ホモ・ルゾネンシスとホモ・フロレシエンシスの起源

 人間進化研究ヨーロッパ協会第11回総会で、ホモ・ルゾネンシス(Homo luzonensis)の歯に関する研究(Zanolli et al., 2021)が報告されました。この研究の要約はPDFファイルで読めます(P134)。ホモ・ルゾネンシスは、フィリピンのルソン島北部のカラオ洞窟(Callao Cave)で発見された、一連の歯と頭蓋外要素に基づいて最近報告され、その年代は少なくとも67000~50000年前頃までさかのぼる、と推測されています(関連記事)。

 犬歯後方の7点の上顎歯がこの分類群に割り当てられており、そのうち5点が同じ個体(CCH6)に由来し、ホモ・ルゾネンシスの正基準標本を表しており、遊離した上顎小臼歯のCCH8と上顎第三大臼歯のCCH9はホモ・ルゾネンシスの副基準標本です。これらの全ての歯は、その小さな面積(現生人類の変異幅よりも小さい範囲か、わずかに下回る範囲)と、大臼歯と比較してのとくに大きな小臼歯により特徴づけられます。

 小さな歯列は、アジア南東部の島嶼環境で進化したホモ・ルゾネンシスとは別の人類であるホモ・フロレシエンシス(Homo floresiensis)でも見られますが(関連記事)が、ホモ・ルゾネンシスよりは小さいとしても、大きな小臼歯はホモ・エレクトス(Homo erectus)でも見られます。カラオ洞窟遺骸の犬歯後方の歯は、歯冠における現代人的な特徴(単純な咬合形態が伴います)と、歯根におけるより古代型の特徴(3根小臼歯と大きな歯根容積)の混合を示します。

 カラオ洞窟遺骸の手足など頭蓋外の骨はホモ・ハビリス(Homo habilis)的もしくはアウストラロピテクス属的な特徴を示し、ホモ・ルゾネンシスとホモ・フロレシエンシスの現代人系統との初期の分岐を示唆しますが(関連記事)、頭蓋と歯の形態は、アジアのホモ・エレクトス集団に由来する、という仮説とより一致します(関連記事)。この斑状の形態のため、ホモ・ルゾネンシスとホモ・フロレシエンシス両方の系統発生関係は議論が続いています。

 ホモ・ルゾネンシスがアウストラロピテクス属など初期の小型人類ではなくホモ・エレクトスに由来するという仮説を検証するため、歯のマイクロCT記録が分析され、信頼性の高い分類代理であるEDJ(象牙質とエナメル質の接合部)を含む、外部と内部の構造が調べられました。これらのデータが利用可能なホモ・ハビリス/ホモ・ルドルフェンシス(Homo rudolfensis)や広義のホモ・エレクトス(アフリカと中国とインドネシアの標本が含まれます)やホモ・フロレシエンシスやネアンデルタール人や現生人類(Homo sapiens)と比較されました。

 歯冠組織の割合が定量化され、歯髄の形態変異が調べられ、歯冠の外部輪郭とEDJ形態が、幾何学的形態測定手法(外部輪郭楕円フーリエ分析とEDJの微分同相写像表面合致)で評価されました。その結果、ほとんどの歯の位置で比較的一貫しており、ホモ・ルゾネンシスの外部歯冠形態はホモ・ハビリス/ホモ・ルドルフェンシスよりもホモ・エレクトスの方と一致します。ホモ・ルゾネンシスの内部構造組織は、ネアンデルタール人および現生人類とよりも、ホモ・エレクトスおよびホモ・フロレシエンシスの方と類似しており、例外は第二大臼歯がより中間的な兆候を示すことです。

 まとめると、ホモ・ルゾネンシスの歯の外部および内部の構造組織の分析は、この分類群の有効性を証明し、アジア南東部島嶼部の更新世人類の分類学的多様性を浮き彫りにします。本論文の結果は、ホモ・フロレシエンシスとンシスとホモ・ルゾネンシスの両方ともホモ・エレクトス集団から進化した可能性が高く、両者の起源となったホモ・エレクトスは、アジア南東部島嶼部のさまざまな島に分散し、島嶼部で更新世に少なくとも2回起きた固有の種分化事象の発生までに孤立するようになった、と示唆されます。


参考文献:
Zanolli C. et al.(2021): The structural organization of Homo luzonensis teeth. The 11th Annual ESHE Meeting.