川合康『日本中世の歴史3 源平の内乱と公武政権』

 吉川弘文館より2009年月に刊行されました。川合氏の執筆ということで、民衆の動向についてもっと述べられているのかと思いましたが、『日本中世の歴史』の編集方針に沿って、政治史中心の叙述となっています。平安時代末~鎌倉時代初期は、とくに古代史と比較すると、新聞の紙面を華やかに飾るような「大発見」に乏しく、歴史像が変わることはあまりないだろう、と一般的には思われているかもしれませんが、政治史にかぎっても、20世紀後半以降かなりの見直しが進んでおり、じつに興味深い時代だと思います。もちろん本書も、近年の平安時代末~鎌倉時代初期の政治史研究の成果と、1970年代以降に盛んとなった武士見直し論を踏まえた記述となっています。

 本書でとくに興味深かったのは、じゅうらいは「鹿ケ谷事件」と認識されていた政変を、安元3年の政変と理解していることです。この政変は、平氏打倒の謀議の密告によるのではなく、基本的には、後白河法皇とその近臣が主導する延暦寺への武力攻撃を阻止する軍事介入であったと解釈される、というのが本書の理解です。「鹿ケ谷事件」は、平氏一門の没落後において、清盛の権力を「おごり」に満ちた独裁的権力として印象づけるために、安元3年の政変から清盛の軍事介入の局面のみを切り離した「物語」だった、と本書では推測されています。その他にも、じゅうらいの鎌倉幕府成立論が朝廷との関係という視点に偏重していたことを批判し、鎌倉幕府の起点が反乱にあったことを重視すべきとの見解など、興味深い指摘が多くあります。執筆者を見て、『日本中世の歴史』7巻のうちもっとも期待していたのですが、やや不満もあるものの、全体的にはおおむね期待通りの内容で、既刊(残すところ1巻だけですが)のなかではもっとも面白く読めました。

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