伊藤正敏『無縁所の中世』

 ちくま新書の一冊として、筑摩書房から2010年5月に刊行されました。伊藤氏の著書は以前にも読んだことがあったので、本書で提示された見解にも、それほど意外な感はありませんでした。表題からも分かるように、網野善彦氏の『無縁・公界・楽』を強く意識した内容となっていますが、著者の見解は網野氏の無縁論に批判的です。とはいえ、もちろん網野氏の見解の全否定ではなく、網野氏寄りに解釈すれば、網野氏の無縁論を批判的に継承した、と言えるでしょう。もっとも、表題から網野氏にこだわるのは妥当ではなく、本文中でも述べられているように、本書の起点は黒田俊雄氏の寺社勢力論にあるのでしょう。

 本書では、無縁所の特徴が示されるとともに、中世日本社会の特質、さらには中世が古代・近世とは異なる独自の時代区分であることが論じられており、幅広い視点に基づく意欲的な著作になっていると思います。ただ、本書の挑発的な文体は賛否の分かれるところでしょう。本書を読むと、中世における寺社勢力の存在感の大きさを改めて思い知らされます。文化水準の高低を安易に判断すべきではないと思いますが、それでも、中世の日本において、寺社勢力の文化水準は、武家はもちろんのこと公家よりもずっと高かった、との本書の指摘にはかなりの説得力があります。寺社勢力の影響力をより適切に評価した、新たな日本中世史像が模索されなければいけない、ということなのでしょう。

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