『卑弥呼』第54話「呪われた夜 其弐」

 『ビッグコミックオリジナル』2021年1月20日号掲載分の感想です。前回は、山社(ヤマト)の楼観でナツハがヤノハを背後から襲い、押し倒すところで終了しました。今回は、暈(クマ)の国の夜萬加(ヤマカ)にて、洞窟の奥深くでヒルメがヤノハの失脚を祈っている場面から始まります。山社(ヤマト)では、ミマト将軍とオオヒコが山火事の鎮火に赴き、山社の民や戦部(イクサベ)の長のタゴリも協力を申し出ました。楼観では、自分を襲ってきたナツハに対して、ヤノハが反撃に出ますが、ナツハの膂力には敵わず犯され、ナツハの腕の黥を見てナツハの正体に気づいたようです。ヤノハは自分を犯したナツハに、望むと望まざるに関わらず、男と通じれば天照大神(アマテラスオホミカミ)様と語り合う力は失われ、自分は日見子(ヒミコ)ではなくなり、山社も那(ナ)など同盟国も滅亡し、倭国は再び人が人として生きられない世に戻る、と語ります。

 お前たちの勝ちだ、言うヤノハは、自分が何者なのかお前は分かっているのか、あるいは死に勝る苦しみを受けて自分が何者か忘れてしまったのか、とナツハに問いかけます。ナツハの右手の蛇がまぐ合う黥を見たナツハは、それが二度と毒蛇に咬まれないための魔除けだ、と指摘します。ナツハはヤノハに、一目見た時からもしやと思っていたので、ナツハに心を許してしまった、と打ち明けます。いや、日見子を名乗りながら天照様の導きを信じなかった天罰か、と自嘲したヤノハは、その黥を彫ったのは自分の母だ、と指摘します。衝撃を受けるナツハに、お前は私の弟のチカラオだ、と告げてナツハが衝撃を受けるところで、今回は終了です。


 今回は、ナツハがヤノハの弟のチカラオだと明らかにされました。ヒルメの策略は、予想通りナツハがヤノハを犯すことでしたが、反撃を試みたものの、あっさりとヤノハが犯されたのは意外でした。用心深いヤノハがナツハを簡単に信用するだろうか、と考えていましたが、やはりヤノハはナツハが弟だと感づいており、それが油断につながったようです。ヤノハにもまだ人間らしい甘さが残っていた、ということでしょうか。ナツハがヤノハの弟であることは初登場時から強く示唆されていたので、とくに意外ではありませんでしたし、ヤノハがそれに感づいている様子も描かれていましたが、ナツハの方はそうした様子を一切見せなかったので、姉を恨んでいるか、姉の顔を忘れてしまったのかな、と予想していました。今回のヤノハの指摘から推測すると、ナツハは郷里を海賊に襲撃されて奴隷のように扱われるという過酷な経験により、自分が何者なのか忘れてしまったのかもしれません。ナツハがヤノハを犯したのはヒルメの策略通りでしたが、山火事は早々に鎮火されましたし、ナツハがヤノハから弟だと聞かされて、ヒルメを裏切ってヤノハに従うようになる可能性もあると思います。古代の日本列島において、同母キョウダイ間の性交は禁忌とされていたでしょうから、この強姦をナツハが黙っている理由はありそうです。ヤノハはこれを取引材料とすることで、ナツハを自分に従わせるのかもしれません。『三国志』には、卑弥呼(日見子)の部屋に出入りして給仕の世話をしていたというただ一人の男性と、政治を補佐した「男弟」の存在が記されており、前者がミマアキ、後者がチカラオ(ナツハ)だと予想していたのですが、この役割は逆になるかもしれません。また、『三国志』に見えるように、卑弥呼(日見子)がほとんど人と会わなくなったのは、ヤノハが今回の強姦で妊娠し、密かに出産したからかもしれません。現時点で紀元後208年頃と推測されることから、二人の子供の娘が台与なのでしょうか。