ゾウにとって強力な選択圧となる象牙の密猟

 ゾウにとって密猟が強力な選択圧になることを報告した研究(Campbell-Staton et al., 2021)が公表されました。日本語の解説記事もあります。この現象は以前から報道されていました。この研究は、モザンビーク内戦(1977~1992年)中とその後、モザンビークのゴロンゴーザ(Gorongosa)国立公園に生息するアフリカゾウの進化に対する象牙目当ての狩りの影響を調査しました。この内戦中、両軍は戦費調達のために象牙取引に大きく依存し、それによってゾウの個体数は90%以上も激減しました。

 この研究は過去の現場データと個体数モデリングを使って、内戦中の激しい密猟によりこの地域で完全に牙のない雌のゾウの割合が増加したことを示しました。これは密猟という脅威下ではるかに高い確率で生き延びることができる表現型の出現だと指摘されています。食料や安全や営利のどれが目的であれ、種の選択的殺傷は人口の増加と技術の進歩につれて増え、激化したにすぎません。したがってそれは、人間による野生生物の搾取が標的種の進化を促す強力な選択圧になることを示しています。この研究結果は、人間による捕獲が野生動物群に対して及ぼす可能性のある強力な人為的選択圧を明確にする上での新たなヒントになる。

 この研究は、牙のない雄が全く観察されなかった性差の原因として、牙の遺伝パターンには伴性の遺伝的原因があることを示唆している、と指摘しています。全ゲノム解析により、哺乳類の歯の発生における役割が判明している遺伝子座であるAMELXを含む、一対の候補遺伝子が明らかになりました。ヒトの場合、これらの遺伝子はゾウの牙に相当する側切歯の成長を阻害する雄にとっては致死的なX連鎖性優性症候群と関係があります。この研究の単純明快な手法は、選択的捕獲に対する遺伝的反応を記録した希少な研究の一つで、これにより選択的捕獲が進化的応答につながる可能性を議論するさいの知識を得られる、と評価されています。


参考文献:
Campbell-Staton SC. et al.(2021): Ivory poaching and the rapid evolution of tusklessness in African elephants. Science, 373, 6562, 1479–1484.
https://doi.org/10.1126/science.abe7389