高橋のぼる『劉邦』第1集~第10集

 最近、『ビッグコミック』にて劉邦を主人公とした作品が掲載されており、すでに単行本で第10集まで刊行されていることを知ったので、第10集までまとめて購入して読みました。『ビッグコミック』に掲載されていた『天智と天武~新説・日本書紀~』が2016年7月に完結(関連記事)して以降、『ビッグコミック』をまったく読んでいなかったので、最近まで劉邦を主人公とした作品の連載が始まっていたことを知りませんでした。劉邦に関しては、中学生の頃に司馬遼太郎『項羽と劉邦』を熱心に読んだことがあるので、思い入れの強い時代でもあり、どのように描かれているのか、興味があり読むことにしました。

 本作の劉邦は、身勝手で怠惰で卑劣なところを見せつつも、情に厚いところもあり、嫌ったり警戒したりしている人も少なくないものの、なぜか多くの人々に慕われている、という人物像になっています。身近にいたら、迷惑には思いつつも、なぜか惹かれてしまうかもしれません。まあ、劉邦の嫂のように、毛嫌いしてしまうかもしれませんが。その嫂も父親もほとんど登場せず、劉邦の兄はまだ登場していません(見落としているかもしれませんが)。劉邦の家族は、妻となった呂雉(呂后)の出番こそ多いものの、呂雉との間の子供2人(魯元公主と恵帝)はまだ顔見世程度の出番しかなく、家庭ドラマ的性格は強くないように思います。もちろん、今後魯元公主と恵帝が重要な人物として描かれる可能性はありますが。

 本作の主要な脇役は、蕭何など劉邦の家臣となっていく周囲の人物と、項羽およびその周辺の人物と、劉邦が項羽たちとともに打倒することになる秦王朝の人物で、それぞれキャラが立っているので楽しめています。本作は、『史記』などでよく知られた逸話を盛り込んでいきつつも、創作を挿入しており、大きな歴史の流れは変わらないのでしょうが、どのように描かれるのか予測しにくいところもあり、楽しめています。たとえば、趙高は秦の第2代皇帝の胡亥を自害に追い込んだ後に胡亥に殉ずるかのように自害しており、玉座を窺うような人物としては描かれていません。趙高の描写はさほど多くありませんが、李斯を処刑に追い込むなど宮廷政治には長けているものの、反乱軍への対処も含めて大規模な国家の運営に関しては無能だった、ということでしょうか。

 最新の単行本第10集は、鴻門の会が始まったところまで描かれています。劉邦の生涯においてとくに劇的な物語になりそうな鴻門の会がどう描かれるのか、たいへん楽しみです。最終的な結果は史書で伝えられている通りとしても、本作のこれまでの描写からして、かなり捻ってくるのではないか、と予想しています。第10集では韓信が本格的に登場し、魅力的な人物として描かれているので、活躍が楽しみです。今後登場するだろう人物では陳平も楽しみで、どのような人物像となるのでしょうか。また、人物紹介で「謎の美人」とある虞は、これまでのところ秦に深い恨みを抱いており、武芸にも長けた剛毅な人物といった感じで、とくに謎はないように見えますが、あるいは深い設定があるのでしょうか。

 私も含めて多くの読者にとって気になるのは、劉邦を主人公としてその最期まで描かれるのだろうか、ということだと思います。項羽を打倒した後には功臣の粛清が続くわけで、陰鬱な話になりそうですが、それも本作らしく明るく描かれるのでしょうか。また、皇帝即位後の劉邦にとって大失態と言える匈奴との戦いでの敗北が描かれるのか、そうだとしたら冒頓単于はどのような人物像になるのか、という点も気になります。もし劉邦の最期まで描くのだとしたら、本作はかなりの長期連載となりそうで、長く楽しめる作品になりそうです。