本郷恵子『選書日本中世史3 将軍権力の発見』

 講談社選書メチエの選書日本中世史第3巻として、2010年9月に刊行されました。文書様式の特徴・変遷と、ある時期に特定の様式の文書が大量に出されていることなどから、鎌倉幕府と室町幕府との違い、さらには、朝廷(公家政権)の特質と、朝廷・天皇という仕組みが滅びずに長期間持続してきた理由を解明する端緒となり得る見解が提示されるなど、対象となる時代・事象が限定されているように見えながらも、日本史上の大きな問題が常に意識された構成・叙述となっており、奥深い一冊だと言えるでしょう。

 本書を読むと、その実力からすると不自然にも思える、鎌倉幕府の「全国統治」への消極性が強く印象に残るのですが、そもそも鎌倉幕府は、「日本という国制」への「反逆」から始まった、という発足の経緯からして、「全国統治」を目指していたわけではない、という事情もあるのでしょう。鎌倉幕府を間近に見てきた室町幕府(足利政権)は、鎌倉と京のどちらに本拠を置くのか悩みますが、けっきょくは朝廷と同じく京に本拠を置き、文書様式など朝廷の仕組みを吸収していきつつ、「全国政権」として成長していきます。

 しかしながらこれは、他の権力・地域に優越する権威を備え、「全国」水準での一定の安定を実現しつつも、地域のことは地域に任せるという方針のもと実現したものであり、こうした室町幕府体制の成立にあたって、細川頼之の果たした役割が大きかったのではないか、とされます。ある意味で、室町幕府は弱い中央権力のようにも見えますが、地域の富を中央に吸収するのではなく、地域の成長が地域に還元・蓄積される枠組みを築いた、という指摘はなかなか面白く、その指摘の妥当性はさておき、細かな問題を中心に扱っているように見えながらも、大きな問題への視点を忘れないという本書の特徴がよく表れています。

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