『卑弥呼』第70話「敵か味方か」

 『ビッグコミックオリジナル』2021年9月20日号掲載分の感想です。前回は、ヤノハがアカメに、暈(クマ)の国の最高権力者となった鞠智彦(ククチヒコ)に書状を届けるよう、命じたところで終了しました。今回は、日下(ヒノモト)の国のフトニ王(記紀の第7代孝霊天皇でしょうか)が放った八咫烏(ヤタガラス)との戦いをミマアキに任せて、當麻(タイマ)一族との交渉に向かうべく、サヌ王の息子のタギシ王の末裔と名乗る阿多(アタ)のチカトとともに、トメ将軍が急いでいる場面から始まります。そこへ矢が放たれ、トメ将軍は皆に伏せるよう命じます。その頃、ミマアキは八咫烏の頭である賀茂のタケツヌと思われる人物に勝負を挑んでいました。ミマアキもタケツヌも向かい合ったまま動きません。兵士たちは、手練れ同士の戦いはこういうもので、先に動いた方が負けるのだ、と話しています。ミマアキは蜻蛉の構えのまま動きませんが、これはかつて暈(クマ)の国のオシクマ将軍も使っており(第22話)、刀を縦に持って初太刀にかける剣法で、後の示現流の一の太刀の起源という設定のようです。チカトの配下の者は、ミマアキの構えが日下にはないものなので、太刀筋が読めず動けないのだろう、と推測します。タケツヌは配下に仕掛けさせ、ミマアキはタケツヌの配下を初太刀で斬殺します。部下を犠牲にしてまでミマアキの太刀筋を読んだタケツヌはミマアキに斬りかかり初太刀を凌ぎ、トメ将軍の配下の兵士たちはミマアキの負けを覚悟します。それでもミマアキは脛を負傷しつつもタケツヌと何とかやり合います。そこへ矢が放たれ、現れた兵が、ここは當麻一族の地なので勝手な戦は許さない、と言って八咫烏に立ち去るよう命じます。八咫烏は即座に逃走し、ミマアキは當麻一族の兵に投降するよう勧告されます。當麻一族の兵とともに現れたトメ将軍は、ミマアキに勧告に従うよう命じます。當麻一族と出会えたのか、と安堵するミマアキに、我々は捕らえられた、まだ敵か味方か分からない、と言います。

 那(ナ)の国の岡(ヲカ)では、ヤノハが弟のチカラオ(ナツハ)とともに出立しようとしていました。数日前、チカラオは自身が強姦したことによりヤノハが妊娠したことを聞かされ、事代主(コトシロヌシ)から堕胎の薬をもらい、また誰にも知られず産む手立てがあることを知らされました。産むべきか否か、ヤノハに尋ねられたチカラオですが、恐怖のあまり答えられません。その様子を見たヤノハは、倭を平らかにするという望みはもう一歩のところまで来ているので、子は無用の存在で、今から薬を飲む、とチカラオに語ります。するとチカラオは必死に止めようとします。ヤノハは、子供が邪魔なのは本心だが、人が命を全うできる世を作るのも自分の願いなので、望まない子供であっても産もうと決心していた、とチカラオに打ち明けます。ヤノハはチカラオを試したわけです。さらにヤノハは、チカラオがヤノハの出産を望まなければ、チカラオの方を殺すつもりだった、と打ち明けます。ヤノハは、300日間人々に祈祷(イノリ)を捧げるためのよい場所がある、とオオヒコに伝えます。オオヒコにその場を訊かれたヤノハが、かつて「鬼」を退治した千穂の厳谷(イワヤ)だ、と答えるところで今回は終了です。


 今回は、トメ将軍とミマアキの一行の動向とともに、ヤノハの決断が描かれました。トメ将軍とミマアキの一行は當麻一族と出会いましたが、當麻一族がトメ将軍とミマアキの一行をどう扱うのか、まだ分かりません。當麻一族はかつて鳥見の長脛者(ナガスネモノ)と勢力を二分していましたが、長脛者たちがサヌ王と連合した結果、往時の勢力を失い、現王朝には面従腹背というか、逆らわないものの服従もしないという態度を取っています。當麻一族の真意がどこにあるのか、トメ将軍とミマアキが當麻一族の長をどう説得するのか、注目されます。弟のチカラオを殺してでも出産しようとするヤノハの決断は驚きましたが、弟以外の身内がもはや存在しないヤノハにとって、新たに生まれてくる子供を殺したくはなく、子供か弟の二択ならば子供を選ぶ、ということでしょうか。ヤノハとチカラオとの間の子供の娘(ヤノハの孫)が『三国志』に見える台与と予想していますが、まずはヤノハとチカラオとの間の子供がどのような扱いを受け、どう育つのか、注目されます。あるいは、事情を知る出雲の事代主に預けるのでしょうか。