男性に偏った移住を示す貴州省のフェイ人(回族)

 中国南西部の貴州省のフェイ人(Hui、回族)の起源に関する研究(Wang et al., 2021)が公表されました。フェイ人はアジア東部の民族・宗教的集団で、中国全土に分布しており、人口は約2000万人で、おもに中国語を話すイスラム教徒で構成されています。現在、フェイ人の大半は漢人の中国語を話しますが、その文化と食習慣は漢人とは明確に異なります。フェイ人集団の起源と多様化が、ユーラシア西部および中東からの人々の大規模な移動を伴う人口拡散だったのか、それと先住のアジア東部人の大規模な同化を伴う単純な文化的拡散だったのか、長年の議論となっています。歴史的記録では、フェイ人の起源はおもに異なる2期間にあった、と示唆されます。まず、唐王朝(紀元後618~907年)から始まり、ペルシア人とアラブ人が中国南東部沿岸に交易目的で到来し、その後で次第に在来のアジア東部人集団、とくに漢人(の主要な遺伝的祖先集団)と混合しました。次に、アジア中央部人とペルシア人とアラブ人が、13~14世紀にモンゴルの侵略と征服に続いて大元ウルス治下の中国に到来しました。移民は、兵士や商人や政治的使者を含む男性が優勢だった、と示唆されています。

 以前の遺伝的研究では、中国のフェイ人の起源は、父系のY染色体の一塩基多型および縦列型反復配列(STR)分析から推測される先住のアジア東部人の大規模同化を伴っていた、と明らかになりました(関連記事)。母系となるミトコンドリアDNA(mtDNA)分析からは、ユーラシア西部関連系統は中国北西部の新疆(Xinjiang)ウイグル自治区のフェイ人では見られるものの、約6.7%と低頻度だった、と示されています。中国北西部の甘粛省のフェイ人に関する常染色体STR分析は、イスラム教徒集団と在来のアジア東部人集団の遺伝的均質性を示しており、イスラム教化の時期における中東もしくはヨーロッパからフェイ人への実質的な遺伝子流動の証拠はありませんでした。以前の研究はいくつかの光を当てましたが、用いられた遺伝標識が限定的だったので、フェイ人の起源に関する包括的で決定的な理解には程遠いものでした。さらに、フェイ人に関する以前の遺伝的研究の大半は中国北部に焦点を当てており、中国南西部のフェイ人は稀にしか調べられていません。

 中国南西部の貴州省は、遺伝的および文化的多様性の高い多民族地域です。貴州省の人口で最大の割合を占めるのは、総人口の62.2%となる漢人です。イスラム教徒のフェイ人は約9万人で、おもに威寧(Weining)県(威寧イ族回族ミャオ族自治県)に分布しており、貴州省の総人口の0.5%を占めます。威寧県は現在の貴州省に移動したフェイ人の最初の場所でした。歴史的記録によると、フェイ人の祖先はすでに大元ウルス期に現在の貴州省に到来していました。中国のフェイ人の起源はかなり研究されてきましたが、常に議論となっています。この研究では、貴州省のフェイ人の起源および遺伝的構造を調べるため、配列(アレイ)遺伝子型決定を用いて、貴州省のフェイ人標本に関して、699537ヶ所の父系と母系の系統関連一塩基多型および常染色体の一塩基多型を含むゲノム規模データが生成されました。さらに、貴州省のフェイ人における先住民族集団の同化に関する分析を容易にするため、参照人口集団として貴州省の漢人も標本抽出されました。本論文の目的は、貴州省のフェイ人の起源と遺伝的混合を調べ、遺伝的観点から初期の中国のフェイ人の移住に関する理解に光を当てることです。


●標本と分析方法

 貴州省で59個体分の唾液標本が収集され、内訳は威寧県のフェイ人45個体と貴陽(Guiyang)市の漢人14個体です。これらの標本は、両親と祖父母が地元民であり、少なくとも3世代にわたって同じ民族集団内で非近親婚をしてきた無関係の参加者から無作為に収集されました。標本の地理的位置は図1に示されています。59個体のうち23個体が男性で、父系となるY染色体ハプログループ(YHg)が分析されました。母系となるmtDNAは全員が分析され、mtDNAハプログループ(mtHg)が決定されました。外群f3統計(ムブティ人、X、Y)では、ムブティ人が外群とされ、XとY両集団間で共有される遺伝的浮動が計算されました。また、起源集団を調べるためのf3統計(標的、起源1、起源2)も実行されました。f4統計(X、Y、検証集団、外群)では、検証集団がXとYに対称的に関連しているのか、もしくはXとYの一方とアレル(対立遺伝子)の過剰を共有するのか、計算されました。以下、本論文の図1です。
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●貴州省におけるフェイ人集団と漢人集団の遺伝的構造

 まず主成分分析が実行され、貴州省のフェイ人と漢人の個体群が、既知のアジア東部集団とどのように関連しているのか、定性的な像が得られました。本論文は貴州省のフェイ人と漢人の標本を、それぞれ「貴州省フェイ人」、「貴州省漢人」と呼びます。主成分分析の結果は図2Aに示されています。観察を容易にするため、中国南部の漢人(CHS)を除外して図2Aの左端(灰色の枠内)を拡大しました(図2B)。第一および第二主成分に基づくと、貴州省のフェイ人と漢人の個体群は、2つの明確な遺伝的クラスタに区分されます。さらに、貴州省フェイ人は、南方集団よりも、モンゴル語族やシナ・チベット語族やツー人(Tu)や北京の漢人(CHB)といった北方集団と密接にクラスタ化している、と明らかになりました。貴州省フェイ人の遺伝的構造は、地理的分布と一致していませんでした。貴州省フェイ人とは異なり貴州省漢人は、CHSやミャオ・ヤオ(Hmong-Mien)語族のシェ人(She)やミャオ人(Miao)やトゥチャ人(Tujia)など中国南部の集団と重なっていました。

 ADMIXTUREクラスタ化分析の結果は主成分分析の結果と一致しており、貴州省フェイ人集団は、南方集団の代わりに北方の集団と平均してより密接な類似性を示しました(図2C)。図2C では、K=4のADMIXTUREの結果が示されています。図2C で貴州省フェイ人集団の主要な系統構成要素(紫色)は、朝鮮半島に近いロシアの沿岸地域に位置する新石器時代の「悪魔の門(Devil’s Gate)」遺跡の狩猟採集民(関連記事)と、現代のツングース系ウリチ人(Ulchi)でも最大化されています。またADMIXTUREでは、貴州省フェイ人標本群に黄色の系統構成要素も割り当てられていますが、これはユーラシア西部人では最大化されているものの、中国南方集団には存在しません。図2Cに示されている貴州省フェイ人の系統構成要素からは、より多くの北方関連系統構成要素があり、次に南方関連系統構成要素があり、わずかにユーラシア西部関連系統構成要素がある、と示唆されます。貴州省フェイ人は、南方および北方構成要素と関連する混合割合の観点から、CHSやミャオ人やシェ人やトゥチャ人のような中国南方集団と類似した遺伝的特性を示します。以下、本論文の図2です。
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●貴州省のフェイ人と漢人における集団継続性と混合

 ムブティ人を外群とする外群f3統計(ムブティ人、X、Y)では、XとY両集団間で共有される遺伝的浮動が計算され、上述の主成分分析およびADMIXTURE分析で観察されたパターンと一致し、貴州省フェイ人はツー人およびチベット・ビルマ語族話者集団とより多くの遺伝的浮動を共有している、と示唆されました。しかし、貴州省漢人は、中国南方集団、とくにミャオ・ヤオ語族のトゥチャ人やCHSと近い遺伝的近接性を示しました。さらに、本論文の標本群における貴州省のフェイ人および漢人の起源集団を調べるためのf3統計(標的、起源1、起源2)では、貴州省フェイ人の可能性がある関連起源集団は、漢人関連、とくに本論文の貴州省漢人と、ミャオ・ヤオ語族話者集団と、古代および現代のユーラシア西部人で構成されている、と示されました。貴州省漢人の最も可能性のある起源集団は、台湾先住民のタイヤル人(Atayal)と傣人(Dai)とチベット人やウリチ人やホジェン人(Hezhen 、漢字表記では赫哲、一般にはNanai)のような北方関連集団でした。f3統計から推測すると、貴州省フェイ人の遺伝的構造は北方関連集団により密接ではあるものの、貴州省漢人やミャオ・ヤオ語族話者集団のような先住の南方関連集団との遺伝的同化の可能性の兆候が見つかりました。

 f4統計(X、Y、検証集団、外群)では、検証集団がXとYに対称的に関連しているのか、もしくはXとYの一方とアレル(対立遺伝子)の過剰を共有するのか、計算されました。f4統計(貴州省フェイ人、貴州省漢人、検証集団、外群)では、現代および古代ヨーロッパ人が、貴州省漢人よりも貴州省フェイ人と多くの遺伝的浮動を共有していると示され、貴州省フェイ人へのユーラシア西部人の遺伝子流動が示唆されます。貴州省漢人をデータセットの他の漢人集団に置換することにより、結果が確認されました。別のf4統計(貴州省フェイ人、シェ人、検証集団、ムブティ人)とf4統計(貴州省フェイ人、ミャオ人、検証集団、ムブティ人)では同様に、アジア東部集団は貴州省フェイ人よりもミャオ人およびシェ人と多くの遺伝的浮動を共有している一方で、貴州省フェイ人はユーラシア西部関連集団とより密接な傾向にありました。


●貴州省フェイ人の起源集団と関連する系統

 本論文における貴州省フェイ人の可能性が高そうな混合起源集団を特定するため、さまざまなqpAdmに基づく混合モデルが体系的に調べられました。まず、貴州省漢人とフランス人がそれぞれ、2方向混合におけるアジア東部およびユーラシア西部関連起源集団の代理として用いられました。貴州省フェイ人個体群は、フランス人関連系統が6.2%、貴州省漢人関連系統が93.8%と推定されました(図3A)。貴州省漢人を既知のデータセットの漢人と置換して、この推定が確認され、代理の一方が漢人か貴州省漢人かに関係なく、一貫した結果が観察されました。

 さらに、貴州省フェイ人におけるアジア東部関連起源集団が調べられました。まず、貴州省漢人関連の在来南方構成要素と、チベット・ツングース関連北方系統を区別できるのか、確認されました。3起源集団として、貴州省漢人とチベット人とフランス人を用いての、より複雑な3方向モデルが提案されました(図3B)。アジア東部関連起源集団では、漢人関連系統が69.6%と最大の割合を示した一方で、チベット人関連系統も24%と顕著な割合を示しました。次に、チベット人を古代の悪魔の門遺跡個体群(図3D)および現代ウリチ人(図3E)および中国北部のダウール人(Daur)と置換しました(図3C)。新石器時代の悪魔の門遺跡個体群関連の遊牧民系統の混合割合は、貴州省フェイ人では17.4%と推定されました。ダウール人関連系統も、貴州省フェイ人では約16.3%の類似した割合と推定されました。しかし、貴州省フェイ人では、現代ウリチ人関連起源集団の系統割合で違いが観察され、7.4%と推定されました。これらの結果は、貴州省フェイ人の祖先が、中国南西部に移住する前に、チベット・ツングース関連北方系統を大量に有していたことを示唆します。以下、本論文の図3です。
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●mtHgおよびYHg分析

 貴州省のフェイ人と漢人のmtHgは多様性が高く、全てアジア東部集団でよく見られるものでした(図4B)。mtHgの頻度特性では、南北の遺伝的混合パターンが観察されました。より詳しく見ると、mtHg-D4・D5・D6が、貴州省フェイ人個体群では31.11%(45個体のうち14個体)、貴州省漢人個体群では14.29%(14個体のうち2個体)です。以前の研究では、これらのmtHgは中国北部の集団で優勢と示唆されていました。貴州省のフェイ人と漢人で見られるmtHg-G2・Zは、中国北部で比較的高頻度です。さらに、mtHg-B・F・Rはおもに中国南西部およびアジア人東部集団で見られ、貴州省フェイ人では26.67%(45個体のうち12個体)、貴州省漢人では42.86%(14個体のうち6個体)です。mtHg-A・N9のような他系統は、貴州省フェイ人では28.57%(45個体のうち8個体)、貴州省漢人では28.57%(14個体のうち4個体)で、これらはアジア北部で優勢です。mtHg-Cとその下位系統はアジア北東部で拡大したと考えられており、貴州省フェイ人では13.33%(45個体のうち6個体)、貴州省漢人では7.14%(14個体のうち1個体)です。

 YHgの分析(図4A)では、貴州省フェイ人の顕著な特徴は、YHg-Q1b1a3(L330)およびQ1b2b1b2a(F1893)が53.33%(15個体のうち8個体)と高頻度であることです。これらは、アルタイ人やトゥバ人(Tuvans)やケット人(Kets)のような、シベリア南部やその隣接地域のモンゴル高原の集団で見られるYHg-Q(M242)の下位系統です。以前の研究では、YHg-Qはシベリア南部に起源があり、旧石器時代以降にユーラシアの他地域にじょじょに拡散したかもしれなまい、と明らかになりました。貴州省フェイ人で次に高い割合のYHgはN1b2a(M1811)で、26.67%(15個体のうち4個体)です。YHg-N1b2aは、現在のシナ・チベット語族集団で優勢なYHg-N1b(F2930)の下位クレード(単系統群)です。

 YHg-R1a1a1b2(F992)・R1a1a1b1a2b3(FGC4499/Y2192)はYHg-R1a1a(M17)の下位クレードで、アジア中央部草原地帯から移住してきた可能性が高そうです。貴州省フェイ人のYHg特性とは異なり、貴州省漢人のYHgではO1aとO2aが高頻度で、これらはアジア東部およびアジア南東部で主要な在来父系です。とくに、貴州省漢人のYHg-O1a1a2a1(CTS701)・O1a1a1b1(Z23406)・O1a1a1a1a1a1a1a(A12439)は、中国南東部沿岸で優勢だったYHg-O1a(M119)の下位系統です。YHg-O2a2b1a1a1(F8、F42)の下位ハプログループは、5400年前頃の新石器時代に拡大した、現在の中国で3人の「超祖父」の1人と示唆されました。父系となるYHgでは、貴州省漢人と比較して貴州省フェイ人は、アジア北部および中央部でよく見られる系統をより多く有しています。以下、本論文の図4です。
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●貴州省のフェイ人の男性主導の移住

 貴州省フェイ人の人口は比較的少ないものの(貴州省の人口の0.5%)、長い歴史を有します。歴史的記録によると、フェイ人は中国におけるフェイ人集団の形成初期に貴州省威寧県に到来しました。しかし、フェイ人の起源と移住史は、複雑な民族的起源とゲノム規模データの欠如のため、常に曖昧でした。したがって、貴州省フェイ人の研究は、中国におけるフェイ人の初期移住パターンと歴史的慣習の理解に役立ちます。本論文では、貴州省のフェイ人と在来の漢人のゲノム規模一塩基多型データが分析されました。このデータを既知の古代および現代の集団のデータセットと併合し、母系(mtDNA)・父系(Y染色体)・常染色体の遺伝的証拠を包括的に統合することで、貴州省のフェイ人の起源と混合史が推測されました。

 父系の観点から、アジア北部および中央部でよく見られるYHgは、貴州省漢人よりも貴州省フェイ人の方で高頻度に達する、と明らかになりました。しかし、貴州省漢人の方は、貴州省フェイ人と父系では大きく異なり、おもにアジア東部およびアジア南東部で優勢なYHgを示します。また母系では、貴州省のフェイ人と漢人はほぼ全てのmtHgを共有している、と明らかになりました。父系と母系の遺伝的特性の不一致は、貴州省フェイ人の移住が、おそらくは性的に偏った男性主導の過程だったことを示唆します。ただ、貴州省フェイ人の標本には男性が少なく、これが研究の限界になります。しかし、フェイ人で観察された性的偏りのパターンは、中国に移住してきたフェイ人の祖先はおもに男性だったとする、以前の研究(関連記事)や歴史的記録と一致しています。結婚は比較的閉鎖的な内婚制度で、異なる集団間の結婚は通常、フェイ人男性と結婚する時にイスラム教徒に改宗する在来の漢人女性を含んでいました。


●先住漢人との遺伝的同化

 フェイ人には、先住の漢人との強い混合を裏づける遺伝的証拠が見つかりました。母系(mtDNA)では、貴州省漢人は貴州省フェイ人と、B5・D4・C7・B4・A17・A14・FのようにmtHgの大半を共有しています。さらに、qpAdmに基づく混合モデルでも、貴州省フェイ人は他のアジア東部集団よりも貴州省漢人と多くのアレルを共有している、と示されました。貴州省フェイ人の形成において、在来の漢人の大規模な同化があった、と示唆されています。貴州省のフェイ人と漢人との間の遺伝的類似性は、イスラム教徒のフェイ人の遺伝的特性は先住の漢人集団に最も近い、という以前の証拠と一致します。フェイ人の文化はイスラム教の慣行のため漢人とは明確に異なりますが、現在フェイ人の大半は漢人の中国語を話しており、漢人との密接な類似性を示します。


●貴州省フェイ人における限定的なユーラシア西部関連系統

 貴州省フェイ人においてゲノム規模データでは、優勢なアジア東部関連系統に加えて、ユーラシア西部関連系統も検出されました。qpAdm混合モデルに基づく結果では、貴州省フェイ人個体群は、フランス人のユーラシア西部関連系統を約6%有している、と推定されました。本論文ではフランス人が代理として用いられ、混合割合が推定されましたが、ユーラシア西部関連系統は多様だったかもしれず、おそらくはユーラシア西部のさまざまな地域に由来したでしょう。中国のフェイ人集団の起源と多様化が、人々の大規模な移動を含む人口拡散だったのか、それとも単純な文化的拡散だったのか、長く議論されてきました。本論文では、現代フェイ人におけるユーラシア西部関連系統の堀合はたいへん低いと示され、これは、先住のアジア東部人の大規模な同化を含むフェイ人の形成を裏づけます。


●貴州省フェイ人の北方から南方への移住

 歴史的記録では、大元ウルスと明王朝とダイチン・グルン(大清国)以来、イスラム教徒のフェイ人はアジア中央部やアラビア半島やペルシアからシルクロード沿いに中国へと拡大してきました。しかし、貴州省フェイ人の祖先がどこからどのように中国南西部に到来したのか、不明でした。本論文の遺伝的証拠では、貴州省フェイ人はチベット人やツングース・モンゴル語族話者集団のような北方集団と類似性を示す、と示唆されます。貴州省フェイ人の標本群は、貴州省漢人(69.6%)とチベット人(24%)とフランス人(6.4%)、もしくは貴州省漢人(77.1%)とダウール人(16.3%)とフランス人(6.6%)の3方向混合としてモデル化できます。これは、漢人の最近の拡大および遺伝子流動が原因ではありません。なぜならば、現在のチベット人やダウール人の代わりに新石器時代の悪魔の門遺跡個体群を用いても、類似の混合割合が得られるからです。また、貴州省フェイ人の父系Y染色体からこの北方系統を裏づける証拠が見つかりました。イスラム教徒のフェイ人はおそらく北方経路で中国へと移住してきて、その後で貴州省へと南方に移住し、先住民族集団、とくに漢人と大規模に混合し、現在の貴州省フェイ人が形成された、と本論文は提案します。将来の研究では、中国のさまざまな地域に住むフェイ人より多数の標本が、フェイ人民族集団の遺伝的多様性と人口史を包括的に明らかにするでしょう。


●まとめ

 貴州省フェイ人集団は、長い歴史と独特な文化的特徴を有します。しかし、ゲノム規模データが不足しているため、フェイ人の起源と移住史は常に曖昧でした。貴州省フェイ人に関する研究は、中国のイスラム教徒のフェイ人の起源と多様化に関する長い議論に手がかりを提供するのに役立つでしょう。本論文では、ゲノム規模の観点から、母系のmtDNAと父系のY染色体と常染色体DNAの遺伝的結果が総合的に統合されました。現代の貴州省フェイ人は、ユーラシア西部関連の人々のアジア東部への男性優位の移住と、先住のアジア東部人、とくに漢人の大規模な同化により形成された、と本論文は提案します。


参考文献:
Wang Q. et al.(2021): Male-Dominated Migration and Massive Assimilation of Indigenous East Asians in the Formation of Muslim Hui People in Southwest China. Frontiers in Genetics, 11, 618614.
https://doi.org/10.3389/fgene.2020.618614