『卑弥呼』第50話「筑紫島と豊秋津島」

 『ビッグコミックオリジナル』2020年11月20日号掲載分の感想です。前回は、ミマトの冷静な返答にヤノハが満足そうな表情を浮かべるところで終了しました。巻頭カラーとなる今回は、ヤノハの夢に久々の登場となるモモソが現れる場面から始まります。モモソはヤノハに、倭の王にならねばならない運命なのに、何をのんびりしているのだ、と問い質します。自分は五ヶ国と同盟を結び、暈(クマ)の脅威を取り除いたばかりなので、少しくらい休みたい、と答えるヤノハを、モモソは掴んで天上に引き上げます。日本列島をヤノハに見せたモモソは、これが倭国だと説明します。筑紫島(ツクシノシマ、九州を指すと思われます)は倭のほんの一部で、豊秋津島(トヨアキツシマ、本州を指すと思われます)ではまだ戦が絶えず、筑紫島の平和は平和のうちに入らない、というわけです。自分は所詮モモソの偽物にすぎないので買いかぶらないでくれ、と懇願するヤノハに対して、だからできることもある、とモモソは諭します。目が覚めたヤノハは、倭の広大さに驚きます。そこへ穂波(ホミ)から戻ったアカメが、穂波の重臣であるトモの動向を報告します。トモが東方の日下(ヒノモト)の国に向かう、とアカメから聞いたヤノハは、面白い、と呟きます。

 ヤノハは山社(ヤマト)の閼宗(アソ)山(阿蘇山)にある寄合場に那(ナ)のトメ将軍を呼び出します。閼宗は筑紫島の真ん中に位置し、那・伊都(イト)・末盧(マツロ)・穂波・都萬(トマ)の五ヶ国にとっても験のいい場所だから、というわけです。ヤノハに韓(カラ、朝鮮半島を指すのでしょう)の情勢を問われたトメ将軍は、津島(ツシマ、現在の対馬でしょう)の国のアビル王によると、遼東郡の公孫度が高句麗や烏桓を討伐し、韓全体の支配を強めている、と答えます。ヤノハから公孫度の真意を問われたトメ将軍は、おそらく黄巾の乱で衰退した漢(後漢)からの独立だろう、と答えます。もし自分が漢に使節を派遣した場合、公孫度はどう遇すると思うか、とヤノハに問われたトメ将軍は、もてなすだろうが、自らを帝と称して漢への未知を閉ざすだろう、と答えます。公孫度が独立を勝ち取れるのか、とヤノハに問われたトメ将軍は、漢には曹操という無敵の武将がいるので、簡単にはいかないだろう、と答えます。どうしたいのかヤノハに問われたトメ将軍は、公孫度の領地を強引に突破できないかとも考えたものの、生きて突破できる可能性は五分五分と答えます。無理せずとも近いうちに漢は滅びるのでは、とヤノハに指摘されたトメ将軍は、ヤノハの先見の明に感心します。漢はすでに天命を失った、というわけです。ヤノハはトメ将軍に、当分は遣漢使となることを諦めてもらい、まず近くて遠い豊秋津島に行ってもらいたい、と打診します。ヤノハの望みは倭国全土の平和なので、豊秋津島で戦が続いているのならば止めねばならない、とヤノハはトメ将軍に説明します。小国ながら日下の国が吉備(キビ)や金砂(カナスナ)や播(ハリ)や越(コシ)の支配を画策しているとの噂は耳にしている、と言うトメ将軍に、とくにその日下がどんな国なのか見てきてほしい、とヤノハは依頼します。剛毅なトメ将軍も一瞬絶句し、サヌ王(記紀の神武天皇と思われます)の一族が支配する国だと言いますが、奸智に長けた日下がどれほどの繁栄を遂げているのか見たくないか、とヤノハに言われ、承諾します。この視察にミマアキを同行させたい、とヤノハに打診されたミマト将軍は、危険が大きいと息子の身を案じて反対します。ミマアキの姉であるイクメはヤノハに意見を問われ、弟は友であるクラトを失って気落ちしているので、外の世界を見るのはよい気晴らしになるだろう、と答えます。そこへトメ将軍が、かつてミマアキから、後悔に出ることがあれば連れて行ってほしいと言われた、と話し、ミマト将軍も仕方なく同意します。ヤノハはトメ将軍に、穂波の重臣かつ客人にして古の支族の末裔であるトモが、日下を目指して出港した、と伝えます。

 穴門(アナト、現在の山口県でしょうか)の関(関門海峡でしょうか)では、激しい海流に翻弄されつつ、トモがワニ氏の助けを得て舟で豊秋津島を目指していました。何とか激流を切り抜けると、ワニはトモに、豊秋津島と筑紫島は近いものの、その間の海峡はなかなか越せない難所だ、と説明します。ワニはトモに、内海(ウチウミ、瀬戸内海でしょうか)に入ったので、これからはサヌ王の海路を進む、と言います。サヌ王は日向(ヒムカ)から、岡水門(オカミナト、福岡県遠賀郡の岡湊神社でしょうか)、埃宮(エノミヤ、広島県安芸府中町の多家神社でしょうか)、吉備を経て、難波の碕(ナニワノミサキ)に到達しました。吉備まで行ければ、難波の碕まではさほど難儀ではないだろう、とワニはトモに説明します。難波の碕に到達した後は河を遡上し、そこからが日下の領域となり、サヌ王の末裔が我々を敵と認識すれば命はないだろうが、我々は古の支族なので、日下の民もよく心得ているだろう、とワニは楽観的です。閼宗では、山社がサヌ王のかつての領土を併合したので、トモはサヌ王の子孫に山社へ派兵するよう要請に行ったのではないか、とミマト将軍が懸念していました。トモが山社と同盟国に謀反を企むなら、自分が追いつき息の根を止める、と言うトメ将軍に、その言葉を待っていた、とヤノハが言うところで今回は終了です。


 今回は、本州が本格的に描かれることを予感させる内容でした。一方、漢の衰退が改めて語られ、大陸との関係が描かれるのはかなり後になりそうです。おそらく、倭から漢(後漢)への使節派遣は行なわれず、公孫氏政権と交流し、魏が公孫氏政権を滅ぼしてから魏と通交する、という展開になるのでしょう。本州情勢は、トメ将軍も恐れる日下がどのような国なのか、またサヌ王の末裔はどうしているのか、という点でもたいへん注目されます。本作の山社とはおそらく『三国志』の邪馬台国のことで、日向というか現在の宮崎県を主要な領土としていますが、現在有力な邪馬台国畿内説との関係でどう描かれるのだろうか、と以前から気になっていました。最終的には、現在の纏向遺跡一帯に山社が「遷都」するのかもしれませんが、まずは奸智に長けているとされる日下が山社にどう対処するのか、注目されます。山社はサヌ王の故地を侵したわけですから、九州に残っているらしいサヌ王の家臣の末裔と組んで山社と敵対する、とも考えられますが、奸智に長けているとのことですから、そのような単純な展開にはならないように思います。サヌ王の末裔とヤノハとの間でどのような駆け引きが行なわれるのか、楽しみです。

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