NHKスペシャル『人類誕生』第2集「最強ライバルとの出会い そして別れ」

 第1集は当ブログで取り上げました(関連記事)。今回は第2集で、現生人類(Homo sapiens)とネアンデルタール人(Homo neanderthalensis)との関係が取り上げられました。50分弱の一般向け番組でネアンデルタール人と現生人類との関係を扱うということで、単純化・簡略化されたところがあったのは仕方のないところでしょうが、時間的制約があるなかで、近年の知見が多く盛り込まれており、なかなかよかったと思います。著名な研究者や遺跡の取材もあり、映像の点でも見どころがありました。とくに、南西フランスのブルニケル洞窟(Bruniquel Cave)で発見された、切り取られた石筍で作られた環状の建築物(関連記事)の映像が見られたのはよかったと思います。

 疑問点もありますが、上述したように、仕方のないところだと思います。それでも、やや気になった点を述べていくと、ネアンデルタール人が厳しい氷期に耐えていた、と強調されていた点はやや偏っていたかな、とは思います。確かに、中期~後期更新世にかけて、現生人類の起源地・主要な生息地であろうアフリカよりも、ネアンデルタール人の起源地・主要な生息地であろうヨーロッパの方が、一般的には寒冷だったでしょうし、ネアンデルタール人の形態には寒冷適応的なところもあるとは思います。しかし、寒冷期には、ネアンデルタール人も高緯度地帯での生存が厳しく、ヨーロッパでも低緯度地帯に分布していたと考えられます(関連記事)。また、寒冷適応と関連しますが、ネアンデルタール人の子供を「白人」のように描いたのには疑問が残ります。確かに、ネアンデルタール人の肌の色が薄かった可能性は低くなさそうですが(関連記事)、ネアンデルタール人全員がそうだったわけではなく、ネアンデルタール人の肌の色は現代人と同じく多様だったのではないか、との見解も提示されています(関連記事)。

 現生人類はネアンデルタール人とは異なり投槍器を開発・使用し、これにより現生人類はネアンデルタール人にたいして優位に立った、との見解については、ネアンデルタール人の絶滅前に投槍器が用いられていたのか、まだ確証が得られていないと思いますので(関連記事)、確定したとは言えないでしょう。確かに、狩猟法に関してネアンデルタール人と現生人類に違いはあり、ネアンデルタール人の方がより危険な狩猟をしていた可能性は高そうですが、両者が遭遇した時点で大きな違いがあったのか、まだ断定できる段階ではないと思います。狩猟に関しては、現生人類が小型動物も対象としており、大型動物を対象としたネアンデルタール人と対照的だったとされていましたが、ネアンデルタール人の狩猟効率と食性の範囲は現生人類よりも劣るものではなかった、との見解も提示されています(関連記事)。

 投槍器と関連して、現生人類の石器技術革新は速かったのにたいして、ネアンデルタール人のそれは停滞していた、と紹介されていましたが、現時点ではこうした見解には慎重になるべきだと思います(関連記事)。このような見解は、ネアンデルタール人絶滅後の現生人類の技術革新の速さが比較対象になっているのではないか、と思われるところがあり、比較対象が不適切ではないでしょうか。科学革命以降の革新の速さと更新世の現生人類の革新の速さを比較するのが、妥当ではないことと同様だと思います。

 ネアンデルタール人の象徴的行動の証拠は色々と取り上げられており、よく調べられていると思います。ただ、ジブラルタルのゴーラム洞窟(Gorham's Cave)の線刻(関連記事)が、絶滅寸前のネアンデルタール人の所産であるかのような説明は疑問です。この線刻の上層でもネアンデルタール人のものと思われる痕跡が確認されているからです。ネアンデルタール人の洞窟壁画(関連記事)について言及されなかったのは、公表が今年(2018年)2月で、制作に間に合わなかったからでしょうか。

 ネアンデルタール人と現生人類の運命を分けた要因としては、集団規模と他集団との交流の違いが挙げられていました。現生人類の方がネアンデルタール人よりも集団規模が大きく、他集団との交流も高頻度だった、というわけです。現生人類よりもネアンデルタール人の方が必要摂取カロリーは高かったでしょうし、更新世の技術ではヨーロッパの人口収容力はアフリカより低かった可能性が高そうですから、ヨーロッパのネアンデルタール人の人口密度はおそらくアフリカの現生人類よりも低かったでしょう。そうだとすると、現生人類の方がネアンデルタール人よりも集団規模が大きく、他集団との交流も高頻度だった、という見解は有力だと思います。

 では、現生人類が西アジア、さらにはヨーロッパへ拡散した時はどうだったのかというと、ヨーロッパでは、ネアンデルタール人と遭遇した頃に人口が増加し、集落規模もネアンデルタール人より大きかった、と推測されています(関連記事)。5万年前頃?以降の現生人類は、西アジアやヨーロッパへ拡散したさい、アフリカで築いてきた社会的ネットワークや技術などを維持・発展させつつ、その規模においてネアンデルタール人よりも優位に立った可能性が高そうです。

 ネアンデルタール人の集団規模の問題と関連して、イベリア半島北部のエルシドロン(El Sidrón)洞窟のネアンデルタール人は全員血縁関係にあった、との説明には疑問が残ります。エルシドロン洞窟で確認されているのは、ミトコンドリアDNA(mtDNA)解析では、3人の成人男性が同じ系統に区分されるのにたいして、3人の成人女性はそれぞれ異なる系統に区分されることから、ネアンデルタール人集団における夫居制的婚姻行動が示唆される、ということだと思います(関連記事)。まあ、私がその後の研究の進展を見落としているのかもしれませんが。

 最終的にネアンデルタール人は絶滅したのにたいして(もっとも、ネアンデルタール人のDNAは現代人にわずかながら継承されているわけで、より正確には、ネアンデルタール人の形態的・遺伝的特徴を一括して有する集団は現在では存在しない、と言うべきかもしれません)、現生人類は現在も生存しており、まず間違いなく人類史上最も繁栄した系統となりました。現生人類の早期の出アフリカと、ある時期まではネアンデルタール人が現生人類の拡散、とくにヨーロッパ方面への拡散の言わば障壁になっていた可能性にも言及されていると、ネアンデルタール人と現生人類との類似性を強調する今回の趣旨にも合っていたのではないか、と思います。

 これまで、NHKスペシャルはそれなりに人類進化を取り上げてきました。しかし、ネアンデルタール人と現生人類との交雑がほぼ確実と考えられるようになった2010年以降でも、たとえば現生人類の出アフリカと世界中への拡散を取り上げた放送(関連記事)や、「知性の誕生」を取り上げて現生人類とネアンデルタール人に言及した放送(関連記事)でも、ネアンデルタール人と現生人類との交雑についてはまったく言及されませんでした。正直なところ、これはかなり偏っているというか、頑なな態度だという印象を私は受けたのですが、さすがに今回は、ネアンデルタール人と現生人類との交雑がしっかり取り上げられました。はぐれたネアンデルタール人の少女を現生人類集団が迎え入れた、との描写は演出の範囲でしょうが、あるいはそのようなこともあったのかもしれません。また、両者の交雑が時として暴力的なものだった可能性もあると思います。

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