高橋のぼる『劉邦』第11集(小学館)

 最近、第10集までを読んだので(関連記事)、第11集も楽しみにしていました。電子書籍での購入です。第10集では鴻門の会が始まったところまで描かれており、劉邦がこの危地を脱する展開は史書と変わらないとしても、どのように脱出するのか、注目していました。第10集は、張良が劉邦を弁護し始めたところで終わりました。第11集はその続きとなり、張良は弁舌爽やかに虚偽を述べ立て、それを信じ始めた項羽は、劉邦に自分を関中王と認めるのか、と問い質します。劉邦はそれを認めつつも、項羽に説教を始めます。憎しみは破壊しか生まないので、憎しみを断って人の上に立つ王になるべきだ、というわけです。かつて項羽の叔父の項梁から、項羽の憎しみを受け止め、項羽という刀の鞘になってもらいたい、と言われたことを劉邦は項羽に伝え、項羽もその配下も劉邦の器の大きさに畏敬の念すら抱き始めます。韓信はここで劉邦とともに帰ろうとしますが、劉邦を危険視していた虞が宴を提案して劉邦一行を引き留めます。虞は剣舞に見せかけて劉邦を殺そうとし、韓信がそれに気づいた時はすでに手遅れでしたが、鬼(死者の霊魂)は見えないという劉邦を甘く見ていた項羽は、殺すまでもないと劉邦を助けます。劉邦を殺せなかったとはいえ、秦の都の咸陽を制圧し、項羽が天下を取ったと確信した虞は項羽に体を許し、咸陽宮を焼くよう進言します。項羽は咸陽宮を燃やして財宝を略奪し、女性を捕虜として秦王子嬰など秦の王族を処刑します。

 西楚覇王と名乗った項羽により、劉邦は漢王に任命されます。項羽の側は劉邦を僻地に追いやった認識しており、劉邦側の認識もまた同様でした。故郷の沛県に戻った劉邦は妻の呂雉(呂后)やかつて兄事していた王陵と再会して器の大きさを見せ、王陵の配下で劉邦の仇敵でもある雍歯とともに配下とします。漢王として現地に赴いた劉邦ですが、土地が痩せており、兵士が脱走することに焦ります。韓信は即座に関中を取り戻すよう、劉邦に進言し、そこへ劉邦と親しかった楚の義帝(心)が項羽の命により黥布に殺された、との報せが届きます。義帝は劉邦に、戚という女性を託します。劉邦は韓信を大将軍に任命して関中に侵攻し、章邯を自害に追い込んで関中を制圧します。

 その頃、項羽は論功行賞不満を抱く斉の旧王族の反乱鎮圧に赴いていましたが、その残虐な行為により状況が悪化します。張良が使者となり諸国と同盟を結び、劉邦は大軍で楚の都である彭城を攻め、あっさりと陥落させます。ところが、劉邦とその同盟軍では張耳と陳余の対立があり、さらには恩賞をめぐる要求で内部分裂寸前となって、劉邦は大軍の統制の難しさを痛感します。そこへ項羽が斉から軍を率いて彭城奪還に向かってくる、というところで第11集は終了です。


 第11集では、劉邦の器の大きさが改めて示されるとともに、周囲の人々が劉邦の成長を認める描写も多く、劉邦が「中華一の男」になっていく過程が本書の見どころなのだな、と思います。多くの人に慕われ、そうした人たちを上手く活用する劉邦と、個人的な武勇には優れており周囲から畏怖されるものの、孤独で人々の力を活かせない項羽との対比も、面白くなっていると思います。ただ、劉邦は彭城を攻め落としたものの、諸侯の欲を制御できておらず、これも劉邦にとっての試練で、第12集で描かれる大敗と逃走を経てさらに成長していくのでしょう。諸侯・功臣の欲望の制御という点では、皇帝即位後がどう描かれるのか、楽しみですが、皇帝即位後は功臣粛清が続いて暗い話になってしまうだけに、あるいは項羽を打倒するところで物語は完結するのでしょうか。できれば、劉邦の最期まで続いてもらいたいものです。

 第11集では、劉邦と呂雉との間の二人の子供(魯元公主と恵帝)が初めて本格的に描かれました。恵帝(劉盈)は聡明で活発な感じの男子で、予想とは違っていたのですが、今後父との関係がどう描かれるのでしょうか。第12集で描かれるだろう、劉邦が逃走中に邪魔な子供二人を置き去りにしようとした逸話がどう描かれるのか、注目しています。呂雉およびその息子の恵帝との関係では、戚の登場も注目されます。後に戚は悲惨な最期を迎えるわけですが、劉邦死後のことだけに、さすがに本作では描かれないでしょうか。ただ、劉邦の後継者をめぐる争いでは、戚と劉邦との間の息子(劉如意)が一方の当事者になるわけで(もう一方は恵帝)、今後も戚の出番は多いかもしれません。第11集では登場しなかったものの、韓信が陳平に言及しており、陳平はすでに項羽を見限って劉邦陣営に移っています。韓信は陳平を高く評価しており、今後陳平の活躍場面が描かれそうで楽しみです。