75万年前頃の人類の空間認識能力

 下部旧石器時代のアシューリアン(アシュール文化)遺跡として有名な、イスラエルのジスル=バノト=ヤコブ遺跡における、人類の活動とその認識能力についての研究(Alperson-Afil et al., 2009)が公表されました。この遺跡では、燧石の小片・玄武岩や石灰石で作った石器・カニの殻や魚の骨の破片・種・果物・穀類・木材といったさまざまな遺物が発見されています。こうした遺物のうち、植物や燧石の加工跡は炉床のあたりに集中しており、玄武岩や石灰石の石器は大半が遺跡南東部から発見されました。こうしたことから、炉床が当時の人類の活動拠点であるとともに、人類は当時すでに、石を加工したり、道具を使用したり、植物や動物を加工して食したりといった行為を、空間的にも区別していた、と指摘されています。

 生活空間や作業空間を設計・構築する能力は、人類の認識能力のじゅうような要素だと考えられており、通説では、このような認識能力は比較的新しく、現生人類の登場とともに発達したとされています。しかし、この研究では、現代人と同水準ではないかもしれないとしても、現代人と通ずるような空間認識能力が、75万年前頃の人類に存在した可能性が示されました。

 この研究は、近年のネアンデルタール人「復権」の研究傾向とも整合的だと言えます。オーカーの使用やシャテルペロニアン(シャテルペロン文化)の存在などから、近年ではネアンデルタール人と現生人類との認識能力の類似性が、1990年代よりも認められるようになってきています。そうすると、ネアンデルタール人と現生人類の共通祖先にも、現代人と通ずるような認識能力が一定水準以上存在した可能性が高く、ネアンデルタール人と現生人類との遺伝的な分岐年代が80~40万年前頃とされていますから、75万年前頃の人類の一部に、現代人と通ずるような空間認識能力が存在した、と考えるのが妥当でしょう。


参考文献:
Alperson-Afil N. et al.(2009): Spatial Organization of Hominin Activities at Gesher Benot Ya’aqov, Israel. Science, 326, 5960, 1677-1680.
http://dx.doi.org/10.1126/science.1180695

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