堺市野々井二本木山古墳出土人骨のミトコンドリアDNA分析

 本論文(篠田他.,2021)は、「新学術領域研究(研究領域提案型)計画研究B01【調査研究活動報告2019年度(1)】考古学データによるヤポネシア人の歴史の解明」の研究成果の一環となります。大阪府堺市の野々井二本木山古墳では、松林を開墾中に和泉砂岩製の刳抜式石棺が見つかり、2体の人骨が頭位を同じ方向に向けて葬られていました。棺蓋と棺身の合わせ目から刀が1本検出された他には、副葬品は見つかりませんでした。野々井二本木山古墳は、1977年の調査で直系13m程度の円墳と明らかになっています。この2体の人骨はともに頭蓋がよく残っています。埋葬の前後関係は不明ですが、2体は自然な姿勢で棺内にあった、と推測されます。この推測が正しければ、被葬者が埋葬されてから追葬者が葬られるまでの時間は長くなかった、と考えられます。

 上述のように副葬品は刀が1本だけなので、古墳の築造年代を決定する手がかりに欠けていますが、刳抜式石棺の形態から古墳時代前期末葉~中期前葉と推測されています。2体のうち一方は壮年後半から熟年期の男性で、もう一方は頭蓋遺骸の残存状況が悪いので確実ではありませんが、熟年期の女性と推測されています。墳丘の規模は小さいものの、石棺の形状などから、被葬者はこの地域を治めた小首長と考えられています。

 この2個体のミトコンドリアDNA(mtDNA)が解析され、男性個体の方はあまり多くのmtDNAが回収されず、細分APLP分析ではmtDNAハプログループ(mtHg)D4(a・b・g・h・j・oではありません)と判定されましたが、正確な推定はできませんでした。一方女性個体の方は、mtHg-D4g1bで、個体特異的な変異の蓄積は見られなかったので、典型的なmtHg-D4g1bと考えられます。女性個体の方は汚染率も比較的低く、核DNA解析も可能と示唆されました。mtHg-D4bとD4hの一部系統を除いてこれまで「縄文人」からは検出されておらず、「渡来系弥生人」と考えられる鳥取市青谷上寺遺跡個体群(関連記事)では2個体で検出されています。したがって、mtHg-D4g1bは弥生時代以降に日本列島に流入した可能性が高そうです。

 自然人類学では、古墳時代に在来の「縄文系」の人々と弥生時代以降にアジア東部大陸部から日本列島に到来した人々が混合していった、と考えられており、古墳に埋葬された小首長の母系遺伝(mtDNA)がアジア東部大陸部系であることは、不思議ではありません。ただ、両者の混血の状況を調べるには核DNAを解析する必要があり、まだ結論を提示できません。古墳時代前期となる香川県高松市の高松茶臼山古墳出土人骨は、核DNA解析の結果、現代日本人の範疇に収まる、と示されています(関連記事)。

 野々井二本木山古墳は、同一の古墳に埋葬された男女ということで、その血縁関係についても関心が抱かれています。歯冠計測値では、両者は夫婦ではなく「キョウダイ」と示唆されます。APLP分析では両者のmtHgは異なりますが、上述のように男性個体は明確にmtHgを決定できなかったので、両者の血縁関係について明確な結論を提示できません。今回の解析は時間と資料的制約から結論が中途半端なものにならざるを得なかった、とのことなので、今後の研究の進展が期待されます。


参考文献:
篠田謙一、神澤秀明、角田恒雄、安達登、清家章(2021)「大阪府堺市野々井二本木山古墳出土人骨のミトコンドリアDNA分析」『国立歴史民俗博物館研究報告』第228集P287-293

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