最終氷期極大期における広範な陸域の寒冷化

 最終氷期極大期(Last Glacial Maximum、略してLGM)における広範な陸域の寒冷化に関する研究(Seltzer et al., 2021)が公表されました。最終氷期極大期(最終氷期の最も寒冷だった数千年間)における全球の寒冷化の規模は、地球の気候感度の見積もりを評価するさいの重要な制約条件です。高緯度域の氷床コアから信頼性の高いLGMの気温が得られていますが、陸域の低地での定量的な記録が少ない低緯度域では、代理指標記録の間に大きな相違があります。

 こうしたデータの空白を埋めるものとして、太古の地下水に含まれる希ガスは、水への溶解度の温度依存性に起因する直接的な物理的関係を通して、過去の地表温度を記録しています。溶存希ガスは、生物学的過程や化学的過程の影響を全く受けず、LGMの年代の地下水が世界中に遍在するため、LGM温度の適したトレーサーです。しかし、独立した複数の希ガス研究により、LGMにおいて熱帯域がかなり寒冷化したと示されているものの、それらは異なる方法論を用いており、空間範囲も限られています。

 この研究は、地下水に含まれる希ガスを用いて、LGMに低中緯度域(南緯45度から北緯35度)の標高の低い地表が5.8 ± 0.6℃(平均± 95%信頼区間)寒冷化したことを示します。この分析には、熱帯域の新しい記録に加えて、6大陸から得られた40年にわたる地下水の希ガスデータが含まれており、それら全てが同一の物理的枠組みを用いて解釈されました。この陸域ベースの結果は、気候感度が以前の見積もりよりも大きかったことを示唆する、海洋の代理指標データの同化に基づく最近の再構築結果をおおむね支持しています。

 LGMは、現生人類(Homo sapiens)の人口史において重要な期間だと考えられます(関連記事)。出アフリカ現生人類集団は末期更新世までに遺伝的に多様化していきましたが、完新世にはユーラシア東西ともに遺伝的均質化が進展します。これは、LGMによりユーラシア各地域の現生人類集団が分断・孤立していき、遺伝的違いが大きくなったから、と考えられます。LGMをやや幅広く設定すると(関連記事)、33000~15000年前頃です。これは、遺伝的にだけではなく、文化的にも違いをもたらすのに充分な時間です。語彙を基本に系統証明を試みる比較言語学的手法が有効なのは過去8000年、もしくはせいぜい1万年にすぎない、との見解(関連記事)が妥当だとすると、現代人の言語の分岐の多くがLGMに起きた可能性も想定されます。現生人類の遺伝的分化・文化的相違の形成過程を解明するためにも、LGMにおけるさらに詳細な気候変化の解明が期待されます。


参考文献:
Seltzer AM. et al.(2021): Widespread six degrees Celsius cooling on land during the Last Glacial Maximum. Nature, 593, 7858, 228–232.
https://doi.org/10.1038/s41586-021-03467-6