クリミア半島の初期現生人類の食性

 これは8月7日分の記事として掲載しておきます。東ヨーロッパでは最古級となる現生人類(Homo sapiens)の食性に関する研究(Drucker et al., 2017)が報道されました。ネアンデルタール人(Homo neanderthalensis)の絶滅要因には高い関心が寄せられてきており、さまざまな仮説が提示されています(関連記事)。そうしたさまざまな仮説においては、食性など行動面において現生人類がネアンデルタール人よりも柔軟だった、と強調される傾向にあります。

 この研究は、東ヨーロッパでは最古級となる、南部クリミア半島に位置するブランカヤ3(Buran-Kaya III)遺跡の現生人類の食性を検証しています。ブランカヤ3遺跡は1990年に発見され、中部旧石器時代~新石器時代までの痕跡が確認されており、中部旧石器時代~上部旧石器時代の層位は大きな攪乱がなく安定的だとされています。較正年代で40400~33500年前頃となる上部旧石器時代の層からは人間や動物の遺骸・石器・骨器・装飾品が発見されています。人類化石は較正年代で38400~33500年前頃となります。人類化石には改変が確認されており、直接的な食人の証拠がないことから、埋葬儀式との関連が指摘されています。ブランカヤ3遺跡における現生人類の居住は季節的とされています。

 これまで、初期現生人類化石の同位体分析において、窒素15が豊富な場合、淡水資源の消費として解釈されることもありました。この研究は、最近進展した個体のアミノ酸分析を用いて、窒素15のより詳しい由来を検証しています。その結果、ブランカヤ3遺跡では、サイガ・アカシカ・ウマ・野ウサギの屠殺痕が確認されているものの、初期現生人類の推定された食性においては、それらよりもマンモスの顕著な消費が目立つ、と明らかになりました。また、初期現生人類の食性においては植物性タンパク質の明確な摂取も確認された一方で、水産資源の明確な消費は確認されませんでした。

 ネアンデルタール人とブランカヤ3遺跡の初期現生人類との食性の比較では、植物の割合はネアンデルタール人よりも初期現生人類の方が高かったものの、ともにマンモスが主要な肉の食資源である、と明らかになりました。この知見から、ネアンデルタール人と初期現生人類は食性において直接的に競合していたのではないか、とこの研究では推測されています。そうした直接的な競合がネアンデルタール人の絶滅の一因になったのではないか、というわけです。

 現生人類アフリカ単一起源説でも完全置換説が圧倒的に優勢だった時代(1997~2010年頃)には、ネアンデルタール人の絶滅要因を説明しやすいためか、ネアンデルタール人と現生人類との違いを強調する傾向があったように思われます。一方、近年では、ネアンデルタール人と現生人類との交雑が確認されたこともあって、両者の類似性を強調する研究も増えつつあるように思われます。この研究は、ネアンデルタール人と現生人類との類似性と、その結果としての直接的競合との見解を提示していますが、初期現生人類の食性はあくまでもクリミア半島の一事例であり、まだ確定的な見解とは言えないでしょう。ただ、広範囲で長期間存続したネアンデルタール人の行動も、食性も含めて一時論じられていたよりも柔軟で現生人類との違いは小さかった、という可能性は高いと思います。


参考文献:
Drucker DG. et al.(2017): Isotopic analyses suggest mammoth and plant in the diet of the oldest anatomically modern humans from far southeast Europe. Scientific Reports, 7, 6833.
http://dx.doi.org/10.1038/s41598-017-07065-3

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