フロレシエンシスはクレチン病患者との研究についての続報

 今年3月7日分の記事にて、インドネシア領フローレス島のリアン=ブア洞窟で発見された更新世の人骨群が、人類の新種ホモ=フロレシエンシス(正基準標本はLB1)ではなく、クレチン病の現生人類だという研究(Peter J. Obendorf et al.,2008)を紹介しました。

 この研究が大きな反響を呼び、多数の報道機関で取り上げられていることは知っていたのですが、上記の記事を掲載した時点で私が読んでいた報道はBBCの記事だけだったので、クレチン病説にたいする批判については、あまり把握していない状況でした。その後、ジョン=ホークス博士のブログの記事にて、この研究の問題点と、他の研究者による批判を掲載した記事を知りました。

 これらの記事によると、クレチン病説には重大な欠点があるようで、どうも間違っていると判断するのが妥当なようです。とくに問題となるのは、クレチン病説における重要な根拠とされた、下垂体窩の長さです。クレチン病説では、LB1は健常者の現生人類よりもずっと小柄なのに、下垂体窩は健常者よりも大きいが、同じく健常者よりも小柄なクレチン病患者においてもそれは同様であり、LB1をクレチン病患者とする根拠とされていました。

 しかし、LB1の頭蓋を研究し、LB1を人類の新種フロレシエンシスとするディーン=フォーク博士は、LB1頭蓋の損傷のため下垂体窩を正確に測定するのが難しいとの前提を述べたうえで、再測定してみたところ、LB1の下垂体窩はクレチン病説で提示されている12.9mmではなく、最大でも9mmにしかならないだろう、と指摘しました。ちなみにクレチン病説では、健常者の下垂体窩の長さは8.6±1.2mm、中国のクレチン病患者のそれは14.0±3.1mmとされています。フォーク博士と同じく、LB1の頭蓋を研究したラルフ=ホロウェイ博士は、下垂体窩の長さが6mmを大きく超えることはないだろう、と指摘しています。

 ホークス博士やピーター=ブラウン博士の指摘にもあるように、LB1標本を直接調べず、他の研究者のデータに依拠したことにより、このような間違いが生じてしまったようです。ただ、LB1をラロン型小人症や小頭症の患者だとする説を退けたという意味で、クレチン病説の意義は小さくなかったようにも思います。LB1は病変の現生人類ではなく、人類の新種ホモ=フロレシエンシスだとする見解を私は支持してきたので、これらの記事を読んで、安堵したというのが正直な感想です。


参考文献:
Peter J. Obendorf, Charles E. Oxnard, and Ben J. Kefford.(2008): Are the small human-like fossils found on Flores human endemic cretins?. Proceedings of the Royal Society B, 275, 1640, 1287-1296.
http://dx.doi.org/10.1098/rspb.2007.1488

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