳密に評価する実証的研究はほとんどありません。

 この研究は、集団間の接触が戦争後に社会的団結を構築できるかのかどうか、評価するためのフィールド実験として、アマチュアのサッカーリーグに対して、ISISに強制移住させられたイラクのキリスト教徒選手らを、キリスト教徒だけのチームとイスラム教徒選手が3人混じったチームに無作為に所属させる、という介入を行ないました。リーグ戦の後、この研究は選手たちの行動および態度に焦点を合わせた一連の結果を測定し、混合チームにいることでキリスト教徒選手はイスラム教徒のチームメイトに対する行動が変化したものの、それはサッカーに関連に限ることを発見しました。混合チームでは、キリスト教徒選手はイスラム教徒選手にスポーツマンシップ賞を贈ったり、リーグ戦の後もイスラム教徒選手たちと試合や練習を続けたりするようになりました。

 したがって、この調査結果によると、態度ではなく行動が変わっています。しかし、この研究は、認められた行動変容が、たとえばイスラム教徒の多いレストランに通う、知らないイスラム教徒が同席するイベントに参加するなど、見知らぬイスラム教徒のいる他の社会的状況にまでは及んでいなかったことも明らかにしました。行動変容の好ましい効果がサッカーリーグという背景を超えて普及しなかった一因は、それらが態度ではなく行動に限られていることと指摘されています。

 この研究結果は他の最近の偏見軽減研究と一致している。今後の研究では、態度は行動より変えるのが単純に難しいのか、もしくは現在の研究では正確な態度を測定していないのかを解明できるかもしれない、と指摘されています。この研究の成果は、戦争後の和平実現のために集団間に介入する有用性と潜在的限界を浮き彫りにしています。局所的団結によって関係する集団を、たとえば民族抗争の再開などからどの程度守れるのか、今後の研究で調査すべきと提言されています。こうした変容と限界の進化的基盤という観点からも注目されます。


参考文献:
Mousa S.(2020): Building social cohesion between Christians and Muslims through soccer in post-ISIS Iraqu. Science, 369, 6505, 866–870.
https://doi.org/10.1126/science.abb3153

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