渡辺尚志『百姓たちの幕末維新』

 草思社より2017年4月に刊行されました。電子書籍での購入です。本書は百姓視点の幕末維新史です。私のような非専門家だと、幕末維新史はどうしても、将軍など幕府要人、雄藩の大名や著名家臣、志士、列強との外交関係に注目しがちでしょうから、百姓視点本書の一般向け書籍の意義は大きいと思います。本書が対象とする年代は1830年代から1880年代で、地域ではとくに出羽国村山郡を中心に取り上げています。

 本書はまず、江戸時代の百姓と村の基礎知識について解説します。18~19世紀の平均的な村は、村高が400~500石、耕地面積が50町、戸数が60~100軒、人口が400人程度でした。今では網野善彦氏の一連の著書により一般層にもかなり浸透していると思いますが、本書でも改めて指摘されているように、百姓は農民だけではありませんでした。江戸時代後期には、商品作物の浸透により所有地がなくとも経営を成り立たせる家が現れ、また幕末にかけて格差が拡大していきます。

 飢饉なども原因となった村落における格差の拡大によって土地の質入れは一般的となり、それは村落内だけではなく村落間でも起きたので、土地の所有はひじょうに複雑かつ広域的な問題となりました。こうした土地問題を背景として、小作人や地主が村落を超えて広域的にまとまって行動することもありました。そうした村落を超えた広域的な動きは、菜種など商品作物の買い取り価格でも起きました。こうして幕末には、村落および村落を超えた広域的な自治が一定水準以上成立していました。また江戸時代の村落には多くの武器があり、幕末に治安が悪化していくなかで武装化が進み、村落を超えた広域的な武装協力が形成されます。

 村落はこうした状況で明治維新を迎えます。開国により物価が高騰したこともあり、百姓の多くは幕府に批判的だった、と本書は指摘します。明治になり、地租改正によって江戸時代の複雑でよく係争になった土地問題は、かなりのところ解消されました。それでも、水路をめぐって紛争が起きることもありました。地租改正により利益を得る人も失う人もおり、地租改正に代表される明治政府への人々の姿勢はさまざまでした。また本書は、明治の近代化が単なる公権力による上からの押しつけではなく、村落の有力者が関わることもあったことを指摘します。本書は具体的で興味深い事例から幕末を中心とした村落の様子を描き出しており、参考になりました。