被子植物の起源

 被子植物の起源に関する研究(Shi et al., 2021)が公表されました。化石証拠から、前期白亜紀または白亜紀の中頃には花を咲かせる植物が存在した、と明らかになっていますが、独立した生物群としての被子植物(顕花植物)の祖先は、明確にそれとは認識できないまでも、そのずっと前から存在した可能性を示す手掛かりが増えつつあります。被子植物の二つの重要な特徴は、心皮(子房と柱頭と花柱から構成される雌性生殖器官)に包まれた胚珠(実質的な卵)と、胚珠を取り囲む、2層の珠皮で形成された椀状体(cupule;文字通り椀状の構造)です。外側の層(外珠皮)は種子を包み込むように心皮を内側に折りたたんでおり、種子が露出した裸子植物(文字通り「裸の種子」の意)とは異なっています。

 被子植物の胚珠の第二の珠皮(外珠皮)は種子植物の中でも独特で、その発生遺伝学的な特徴は内珠皮のものとは異なっています。そのため、外珠皮を他の種子植物の構造とどのように対比すべきか理解することは、被子植物の起源という長年の疑問を解決するうえで極めて重要です。これまでに、被子植物の基本的な二珠皮性胚珠の倒生構造を連想させる、反曲した椀状体を有するいくつかの絶滅植物が注目されてきのしたが、それらの解釈は、関連化石の情報が不充分なために妨げられてきました。

 本論文は、中華人民共和国内モンゴル自治区で新たに発見された前期白亜紀(1億2560万年前頃)の珪化泥炭から得られた、保存状態の極めて良好な多数の反曲椀状体について報告しています。これらの新たな標本と、関連する可能性のある中生代(2億5200万年~6600万年前頃)の植物化石の再評価を組み合わせることにより、複数の中生代植物群の反曲した椀状体は全て本質的に比較可能で、それらの構造は被子植物の二珠皮性倒生胚珠における外珠皮の反曲した形態および発生と一致する、と示されました。また、種子植物の大型データセットの系統発生解析(植物の系統樹をつなぎ合わせることに相当する)も行なわれ、これらの形態上の類似点と構造上の類似点が明確に示されました。これは、新たに発見された植物標本が現生被子植物にきわめて近縁なことを示唆しています。

 被子植物の起源をさらに詳しく解明するには、より多くの化石が必要となりますが、こうした被子植物の近縁植物(angiophyte)を明らかにすることは、被子植物の起源という疑問に対して部分的な答えを与えるとともに、今後の研究を種子植物の系統発生学に向けるのに役立ち、被子植物の心皮の起源に関する見解に重要な意味を持ちます。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用(引用1および引用2)です。


進化:新発見の植物化石によって被子植物の起源の解明に一歩近づく

 中国の1億2500万年前の泥炭化石から新たに発見された数百点の植物標本が、被子植物の起源に関する新たな手掛かりをもたらした。この知見を報告する論文が、Nature に掲載される。これらの化石標本は、被子植物の近縁種であり、多様に繁殖したことが、他の植物化石との比較から示唆されている。

 被子植物には2つの特徴がある。1つが心皮という雌性生殖器官で、その内部に1つ以上の胚珠が包まれている。もう1つが殻斗と呼ばれるカップ状の外部組織層で、胚珠を取り囲んでいる。この外層は、他の種子植物には見られない被子植物の特徴だ。これらの特徴が出現した過程を説明することは、被子植物の起源を明らかにする上で重要な一要素だ。

 今回、Gongle Shi、Peter Craneたちの研究チームは、中国の内モンゴル自治区で新たに発見された白亜紀前期の泥炭化石から抽出された、数百点の保存状態が極めて良好な絶滅種の種子植物の植物標本の構造を調べた。それらの近縁種である可能性のある国際的なコレクション所蔵の中生代(約2億5200万年~6600万年前)の植物化石との比較から、これらの植物標本の生殖構造には明白な被子植物様の特徴があること、特に、後方に曲がった殻斗が存在することが明らかになった。また、種子植物の大型データセットの系統発生解析(植物の系統樹をつなぎ合わせることに相当する)も行われ、これらの形態上の類似点と構造上の類似点が明確に示された。これは、今回発見された植物標本が現生被子植物に極めて近縁なことを示唆している。以上の結果は、著者たちがangiophyteと呼ぶ植物の中に明確な被子植物の祖先種が存在することを示している。この祖先種は、白亜紀前期または中期の花の出現よりもかなり早い中生代以前にさかのぼることができる。

 被子植物の起源をさらに詳しく解明するには、さらに多くの化石が必要となるが、こうした近縁種の化石を明らかにすることは、種子植物の進化や、心皮や雄ずいなど被子植物のさらなる特徴の出現に関する将来の研究に役立つだろう。


進化学:中生代の椀状体と被子植物の第二の珠皮の起源

進化学:太古の顕花植物の手掛かり

 化石証拠から、前期白亜紀または白亜紀の中頃には花を咲かせる植物が存在したことが分かっているが、独立した生物群としての被子植物(顕花植物)の祖先は、明確にそれとは認識できないまでも、はるかに古くから存在した可能性があることを示す手掛かりが増えつつある。被子植物の2つの重要な特徴は、「心皮(子房、柱頭、花柱からなる雌性生殖器官)」に包まれた胚珠(実質的な卵)と、胚珠を取り囲む、2層の珠皮で形成された椀状体(cupule;文字通り椀状の構造)である。外側の層(外珠皮)は種子を包み込むように心皮を内側に折りたたんでおり、種子が露出した裸子植物(文字通り「裸の種子」の意)とは異なっている。今回G Shiたちは、被子植物とある程度近縁な化石植物に見られるさまざまな椀状体様の器官が同等の(すなわち相同な)構造を持つことを示し、被子植物そのものが出現するはるか前のペルム紀には、その独特な祖先が存在していたことを裏付けている。これはさらに、中国内モンゴルで新たに発見された前期白亜紀の珪化泥炭に由来する、保存状態の極めて良好な多数の反曲した椀状体の報告によって強調されている。



参考文献:
Shi G. et al.(2021): Mesozoic cupules and the origin of the angiosperm second integument. Nature, 594, 7862, 223–226.
https://doi.org/10.1038/s41586-021-03598-w