『地球ドラマチック』「ネアンデルタール人 真の姿に迫る!」

 NHK教育テレビで放送されたので、視聴しました。ネアンデルタール人(Homo neanderthalensis)の足跡(関連記事)や、ネアンデルタール人の食性の範囲が以前の想定よりも広かったこと(関連記事)や、ネアンデルタール人による投槍(関連記事)や、ネアンデルタール人の持続的な土地利用(関連記事)など、近年の研究が取り上げられており、全体的に、ネアンデルタール人が以前に考えられていたよりも認知能力や社会組織の点で優れていたことを強調する内容になっていました。もっとも、ネアンデルタール人の評価は発見以来揺れ動いており(関連記事)、とくに評価が低かったのは、ネアンデルタール人のミトコンドリアDNA(mtDNA)が解析され、現代人とは異なる分類群であることが明らかになった1997年から、ネアンデルタール人と現生人類との交雑が有力説になった2010年5月までだと思います(関連記事)。

 ネアンデルタール人の社会性については、負傷からの回復に関する研究が取り上げられていました(関連記事)。ネアンデルタール人は深い思いやりから負傷者や疾患のある人を長く世話していたのではないか、というわけです。ネアンデルタール人による薬用植物の使用に関する研究にも言及されていました(関連記事)。また、ネアンデルタール人の社会性と関連して、その象徴的思考能力に関する研究も取り上げられていました。たとえば、フランス南西部のブルニケル洞窟(Bruniquel Cave)で発見された、切り取られた石筍で作られた環状の建築物です(関連記事)。これは、石筍に付着した方解石のウラン系列年代から、この環状の石の構造の年代は176500±2100年前と推定されており、ネアンデルタール人の所産である可能性が高い、と考えられています。ただ、ギリシア南部マニ半島のアピディマ(Apidima)洞窟遺跡で、21万年以上前となる広義の現生人類(Homo sapiens)系統と言えそうな遺骸が発見されており(関連記事)、フランスに関してはそうした証拠はまだ確認されていませんが、広義の現生人類が関わった可能性もわずかに想定しておくべきではないか、と思います。

 象徴的思考能力では、更新世人類の記号に関する研究が取り上げられていました(関連記事)。洞窟に描かれた模様のようなものは記号だったのではないか、というわけです。問題は、ネアンデルタール人が洞窟壁画を描いていたのか、ということで、近年になって、ネアンデルタール人の所産と推測される洞窟壁画に関する研究が大きな話題を呼びました(関連記事)。この研究は番組内でも大きく取り上げられましたが、番組でも多少言及されていたように、この年代には疑問も呈されており(関連記事)、まだネアンデルタール人が洞窟壁画を描いていたとは確定していない、と考えるのが現時点では妥当なところでしょう。

 ネアンデルタール人と現生人類との関係では、両者の交雑が取り上げられました。ネアンデルタール人由来の遺伝子が現代人の健康に悪影響を与えている可能性も取り上げられていました(関連記事)。ただ、さすがに最近公表されたばかりの、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)により起きる新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の重症化にネアンデルタール人由来の遺伝子が関わっている、という研究(関連記事)は取り上げられていませんでした。おそらく、この研究が公表されたのは番組制作後だったのでしょう。この番組は全体的に、近年の研究成果を取り上げた優れた内容になっていると思います。名前しか知らなかったような研究者が動いて話す姿を見られたという点でも、私にとっては貴重な番組でした。