マウスの母性行動に必要な聴覚皮質の生得的機構と可塑性機構

 マウスの母性行動に必要な聴覚皮質の生得的機構と可塑性機構に関する研究(Schiavo et al., 2020)が公表されました。幼体の鳴き声は、親に強い応答を呼び起こします。このように動物の親個体が新生仔の発声に敏感なのは、生得的なものなのか、それとも仔の保護のために声の合図を学習したものか、よく分かっていません。マウスでは、仔の保護を経験していない未交尾の雌は、仔が発する保護を求める声(ディストレスコール)の意味を認識しませんが、母マウスおよび仔マウスと同居した後では、巣から離れた仔を回収して巣に戻すようになる。ディストレスコールは多様で、共同で仔の保護をする未交尾雌が確実に仔の回収を行なうには、さまざまな声を一般化させる必要があります。

 この研究は、マウスにおいて、母性行動の開始が聴覚皮質における生得的機構と経験依存的な可塑性の相互作用の結果である、と示します。母性行動を示す雌では、音節間の間隔(ISI)が75~375ミリ秒の声で仔の回収が誘発され、皮質応答はこの範囲のISIにわたって一般化されていました。これに対して、仔の保護を経験していない未交尾雌は、最も一般的(「原型」的)なISIに対してのみ、ニューロン活動も行動も敏感でした。仔の保護が未経験の雌マウスの皮質では、最初は抑制性の神経応答と興奮性の神経応答が一致しておらず、前者は特定の間隔に調整されませんが、後者は非常に狭い間隔範囲に限られていました。

 同居実験の過程で、興奮性応答がより広い範囲のISIを表現するようになる一方、抑制性応答の限定は強まり、その結果、認識の境界が定まります。同居の間に合成された声を提示したところ、これらの統計と合致するような神経行動応答の調整が観察され、この過程には皮質の活動と視床下部のオキシトシン系が必要でした。したがって、マウスの聴覚皮質に元々あった生得的な感受性の上に神経可塑性機構が構築されることで、確実な仔の保護行動のための迅速な可塑性が成立します。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。


神経科学:母性行動に必要な聴覚皮質の生得的機構と可塑性機構

神経科学:聴覚ニューロンの可塑性が母性行動の開始を駆動する

 マウスでは、未交尾の雌は、新生仔が発する保護を求める声(ディストレスコール)に対して生得的には応答しないが、仔を保護している母マウスと同居すると、母性行動を学習することができる。この行動学習の過程に、どのような神経機構が働いているのかは分かっていなかった。今回R Froemkeたちは、特定の聴覚ニューロンの生得的な調整機構と、仔との同居に関係する経験依存的可塑性との相互作用によって、未交尾雌が仔のディストレスコールに応答して仔を回収し始めるようになることを明らかにしている。



参考文献:
Schiavo JK. et al.(2020): Innate and plastic mechanisms for maternal behaviour in auditory cortex. Nature, 587, 7834, 426–431.
https://doi.org/10.1038/s41586-020-2807-6