五味文彦『シリーズ日本中世史1 中世社会の始まり』

 これは8月19日分の記事として掲載しておきます。岩波新書(赤版)の一冊として、岩波書店より2016年1月に刊行されました。本書の冒頭にて構成の意図が説明されていますが、宗教も含めて文化史の割合が高いのが本書の特徴です。本書は、中世社会の前提となる古代社会についても1章を割いて叙述し、その後に、院政期からおおむね足利義満の頃までを、文化を中心に叙述しています。院政期から平氏政権までは政治史もやや詳しく叙述されていますが、鎌倉幕府成立以降の政治史の叙述はかなり簡略化されています。これは、第2巻以降と重ならないための配慮のようです。

 本書は、戦国時代が始まる前までの中世社会を、家・身体・職能・型という四つの思潮に時代区分しています。それぞれの時代の動きは、院政時代・武家政権・東アジア世界の流動・公武一統で、その画期は、後三条天皇の即位・平清盛の太政大臣就任・モンゴルからの国書の到来・応安の半済令とされています。いずれの画期も、西暦に換算すると、11~14の各世紀の67年か68年となります。本書は、中世社会において形成されたこれらの思潮が、現代日本社会に大きな影響を及ぼしており、継承されたそれらの思潮の力により現代日本社会が成立しているとともに、そうした思潮により現代日本社会の思考が制約されている側面もある、と指摘しています。

 碩学による解説だけに、たいへん密度の濃い一冊になっており、細かな史実・伝承などから中世社会の思潮を解き明かしていくところは、さすがに見事だな、と思います。それだけに、私の見識・理解力では、1回読んだくらいで消化しきれないことも確かで、今後何度か再読していく必要があるでしょう。平泉・奥州藤原氏についての解説が多めなのも本書の特徴で、清衡と基衡との方針の違いや、平泉と朝廷との関わりなど、興味深い指摘がありました。本書が平泉・奥州藤原氏についてやや多めに叙述したのは、中世社会の端緒として前九年の合戦を重視しているためでもあるようです。

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