黒竜江省で発見された中期更新世のホモ属頭蓋

 取り上げるのが遅れてしまいましたが、黒竜江省で発見された中期更新世のホモ属頭蓋に関する二つの研究と総説(Ji et al., 2021)が報道されました。ナショナルジオグラフィックでも報道されています。総説では、黒竜江省で発見された中期更新世のホモ属頭蓋についての概略が解説されています。以下、総説を参照しつつ、二つの研究をざっと見ていきます。

 一方の研究(Ni et al., 2021)はこの中期更新世ホモ属頭蓋の形態を分析し、人類進化系統樹に位置づけています。現生人類(Homo sapiens)の起源については、長く議論されてきました。中期更新世後期および後期更新世に、明らかに種の水準でいくつかのヒト系統がアフリカとユーラシア全域で現生人類と共存していました。これらの絶滅人類には、ホモ・ハイデルベルゲンシス(Homo heidelbergensis)/ホモ・ローデシエンシス(Homo rhodesiensis)、ホモ・ナレディ(Homo naledi)、ホモ・フロレシエンシス(Homo floresiensis)、ホモ・ルゾネンシス(Homo luzonensis)、種区分未定のホモ属であるデニソワ人(Denisovan)、ネアンデルタール人(Homo neanderthalensis)、ホモ・エレクトス(Homo erectus)が含まれます(関連記事1および関連記事2および関連記事3および関連記事4)。

 これら共存していた非現生人類(古代型)ホモ属と現生人類との間の系統発生関係は、長く議論されてきました。アジアにおいて疑問の余地のない現生人類が出現する前には、ナルマダ(Narmada)人や馬壩(Maba)人や大茘(Dali)人や金牛山(Jinniushan)人や許昌(Xuchang)人や華龍洞(Hualongdong)人など、いくつかの非現生人類ホモ属(とされる)化石が、ホモ・エレクトスやホモ・ハイデルベルゲンシスやネアンデルタール人や現生人類に存在する特徴の寄せ集めのような組み合わせを示します。したがって、これらアジアの人類はホモ属の後の進化と現生人類の起源の研究に重要である、と広く考えられています。

 これらの化石の不完全な保存と、それらが地域的連続性の主唱者によりおもに報告されてきた、という事実により、それらのホモ属化石をヒト進化のより広範な全体像に統合することは困難になりました。たとえば、許昌人や大茘人や華龍洞人は、中国のホモ・エレクトスと現生人類との間の移行的形態として報告されてきており、その類似性は遺伝子流動の網状の流れのネットワークの文脈で理解できます(関連記事1および関連記事2)。

 本論文は、現生人類のように大きな脳容量と短い顔面と小さな頬骨の組み合わせだけではなく、ほとんどの絶滅ホモ属(古代型ホモ属)のように低い頭蓋冠と強い眉弓と大きな大臼歯と歯槽下顎前突の組み合わせによっても特徴づけられる、化石ヒト頭蓋を報告します。系統発生および生物地理学的分析によるこの研究の主張は、この化石が独特な中期更新世系統のほぼ完全な代表であり、アジア東部における別の進化史を有する、というものです。

 このホモ属頭蓋(ハルビン頭蓋)は、中華人民共和国黒竜江省ハルビン市で、1993年に松花江(Songhua River)での東江橋(Dongjiang Bridg)の建設中に発見されたと報告されており、河北地質大学(HGU)に2018年に寄贈されました(図1)。このHBSM2018-000018(A)標本は、歪みのないほぼ完全な単一の頭蓋です。この頭蓋の発見以来の長く混乱した歴史のため、発見の正確な場所は不確かです。この頭蓋は発見した男性により使われなくなった井戸の中に隠され、発見者は生前に隠し場所を孫たちに明かし、2018年に骨が回収されました。

 希土類元素(REE)の濃度、この化石のストロンチウム同位体構成、発見されたと報告されている東江橋近くの松花江の堆積物から回収されたさまざまな哺乳類のストロンチウム同位体が検証され、非破壊的蛍光X線分析(X-ray fluorescence、略してXRF)が用いられて、これらのヒトおよび非ヒト哺乳類化石の元素分布が調べられました。その結果から、ハルビン頭蓋と東江橋近くで発見された哺乳類化石の元素分布とREE濃度は類似の分布パターンを有している、と示されました(後述)。

 ハルビン頭蓋のストロンチウム同位体組成はこの地域の中期更新世~前期完新世のヒトおよび非ヒト哺乳類化石の範疇に収まります(後述)。ウラン系列非平衡年代測定手法により、ハルビン頭蓋の年代も測定されました。その結果、ハルビン頭蓋の下限年代は146000年前頃と示唆されます(後述)。これらの結果はハルビン頭蓋の正確な位置と層位を示せるわけではありませんが、ハルビン頭蓋がハルビン地域の中期更新世後期の層に由来する、という結論と一致します(後述)。以下は本論文の図1です。
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●形態

 ハルビン頭蓋は歪んでおらず、ほぼ完全で、主な喪失は左側第二大臼歯を除く全ての歯と左側頬骨弓のわずかな損傷です(図2)。ハルビン頭蓋のサイズは大きく、本論文の比較化石データベースでは、最大頭蓋長、鼻後頭長い、眼窩上隆起幅などの測定で最大値を示し、二番目に大きい測定値は、両耳介幅、前頭弦、頬骨幅、両側眼窩幅です。

 ハルビン標本の頭蓋冠は大きく、脳容量は約1420 mLと推定されます。しかし、脳頭蓋は明らかに古代型で、ひじょうに広い眼窩上隆起と付け根と口蓋、側面から見ると長くて低い形状、前頭部の後退と頭頂部の均一な湾曲が見られます。それにも関わらず、ハルビン頭蓋にはホモ・エレクトスやホモ・ハイデルベルゲンシス(ハイデルベルク人)に見られる強い横方向の隆起を有する角張った後頭部と、ネアンデルタール人に典型的な中央部のイニオン上窩を有する突出した後頭領域の両方が欠けています。後方から見ると、竜骨のない頭蓋は乳突上領域で最も広く、その下ではよく発達した乳様突起が内側に傾斜しています。

 ハルビン頭蓋の側頭と頭頂はホモ・エレクトス化石のように強く収束しているわけではありませんが、現生人類に見られるような上部頭頂骨の拡大も、ネアンデルタール人に典型的な形態もありません。側面から見ると、顔の高さは比較的低く、頭蓋冠の下に引っ込んでおり、ホモ・エレクトスとハイデルベルク人に典型的な全体的な前方への突出が欠けています。顔面上部と鼻孔はひじょうに広いものの、頬骨上顎領域は横方向に平坦で、前方に向いており、現生人類のような形態を有しています。

 ハルビン頭蓋の、古代型ではあるものの巨大な脳頭蓋冠と、広いものの現生人類的な顔面の組み合わせは印象的で、大茘人や金牛山人など不完全な中期更新世の中国の化石でも見られますが、それらの不完全な化石は詳細な形態ではハルビン頭蓋と異なります。不完全な華龍洞頭蓋はいくつかの点で大茘人に似ており、その違いの一部は未成熟に起因する可能性がありますが、許昌人と馬壩人の頭蓋はより異なっているように見えます。

 全体的に、ハルビン頭蓋は特徴の個々の組み合わせを示し、おそらくは、現生人類やネアンデルタール人やハイデルベルク人など、他の分類された中期および後期更新世のヒト分類群とは異なるホモ属種を表しています。またハルビン頭蓋は、最近のヒトのように下顎前突が縮小した状態で脳頭蓋に付着します。ハルビン頭蓋はその特徴の組み合わせにおいて、現生人類の後の標本よりも、ジェベルイルード1号(Jebel Irhoud 1)やエリースプリングス(Eliye Springs)など初期現生人類に分類される化石の方と似ています。

 おそらく重要なことに、ハルビン頭蓋に残った第二大臼歯(近遠心長は13.6mmで頬舌幅は16.6mm)は、シベリア南部のアルタイ山脈のデニソワ洞窟(Denisova Cave)の後期更新世ホモ属遺骸(関連記事)の永久歯の大臼歯と最も密接に合致します。デニソワ洞窟のホモ属化石のうち、デニソワ4号の第二および第三大臼歯の近遠心長は13.1mmで頬舌幅は14.7mm、デニソワ8号の第三大臼歯の近遠心長は14.3mmで頬舌幅は14.65mmです。以下は本論文の図2です。
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 ハルビン頭蓋の、全体的なサイズ、頑丈さ、厚くて強い眼窩上隆起、大きな乳様突起、顕著な側頭線は、男性個体であることを示唆します。中ラムダ、ラムダ、オベリオン、前矢状、上蝶形骨、切頭骨、前・後中央口蓋、横口蓋における頭蓋外縫合は、すべて完全に消滅しています。十字縫合と中冠状とプテリオンと蝶形前頭骨における頭蓋外縫合は、顕著な閉鎖を示します。現生人類の基準では、頭蓋外縫合混合得点は、50歳くらいの高齢男性を示唆します。しかし、ハルビン頭蓋の歯はより若い年齢を示唆します。

 ハルビン頭蓋で唯一残っている第二大臼歯には依然として多くのエナメル質があり、象牙質の露出は上顎大臼歯近心舌側咬頭と頬側咬頭に存在します。比較的完全な頭蓋外縫合癒着は、ハルビン頭蓋の頑丈さと関連しているかもしれません。強い眼窩上隆起を有する大きくて四角の眼窩は、目が深いことを示唆します。大きくて広い梨状口は巨大で丸く膨らんだ鼻を示唆します。膨らんだ副鼻腔と比較的突出した中顔面に、平たく短い現生人類的な頬領域が一致します。大きな切歯と犬歯の歯槽は、ハルビン頭蓋がおそらくは巨大な前歯と広い口を有していた、と示唆します。

 ハルビン頭蓋の下顎は不明ですが、系統発生分析では、ハルビン頭蓋と甘粛省甘南チベット族自治州夏河(Xiahe)県の白石崖溶洞(Baishiya Karst Cave)で発見された下顎(夏河下顎)が姉妹集団を形成する、と示唆されます。ハルビン頭蓋の第二大臼歯の大きさは、夏河下顎の歯と一致します。ハルビン頭蓋はおそらく夏河下顎と同じくらい頑丈な下顎を有し、頤はない、と推測するのが妥当です。遺伝的情報なしにハルビン個体の肌の色や髪の色を復元することは困難ですが、利用可能な遺伝的データからは、ネアンデルタール人とデニソワ人と初期現生人類は一般的に、比較的濃い肌と髪と目の色をしていた、と示唆されます。ハルビン頭蓋の出所が高緯度地帯であることを考えて、ハルビン個体の復元図では中程度の濃い肌の色とされました(図3)。以下は本論文の図3です。
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●ハルビン頭蓋の系統発生的位置

 節約基準およびベイジアン推定に基づく本論文の系統発生分析は、まずネアンデルタール人の単系統性と現生人類の単系統性を裏づけます(図4)。モロッコのジェベルイルード化石は現生人類クレード(単系統群)の最基底部の作業上の分類群単位(OTU)を形成し、スペイン北部の通称「骨の穴(Sima de los Huesos)洞窟」遺跡(以下、SHと省略)で発見された43万年前頃のホモ属頭蓋は、ネアンデルタール人クレードのOUTを形成しており、他の現在の解釈と一致します(関連記事1および関連記事2および関連記事3)。

 ハルビン頭蓋と夏河下顎は姉妹集団を形成し、それに大茘人と華龍洞人と金牛山人標本と、ヨーロッパのホモ・アンテセッサー(Homo antecessor)の部分的頭蓋と、アフリカのエリースプリングス頭蓋とラバト(Rabat)の口蓋が加わり、単系統性集団を形成します。このクレードは同様に現生人類クレードの姉妹集団を形成します。ホモ・ハイデルベルゲンシス/ホモ・ローデシエンシスと伝統的にまとめられてきた標本群は単系統性集団を構成せず、アジアとアフリカのホモ・エレクトス標本群は同様に側系統集団を形成します。

 夏河下顎をネアンデルタール人の姉妹集団として、現生人類とネアンデルタール人のクレード外にホモ・アンテセッサーを位置づけて、古プロテオームおよび古代DNA研究の結果を反映するようバックボーン制約を用いると、ハルビン頭蓋を含めて中国の中期更新世後期のホモ属遺骸は、ネアンデルタール人の姉妹集団として単系統性クレードを形成します。最節約的でバックボーンの部分的に制約された系統発生系統樹は、大茘人と金牛山人と華龍洞人と夏河下顎とハルビン頭蓋を含む集団の単系統性を裏づけます。以下は本論文の図4です。
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 一部の研究者は、全ての中期更新世人類は現生人類へとつながる単一系統に分類され、大茘人や華龍洞人などアジアの中期更新世人類は、ホモ・エレクトスとアジアの現生人類との間の移行形態だった、と提案してきました(関連記事)。他の一部の研究者たちは、これらのアジアの人類をホモ・ハイデルベルゲンシス/ホモ・ローデシエンシスの一部として認識してきました。全体的な類似性に基づく以前の分析では、大茘人および馬壩人とホモ・ハイデルベルゲンシスとされる標本群との間の違いと、大茘人および馬壩人とアフリカの初期現生人類との間のつながりの可能性が示されました。

 本論文の分析では、ハルビン頭蓋は大茘人や金牛山人や華龍洞人や許昌人とともに、アフリカおよびヨーロッパのホモ・ハイデルベルゲンシス/ホモ・ローデシエンシスクレードの一部ではなく、現生人類の姉妹集団と示唆されます。ハルビン頭蓋と夏河下顎との間の姉妹関係は、ベイジアン推定により特定されるように、とくに興味深いものです。夏河下顎はプロテオーム解析ではデニソワ人の特徴を示し(関連記事)、非公式にホモ・サピエンス・アルタイエンシス(Homo sapiens altaiensis)もしくはホモ・アルタイエンシス(Homo altaiensis)と呼ばれており、チベット高原の白石崖溶洞の堆積物からはデニソワ人のミトコンドリアDNA(mtDNA)が検出されました(関連記事)。

 ハルビン頭蓋の第二大臼歯も、デニソワ人の永久歯の大臼歯とサイズおよび歯根形態では一致します。デニソワ人の発見以来、大茘人や金牛山人や河北省張家口市陽原県で発見された許家窯(Xujiayao)人など、アジアの中期更新世の人類が、デニソワ人のアジア東部集団を表している、と主張されてきました。夏河下顎に対応するハルビン集団のより多くの下顎標本もしくは頭蓋標本により、ハルビン頭蓋と夏河下顎が形態学的にどれくらい密接なのか検証されるでしょうが、新たな遺伝的物質により、これら人口集団の相互およびデニソワ人との関係が検証されるでしょう。

 ベイジアン・チップ年代測定分析の結果から、ハルビン頭蓋化石と夏河下顎化石は共通祖先を188000年前頃(397000~155000年前頃)に有しており、ハルビン頭蓋と現生人類を含むクレードは共通祖先を949000年前頃(1041410~875250年前頃)に有している、と示唆されます。本論文の分析では、ネアンデルタール人と現生人類の分岐年代は1007000年前頃(1114000~919000年前頃)でした。この推定年代は、mtDNAに基づくSHの基底部ネアンデルタール人と現生人類との間の分岐の範囲に収まるものの(関連記事)、核DNAに基づくネアンデルタール人系統と現生人類系統との間の推定分岐年代よりもずっと古くなります(関連記事1および関連記事2および関連記事3)。

 しかし、このより新しい推定分岐年代は、「超古代型」との混合と「最近の遺伝子流動」事象との間の統計的平均の歪みかもしれません(関連記事)。本論文の分析に含まれる現生人類のOUTの共通祖先は77万年前頃(922000~622000年前頃)、現生人類クレードは以前の推定よりもずっと深い起源を有する、と示唆されます。ユーラシアの現生人類のOUTは416000年前頃(534000~305000年前頃)の共通祖先を有しています。しかしアフリカ外では、既知の最古の現生人類化石はわずか21万年前頃です(関連記事)。

 ベイジアン・チップ年代測定分析では、ユーラシアの現生人類の仮定的な共通祖先とじっさいの化石記録との間に大きな時間的空隙があります。もっともらしい仮説の一つは、ユーラシアの現生人類の祖先的集団はユーラシアへと拡散する前に長い間アフリカで多様化していた、というものです。古代DNAに関する遺伝的研究では、ネアンデルタール人と現生人類との間の最初の遺伝的交換は468000~219000年前頃(関連記事)もしくは37万~10万年前頃に起き(関連記事)、その遺伝子移入はアフリカ起源集団からの遺伝子流動に起源があったかもしれない、と示唆されています(関連記事1および関連記事2)。興味深いことに、ネアンデルタール人と現生人類との間の遺伝子移入事象の推定年代が、本論文におけるユーラシアの現生人類の共通祖先の年代の予測と重なるだけではなく、遺伝子移入のアフリカ起源も本論文におけるアフリカの祖先的集団の仮説と一致します。


●ホモ属種/人口集団の生物地理学

 18の異なる生物地理学的モデル下で最尤分析が行なわれ、生物地理学的確率地図作成(BSM)を用いて生物地理学的事象が推定されました。赤池情報量基準(AIC)モデル選択は、創始者事象拡散モデルを伴う拡散・絶滅分岐進化を、最も適合して可能性の高い生物地理学的モデルとして選択しました。この最適モデル下では、ハルビン頭蓋や金牛山人や大茘人や夏河人や華龍洞人集団の祖先の分布範囲は、アジアにあった可能性が最も高そうです。ハルビン頭蓋と現生人類クレードの祖先地域はアフリカである可能性が最も高く、アフリカが現生人類クレードの起源の中心地である、との見解を裏づけます。ネアンデルタール人と現生人類とハルビン頭蓋を含む集団の祖先の分布は、アフリカもしくはヨーロッパです。

 ホモ属種/人口集団の生物地理学的歴史の本論文のシミュレーションは、同所性多様化(57%)と創始者事象拡散(42%)を、ホモ属の系統発生樹全体の生物地理学的段階の一般的な種類として識別しました。全てのOUTは単一の地域の人口集団水準にあるので、BSMシミュレーションで範囲の拡大もしくは範囲の縮小事象が検出されないのは妥当です。創始者事象拡散は通常、長距離移動を通じて新たな地域に拡散し、新たな孤立した創始者人口集団を確立する、少ない個体を含みます。分布範囲の変化は系統分岐点で起き、新たな範囲への子系統の拡散と、他の子系統の祖先的範囲への残留をもたらします。同所性多様化と創始者事象拡散が最も支配的な生物地理学的種類であることは、複数系統のホモ属が中期および後期更新世のアフリカとヨーロッパとアジアで共存していた、という事実を反映しています。これらホモ属系統はおそらく、長距離拡散の強い能力を有していましたが、比較的小さく孤立した人口集団に留まりました。

 BSMは、アフリカとアジアとヨーロッパの間の拡散の方向性が非対称であることを示唆します(図5)。アジアは、アフリカとヨーロッパへと拡散をもたらすよりも、アフリカとヨーロッパからより多く拡散してくるホモ属種/人口集団の吸込み口です。アジアは合計の拡散事象の42%を受け取り、他の大陸への拡散をわずか24%しか提供していません(図5)。アフリカはホモ属拡散の主要な供給源です。合計で、全拡散の40%はアフリカに由来しますが、アフリカはアジアとヨーロッパから22%の拡散も受け取っています。一方向の「出アフリカ」モデルの代わりに、複数方向の「定期往復モデル」が、アフリカとユーラシアのホモ属種/人口集団間の複雑な系統発生接続の説明としては可能性がより高そうです。以下は本論文の図5です。
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●形態分析のまとめ

 ハルビン頭蓋は全ての古代型ヒト化石で最良の保存状態の一つであり、中期更新世後期というその推定年代は、進化しつつある現生人類とネアンデルタール人とデニソワ人のアジアの同時代系統として位置づけられます。ハルビン頭蓋のサイズは巨大で、頭蓋冠および顔面におけるその特徴の独特な組み合わせは、現生人類やネアンデルタール人やそれ以前のホモ・ハイデルベルゲンシス/ホモ・ローデシエンシスとは異なります。

 じっさいハルビン頭蓋は、華龍洞人や大茘人や金牛山人など中期更新世の中国のホモ属化石と似ています。これは、節約およびベイジアン手法を用いての系統発生分析により確証され、これら中国の化石は現生人類の姉妹集団の一部としてハルビン頭蓋とともに位置づけられます。その根拠は共有派生形質で、中程度の後円環溝、緩やかに湾曲した頬骨歯槽稜、弱い眼窩上隆起、強い頬骨小結節、厚い乳様突起などです。本論文の分析は、ハルビン頭蓋と夏河下顎との間のつながりの可能性も示唆しており、夏河下顎はデニソワ人系統に位置づけられています。

 現在の間氷期でさえ、ハルビン一帯の地域は冬の平均気温が氷点下16度以下なので、ハルビンが北方に位置していることは、中期更新世のヒトの適応能力への示唆にもなります。頭蓋サイズから判断して、ハルビン個体のひじょうに大きなサイズは、こうした寒冷条件への身体的適応を示唆しているかもしれません。アジアの中期更新世後期および後期更新世におけるいくつかのヒト系統の共存は、おそらくその多様な古環境(ゴビ砂漠から熱帯雨林、沿岸平野から青海チベット高原まで)と関連しており、ヒト進化の多様な生物地理学的吸込み口を生み出しました。

 総説では、ハルビン頭蓋と夏河(Xiahe)下顎との間の姉妹集団関係から、両標本を新種ホモ・ロンギ(Homo longi)と分類することが可能と指摘されています。この種名は、黒竜江省で一般的に使われており、文字通り「竜の川」を意味する竜江(Long Jiang)という地名に由来します。ハルビン頭蓋は「竜人」とも呼ばれています。総説では、中国および近隣地域の中期更新世さらなるヒト化石が、この見解を検証するだろう、と指摘されています。以下は本論文の要約図です。
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●非破壊XRF分析

 もう一方の研究(Shao et al., 2021)は、竜人頭蓋の年代と発見場所(図1)を推定しています。ハルビン頭蓋と、ハルビン地域の松花江と江蘇省と広西チワン族自治区の更新世堆積物から回収された広範な哺乳類化石を対象に、非破壊蛍光X線分析(X-ray fluorescence、略してXRF)が行なわれました。ハルビン頭蓋とハルビン地域の哺乳類化石は、ストロンチウムとイットリウムとジルコニウムの相対量について、ほぼ同じXRFパターンを示します(図2A)。XRF分析は、ハルビン頭蓋とハルビン地域で回収された哺乳類化石が、おそらく同じ環境で堆積して化石化したことを示唆します。以下は本論文の図1です。
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●REE濃度パターン

 希土類元素(REE)濃度パターンは、化石や生物の起源を追跡するための効果的手法と証明されています。ハルビン頭蓋の鼻腔の小骨片が、REE分析のために注意深く収集されました。比較のため、ハルビン地域の松花江の堆積物から回収された哺乳類7個体とヒト2個体の骨片も分析されました。これら比較標本の年代は、ウラン系列法で示されるように中期更新世から完新世です。ハルビン頭蓋と分析された化石は、類似のREE濃度パターンを示します(図2B)。ハルビン頭蓋と中期更新世~完新世のヒトおよび哺乳類化石のREE濃度パターンと重希土類元素および軽希土類元素の比率は、これらがおそらく同じ地理的起源であることを示唆します。以下は本論文の図2です。
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●ストロンチウム同位体組成

 ストロンチウム同位体比は、岩石/堆積物の形成源を特定するための岩石成因論的追跡子として広く使われています。人類学や考古学ではこの手法を用いて、先史時代のヒトの移動(関連記事)や古代の動物の移動(関連記事)や動物資源利用の特別な事象が調べられます。ハルビン頭蓋と、ハルビン地域の松花江の堆積物から回収された哺乳類化石7点およびヒト化石2点でストロンチウム同位体分析が行なわれました。さらに、ハルビン頭蓋の鼻腔に付着した堆積物標本1点と、東江橋近くで掘削されたコア標本45点(図1B)も分析されました。ハルビン頭蓋のストロンチウム87/86比は0.709423±0.000009で、松花江の堆積物から回収された哺乳類化石7点およびヒト化石2点の0.709066~0.709574の範疇に収まります(図3)。以下は本論文の図3です。
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 これらの化石のストロンチウム同位体比は全て、ハルビン地域で生物学的に利用可能なストロンチウムの変異内(0.7070~0.7110)に収まります。ハルビンとその周辺地域で生物学的に利用可能なストロンチウムは、中国で最も低いストロンチウム87/86比を示し、その地質に関連していると考えられます。これらのストロンチウム同位体データは、分析された化石が共通の地質環境と生物学的に利用可能なストロンチウム源を共有している、と強く示唆します。ハルビン頭蓋の鼻腔に付着した堆積物標本のストロンチウム87/86比(0.711898±0.000003)は東江橋近くのコアで測定された範囲内(0.709765~0.714884)に収まり、東江橋近くのコアの約12mの深さの堆積物に近い値です(図4)。以下は本論文の図4です。
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●岩相層序相関

 東江橋コアの堆積系列には、最上部から中生代との不整合まで9層が含まれています(図4)。これらの層は、東江橋から約15km離れた地域の第四紀層序の標準区画である黄山(Huangshan)区域と相関しています。黄山区域とそのコアは地磁気層序法と光刺激ルミネセンス(optically stimulated luminescence、略してOSL)法により、よく年代測定されています。黄山コアにはストロンチウム同位体比もあります

 ハルビン地域は中国でもとくに化石の豊富な地域で、70種以上が報告されています。松花江の堆積物から回収された哺乳類化石7点およびヒト化石2点のウラン系列年代測定の結果、34600±300年前~9000±4000年前と、201000±1000年前から132600±4000年前という二つの範囲の年代値が得られました。上部黄山層は、OSLでは309000~138000年前頃です。これらの年代は層序学的相関と一致しており、ハルビン頭蓋はおそらく上部黄山層の上部の年代に収まると推測されます。


●ウラン系列年代測定

 ハルビン頭蓋の年代がウラン系列年代測定法により推定されました。化石の骨は堆積後に地下水からウランを取り込みやすいため、ウラン系列年代測定には炭酸塩よりも適していません。しかし、骨の堆積後のある時期に取り込まれたウランが溶出していなければ、ウラン系列の見かけ上の年代は化石の下限年代を提供できます。ハルビン頭蓋の破壊を最小限に抑えるよう、ウラン系列年代測定のための標本が抽出されました(図5)。以下は本論文の図5です。
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 補正されたウラン系列の見かけ上の年代は、62000±3000年前と296000±8000年前で、大きく二つの区間に分かれます。比較的新しい年代ウラン系列の見かけ上の年代(62000±3000~148000±2000年前)には、5点の標本(第一群)が含まれます(図6の赤色)。これらの試料の同位体データは、ウラン234/238の初期値が1.70である場合のウラン系列進化曲線の周りに無作為に分散しています。このパターンは、これらの試料のウランの供給源は同じであるものの、埋没後のウラン溶出の明白な証拠なしに、異なる時間間隔でウランが取り込まれた、と示唆します。

 最も新しい二つの範囲のウラン系列の見かけ上の年代は62000±3000年前と85000±4000年前で、両方ともハルビン頭蓋の第二大臼歯から露出した象牙質で得られました。歯根のセメント質と象牙質は骨よりもはるかに密度が高く、おそらくウランの象牙質への移動を妨げているため、新しい年代はおそらく、ウラン取り込みの遅延が原因です。他の三つのウラン系列の見かけ上の年代は106000±1000年前、129000±1000年前、148000±2000年前です。このデータ群にはウラン溶出の明らかな証拠はなく、ハルビン頭蓋の下限年代を推定するには妥当です。このデータ群から得られる最良の推定下限年代は、データ群の最大値である148000±2000年前です。

 第二群(図6の緑色)には、比較的古いウラン系列の見かけ上の年代(296000±8000~185000±2000年前)の標本5点が含まれます。第二群はより新しい第一群と比較して、トリウム230/ウラン234同位体比が高く、ウラン234/238の初期値がより広く分散しています。ウランの継続的な取り込みを経た骨では、トリウム230/ウラン234放射能比は1未満になると予想されますが、ウラン溶出の発生により、トリウム230/ウラン234放射能比が同位体平衡を超えて高い値に動く可能性があります。

 標本HH19-3はウラン系列の見かけ上の年代が最古で296000年前頃ですが、そのトリウム230放射能がウラン234を上回っており、この古い年代はウラン溶出の可能性がひじょうに高い、と示唆されます。古い年代の他の4標本はトリウム230/ウラン234比が同位体平衡に近く、わずかなウラン溶出があった、と示唆されます。溶出した標本からは有用な年代情報が得られないので、ハルビン頭蓋の最も慎重な推定年代値は146000年前頃とされました。以下は本論文の図6です。
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 ハルビン地域の哺乳類とヒト化石のウラン系列の見かけ上の年代は、それぞれの化石標本の下限年代とみなされますが、一部の標本にはウラン溶出の可能性があります。これらの標本のウラン234/238の初期値はハルビン頭蓋の測定値と同程度なので、ハルビン頭蓋がこれらの化石と同じような堆積環境だった可能性を示すもう一つの証拠となります。


●考察

 分析の結果、ハルビン頭蓋はハルビン地域の更新世堆積物から回収された哺乳類とヒトの化石のようなXRF元素パターンとREE濃度パターンを示す、と明らかになりました。ハルビン頭蓋のストロンチウム87/86同位体比(0.709423)も、ハルビン地域の哺乳類やヒトの化石の範囲内(0.709066から0.709574)に収まります。これらのストロンチウム87/86同位体比は、いずれもハルビン地域の生物学的に利用可能なストロンチウム同位体比の値の範囲内に収まります。ハルビン頭蓋の鼻腔に付着した堆積物のストロンチウム87/86同位体比は0.711898で、東江橋コアの上部(深さ約12m)の測定値にひじょうに近くなっています。ストロンチウム同位体データと層序的特徴に基づいた地域的な層序的相関から、ハルビン頭蓋はおそらく上部黄山層の上部で回収された、と示唆されます。

 ハルビン頭蓋の直接的なウラン系列年代測定では、ウラン溶出を受けた標本群と、ウラン溶出の明らかな証拠のない継続的もしくは遅延的なウラン取り込みを受けた標本群がある、と示唆されました。ウラン溶出のない標本群の見かけ上の年代は、最も慎重な年代(下限年代)として、146000年前頃の値が得られました。この下限年代は、ハルビン地域の層序相関と一致しています。これら複数の一連の証拠は、ハルビン頭蓋が発見された場所と層を正確に示せないものの、ハルビン頭蓋がハルビン地域の中期更新世後期に由来する、という結論を一貫して裏づけます。

 146000年以上前となる中期更新世後期のハルビン古代人は、16万年以上前の夏河下顎(関連記事)や20万年以上前の金牛山人や327000~240000年前頃の大茘人や345000~265000年前頃の華龍洞人(関連記事)など、中国で発見された他のいくつかの中期更新世後期古代人とほぼ同年代です。これらアジア東部の古代人がじっさいに現生人類系統にとって単系統性の進化系統に属すのであれば、このヒト系統はアフリカや中東の初期現生人類集団と同様に成功したに違いなく、それは、これらのアジア東部古代人が一部の極限環境(高地や高緯度)を含むひじょうに広範な地域に分布していたからです。以下は本論文の要約図です。
画像


 以上、ハルビン頭蓋についての研究をざっと見てきました。形態に基づく分類は難しく(関連記事)、この研究の分類がどこまで妥当なのか、検証は困難でしょうが、分類について議論が続いてきた、中国で発見された中期更新世の複数のホモ属遺骸が現生人類の姉妹集団と分類されたことなど、興味深い結果が提示されています。ただ、形態に基づく分類の難しさを考慮すると、この研究で示された系統発生分析結果は、古代DNAデータもしくは古プロテオーム解析による検証が必要になると思います。その結果はたいへん興味深いものになるのではないか、と期待されます。中国で発見された中期更新世の複数のホモ属遺骸がネアンデルタール人よりも現生人類の方に近いとの本論文の推定が妥当ならば、アフリカ起源の現生人類に近い集団との混合も想定できるように思います。

 やはり注目されるのは、古プロテオーム解析によりデニソワ人と分類された夏河下顎とハルビン頭蓋との近縁性で、もちろん古代DNA解析もしくは古プロテオーム解析による検証が必要になりますが、ハルビン頭蓋がデニソワ人に分類される可能性は高いように思います。デニソワ人の発見当初から恐らくは多くの人が考えていたでしょうが、中国の中期~後期更新世の分類の曖昧なホモ属遺骸の中に、デニソワ人に分類できるものは少なくなさそうです。

 また本論文は、後期ホモ属の複雑な進化史を示唆します。アフリカとアジアとヨーロッパの間で相互に複雑な移動があったのではないか、というわけです。古代DNAデータと化石記録から、後期ホモ属の進化史がかなり複雑だった可能性はすでに指摘されており(関連記事)、現時点ではひじょうに解像度の低い全体像しか見えていないことは否定できないでしょう。今後、新たな化石の発見は滅多に期待できないだけに、既知の化石のDNA解析と、洞窟堆積物のDNA解析の進展が、後期ホモ属の進化史の解明に大きく貢献するのではないか、と期待されます。


参考文献:
Ji Q. et al.(2021): Late Middle Pleistocene Harbin cranium represents a new Homo species. The Innovation, 2, 3, 100132.
https://doi.org/10.1016/j.xinn.2021.100132

Ni X. et al.(2021): Massive cranium from Harbin in northeastern China establishes a new Middle Pleistocene human lineage. The Innovation, 2, 3, 100130.
https://doi.org/10.1016/j.xinn.2021.100130

Shao Q. et al.(2021): Geochemical provenancing and direct dating of the Harbin archaic human cranium. The Innovation, 2, 3, 100131.
https://doi.org/10.1016/j.xinn.2021.100131

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