森恒二『創世のタイガ』第8巻(講談社)

 本書は2020年8月に刊行されました。第8巻は、タイガたちのいる現生人類(Homo sapiens)の集落で、リクが集落の住人とともに鉄製武器の製作を試みている場面から始まります。すでに何度か失敗していたリクは、それも踏まえて今回ついに成功します。リクはタイガの要求に応じて鉄の剣を2本製作し、その他に槍と斧を1本ずつ製作します。剣2本をタイガが、斧をナクムが、槍をカシンが持ち、その威力を実演してみせたところ、集落の人々はその威力に驚嘆します。タイガたちはネアンデルタール人(Homo neanderthalensis)に襲撃される現生人類を助けことにし、早速現生人類を襲っていたネアンデルタール人を撃退します。そこで鉄剣は大きな威力を発揮しますが、タイガとアラタは、せいぜい7000年前頃から使われ始めたと言われている投石紐を、ネアンデルタール人が使っていたことに疑問を抱きます。

 タイガたちが集落に戻ると、チヒロが山羊の世話をしていました。チヒロはカシンに山羊を捕獲してもらい、牧畜を始めようとしていました。ここで、ヤギの乳を飲もうとしてユカが吐いたことから、ユカの妊娠が明らかになります。ユカはネアンデルタール人に拉致されて強姦されてしまい、そこで妊娠したようです。タイガたちがネアンデルタール人を殺し過ぎたからこうなったのだ、と責めるレンにアラタは激怒し、タイガはリクに、ネアンデルタール人と戦うなと要求するなら守れない、と覚悟を迫ります。ユカは自暴自棄になり、池に入って流産しようとしますが、ナクムはそれを阻止して自分や妻子とともに住まわせることにします。それでも流産しようとするユカを、その子供は敵(ネアンデルタール人ではなく)ではなく自分たちの子供だ、とナクムは諭します。

 ナクムは、その後もネアンデルタール人と遭遇して戦闘になったことから、同じ現生人類の西の民と同盟を結ぼうとします。タイガもアラタも同行しますが、2人は以前に市の民と遭遇していました(第5巻)。タイガの近くにマンモスのアフリカが寄ってきますが、西の民を恐慌に陥らせると考えたタイガは、アフリカを同行させないことにします。タイガたちは西の民の集落に到着しますが、警戒されているようです。そこでナクムは、斧を置いて、タイガとカシンだけを連れて同盟締結交渉に臨みます。しかし、西の民はナクムたちを信用しません。そこへ、西の民のカイザという腕自慢の男性が現れ、ナクムに決闘を挑みます。ナクムは、自分より強いからと言って、タイガにカイザと戦わせます。タイガは、自分が勝ったら協力してもらう、と要求しますが、カイザは、自分がまけることはあり得ず、お前たちを殺す、と強硬な姿勢を変えません。そこへ、以前タイガに命を救われた(第5巻)男性が現れ、勝者の約束は自分が保証する、と訴えます。タイガはカイザの力に圧倒されつつも、はるかに上回る技術と強力な鉄剣により、カイザをほとんど傷つけずに倒します。

 しかし、そこに多数のネアンデルタール人が襲撃してきて、このままでは勝てないと判断したタイガは、近くにいるアフリカを呼ぶために一旦離脱します。そのタイガの行動に西の民やカシンは不信感を抱きますが、ティアリとナクムはタイガを信じます。その間、投石紐を用いるネアンデルタール人に西の民とナクムたちは何とか押しとどめますが、ネアンデルタール人たちに挟撃されて苦戦します。ネアンデルタール人たちを率いているのは、以前に現生人類の集落を襲撃した時も指揮官的な役割を担っていたドゥクスでした。崖の上から戦況を確認していたドゥクスはナクムの存在に気づき、マンモス(作中では当時の人々はドゥブワナと呼んでいます)タイガがどこにいるのか、探します。そこへタイガがアフリカに乗って現れ、戦況は一気に逆転します。ドゥクスに気づいたタイガは、アフリカから降りてドゥクスを倒そうとし、苦戦しつつも狼のウルフの助けも得て、ドゥクスを圧倒して鉄剣で斬りつけますが、ドゥクスは金属製のサバイバルナイフのようなものでそれを防ぎます。タイガが衝撃を受けている隙にドゥクスは他のネアンデルタール人とともに撤退します。

 襲撃してきたネアンデルタール人を退け、ナクムは再度西の民に同盟を締結するよう、説得しますが、西の民はナクムたちを信用しません。そこでタイガは、アフリカを使って脅しつつ、西の民は同志であり兄弟なので守る、と訴えます。続いてナクムも西の民を同胞(兄弟)と呼び、ナクムたちに強い不信感を示し続けてきたカイザも感激し、同盟締結に成功します。その後ナクムたちは、点在する現生人類の部族と交渉していき、ネアンデルタール人への脅威から同盟交渉は順調に進みます。とくに、マンモスに乗るタイガの効果は絶大でした。タイガは、ドゥクスが金属製のサバイバルナイフのようなものを持っていたことから、自分たち以外に未来からこの時代に来ている人間がいる、と仲間に伝えます。リカコは、が金属製のサバイバルナイフのようなものがアーミーナイフで軍用ではないか、と推測します。その頃、洞窟のネアンデルタール人の拠点では、1人の男性がネアンデルタール人たちを前に演説していました。迷ってはいけいない、迷いは罪である、どれほど我々に似ていても我々以外は人ではない、我々白き民が支配する清浄な世界、一民族による世界の統治が我が総統の夢であり、第三帝国は復活し、歴史は書き換えられるのだ、と男はネアンデルタール人たちに訴えます。男の背後の岩壁には、鉤十字の模様が彫られていました。


 第8巻はこれで終了となります。第8巻は、鉄の武器の製作やユカの妊娠や他の現生人類部族との同盟交渉なども描かれましたが、やはり、以前から言及されていたネアンデルタール人の「王」の正体が明かされことこそ、最大の見せ場と言うべきでしょうか。この男性は、第三帝国の復活が目標と発言していますから、1945年以降の世界から更新世にやって来た、と推測されます。この男性が、第三帝国の軍人なのか、それともナチスとの直接的関りはなく、軍事訓練を受けたネオナチなのか、まだ分かりません。また、この男性にタイガたちのような同行者がいるのかも、まだ明らかになっていません。この男性は(作中舞台から見て)未来の知識を活用してネアンデルタール人を心服させていったのかもしれませんが、「色つき」を滅ぼそうとする意図は、ナチズム信奉者ならば不思議ではないとしても、同じ現生人類ではなくネアンデルタール人の方に肩入れする理由はよく分かりません。ただ、男性がタイガたちと違って人類学に疎ければ、ネアンデルタール人と現生人類の違いもさほど気にならず、単に肌の色を重視してネアンデルタール人による「世界征服」を試みている、とも考えられます。正直なところ、ナチスを敵役として出すのは安易なようにも思いますが、いよいよ本作の核心に迫って来た感もあり、私はかなり楽しんで読んでいます。なお、第1巻~第7巻までの記事は以下の通りです。

第1巻
https://sicambre.at.webry.info/201708/article_27.html

第2巻
https://sicambre.at.webry.info/201801/article_28.html

第3巻
https://sicambre.at.webry.info/201806/article_42.html

第4巻
https://sicambre.at.webry.info/201810/article_57.html

第5巻
https://sicambre.at.webry.info/201905/article_44.html

第6巻
https://sicambre.at.webry.info/201911/article_41.html

第7巻
https://sicambre.at.webry.info/202009/article_22.html

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