ゴリラのゲノム解読

 ゴリラのゲノム解読についての研究(Scally et al., 2012)が公表されました。ゴリラは現生生物ではチンパンジーの次に人間に近縁な種で、ゴリラの次に人間に近縁な種はオランウータンです。人間とチンパンジーとオランウータンのゲノムはすでに解読されており、これによりヒト上科・ヒト科の進化について、さらに詳しく知ることができるようになるでしょう。この研究では、ニシローランドゴリラのゲノム塩基配列が解析され、すべての現生大型類人猿属の全ゲノムと比較されました。

 この研究でも、人間・チンパンジー・ゴリラ・オランウータンの共通祖先から、まずオランウータンの祖先の系統と人間・チンパンジー・ゴリラの共通祖先の系統が分岐し、次にゴリラの祖先と人間・チンパンジーの共通祖先の系統が分岐し(1000万年前頃)、その後に人間の祖先の系統とチンパンジーの祖先の系統とが分岐した(600万年前頃)、という通説が支持されましたが、ゴリラゲノムの30%では、人間とチンパンジーの近縁度よりも、ゴリラと人間あるいはゴリラとチンパンジーの近縁度のほうが高く、その傾向はコード遺伝子の周辺ではかなり小さいことも示唆されました。

 もちろん、これが確定したとしても、人間・チンパンジー・ゴリラの共通祖先の系統から、人間の祖先とチンパンジー・ゴリラの共通祖先が分岐したとか、あるいは、人間・チンパンジー・ゴリラの共通祖先の系統から、チンパンジーの祖先と人間・ゴリラの共通祖先が分岐した、とかいうことではありません。これは、ゲノムの一部や特定の形質にだけ注目すると、間違った系統樹を作ってしまうということでもあり、たとえば、ある形質について、チンパンジーが派生的特徴を強めて(特殊化が強くなる)いく一方で、人間・ゴリラが原始的特徴を比較的維持している、という場合が考えられます。

 また、種もしくは亜種に分類されるニシローランドゴリラとヒガシローランドゴリラの遺伝学的比較も行われ、両者の平均的塩基配列分岐年代は175万年前頃と推定され、ヒガシローランドゴリラのほうが、より最近の遺伝子交換や集団瓶首効果を受けたと考えられる、とのことです。たいへん重要な研究成果であり、人類の進化を知るうえでの基礎となりますが、人間・ゴリラ・チンパンジーの各系統の分岐年代については、まだ確定したとは言いがたいのが現状だろうと思いますので、今後も、遺伝学・形質人類学だけではなく、地質学なども含めて学際的な検証が必要になるでしょう。


参考文献:
Scally A. et al.(2012): Insights into hominid evolution from the gorilla genome sequence. Nature, 483, 169–175.
http://dx.doi.org/10.1038/nature10842

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