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子の新しい遺伝学的変異に影響を及ぼす親の年齢

2017/12/15 00:00
 これは12月15日分の記事として掲載しておきます。子の新しい遺伝学的変異に影響を及ぼす親の年齢に関する研究(Jónsson et al., 2017)が公表されました。この研究は、親の年齢や性別がヒトのde novo変異(DNM、ある家系に最初に現れる遺伝子変化で、両親のいずれかの卵あるいは精子に生じた1変異が原因)の変化を引き起こす仕組みを理解するために、1万4688人のアイスランド人(両親と子の3人組から構成される1548組で、そのうちの225組については少なくとも1人の孫を含みます)の全ゲノム塩基配列を解析しました。

 その結果、10万8778個の高品質DNMが突き止められ、家系当たり平均70.3個のDNMが存在することが明らかになりました。母系のDNM数は年齢が1歳上昇すると0.37個増加し、父系のDNM数は年齢が1歳上昇すると1.51個増加し、母系の約4倍となります。また、クラスターを形成した変異の数は父親の年齢よりも母親の年齢の上昇に伴って急速に増加することと、母系のDNMクラスターが存在するゲノム範囲は父系のものよりも大規模であることも明らかになりました。さらに、母系のDNMの種類は加齢に伴い大きく変化しました。以下は『ネイチャー』の日本語サイトから引用(引用1および引用2)です。


【遺伝学】親の年齢が子の新しい遺伝学的変異に影響を及ぼす

 親(特に父親)の年齢が高くなるほど、その子の新しい遺伝学的変異の発生率が高くなるとする論文が今週掲載される。また、ヒトのde novo変異(DNM、ある家系に最初に現れる遺伝子変化で、両親のいずれかの卵あるいは精子に生じた1変異が原因)についてのこれまでで最も大規模な供給源も報告された。ヒトゲノムに塩基配列多様性を生み出す変異過程を理解することは、遺伝医学や進化研究に最も重要である。

 Daniel Gudbjartssonたちは、親の年齢や性別がDNMの変化を引き起こす仕組みを理解するために、1万4688人のアイスランド人(両親と子の3人組から構成される1548組。そのうちの225組については少なくとも1人の孫を含む)の全ゲノム塩基配列の解析を行った。10万8778個の高品質DNMが突き止められ、家系当たり平均70.3個のDNMが存在することが分かった。母系のDNM数は年齢が1歳上昇すると0.37個増加したが、これは父系のDNM数は年齢が1歳上昇すると1.51個増加したことと比較すると、4分の1にすぎない。また、クラスターを形成した変異の数は父親の年齢よりも母親の年齢の上昇に伴って急速に増加すること、母系のDNMクラスターが存在するゲノム範囲は父系のものよりも大規模であることも分かった。さらに、母系のDNMの種類は加齢に伴い大きく変化した。


遺伝学:アイスランド人の両親と子の1548トリオで見られた、ヒト生殖系列de novo変異に及ぼす親の影響

遺伝学:親の年齢が新しい変異に影響を及ぼす

 D Gudbjartssonたちは今回、両親の年齢や性別がde novo変異(DNM)の発生率や範囲にどのような影響を及ぼすかを調べた。アイスランド人1万4688人(両親と子で構成される1548トリオを含み、そのうちの225トリオについては少なくとも1人の孫の世代を含む)のゲノムの塩基配列解読が行われた。その結果、これまでで利用可能なものの中で最も大規模なヒトDNMのデータセットが得られ、10万8778個の高品質DNMが明らかになり、1トリオ当たり平均70.3個のDNMが存在することが分かった。また、どちらの親の年齢が上昇しても、DNMの種類の変化と、DNM数の増加が見られるが、母親の年齢に比べて父親の年齢による増加率の方が高いことが見いだされた。



参考文献:
Jónsson H. et al.(2017): Parental influence on human germline de novo mutations in 1,548 trios from Iceland. Nature, 549, 7673, 519–522.
http://dx.doi.org/10.1038/nature24018
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暁新世後期の巨大なペンギン化石

2017/12/14 00:00
 これは12月14日分の記事として掲載しておきます。暁新世後期の絶滅種ペンギン化石エピに関する研究(Mayr et al., 2017)が公表されました。巨大化は、ペンギンの進化の特徴の一つとして知られており、古代のペンギン種の体長は、現生種で最大のものを上回っています。巨大なペンギンの化石標本については、約5000万〜2000万年前のものについて充分な記録が残っていますが、それよりも古い系統のペンギンの化石標本は確認されていませんでした。

 この研究は、ニュージーランドで出土し、今から約6000万〜5500万年前の暁新世後期と年代決定された部分的な骨格化石について、巨大ペンギンの新種(Kumimanu biceae)と同定しました。発見された化石の中には約161oの大腿骨が含まれており、この巨大ペンギンの体重は約101sで体長が約1.77mと推定されました。この新種ペンギンは、既知のペンギンの中で、最大級であるとともに、最古級ともなります。この他に約6200万〜5800万年前と年代決定された2点のペンギン種の化石があります。この新種ペンギンの進化的関係に基づき、その巨大な体の起源が他のペンギン種の場合とは全く別で、ペンギンが出現し、空を飛ぶ生活から水に潜る生活への進化的移行が起こった後間もなくのことだった、とこの研究では結論づけられています。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。


【化石】ニュージーランドで見つかった巨大なペンギンの化石

 人間の男性の平均身長とほぼ同じ体長の古代の巨大ペンギンの新種について報告する論文が、今週掲載される。約6000万〜5500万年前の絶滅種のペンギンの化石がニュージーランドで発見され、ペンギン類の初期進化に関する新たな手掛かりがもたらされた。

 巨大化は、ペンギンの進化の特徴の1つとして知られており、古代のペンギン種の体長は、現生種で最大のものを上回っている。巨大なペンギンの化石標本については、約5000万〜2000万年前のものについて十分な記録が残っているが、それよりも古い系統のペンギンの化石標本はなかった。

 今回、Gerald Mayrたちの研究グループは、ニュージーランドで出土し、今から約6000万〜5500万年前の暁新世後期と年代決定された部分的な骨格化石について、巨大ペンギンの新種Kumimanu biceaeと同定した。発見された化石の中に約161ミリメートルの大腿骨が含まれており、この巨大ペンギンの体重は約101キログラムで体長が約1.77メートルと推定された。その結果、K. biceaeは、これまでに報告されたペンギンの中で最大級のもので、知られている限りでは最古のペンギン種の1つとなった。この他に6200万〜5800万年前と年代決定された2点のペンギン種の化石がある。

 Mayrたちは、K. biceaeの進化的関係に基づいて、その巨大な体の起源が他のペンギン種の場合とは全く別で、ペンギンが出現して、空を飛ぶ生活から水に潜る生活への進化的移行が起こった後間もなくのことだったと結論付けている。



参考文献:
Mayr G. et al.(2017): A Paleocene penguin from New Zealand substantiates multiple origins of gigantism in fossil Sphenisciformes. Nature Communications, 8, 1927.
http://dx.doi.org/10.1038/s41467-017-01959-6
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現生人類到達前のアジアの人類史とデニソワ人の見直し

2017/12/13 00:00
 これは12月13日分の記事として掲載しておきます。現生人類(Homo sapiens)到達前のアジアの人類史に関する研究(Kaifu., 2017)が公表されました。本論文が対象とする地域は、おもに東および東南アジアで、南アジア・オセアニア・アルタイ地域も含まれます。これらの地域では明確にホモ属ではない人類化石は発見されていないので、基本的にはホモ属の進化史として考えられます。現生人類出現前の東・東南アジアのホモ属(古代型ホモ属)進化史は、エレクトス(Homo erectus)が東アジア北部から東南アジアのスンダランドまで広範な地域に拡散してきた、という観点から把握されてきたように思います。

 しかし、本論文の著者である海部陽介氏が主要な研究者として関わった、台湾沖で発見されたホモ属化石「澎湖1(Penghu 1)」についての論文(関連記事)からも、東アジアにおける中期〜後期更新世のホモ属の進化は複雑だったことが窺えます。本論文は、その台湾沖で発見されたホモ属化石も含めて、現生人類がアフリカから侵出してくる前の上記地域のホモ属化石を改めて検証し、現時点では明らかに化石証拠が不足していることを指摘しつつ、これらの地域の複雑なホモ属進化史像を提示しています。

 本論文は、ジャワ島のエレクトスでは漸進的な進化が確認され、おそらくは120万年以上の地域的な継続的進化があったのだろう、と推測しています。ジャワ島のエレクトスは、同じくエレクトスと分類される東アジア北部のホモ属化石群とは区分され得る、と指摘されています。また、ジャワ島のエレクトスと東アジア北部のエレクトスの間には、地域的な形態的変容の連続性が欠如している、とも指摘されています。東アジアの後期古代型ホモ属のなかには、脳容量の増大など派生的な特徴が見られるものもあります。しかし、これが東アジア在来のエレクトスの進化の結果なのか、アフリカやヨーロッパの後期古代型ホモ属の拡散の結果なのか、まだ不明です。本論文は、東アジアにおいては、顔面における形態的連続性などから、アフリカや西アジアやヨーロッパなど西方からの後期古代型ホモ属によるエレクトスとの全面的な置換はなさそうだ、との見解を提示しています。

 南シベリアのアルタイ山脈のデニソワ洞窟(Denisova Cave)では遺伝学的に未知のホモ属化石が発見され、種区分は未定ですが、デニソワ人(Denisovan)という分類群が設定されています。インドネシア領フローレス島では、小型のホモ属フロレシエンシス(Homo floresiensis)が発見されています。本論文は、フロレシエンシスはジャワ島の初期エレクトス系統から派生し、フローレス島での100万年におよぶ孤立で島嶼化などにより独特な形態が進化していった、という見解を提示しています。上述した澎湖1には祖先的な特徴が認められるため、東アジア南部では東アジア北部のエレクトスやジャワ島のエレクトスとは異なる独自の系統のホモ属が進化していった可能性も想定されています。この他の後期古代型ホモ属として、東アジア南部の馬壩(Maba)人や南アジアのナルマダ(Narmada)人がおり、アフリカ起源のユーラシア西部のホモ属集団の遺伝的影響を受けた可能性があります。


 本論文は、このような知見を前提として、(現代人の主要な遺伝子源となっただろう)アフリカ起源の現生人類集団が最初にアジア東部〜オセアニアに侵出してきた時の状況とデニソワ人について考察しています。デニソワ人については、ミトコンドリアDNA(mtDNA)と核DNAとで、解析結果に基づく系統樹における位置づけが異なるといった問題が議論されており、その件も含めて、デニソワ人については以前このブログでまとめました(関連記事)。

 デニソワ人の現代人への遺伝的影響は、オセアニアのなかでも、いわゆるオーストラロイド系において顕著に高く、アフリカやヨーロッパではほぼ皆無なのですが、現時点でデニソワ人が確認されているのはアルタイ地域だけです。そのため、デニソワ人の生息範囲、さらには現生人類と交雑した地域が議論になっています。オーストラロイド系の主要な祖先集団となっただろうオセアニアの初期現生人類は、ほぼ間違いなくヒマラヤ山脈の南方を経由してアフリカから東進してきたでしょうから、デニソワ人とオーストラロイド系現代人の祖先集団との交雑は、南もしくは東南アジアで起きたと考えられます。この「南方デニソワ人」が「北方(アルタイ地域)デニソワ人」と同じ系統に属すのか、そもそも、後期更新世に現生人類が最初に南・東南アジアに進出してきた時に交雑したホモ属集団は進化史においてどのように位置づけられるのか、ということを本論文は検証しています。

 南・東南アジアに現生人類が最初に侵出してきた時、上記の知見から、これらの地域には少なくとも3系統の古代型ホモ属系統がいた、と本論文は推測しています。それは、馬壩人のような西方の後期古代型ホモ属の遺伝的影響を受けたかもしれない系統、スンダランドに広範に存在していたであろうジャワ島のエレクトス系統、フロレシエンシス系統です。現時点では、シベリアから東南アジアの広範囲に分散した、単一の形態群に分類できる後期ホモ属の存在を示唆する人類化石証拠はない、と本論文は指摘します。

 したがって本論文は、広範囲に存在した分類群としてのデニソワ人という有力説にたいして、代替的な仮説を提示しています。それは、オセアニア系現代人の祖先集団に遺伝的影響を及ぼした南もしくは東南アジアの古代型ホモ属が、デニソワ人と祖先を共有していた、というものです。これは、著者が以前に提唱した、デニソワ人は分類学的実態を有さず、地域的な祖先的集団と交雑したネアンデルタール人である、という仮説(関連記事)を発展させたものと言えるでしょう。

 つまり、同じくデニソワ洞窟で発見されたデニソワ人(北方デニソワ人)とネアンデルタール人は同じ系統に属していたのであり、「北方デニソワ人」の祖先集団(ネアンデルタール人系統)と交雑した地域的集団と近縁の地域的集団(南方デニソワ人)が南もしくは東南アジアにおり、交雑により北方デニソワ人と同じDNAをオーストラロイド系現代人の祖先集団にもたらしたのではないか、というわけです。この仮説では、ネアンデルタール人および現生人類とは遠い関係にある(現生人類およびネアンデルタール人の共通祖先系統と分岐した)デニソワ人のmtDNAは、「南方デニソワ人」と近縁の系統に由来するのではないか、ということになります。

 では、「南方デニソワ人」は、上記の3系統の古代型ホモ属のうちどれなのか、ということが問題になります。馬壩人のような南・東南アジアの後期古代型ホモ属は、西ユーラシアから新たに拡散してきた集団の遺伝的影響を受けているかもしれず、「南方デニソワ人」の候補となります。しかし、南・東南アジアの現代人におけるデニソワ人の遺伝的影響がきわめて小さいことと矛盾する、と本論文は指摘します。フロレシエンシスについては、オーストラロイド系現代人の祖先集団にフロレシエンシス的な形態学的特徴が見られないため、フロレシエンシスと現生人類との交雑があったのか、本論文は疑問視しています。

 本論文が「南方デニソワ人」というか、南もしくは東南アジアでオーストラロイド系現代人の祖先集団と交雑した可能性が高いと考えている古代型ホモ属は、ジャワ島のエレクトス系統です。上述したように、ジャワ島のエレクトスは120万年以上孤立して進化してきたと考えられ、76万〜55万年前頃という現生人類系統とデニソワ人系統との推定分岐年代と矛盾します。しかし本論文は、「北方デニソワ人」がネアンデルタール人と(ネアンデルタール人よりも現生人類とは遠い系統関係にある)地域的集団との交雑集団だと考えれば、問題にはならないかもしれない、と指摘しています。もしジャワ島のエレクトス系統が南方デニソワ人だとすると、オーストラロイド系のオーストラリア先住民に見られると主張された頭蓋のエレクトス的な形態学的特徴を説明できるかもしれない、と本論文は指摘しています。また、更新世にスンダランドだった地域の現代人集団におけるデニソワ人の遺伝的影響の小ささは、後の北方からの農耕民の拡散により説明できるかもしれない、との見解も提示されています。


 以上、ざっと本論文について見てきましたが、ユーラシア東部における現生人類拡散前の進化史がまとめられ、たいへん有益だと思います。デニソワ人についての見解もたいへん興味深いのですが、疑問もあります。それは、本論文では言及されていませんが、イベリア半島北部の通称「骨の穴(Sima de los Huesos)洞窟」遺跡(以下、SHと省略)で発見された、中期更新世となる43万年前頃の人骨群のDNA解析結果があるからです(関連記事)。

 SH人骨群のDNA解析の結果、ネアンデルタール人のmtDNAは元々「デニソワ人型」で、後期ネアンデルタール人のmtDNAは、ネアンデルタール人やデニソワ人よりも現生人類に近い(遺伝学的に)未知の人類系統からもたらされたのではないか、との見解が有力になりつつあるように思います。デニソワ人のmtDNAは、現生人類およびネアンデルタール人の共通祖先系統と分岐した遺伝学的に未知の「超古代系統」のホモ属からもたらされたわけではない、というわけです。ただ、本論文の見解は、「超古代系統」のホモ属とデニソワ人の交雑という知見(関連記事)と整合的であり、デニソワ人のmtDNAが「超古代系統」のホモ属に由来しないとしても、本論文の見解は成立するでしょうし、人類進化史におけるデニソワ人の位置づけをめぐる議論において、検証対象とされるべき有力な仮説の一つだとは思います。

 現時点ではとても断定できませんが、SH人骨群のDNA解析結果を踏まえると、デニソワ人は実態のある単系統群であり、ネアンデルタール人系統と分岐した後、ユーラシア大陸の北側(中央部)と南側(沿岸部)に分かれて東進し、後者の系統が南アジアか東南アジアでセアニア系現代人の祖先集団と交雑した、という見解の方がより節約的であるように思います。スンダランドに広範に存在していたであろうジャワ島のエレクトス系統と近縁の系統が、アルタイ地域のネアンデルタール人に遺伝的影響を及ぼすよりは、実態のあるデニソワ人という単系統群が南北に別れて東進し、「南方デニソワ人」がオーストラロイド系現代人の祖先集団と交雑した方があり得そうかな、というわけです。デニソワ人と交雑した「超古代系統」のホモ属としては、たとえば、ヨーロッパに存在したアンテセッサー(Homo antecessor)を想定しています。

 「北方デニソワ人」は現生人類とはほとんど交雑せず絶滅し、「南方デニソワ人」はオーストラロイド系現代人の祖先集団と交雑した後に吸収される形で絶滅し、後続の現生人類集団が南・東南アジアに到達した頃には存在しなかった、と考えると現時点での証拠とそれなりに整合的ではないか、と思います。ただ、南アジアにおいて、シェルパではデニソワ人由来のゲノム領域の割合が近隣の他地域集団よりとくに高い、との知見もあり(関連記事)、「南方デニソワ人」は高地から沿岸地帯まで南アジアに広範に存在し、オーストラロイド系現代人の祖先集団が南アジアからさらに東方へと拡散した後も細々と存続して、ごく一部の現生人類と交雑した、という可能性も想定できるように思います。デニソワ人と現生人類との交雑は複数回起きたのではないか、というわけです。もしこの想定が妥当だとすると、「北方デニソワ人」と「南方デニソワ人」には遺伝的にかなりの違いがあり、デニソワ人の遺伝的多様性は現在の推定よりずっと高くなるでしょう。


参考文献:
Kaifu Y.(2017): Archaic Hominin Populations in Asia before the Arrival of Modern Humans: Their Phylogeny and Implications for the “Southern Denisovans”. Current Anthropology, 58, S17, S418-S433.
http://dx.doi.org/10.1086/694318
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男性の性的指向と遺伝的要因との関連

2017/12/12 00:00
 これは12月12日分の記事として掲載しておきます。男性の性的指向と遺伝的要因との関連についての研究(Sanders et al., 2017)が公表されました。男性の性的指向には多くの要因が関係しており、複数の遺伝的要因と環境的要因に関する証拠が得られています。しかし、男性の性的指向に関する遺伝的関連研究の数は少ないのが現状です。この研究は、おもにヨーロッパ系の男性同性愛者1077人と男性異性愛者1231人を対象として、男性の性的指向に関するGWAS(全ゲノム関連解析)を実施しました。

 その結果、一塩基多型(DNAの塩基配列中の1つの塩基が異なっている箇所)が含まれる領域がいくつか検出されました。その中で最も有意性の高い領域は、13番染色体と14番染色体の遺伝子の近くに位置しており、これらの遺伝子には性的指向の発達に関連した機能があると考えるのが妥当だとされます。13番染色体上で最も強く関連する領域は、SLITRK6遺伝子とSLITRK5遺伝子の間に位置していました。SLITRK6は神経発達遺伝子で、その大部分が間脳という脳部位で発現します。男性の間脳には、性的指向に応じて大きさの異なる領域が存在するという研究報告が過去に発表されています。14番染色体で最も有意性の高い一塩基多型とその周辺の領域はTSHR(甲状腺刺激ホルモン受容体)遺伝子に対応しており、この遺伝子の多様体が、非定型的な甲状腺機能と男性同性愛が関連しているとした過去の研究知見を説明する上で役立つのではないか、と予想されています。

 この研究は、遺伝的性質の複雑な形質に関するサンプルサイズが小さいことと解析対象が単一の祖先集団(ヨーロッパ系)に限定されたことが今回の研究の限界だと指摘したうえで、13番・14番染色体で検出された最も顕著な関連のピークは、それらに最も近い位置にある興味深い遺伝子の一例で、形質関連遺伝子であるかもしれないものの、そうした関連は仮説にすぎない、とも指摘しています。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。


【遺伝学】男性の性的指向と遺伝的要因との関連を探索する

 男性の性的指向に関する予備的な全ゲノム関連解析(GWAS)の結果を報告する論文が、今週掲載される。今回の解析により得られた知見からは、性的指向に関連した機能を持つ可能性のある遺伝子の近くに遺伝的多型が存在していることが示唆されるが、論文著者は、この遺伝的多型と性的指向との関連は推測の域を超えないと指摘している。

 男性の性的指向には多くの要因が関係しており、複数の遺伝的要因と環境的要因に関する証拠が得られている。しかし、男性の性的指向に関する遺伝的関連研究の数は少なかった。

 今回、Alan Sandersたちの研究グループは、主にヨーロッパ系の男性同性愛者1077人と男性異性愛者1231人を対象として、男性の性的指向に関するGWASを実施した。その結果、一塩基多型(DNAの塩基配列中の1つの塩基が異なっている箇所)が含まれる領域がいくつか検出された。その中で最も有意性の高い領域は、13番染色体と14番染色体の遺伝子の近くに位置しており、これらの遺伝子には性的指向の発達に関連した機能があると考えるのが妥当だとされる。

 13番染色体上で最も強く関連する領域は、SLITRK6遺伝子とSLITRK5遺伝子の間に位置していた。SLITRK6遺伝子は、神経発達遺伝子で、その大部分が間脳という脳部位で発現する。男性の間脳には、性的指向に応じて大きさの異なる領域が存在するという研究報告が過去に発表されている。14番染色体で最も有意性の高い一塩基多型とその周辺の領域はTSHR(甲状腺刺激ホルモン受容体)遺伝子に対応しており、この遺伝子のバリアントが、非定型的な甲状腺機能と男性同性愛が関連しているとした過去の研究知見を説明する上で役立つことが予想される。

 Sandersたちは、遺伝的性質の複雑な形質に関するサンプルサイズが小さいことと解析対象が単一の祖先集団(ヨーロッパ系)に限定されたことが今回の研究の限界だと指摘した上で、13番、14番染色体で検出された最も顕著な関連のピークは、それらに最も近い位置にある興味深い遺伝子の一例で、形質関連遺伝子であるかもしれないが、そうした関連は仮説にすぎないと指摘している。



参考文献:
Sanders AR. et al.(2017): Genome-Wide Association Study of Male Sexual Orientation. Scientific Reports, 7, 16950.
http://dx.doi.org/10.1038/s41598-017-15736-4
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大河ドラマ『おんな城主 直虎』第49回「本能寺が変」

2017/12/11 00:00
 これは12月11日分の記事として掲載しておきます。織田信長による徳川家康暗殺計画を知った万千代(虎松)は直虎(次郎法師)に会い、明智光秀が主君の信長に謀反を起こしたさいには、家康を三河へ逃がす手助けをしてほしい、と依頼します。直虎は堺からの海路を選択し、中野直之・奥山六左衛門・瀬戸方久とともにまず京都に行き、家康が信頼する茶屋四郎次郎に相談します。その後、直虎一行は堺に赴き、中村与太夫と再会します。直虎はどの港を経由して海路で帰還するのか、悩みます。直虎は南蛮船で逃げようと考え、再会した龍雲丸に相談します。龍雲丸は、南蛮船を借りるのには直虎が体を売るのが条件だと言い出しますが、直虎はその条件を呑みます。

 その頃、家康は安土城で信長の歓待を受けていました。饗応役は明智光秀でした。そこに、山陽道にいた羽柴秀吉から信長に救援の要請が届きます。信長は光秀に、秀吉の援軍に赴くよう命じますが、家康の饗応役を命じられていた光秀は渋ります。すると、信長は光秀を蹴り、光秀は信長の命に従います。光秀が家康の饗応役から外れ、信長自身が家康一行をもてなします。家康一行は疑心暗鬼に陥り、緊張の連続です。万千代は、秀吉の援軍を命じられ、当初の予定が狂ってしまった光秀がまだ信長に謀反を起こすつもりなのか、探ります。光秀が信長に謀反を起こすのか迷っているようだと判断した家康一行は、信長より京都に来るよう伝えられますが、光秀が謀反を見送るようなら罠にかかりに行くようなものではないか、とさらに疑心暗鬼に陥ります。しかし家康は、実は信長は自分たちを殺そうとはしていないのではないか、と考えて京都に向かおうとします。さすがに家康の家臣団も危ぶみ、本多忠勝が先行して京都の様子を探ることにします。

 光秀はぎりぎりまで迷っていましたが、ついに本能寺にいる信長を討つ決断をくだします。京都に向かっていた家康にも次々と光秀謀反の情報が伝わり、家康は茶屋四郎次郎の案内のもと、領国へと無事に帰還します。この道中、家康一行は光秀の謀反を知っていたのではないか、と穴山信君は気づきますが、本多正信の策により命を落とします。正信は家康に、当主のいなくなった穴山領を狙い、明智光秀方と反明智方の双方に良い顔をするよう進言します。

 今回は本能寺の変が描かれました。光秀から信長への謀反を打ち明けられてそれに乗ったものの、想定外の出来事により疑心暗鬼に陥った家康一行の言動は喜劇調で楽しめました。再開した直虎と龍雲丸のやり取りも喜劇調でした。今回、信長は家康を暗殺するつもりはないのでは、と家康は考えましたが、確かに、信長が光秀や他の誰かにそうした意図を打ち明けたわけではありません。信康事件に続いて本能寺の変もひねってきましたが、光秀の意図は何だったのか、最終回となる次回で明かされるとよいのですが。
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尾本恵市、山極寿一『日本の人類学』

2017/12/10 00:00
 これは12月10日分の記事として掲載しておきます。ちくま新書の一冊として、筑摩書房から2017年11月に刊行されました。碩学二人の対談だけに、教えられること、汲み取るべきことは多いと思います。もちろん、二人の見解すべてに同意するわけではありませんが、今後の勉強・思索・行動の指針になるような示唆に富む対談になっていると思います。ただ、対談形式で、体系的な解説にはなっていないので、人類学の教科書として読もうとすると、期待外れになってしまいそうです。

 本書を貫くのは、分断されている人類学を統合して、本来の力を取り戻さねばならない、との信念です。日本では、人類学は自然人類学と文化人類学とに分断されているので、本来は学際的・総合的な人類学の潜在的能力が半減しているのではないか、というわけです。この信念の背景には、小さな範囲から地球規模までさまざまな問題を抱えるなか、人類学は現代社会にとって重要な指針たり得る、との確信があります。

 尾本氏の側は先住民族の諸問題、山極氏の側はゴリラの知見がやはり読みごたえのある内容になっており、教えられるところが多々ありました。尾本氏には、狩猟採集民から現代文明を照射するという問題意識もあり、今ではごく一部のみになったとはいえ、人類史の大半は狩猟採集社会だったでしょうから、この観点は重要になると思います。体系的ではありませんが、著者二人の経歴と人間模様にもかなりの分量が割かれており、人類学史になっている点も興味深いと思います。


参考文献:
尾本恵市、山極寿一(2017) 『日本の人類学』(筑摩書房)
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見直しが進む現生人類の拡散

2017/12/09 00:00
 これは12月9日分の記事として掲載しておきます。アジアの学際的な諸記録から、現生人類(Homo sapiens)の拡散の見直しを提言した研究(Bae et al., 2017)が報道されました。現生人類の拡散に関する古典的な仮説では、現生人類はアフリカで出現し、非アフリカ系現代人は6万〜5万年前頃のアフリカからユーラシアへの1回の移住集団にのみ起源があり、ネアンデルタール人(Homo neanderthalensis)などユーラシア各地の先住人類と交雑することなく置換していった、とされます。

 しかし近年では、考古学・古人類学・地質年代学・遺伝学・古気候学などの諸研究成果から、こうした古典的な現生人類出アフリカ仮説の見直しが進んでいます。本論文は、学際的な研究により現生人類の拡散を見直す必要がある、と指摘しています。たとえば、現生人類がネアンデルタール人や種区分未定のデニソワ人(Denisovan)やといった他系統の人類とある程度交雑していたことは、今ではほぼ通説となっています。したがって、現生人類のアフリカからの拡散にともなう、ユーラシア各地の先住人類集団との交雑のない完全置換という古典的な仮説は、今ではほぼ否定されている、と言ってよいでしょう。

 この研究はその他にも、6万年以上前のユーラシアやオセアニアにおける現生人類の痕跡が近年になって主張されているとして、現生人類の出アフリカが1回のみだったとする古典的な仮説の見直しを提言しています。たとえば、東アジアでは12万〜8万年前頃の現生人類と推定される歯が発見され(関連記事)、スマトラ島(更新世の寒冷期には、周辺の島々とともにユーラシア大陸と陸続きのスンダランドを形成していました)で発見された現生人類の歯は73000〜63000年前頃と推定されており(関連記事)、オーストラリア大陸(更新世の寒冷期には、ニューギニア島やタスマニア島とも陸続きとなり、サフルランドを形成していました)では、65000年前頃の人類の痕跡が確認されています(関連記事)。

 一方で、非アフリカ系現代人の主要な遺伝子源はアフリカからユーラシアへと6万年前頃に拡散してきた単一の集団との見解も根強くあります(関連記事)。現時点でこれを整合的に解釈すると、12万年前頃から現生人類の出アフリカの小さな波が始まり(早期拡散)、6万年前頃にアフリカからユーラシアへと現生人類の大きな拡散(後期拡散)があったのではないか、と考えられます。現生人類のアフリカからの早期拡散については不明なところが多いものの、早期拡散現生人類集団は、現代人にもわずかながら遺伝的痕跡を残している、と推定されています(関連記事)。

 この研究は現生人類の拡散に関して、行動面、とくに物質文化は、西から東へと単純に時間の経過とともに移動していったわけではない、と考古学的記録から指摘しています。この研究は、物質文化の拡散が環境と関連した可能性を検証する必要性を指摘しています。これと関連して、物質文化(考古学的記録)からも窺える、いわゆる現代的行動の問題も注目されます。現代的行動は、現生人類のアフリカからの拡散と、ネアンデルタール人のようなユーラシア各地の先住人類との「交替劇」の要因になったのではないか、との見解は根強くあります。しかし、その詳細と効果は不明で、この研究でも指摘されているように、環境への適応や現生人類と先住人類との接触にともなう行動の変容など、さまざまな観点から検証される必要があるでしょう。


参考文献:
Bae CJ, Douka K, and Petraglia MD.(2017): On the origin of modern humans: Asian perspectives. Science, 358, 6368, eaai9067.
http://dx.doi.org/10.1126/science.aai9067
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アウストラロピテクス属化石「リトルフット」の公開

2017/12/08 00:00
 これは12月8日分の記事として掲載しておきます。南アフリカ共和国のスタークフォンテン(Sterkfontein)洞窟で発見されたアウストラロピテクス(Australopithecus)属化石「リトルフット(StW 573)」が復元され、国内外のメディアに公開された、と報道されました。リトルフットは1994年に発見されましたが、固い角礫岩に埋まっていたので、長い時間をかけて慎重に取り出され、復元されました。人類に限らず哺乳類の化石は脆いので、長期間を経て良好な状態で保存されていることはほとんどないのですが、リトルフットは固い角礫岩に埋まっていたため、たいへん良好な状態で発見されました。

 リトルフットの年代は、以前は220万年前頃と推定されていましたが、近年になって、367万±16万年前と修正されています(関連記事)。これだけ古い時代の保存状態が良好な人類化石はまだ知られておらず、アフリカ南部の人類化石としても、リトルフットは最古となります。現時点では、アウストラロピテクス属の出現はアフリカ東部の方が早く、400万年以上前までさかのぼります(関連記事)。しかし、遅くとも367万年前頃にはアフリカ南部までアウストラロピテクス属が拡散していたとなると、アウストラロピテクス属の拡散は、出現してからさほど時間が経過していない時期までさかのぼるかもしれません。

 リトルフットはアウストラロピテクス属と分類されていますが、詳細な形態学的特徴や種区分については、まだ研究が公表されていません。近いうちに、復元されたリトルフットについての論文が国際的な学術誌に掲載される予定とのことで、たいへん注目されます。400万〜300万年前頃のアウストラロピテクス属化石としてはアファレンシス(Australopithecus afarensis)がよく知られており、リトルフットがアファレンシスとどのように違うのか、どこまで類似しているのか、ということが注目されます。
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顔の表情により意思疎通を図ろうとするイヌ

2017/12/07 00:00
 イヌの意思疎通と顔の表情に関する研究(Kaminski et al., 2017)が公表されました。動物の顔面表情は、柔軟性のない不随意の誇示行動で、感情状態の反映とされ、他者と意思の疎通を図ろうとする積極的な試みではないと考えられてきました。しかし、非ヒト霊長類の顔面表情には、観客の存在という要素の介在が明らかになり、霊長類はその顔面表情を他者に見られているかどうかをある程度理解している可能性がある、と示唆されました。しかし、霊長類以外の動物種については、類似した観客の注目に対する感受性により顔面表情が作られていることを示す証拠はありませんでした。

 この研究は、イヌの顔の表情が、人間がイヌに注目しているかどうかに応じて作られるのか、調べました。この研究では、実験助手がイヌに顔を向けているか背を向けているかという条件と、食べ物を持っているかいないかという条件とを組み合わせた、合計4通りの状況に24種の家犬を置いて実験し、ビデオカメラを使い、それぞれの状況下でのイヌの顔面表情の応答を記録して解析しました。その結果、実験助手がイヌに顔を向けている場合は、実験助手がイヌに背を向けている場合よりもイヌの顔の動きが有意に活発になり、食べ物を持っているかどうかは結果に影響を及ぼさない、と明らかになりました。

 この研究は、イヌが意思疎通を図ろうとして顔の表情を作っており、他者からの注目に応じて顔面表情を作る頻度が高くなる、との見解を提示しています。顔面表情は、無意識に生じる反射的なシステムで感情を露呈したものだと考えられてきました。これに対して、顔面表情はもっと柔軟なシステムで、イヌの情動過程と認知過程と思われる過程が組み合わさっていることが、この実験により示されている、と指摘されています。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。


【動物行動学】イヌは顔の表情で意思の疎通を図ろうとしているかもしれない

 家犬が顔の表情を使って意思の疎通を図ろうとしている可能性のあることを明らかにした初期研究について報告する論文が、今週掲載される。

 動物の顔面表情は、柔軟性のない不随意の誇示行動で、感情状態の反映とされ、他者と意思の疎通を図ろうとする積極的な試みではないと考えられてきた。ところが、非ヒト霊長類の顔面表情には、観客の存在という要素が介在していることが明らかになり、霊長類は、その顔面表情を他者に見られているかどうかをある程度理解している可能性のあることが示唆された。しかし、霊長類以外の動物種については、これと同じような観客の注目に対する感受性によって顔面表情が作られていることを示す証拠がなかった。

 今回、Juliane Kaminskiたちの研究グループは、イヌの顔の表情が、人間がイヌに注目しているかどうかに応じて作られるのかどうかを調べた。今回の研究では、実験助手がイヌに顔を向けているか背を向けているかという条件と食べ物を持っているかいないかという条件を組み合わせた合計4つの状況に24種の家犬を置いて実験を行い、ビデオカメラを使って、それぞれの状況下でのイヌの顔面表情の応答を記録し、解析した。その結果、実験助手がイヌに顔を向けている場合は、実験助手がイヌに背を向けている場合よりもイヌの顔の動きが有意に活発になり、食べ物を持っているかどうかは結果に影響を及ぼさないことが明らかになった。

 Kaminskiたちは、イヌが意思の疎通を図ろうとして顔の表情を作っており、他者からの注目に応じて顔面表情を作る頻度が高くなるという考えを示している。顔面表情は、無意識に生じる反射的なシステムで感情を露呈したものだと考えられてきた。これに対して、Kaminskiたちは、顔面表情がもっと柔軟なシステムで、イヌの情動過程と認知過程と思われる過程を組み合わさっていることが、今回の研究データによって示されていると主張している。



参考文献:
Kaminski J. et al.(2017): Human attention affects facial expressions in domestic dogs. Scientific Reports, 7, 12914.
http://dx.doi.org/10.1038/s41598-017-12781-x
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ネアンデルタール人と現生人類の交雑パターンおよび生殖隔離

2017/12/06 00:00
 これは12月6日分の記事として掲載しておきます。取り上げるのがたいへん遅れましたが、ネアンデルタール人(Homo neanderthalensis)と現生人類(Homo sapiens)との交雑パターンおよび生殖隔離の影響に関する研究(Overmann, and Coolidge., 2013)が公表されました。ネアンデルタール人と現生人類との交雑は、今では広く認められています。しかし、それがどのようなパターンだったのか、詳細は不明です。本論文は、チンパンジー(Pan troglodytes)とボノボ(Pan paniscus)など他の霊長類の事例も参照して、生殖隔離がネアンデルタール人と現生人類の交雑パターンにどのような影響を及ぼしていたのか、検証しています。

 本論文はネアンデルタール人の高品質なゲノム配列が決定される前に公表されており、野生環境では観察されていないチンパンジーとボノボの交雑にしても、本論文の後に公表された研究により、過去には起きていた可能性の高いことが指摘されています(関連記事)。たいへん研究の進展の速い分野だけに、その意味ではやや古いと言えるかもしれませんが、生殖隔離という観点からのネアンデルタール人と現生人類の交雑パターンの検証は興味深いと思います。

 本論文は、他の霊長類の事例から、生殖隔離が交雑の方向性と交雑の結果生まれた個体の生存確率に影響を及ぼし、ネアンデルタール人と現生人類の交雑においても同様だっただろう、と指摘しています。ネアンデルタール人と現生人類との推定分岐年代からして、両者の間の生殖隔離はじゅうぶんではなかっただろう、と推測されています。しかし本論文は、形態学・考古学・遺伝学などの証拠から、ネアンデルタール人と現生人類との間には形態・行動・認知・遺伝子の違いがあり、それがある程度の生殖隔離を生じさせ、両者の交雑にも影響を及ぼしていたのではないか、と推測しています。具体的には、仲間としての認識や性選択(配偶行動)で、それが交雑のパターンや交雑第一世代の生存確率にも影響してきます。

 ネアンデルタール人と現生人類の間の行動の違いとしては、たとえば、ネアンデルタール人社会では夫居制的配偶行動が見られる、との見解が提示されています(関連記事)。夫居制的配偶行動は現代でも70%の社会で見られると推定されてきましたが、じっさいにはもっと低い割合で、狩猟採集民社会では女性の拡散に関して典型的なパターンはない、との指摘もあります。この見解が妥当だとしたら、ネアンデルタール人と現生人類とで配偶行動のパターンに有意な違いがあったかもしれず、それが両者の交雑に影響を及ぼした可能性が想定されます。

 本論文は、ネアンデルタール人と現生人類との交雑として、ネアンデルタール人男性と現生人類女性の組み合わせも想定しています。両者の間で交雑が生じ、ネアンデルタール人の遺伝的影響が非アフリカ系現代人に見られるにも関わらず、母系遺伝のミトコンドリアDNA(mtDNA)も父系遺伝のY染色体DNAも、ネアンデルタール人由来のものは現代人では確認されていません。ネアンデルタール人と現生人類とが交雑した場合、ネアンデルタール人の男性と現生人類の女性という組み合わせでは、そもそも男児が生まれにくかった可能性もありますので(関連記事)、両者の交雑では、ネアンデルタール人男性と現生人類女性の組み合わせが多かったというか一般的だったのかもしれません。


参考文献:
Overmann KA, and Coolidge FL.(2013): Human species and mating systems: Neandertal-Homo sapiens reproductive isolation and the archaeological and fossil records. Journal of Anthropological Sciences, 91, 91-110.
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ファミリー劇場HDリマスター版『太陽にほえろ!』683話〜686話

2017/12/05 00:00
683話「獲物は狩人を誘う」6
 ドックはボスの許可を得て、一人で6ヶ月前の殺人事件を追っていました。ドックはすでに、若手実業家の男性が犯人ではないか、と目星を付けていました。ブルースは、ドックが6ヶ月前の事件を追い続けていることに感心します。ドックの立ち位置は、陽気な若手刑事の一員から若手刑事たちのリーダー格へと変わってきましたが、そこからさらに山さんやトシさんのようなベテラン刑事へと変わりつつあるのではないか、とも予感させる場面でした。まあ、本作はここから1年ほどで第2部も終了するので、本作ではベテランとしてのドックは見られなかったわけですが。ドックが一人で6ヶ月前の殺人事件を追っていたところ、誘拐事件が発生し、犯人はドックを身代金の受け渡し人に指名します。犯人はドックに恨みがある、と言います。ドックが追っている6ヶ月前の殺人事件と誘拐事件どう結びついてくるのか、という謎解きもまずまず楽しめましたが、ドックのアクションシーンもなかなかよかったと思います。


684話「美しき花の誘惑」5
 交通課の婦警が駐車違反の取り締まり中に、自動車の運転手の男性が戻ってきて、運転免許を見せるふりをして急発進し、婦警の一人をはねて逃亡します。男性はヘロインを大量に持っており、すぐに身許が特定されます。かつてトシさんは、その男性を逮捕したことがありました。トシさんは、かつて犯人の男性とともに麻薬売買に関わって逮捕された工藤という男性を訪ねます。工藤は、かつての恩義からトシさんのために捜査に協力しようとします。犯罪者の更生と家族との関わりという普遍的問題を扱った、王道的な話と言えるでしょう。しかし、全体的に盛り上がりに欠けた感は否めません。


685話「ロッキーの白いハンカチ」5
 かつてロッキーに逮捕され、仮出所してきた男性が、マミーにロッキーのハンカチを返しに来ます。その後、覚醒剤売買の前科のある男性が転落死します。前科があることで、一係は他殺の線でも捜査を進めます。山さんは聞き込みで得た情報から、男性はもう覚醒剤売買には関与していなかった、と判断します。マミーは死んだ男性と同じマンションの主婦が怪しいと疑い、捜査を続けます。すると、主婦にはかつて暴力団とのつながりがあり、死んだ男性から覚醒剤を買っていたことが明らかになります。捜査は二転三転し、けっきょく、主婦は男性を殺しておらず、死んだ男性と会っていたところを見られた女性を殺したのではなく、転落したところを見殺しにしたのでした。謎解き要素があり、ヒューマンドラマにもなっていて、盛り上がりに欠けたところはあったものの、悪くはなかったと思います。ただ、ロッキーのハンカチとのつながりは上手くなかったように思います。マミー主演作では、ロッキーの回想が多いように思います。ロッキーの後期主演作に当時セミレギュラーだったマミーが登場していたように、マミー単独では視聴者への訴求力が弱い、と制作者側が判断していたのでしょうか。


686話「俺の相棒」6
 覚醒剤中毒の男性が自分の息子を人質にとり、逃亡する父親をブルースは追い詰めます。父親はブルースに拳銃を捨てるよう要求し、ブルースは拳銃を窓の外に捨て、油断した父親を逮捕します。しかし、ブルースが拳銃を回収しようとすると、拳銃は見つかりませんでした。そこへ男性から一係に電話がかかってきて、自分は安西という男性に脅かされており、安西を逮捕したら拳銃を返す、と言います。イライラしているブルースは代わりの拳銃を持たずに安西の行方を追います。ブルースは自動車修理工場で安西を見つけますが、安西は逃亡し、ブルースは解体車に乗って安西を追跡します。しかし、ブルースは安西を捕まえるのに失敗します。ブルースは安西と親しかった男性から、安西は社長を狙っている、という情報を得ます。「相棒」である拳銃を奪われて苛立つブルースに、ボスはマイコンを「相棒」として捜査を進めるよう命じます。やや喜劇調で話が進み、ブルースのアクションシーンが長めだったので、その点では楽しめました。ブルースの「相棒」として拳銃とマイコンを対比させたことも、安西にも「相棒」がいて、社長を狙っていたのはその「相棒」の方だった、という話のオチも悪くなかったと思います。テキサスや原のテーマが使われ、懐かしくはありましたが、あまり合っていなかったような気がします。
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大河ドラマ『おんな城主 直虎』第48回「信長、浜松来たいってよ」

2017/12/04 00:00
 これは12月4日分の記事として掲載しておきます。武田を滅ぼした織田信長は甲斐から安土城へと戻る途中、徳川領内の名所を訪れたい、と徳川家康に言います。万千代(虎松)や奥山六左衛門は信長をもてなすために奔走します。浜松城を訪れた信長のもとに今川氏真が挨拶に来ます。氏真は信長に取り入ろうとして、美丈夫たちを集めて相撲を取らせます。その中には中野直之もいました。信長は家康に道中のもてなしを感謝し、今後も頼むと言います。

 信長は上機嫌に安土城へと帰還し、徳川家中は安堵しますが、このままでよいのか、と万千代が言い出します。そこへ織田からの使者が訪ねてきて、家康と重臣たちを織田領国の上方に招く、との信長の意向を伝えます。榊原康政と家康は、信長の罠ではないか、と疑います。家康・康政・万千代が対応を悩む中、氏真が訪ねてきます。氏真は、招きに応じた方がよい、と家康に進言し、何か囁きます。直虎(次郎法師)は井伊谷に迷い込んでいた身元不明の子供と氏真との関わりを突き止め、氏真に事情を問い質します。氏真は浜松城で、信長家臣の明智光秀から信長をともに討とう、と打ち明けられました。光秀は、家康と家臣団を上方に招いて討ち取るのが信長の意図だ、と氏真に伝えたのでした。井伊谷の少年は光秀の息子で、人質だったわけです。氏真は直虎に、光秀の計画に乗るつもりだ、と打ち明けますが、直虎は迷います。

 直虎は家康に会い、家康こそ平和な世を築く人物だ、と伝えますが、家康は光秀の計画に乗るべきか、即断はできません。しかし家康は、家臣団の決意が固まっているのを見て、信長の招待を受けて上方へと向かうことにします。今回は本能寺の変へといたる道が描かれました。創作なのでしょうが、本作のこれまでの描写を踏まえて、上手く直虎を絡めた話になっていたように思います。確か、本能寺の変のさいには家康を討つのかと思っていた、との証言を残した光秀の配下がいたと記憶していますが、それを踏まえての創作なのでしょう。歴史ドラマとしてはありだと思います。
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斎藤成也『核DNA解析でたどる日本人の源流』

2017/12/03 00:00
 これは12月3日分の記事として掲載しておきます。河出書房新社から2017年11月に刊行されました。本書はまず人類進化史と現生人類(Homo sapiens)のアフリカからの拡散を、最新の研究成果に基づいて簡潔に概観した後、日本列島の現代人がどのように形成されてきたのか、おもに核DNAの解析結果に基づいて検証しています。もっとも、本書は、核DNAよりは得られる情報が少なくなるものの、ミトコンドリアDNA(mtDNA)とY染色体DNAについてのこれまでの研究も取り上げています。本書で言及されている核DNA解析には、現代人だけではなく、縄文時代の住民のもの(古代DNA)も含まれています。

 本書は、4万年前頃から続く日本列島における人類史を把握するために、「ヤポネシア」という概念を提示しています。本書はヤポネシアを、千島列島・樺太島・北海道を中心とした北部、本州・四国・九州を中心とした中央部、琉球列島弧(南西諸島)の南部に区分しています。本書は、「ヤポネシア人」成立の説明として、近年の遺伝学的知見からも、「二重構造モデル」が大まかには妥当だ、との見解を提示しています。「二重構造モデル」とは、更新世に東南アジア方面から日本列島に移住してきた人々が縄文人となり、弥生時代に北東アジア起源の集団が日本列島に移住してきて先住の「縄文系」と混血し、現代日本人が形成されていった、とする仮説です。「二重構造モデル」では、北部のアイヌ人と南部のオキナワ人は、弥生系渡来人の影響をほとんど受けなかった、とされます。

 本書は、現代アイヌ人の形成においてオホーツク文化集団の影響があったことや、更新世に日本列島に渡来した集団が、東南アジアのみではなく複数の方面に由来するであろうことを指摘し、「二重構造モデル」を修正しています。更新世に日本列島に移住してきて、縄文人の主要な祖先になったと思われる集団は、著者も執筆者の一人となった論文において、現代東ユーラシア系集団とは遺伝的に大きく異なっていたことが明らかになりました(関連記事)。

 本書の見解で「二重構造モデル」との相違点としては、このようなものもありますが、最も大きな違いは、日本列島への移住民集団の第一波である「縄文系」にたいする新たな渡来系の波には二段階あった、とするものでしょう。「縄文系」が居住していた日本列島に、まず4400〜3000年前頃、ユーラシア大陸東部から人々が移住してきました(移住民第二波)。この集団の起源地はまだ不明ですが、朝鮮半島・遼東半島・山東半島周辺から、「海の民」もしくは園耕民が日本列島に移住してきた可能性を本書は指摘しています。また本書は、この渡来集団が日本語の祖語をもたらした可能性も想定しています。

 3000年前頃以降、第二波と遺伝的に近い第三波の移住民が水田稲作を日本列島にもたらしました。本書はこの第三波の移住民を、弥生時代と古墳時代の二段階に区分しています。本書は、まだ一般にはほとんど知られていないだろう縄文人のDNA解析の最新の研究成果も少し紹介しており、今後の研究の進展が期待されます。とくに、西日本の縄文人のDNA解析が進められているとの情報には、東西の違いという観点からも、大いに注目しています。本書は、現代日本人の遺伝学的な起源論に関心のある人にはお勧めの一般書になっていると思います。


参考文献:
斎藤成也(2017)『核DNA解析でたどる日本人の源流』(河出書房新社)
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マウスの仔の行動異常をもたらすの母体の炎症

2017/12/02 00:00
 これは12月2日分の記事として掲載しておきます。マウスの仔の行動異常をもたらすの母体の炎症に関する二つの研究が公表されました。霊長類と齧歯類の両方で、妊娠中に起こる母体免疫活性化(MIA)が仔の神経発達症に伴う行動異常の一因になっていることが知られています。ヒトの場合には、胎児が母体の炎症にさらされると、自閉症スペクトラム症にかかる確率が高くなることが複数の研究で示唆されています。また、過去のマウスの研究では、Th17細胞(複数の炎症性疾患に関与するヘルパーT細胞)によって産生されるインターロイキン17aという分子が関係している可能性が示唆されています。妊娠マウスの免疫系が感染症や自己炎症性症候群のために活性化されると、インターロイキン17aが仔の行動異常と皮質異常を誘発します。

 一方の研究(Kim et al., 2017)は、仔マウスがMIA関連行動をとるようになる過程に母体の腸内細菌が寄与しているのかどうか、調べました。その結果、妊娠中のTh17細胞の産生を促進する腸内細菌が母体内に存在していると、その仔がMIA関連の行動異常を起こす確率が高くなる、と判明しました。とくに、Th17細胞を誘導するマウスセグメント細菌やヒト共生細菌が定着したマウスが妊娠中に感染症にかかると、仔が神経発達症を発症するリスクが通常より高くなる可能性がある、と明らかになりました。

 もう一方の研究(Yim et al., 2017)は、マウスの母体の炎症にさらされた仔に観察された行動異常に介在する脳領域を特定しました。こうした仔に対する影響が、一次体性感覚皮質を含む領域に生じることが明らかになったわけです。一次体性感覚皮質は、(自分の体の位置が分かる感覚に関連した)固有受容機能に関係するとされてきました。また、MIA関連神経発達症を発症した仔に観察された行動異常を修正する場合には、一次体性感覚皮質の神経活動を低下させることで充分なことも明らかになりました。これらの知見はヒトの自閉症とは関係ないものの、腸内細菌・免疫系・脳の発達の相互作用の複雑さを明らかにすることで、貴重な手掛かりをもたらしている、と指摘されています。以下は『ネイチャー』の日本語サイトから引用(引用1および引用2)です。


【免疫学】マウスの母体の炎症が仔の行動異常の一因になる仕組み

 マウスの母体の炎症が仔の行動異常の発生につながる仕組みに関する手掛かりを論じた2編の論文が、今週掲載される。

 霊長類と齧歯類の両方で、妊娠中に起こる母体免疫活性化(MIA)が仔の神経発達症に伴う行動異常の一因になっていることが知られている。ヒトの場合には、胎児が母体の炎症にさらされると、自閉症スペクトラム症にかかる確率が高くなることが複数の研究で示唆されている。また、過去のマウスの研究では、Th17細胞(複数の炎症性疾患に関与するヘルパーT細胞)によって産生されるインターロイキン17aという分子が関係している可能性が示唆されている。妊娠マウスの免疫系が感染症や自己炎症性症候群のために活性化されると、インターロイキン17aが仔の行動異常と皮質異常を誘発する。

 Jun Huh、Gloria Choiたちの研究グループは、仔マウスがMIA関連行動をとるようになる過程に母体の腸内細菌が寄与しているのかどうかを調べた。その結果、妊娠中のTh17細胞の産生を促進する腸内細菌が母体内に存在していると、その仔がMIA関連の行動異常を起こす確率が高くなることが判明した。特に、Th17細胞を誘導するマウスセグメント細菌やヒト共生細菌が定着したマウスが妊娠中に感染症にかかると、仔が神経発達症を発症するリスクが通常より高くなる可能性のあることが明らかになった。

 一方Choi、Huhたちの研究では、マウスの母体の炎症にさらされた仔に観察された行動異常に介在する脳領域が特定された。つまり、こうした仔に対する影響が一次体性感覚皮質を含む領域に生じることが明らかになったのだ。一次体性感覚皮質は、(自分の体の位置が分かる感覚に関連した)固有受容機能に関係するとされてきた。また、MIA関連神経発達症を発症した仔に観察された行動異常を修正する場合には、一次体性感覚皮質の神経活動を低下させることで十分なことも明らかになった。

 上記2論文に記述された機構はヒトの自閉症とは関係ないが、「これらの論文は腸内細菌、免疫系、脳の発達の相互作用の複雑さを明らかにすることで貴重な手掛かりをもたらしていることに変わりはない」と同時掲載のCraig PowellのNews & Views論文に記されている。


免疫学:母体の炎症に曝露されたマウスの行動異常を回復させる

免疫学:母体の腸内細菌は仔マウスに神経発達障害を促進する

免疫学:行動異常の背景となる脳の小領域

 妊娠中のウイルス感染と母体免疫活性化(MIA)は、子の行動異常との関連が示されている。今回G ChoiとJ Huhたちは、体性感覚皮質の特異的な皮質小領域が、機能不全の決定的領域であることを突き止め、このような皮質小領域の存在とそのサイズが、特定の社会的行動と相関することを示している。彼らはさらに別の論文で、MIAを介する異常な行動表現型には、インターロイキン17(IL-17)を産生する17型ヘルパーT(TH17)細胞を誘導する特定の腸内共生細菌が必要であるとする証拠を示している。この結果は以前彼らが示した、この関連性におけるTH17細胞の役割と一致する。



参考文献:
Kim S. et al.(2017): Maternal gut bacteria promote neurodevelopmental abnormalities in mouse offspring. Nature, 549, 7673, 528–532.
http://dx.doi.org/10.1038/nature23910

Yim YS. et al.(2017): Reversing behavioural abnormalities in mice exposed to maternal inflammation. Nature, 549, 7673, 482–487.
http://dx.doi.org/10.1038/nature23909
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テレビの代用品として意外と悪くない「GW2265HM 21.5」

2017/12/01 00:13
 先月(2017年11月)17日にテレビが故障し、テレビを買い替えるのではなく、21.5インチのモニターBenQ「GW2265HM 21.5」を新たに購入し、録画機と接続してテレビ番組を視聴していることは、先日このブログで述べました(関連記事)。その後、1週間ほどニュース・ドラマ・相撲・競馬を視聴してきましたが、画質にも慣れ、意外と悪くないな、と思うようになりました。フルハイビジョンですから、ある程度画面が小さい方が、至近距離ではむしろ粗が目立たないかな、とは予想していたのですが、その効果は予想以上でした。現在デスクトップパソコンと接続している27インチのモニターでは、やや粗が目につきました。もっとも、画質にはさほど不満はありませんが、音質にはやや不満が残ります。

 まあ、いつかはテレビを購入しようと考えているのですが、来年12月に4k放送が本格的に始まるまでは待ってもよさそうかな、と思います。そのさいには、4k放送対応の録画機も購入する予定です。テレビの買い替え用にと考えていた予算は、バッテリーがかなり劣化してしまったスマホの買い替えに流用しようかとも思っていたのですが、こちらも、どうにも使い物にならなくなるまで使い続けることにしました。デスクトップパソコンも買い替えたいのですが、こちらも、少なくとも来年発売予定のAMDの新CPU「Zen+」が日本市場に本格的に登場するまでは、故障しないかぎり使い続けるつもりです。
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雷による放射性同位体の生成

2017/11/30 00:00
 これは11月30日分の記事として掲載しておきます。雷による放射性同位体の生成に関する研究(Enoto et al., 2017)が公表されました。雷雲では、相対論的電子によってエネルギーが非常に高いγ線が放出され、理論的にはこうしたγ線の大気中の原子や分子との相互作用により、放射性同位体・中性子・陽電子などが生成される可能性があり、最近、中性子や陽電子が観測されたとする弱い証拠がいくつか報告されました。この研究は、4台の放射線検出器を使い、2017年2月6日に日本国内で雷雨が発生したさいに、中性子と陽電子の信号を検出しました。この観測結果から、雷が引き金となって生成されたガンマ線光子のバーストが大気中の原子核と衝突して光核反応が起こり、その結果、中性子と不安定な放射性同位体が生成され、この放射性同位体が崩壊するさいに陽電子が放出された、との見解が提示されています。炭素14などの同位体の自然の生成経路については、大気中での宇宙線の相互作用のみが判明していましたが、雷もその生成経路だった、というわけです。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用(引用1および引用2)です。


【物理学】雷による放射性同位体の生成

 雷が引き金となって大気中で核反応が起こり、放射性同位体が生成されることを明らかにした論文が、今週掲載される。

 雷雲の中で生じるガンマ線のエネルギーにより大気中で光核反応が起こり、その結果、中性子が放出され、究極的には陽電子(電子の反物質)が放出されるという仮説が提示されている。しかし、この光核反応の観測は十分になされていなかった。

 京都大学の榎戸輝揚(えのと・てるあき)たちの研究グループは、4台の放射線検出器を使って、2017年2月6日に日本国内で雷雨が発生した際に中性子と陽電子の信号を検出した。榎戸たちは、この観測データを基に以下の考えを示している。雷が引き金となって生成されたガンマ線光子のバーストが大気中の原子核と衝突して、光核反応が起こり、その結果、中性子と不安定な放射性同位体が生成され、この放射性同位体が崩壊する際に陽電子が放出されたというのだ。13C、14C、15Nなどの同位体の自然の生成経路については、大気中での宇宙線の相互作用のみが判明しているが、榎戸たちは、雷もその生成経路であることが今回の発見によって分かったと考えている。


大気化学:雷放電によって引き起こされる光核反応

大気化学:雷雨の中で放射性同位体が生成される

 雷雲では、相対論的電子によってエネルギーが非常に高いγ線が放出され、理論的にはこうしたγ線の大気中の原子や分子との相互作用によって、放射性同位体、中性子、陽電子などが生成される可能性がある。最近、中性子や陽電子が観測されたとする弱い証拠がいくつか報告された。今回、榎戸輝揚(京都大学)たちは、2017年2月6日に日本の沿岸域で雷雨を観測し、γ線フラッシュに伴って、電子–陽電子対消滅の明確な特徴と、中性子捕獲により励起した核の脱励起によって生じたγ線が見られたことを報告している。著者たちは、雷の後、放射性同位体のβ+崩壊によって陽電子が生成されたと結論している。



参考文献:
Enoto T. et al.(2017): Photonuclear reactions triggered by lightning discharge. Nature, 551, 7681, 481–484.
http://dx.doi.org/10.1038/nature24630
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アフリカにおける後期ホモ属の進化

2017/11/29 00:00

 これは11月29日分の記事として掲載しておきます。取り上げるのが遅れましたが、アフリカにおける後期ホモ属の進化についての研究(Profico et al., 2016)が公表されました。ここでの後期ホモ属とは、脳容量の増大した、中期更新世以降に存在したホモ属を想定しています。この研究は、分類について議論があることも取り上げつつ、ネアンデルタール人(Homo neanderthalensis)と現生人類(Homo sapiens)の共通祖先としてハイデルベルゲンシス(Homo heidelbergensis)という種区分を採用しており、アフリカにおけるハイデルベルゲンシスの出現過程を検証しています。ハイデルベルゲンシスについては、形態学的に多様性が大きく一つの種に収まらないほどの変異幅があるとか(関連記事)、ハイデルベルゲンシスの正基準標本とされているマウエル(Mauer)の下顎骨は現生人類とネアンデルタール人の共通祖先と考えるにはあまりにも特殊化しているとか(関連記事)、指摘されています。

 アフリカのホモ属の進化に関するこれまでの知見では、100万年前頃の人類化石がアフリカの最初期の(異論の余地のほぼない)ホモ属であるエルガスター(Homo ergaster)との形態学的類似性を示す一方で、中期更新世以降のイデルベルゲンシス(Homo heidelbergensis)と呼ばれている分類群とは頭蓋の形態が異なるため、不連続性が示唆されていました。これは、アフリカにおける90万〜60万年前頃の人類化石記録の乏しさが要因になっていると考えられます。

 この研究は、アフリカにおけるホモ属化石の空白期間を埋めるものとして、エチオピアのアワッシュ川上流のメルカクンチュレ(Melka Kunture)層のゴンボレ2(Gombore II)遺跡で1973年と1975年に発見された2個の大きなホモ属の頭蓋断片を分析・比較しています。一方は部分的な左側頭頂であるメルカクンチュレ1(Melka Kunture 1)で、もう一方は側頭骨の右側であるメルカクンチュレ2(Melka Kunture 2)で、両者は同一個体のものだと推測されています。両頭蓋の年代は、875000±10000年前よりやや新しいのではないか、と推定されています。両頭蓋の比較対象は、更新世のホモ属化石です。

 ゴンボレ2遺跡の2個の頭蓋は、エルガスターとハイデルベルゲンシスというアフリカのホモ属化石と比較して、頭蓋が顕著に厚く、むしろイタリアのセプラノ(Ceprano)遺跡で発見された前期もしくは中期更新世の頭蓋冠に似ている、と指摘されています。しかし、ゴンボレ2遺跡の2個の頭蓋が総合的に最もよく類似しているのは、アフリカのエルガスターおよびハイデルベルゲンシスで、ネアンデルタール人や現生人類とはもっと相違が大きくなる、と指摘されています。

 この研究は、総合すると、ゴンボレ2遺跡の2個の頭蓋(おそらくは1個体のもの)は、アフリカにおけるエルガスターとハイデルベルゲンシスの間の形態学的な相違を埋めるものであり、80万年前頃にアフリカに出現したハイデルベルゲンシスがユーラシアへと拡散したのではないか、との見解を提示しています。ハイデルベルゲンシスという種区分の問題はさておくとして、ネアンデルタール人と現生人類(だけではないのでしょうが)の共通祖先系統としてのホモ属の分類群が80万年前頃までにアフリカに出現し、ユーラシアへと拡散した、との見解は、大まかにはじゅうらいの有力説の枠組みで把握できるでしょうし、近年の遺伝学の研究成果とも整合的だと思います(関連記事)。ただ、やはりアフリカにおける90万〜60万年前頃の人類化石記録の乏しさという問題は残っており、この時期の新たな人類化石の発見が期待されます。


参考文献:
Profico A. et al.(2016): Filling the gap. Human cranial remains from Gombore II (Melka Kunture, Ethiopia; ca. 850 ka) and the origin of Homo heidelbergensis. Journal of Anthropological Sciences, 94, 41-63.
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大河ドラマ『おんな城主 直虎』第47回「決戦は高天神」

2017/11/28 00:00
 これは11月28日分の記事として掲載しておきます。嫡男の信康(竹千代)と正妻の瀬名(築山殿)を失った無念を晴らすため、徳川家康は駿河を奪うと家臣団に宣言し、信康と瀬名に殉じようとした岡崎衆の石川数正を呼び戻します。徳川軍は武田方の堅城である高天神城を攻め、中野直之は武田側の間者を見抜いて捕えます。万千代(虎松)はこの間者から高天神城の情報を聞き出す功績を立て、2万石の加増を言い渡されます。徳川軍の高天神城攻めには織田軍も加勢していました。家康は高天神城を包囲して武田軍をそのまま配下に組み入れようと考えていました。万千代には家康が弱腰にも見えますが、直虎(次郎法師)は家康の方針に好意的です。万千代は、自分が家康を最強の大名にしてみせると誓い、直虎は感慨深げです。

 家康の狙い通り、高天神城は開城を申し出てきます。そこへ織田信長の使者が徳川の陣中を訪ねてきて、武田軍の降伏は認めず、力攻めするよう家康に命じます。家康は仕方なく信長の意向に従います。高天神城の力攻めは、武田が頼りにならないことを武田配下に知らしめ、武田滅亡の要因になった、との見解も提示されています。ここから一気に時間が経過し、武田勝頼の自害と武田の滅亡が描かれます。もう少し時間をかけてこの間の経緯が描かれるのかと予想していたので、これは意外でした。今回は、万千代の出世と成長に直虎が安堵する様子が描かれ、すでに最近は万千代が実質的な主人公のように思えますが、いよいよ完全に主役交代といった感じで、最終回が近いことを実感します。残り3回となりましたが、最後の山場は家康の伊賀越えで、龍雲丸が再登場しそうです。
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大相撲九州場所千秋楽

2017/11/27 00:00
 これは11月27日分の記事として掲載しておきます。今場所は、早々に白鵬関の独走となり、平幕の北勝富士関と隠岐の海関が食い下がってはきたものの、白鵬関は14日目に40回目の優勝を決めました。鶴竜関は全休、日馬富士関は3日目から、稀勢の里関は10日目から休場となり、けっきょくは先場所に続いて一人横綱体制となってしまいましたが(先場所は日馬富士関の一人横綱、さらに、大関で千秋楽まで出場したのも先場所に続いて豪栄道関のみ)、大逆転優勝となった先場所の日馬富士関とは異なり(まあ、豪栄道関が自滅したと言うべきでしょうが)、白鵬関は危なげなく優勝を決めました。白鵬関は千秋楽も豪栄道関に勝って14勝1敗で優勝を果たしました。

 休場した横綱3人のうち、日馬富士関については後述するとして、鶴竜関と稀勢の里関の状態は深刻で、来場所で引退となっても不思議ではありません。大関2人はともに勝ち越したものの、白鵬関にはまったくついていけない感じですが、関脇以下と横綱・大関陣の力の差はまだ大きいようですから、白鵬関が休場するか不調ならば優勝できるかもしれません。照ノ富士関は初日から4連敗で5日目から休場となり、大関には復帰できませんでした。やはり、大関昇進後に重傷を負った時に休場すべきでした。確かに、照ノ富士関が大関から陥落したくないと考えるのはよく理解できますが、まだ若いわけですから、師匠の伊勢ヶ濱親方が強引にでも休場させるべきだったと思います。一時は完全に稀勢の里関を実力で上回ったように思われ、次の横綱の最有力候補だった照ノ富士関が、このまま復調せず大関に復帰することもなさそうなのは、何とも残念です。

 関脇以下と横綱・大関陣の力の差がまだ大きいなか、横綱4人のうち3人には引退が間近に迫っている感じで、豪栄道関にはもう上がり目はないでしょうし、高安関も安定感に欠けるところがありますから、今後、白鵬関がまたしても一人横綱となり、たまに休場を挟みつつ優勝を重ねていくことになるのかもしれません。白鵬関も全盛期はとっくに過ぎているのですが、他の横綱・大関陣が上述したような感じですから、今後、数年は、全盛期ほどではないとしても、圧倒的な第一人者としての地位を保つかもしれません。

 まあ、今場所もっとも注目を集め、またたいへん深刻な問題だったのは、もちろん、貴ノ岩関にたいする日馬富士関の暴行で、最終的にどのような処分になるのかまだ不明ですが、横綱という地位の重さを考えれば、日馬富士関は相撲協会から解雇されて逮捕されても仕方のないところだと思います。日馬富士関の気性の激しさ・素行の悪さは以前から言われていましたが、横綱昇進後は、土俵上の態度からも必死に自己抑制に努めている様子が窺え、私もそうした日馬富士関の姿勢にはやや好感を抱いていました。まあそれでも、酒癖が悪いため、酒席で本性が露わになってしまった、ということでしょうか。

 この件に関しては、日馬富士関がなぜ激昂したのか、素手以外に何で殴ったのかなど、矛盾するさまざまな情報が流れてきており、情報戦が展開されているのだろうな、と思われることから、私のような外部の人間が真相を把握するのはたいへん困難です。ただ、理由はどうあれ、日馬富士関が貴ノ岩関を殴ったのは間違いのないところでしょう。どうも、マスコミなども含めて相撲協会主流派側には、「生意気な後輩」にたいするこの程度の「制裁」を大事件にしてしまった、という貴乃花親方にたいする反感があるように思います。しかし、こうした暴力行為が今でも大相撲においてはありふれていて、今回の暴行事件も氷山の一角ではないか、との疑いは強く残るので、貴乃花親方の強硬姿勢は妥当だとも思います。もっとも、八百長問題など、貴乃花親方にもその他の思惑が色々とある可能性も考えられますが。

 まあ、貴乃花親方の思惑はさておき、こうして暴行事件が表沙汰になったのですから、相撲協会には、この逆境を改革の機会としてもらいたいものです。日馬富士関が解雇となるのか分かりませんが、引退は避けられないのではないか、と思います。ここ数年、日馬富士関は満身創痍で横綱として物足りない成績だった感は否めませんから、今回の件でもう土俵に上がる気力を失っているのではないか、とも思います。ただ、日馬富士関が弱い横綱だった、との一部?の評価には反論しておきたいところです。日馬富士関は優勝9回でそのうち全勝優勝が3回、横綱として優勝5回、そのうち全勝優勝が1回ですから、横綱として水準以上だと思います。まあ、近年の大横綱である朝青龍関・白鵬関と比較すると、明らかに見劣りするのは確かですが。
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長谷川貴彦『イギリス現代史』

2017/11/26 00:00
 これは11月26日分の記事として掲載しておきます。岩波新書(赤版)の一冊として、岩波書店から2017年9月に刊行されました。本書は、第二次世界大戦から、昨年(2016年)の国民投票でのEU(ヨーロッパ連合)離脱の決定と、今年の総選挙までを取り上げています。まさに現代史といった感じで、手堅くまとめられており、私のような門外漢にとって手ごろな入門書になっているのではないか、と思います。

 本書は、1940年代・1950年代・1960年代・1970年代・1980〜1990年代・1990〜2000年代・2010年代に区分して、イギリス現代史を概観しています。イギリスでは第二次世界大戦が契機となり福祉国家が成立し、私企業と公共企業の混合経済・帝国からの撤退なども含めて「コンセンサス」が成立し、保守党と労働党の二大政党間で政権が交代しても、その枠組みは維持されました。

 この「コンセンサス」のもとでイギリスは豊かになっていき、個人主義的傾向が強くなっていくとともに、それまで社会の枠組みの大前提だった階級が人々の意識からは溶解していき、人種・民族・ジェンダー・宗教など、新たな枠組みが社会的に重視されていき、本書はこうした1960年代の変化を文化革命と定義します。この文化革命を経て社会は変化していきますが、そこには肯定的な印象も否定的な印象もありました。

 この文化革命を経て「英国病」と呼ばれる1970年代を迎えます。ここではイギリスの停滞と混乱が強調されましたが、本書は、それが政治論争のなかで増幅された印象であり、豊かさという観点からは停滞とも言い難く、可能性を秘めた時代でもあったことを指摘します。しかし、戦後成立した「コンセンサス」としての福祉国家が行き詰まっていた側面もあり、それへの対応策として、新自由主義的改革と社会主義的政策の強化という異なる方針が提示されるようになった、と本書は指摘します。

 この社会的混乱を収拾しようとしたのが保守党のサッチャー政権で、1980年代以降のイギリスでは、政府が強い反対を押し切り、新自由主義的政策が強く進められることになります。1990年代後半にはサッチャー・メイジャーと長く続いた保守党政権から労働党政権へと交代しますが、労働党は「第三の道」を主張し、1970年代のような社会主義的枠組みの強化を進めたわけではありませんでした。

 このように、1960年代の文化革命以降、個人主義的傾向は強くなり、それが新自由主義に取り込まれていくなど、古典的な枠組みである階級はすっかり衰退したように見えましたが、2008年のリーマンショック以降、拡大した格差への抵抗運動も盛り上がっていき、労働党は2015年以降、コービン党首のもとで「左傾化」していきます。あるいは、イギリスにおいて再び、階級が社会の重要な枠組みとして認識されるようになるのかもしれません。
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テレビが壊れたのでモニターを購入

2017/11/25 00:00
 これは11月25日分の記事として掲載しておきます。ほぼ8年間使用していた37インチのフルハイビジョン液晶テレビ「REGZA 37Z9000」が今月(2017年11月)17日に故障したことは、このブログで述べました(関連記事)。そのさい、20〜24インチ程度のデスクトップパソコン用の安価なモニターをとりあえず購入し、しばらく代用することも考慮に入れている、と述べましたが、デスクトップパソコン用のモニターにて録画機経由でテレビを視聴してみて、とりあえずは我慢できる画質・音質だったので、21.5インチのモニターBenQ「GW2265HM 21.5」を新たに購入しました。

 このままデスクトップパソコン用のモニターでテレビを視聴し、その間はノートパソコンを使用してもよかったのですが、さすがに不便なので、とりあえずテレビ用の安いモニターを購入した、というわけです。まあそれでも、HDMI端子が1個しかないので、録画機と光テレビのチューナーを視聴のたびに接続し直す必要があるわけで、やや面倒ではありますが。そのうち、改めてテレビを購入する予定なので、無駄な出費かとも思ったのですが、現在使用しているデスクトップパソコン用のモニターも購入してから6年以上経過し、いつ壊れても不思議ではないので、予備として1台所有しておくのも悪くはないかな、と思いました。ただ、それなら現在使用しているモニターと同じく27インチにすべきだったかな、とやや後悔していますが。

 覚悟はしていましたが、やはり安物のデスクトップパソコン用のモニターでは、画質は「REGZA 37Z9000」と比較してかなり劣ります。光デジタル音声も使えないので音質もかなり劣るのですが、ブルーレイディスクに保存している九寨溝のドキュメンタリーなど、高画質で視聴したい録画番組をこの環境で再生しようとは思いませんし、未読の本・論文がたまる一方で、そうした録画番組を視聴する余裕はありませんから、当分はこの環境でよいかな、と思います。『太陽にほえろ!』の再放送や大河ドラマや朝の連続テレビ小説は、このくらいの画質・音質でも我慢できそうです。

 当初は、安めの4k対応のテレビを購入するつもりでしたが、テレビは長く使い続けたい大型家電なので、妥協したくないと思い、じっくり検討する時間を作るためにも、臨時で安物のデスクトップパソコン用のモニターを購入しました。できれば、本格的な4k放送が始まってから対応するテレビを購入したいものです。まあ、やはり以前の環境と比較して画質・音質が劣ることに我慢できなかったり、ぜひ高画質で視聴したいと思うような番組が放送されたりして、1ヶ月もしないうちに、改めて調べてテレビを購入することになるかもしれませんが。
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初期人類による屠殺の証拠の見直し

2017/11/24 00:00
 これは11月24日分の記事として掲載しておきます。初期人類による屠殺の証拠を再検証した研究(Sahlea et al., 2017)が公表されました。この研究はオンライン版での先行公開となります。初期人類がいつから動物を解体して肉や骨髄を食べるようになったのか、という問題は大きな関心を集めてきました。中には、ホモ属と人類の初期石器文化であるオルドワン(Oldowan)の出現以前の340万年前頃に、人類は石器を用いて動物を解体していた、との見解も提示されています(関連記事)。そこまで古くなくとも、200万年以上前から人類が動物を解体していた、との見解も提示されています(関連記事)。

 そうした見解の証拠とされているのは、動物の骨の表面に見られる線状の痕跡や窪みです。こうした解体痕(cut marks)や打撃痕(percussion marks)は、人類が石器を用いて動物を解体して食べた証拠とされています。しかし、この研究は、近年の実験考古学的手法も用いて、そうした200万年以上前の動物の骨の表面に見られる痕跡が、本当に人類が石器を用いた結果なのか、確定的ではない、と注意を喚起しています。

 この研究で重要になる概念が等結果性です。等結果性とは、異なる手法でも最終的に類似した結果が生じることを意味します。この研究で具体的に指摘されているのは、動物が踏んだり噛みついたりすることにより生じる動物の骨の表面の痕跡を、人類が石器により動物を解体した結果としての痕跡と区別するのは困難だ、ということです。この研究では、エチオピアの鮮新世〜更新世の化石を再検証し、とくにワニ(クロコダイル)の噛みついた痕跡が、人類の所産と誤認される可能性を重視しています。この研究は、動物の骨の表面に見られる痕跡が人類の所産なのか、ワニなど人類ではない動物の所産なのか、判断するには、もっと多くの野外調査と実験考古学的手法が必要になる、と指摘しています。


参考文献:
Sahlea Y, Zaatarib SE, and White TD.(2017): Hominid butchers and biting crocodiles in the African Plio–Pleistocene. PNAS, 114, 50, 13164–13169.
http://dx.doi.org/10.1073/pnas.1716317114
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ファミリー劇場HDリマスター版『太陽にほえろ!』678話〜682話

2017/11/23 00:00
678話「山村刑事の報酬なき戦い」7
 2時間スペシャル放送となります。静岡県の八崎署の管内でジャーナリストが若い刑事に追跡されて小屋に籠り、刑事を銃撃しようとしたところ、刑事に撃たれてガス爆発で死んでしまいます。八崎署には不正の噂があり、山さんは不正捜査の密命を帯びて八崎署へと向かいます。山さん主演作でも過去にありましたが、警察の汚職は本作で何度か描かれており、強大な権力との対峙という本作の定番の一つになっています。今回も、地元の有力者が絡んできて山さんが窮地に陥るという、本作ではよくある展開になっています。それでも、山さん主演作らしく、複雑な家庭事情も絡んだ大人向けの話になっていて、なかなか楽しめました。


679話「ホラ吹きの街」5
 商事会社の金庫から金塊が盗まれます。犯人と思われる若者たちと直前までつるんでいたのは、その商事会社の社長の息子である大学生でした。一係は大学生を疑いますが、大学生はふざけた返答を繰り返し、確証もないので釈放されます。ドックは大学生に徹底的に付き合いますが、大学生と若者たちとの関係は希薄で、なかなか手がかりがつかめません。今回は喜劇調になっており、ドック主演作らしい軽い話になっています。ドック登場以降の話を再視聴するようになるまで、こうした軽さがどうも嫌だったのですが、このところ重い話が多かったので、たまにはこうした軽い作風も悪くはないと思うのですが、全体的に盛り上がりに欠けた感は否めません。


680話「陽ざしの中を」6
 マイコンが自宅にいると、女性から間違い電話がかかってきます。女性は人違いだとマイコンから聞いても話し続け、人を殺した、と告白します。何とも謎めいた女性の行動ですが、すぐに死体はバーのマスターだと分かり、電話をかけてきた女性の身許も判明します。殺されたマスターは遊び人でしたが、女性との関係がよく分からず、一係は行方不明の女性を調べます。女性の経歴には不明なところが多かったのですが、コールガールだったことが分かります。何とも不可解なところの多い事件で、謎解き作品としてまずまず楽しめました。また、暗い過去のある女性の必死な生きざまにはヒューマンドラマとして共感するところもありました。女性が自白する場面でボギーのテーマが流れたのはよかったと思います。


681話「それでも貴女は女なの!」6
 経済研究所で強盗事件が発生し、犯人はすぐにその経済研究所の元秘書の男性だと特定されます。その経済研究所には汚職の噂があり、元秘書の男性は汚職の事情を知りすぎたので解雇されたのではないか、と一係は推理します。マミーは、その元秘書の男性と交際していた女性を訪ねます。かつて、その女性が店長を務める店でロッキーがマミーへのプレゼントを購入しており、マミーはその女性と面識がありました。マミーとロッキーの想い出も絡めつつ、男女の情念が描かれ、まずまず楽しめました。マミーが女性には身許を明かしていないという設定を上手く話に活かしていましたが、なぜマミーがそうしたのか、明かされず、ここはやや不自然に思いました。


682話「揺れる生命」7
 妊娠中の女性が自動車に同乗していた男性と言い争って道路に出て、自動車にひかれて意識不明の重体となります。女性をひいた自動車の運転手は逃亡します。ブルースは女性と同乗していた男性に話を聞き、男性の様子が不審なことから、男性が父親ではないか、と疑います。この男性は栄転が決まり、上司の娘との婚約の話も出ていました。胎児と女性の命のどちらかを選ばねばならない状況となったものの、父親が同意すれば、限界まで胎児の成長を待ち、出産も可能かもしれない、と聞いたブルースは、妻が妊娠中であることから、出産の可能性に拘ります。ブルースの妻の妊娠という設定を活かし、なかなか上手く話が作られていたと思います。胎児の父親の男性は真正のクズだと思ったのですが、意外にも多少なりとも良心が残っていたのか、辞職して重体の女性とともに生きていく決断をくだします。女性を自動車でひいてしまった男性にも、不運な人生を送ってきて警察不信になった、という設定があり、話を面白くしていたように思います。この男性を演じたのは竹中直人氏で、これはすっかり忘れていました。
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大河ドラマ『おんな城主 直虎』第46回「悪女について」

2017/11/22 00:00
 これは11月22日分の記事として掲載しておきます。徳川家康は織田信長の圧力に屈し、一度は信康(竹千代)を殺すと決めましたが、それでもなお諦めきれず、北条と結んで武田を追い詰め、その代わりに信康の助命を願い出ようと奔走します。家康は今川氏真に北条との仲介を依頼します。なかなか信康を殺そうとはしないことに織田が苛立ち始めた頃、瀬名(築山殿)は武田との密通の証である書状を残して、石川数正とともに姿を消します。瀬名は信康の罪を一身に引き受けようとしていました。井伊谷を通過しようとした瀬名は、直虎(次郎法師)と遭遇します。直虎は瀬名の覚悟を見抜き、瀬名を引き留めようとします。そこへ万千代(虎松)が現れ、立場上、家康は瀬名と石川数正に追手を差し向けているものの、ここは家康の真意に従って井伊谷に隠れるよう、進言します。直虎も、必死に瀬名を説得しますが、瀬名は殺されるべく井伊谷を立ち去ります。

 瀬名は追手に捕まり、殺されます。家康は、自分が不甲斐ないために瀬名は死んだのだ、と悔やみます。家康は瀬名の首を安土城にいる信長に差し出します。家康は、武田と内通したのは瀬名のみで、信康は無実だ、と信長に訴えます。しかし信長は家康に、好きにするがよい、ただし自分も好きにする、と言い放ち、家康も万策尽き、信康は自害に追い込まれます。今回は、信康事件の結末が描かれました。瀬名が序盤から登場し、子供時代の信康(竹千代)も登場したことから、信康事件の扱いは大きいのだろうな、と予想していましたが、小野政次(鶴丸)の最期ほどではないにしても、終盤の山場で盛り上がったと思います。直親(亀之丞)や政次などの生き様も踏まえての話になっており、長期放送の大河ドラマとしての特性を上手く用いた構成になっていたと思います。創作というか独自解釈の余地が大きいと思われる本作の信康事件でしたが、歴史ドラマとしてよかったのではないでしょうか。
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イベリア半島で他地域よりも遅くまで生存していたネアンデルタール人

2017/11/21 00:00
 これは11月21日分の記事として掲載しておきます。イベリア半島における後期〜末期ネアンデルタール人(Homo neanderthalensis)の年代に関する研究(Zilhão et al., 2017)が報道されました。イベリア半島はネアンデルタール人終焉の有力候補地で、24000年前頃まで生存していた、との見解(後期絶滅説)も提示されています(関連記事)。イベリア半島は末期ネアンデルタール人にとって待避所になっていたのではないか、というわけです。もっとも、ネアンデルタール人の絶滅とはいっても、ネアンデルタール人のDNAは(非アフリカ系)現代人にわずかながら継承されているわけで、より正確には、ネアンデルタール人の形態的・遺伝的特徴を一括して有する集団は現在では存在しない、と言うべきかもしれません。

 後期絶滅説でイベリア半島を末期ネアンデルタール人の待避所とする見解では、近隣地域が中部旧石器時代〜上部旧石器時代へと移行する時期に、イベリア半島ではムステリアン(Mousterian)の中部旧石器時代が続いた、とされます。ピレネー山脈地域〜フランス南西部における中部旧石器時代〜上部旧石器時代への移行期は、ムステリアン(Mousterian)→シャテルペロニアン(Châtelperronian)→プロトオーリナシアン(Proto-Aurignacian)→早期オーリナシアン(Early Aurignacian)とも呼ばれるオーリナシアン1(Aurignacian I)→オーリナシアン2(Aurignacian II)と続く、とされます。ヨーロッパにおけるムステリアンの担い手はネアンデルタール人のみで、オーリナシアン1・2の担い手は現生人類とされています。

 ヨーロッパの他地域で中部旧石器時代〜上部旧石器時代へと移行する時期に、イベリア半島では中部旧石器時代が続いた要因として、生物地理学的にはイベリア半島はエブロ川を境に区分される、という古環境学的証拠が提示されています。この生態系の違いが現生人類のイベリア半島への侵出を阻止したのではないか、というわけです(エブロ境界地帯モデル仮説)。この仮説は、そのためにエブロ川以南のイベリア半島はネアンデルタール人の待避所たり得て、エブロ川以南のイベリア半島のネアンデルタール人は他地域よりも遅くまで生存していた、と想定しています。

 しかし、21世紀になって、ヨーロッパの中部旧石器時代末期〜上部旧石器時代の年代の見直しが進んでおり(関連記事)、ヨーロッパにおいてネアンデルタール人の生存が確認できるのは4万年前頃までで、それ以降とされる年代は信頼性に問題がある、との見解(早期絶滅説)も提示されています(関連記事)。イベリア半島に関しても中部旧石器時代末期〜上部旧石器時代の移行期のより正確な年代が提示されるようになっており、近年では早期絶滅説が提唱されるようになっていました(関連記事)。

 この研究は、新たに発掘されたイベリア半島南東部の遺跡の年代を測定し、その他のイベリア半島の既知の遺跡の年代と比較しています。新たに発掘されたイベリア半島南東部の3ヶ所の遺跡は、ムラ盆地(Mula basin)内の相互に2kmも離れていない、アントン洞窟(Cueva Antón)・フィンカドーニャマルティナ(Finca Doña Martina)・アブリゴデラボーヤ(Abrigo de La Boja)です。この研究で用いられた年代測定法は、放射性炭素年代測定法・光刺激ルミネッセンス法(OSL)・ウラン系列法ですが、放射性炭素年代測定法では、厳密な前処理により、信頼性の高い年代測定結果を提示しています。これまで、後期絶滅説の根拠とされてきた遺跡の年代に関しては、信頼性に疑問が呈されることもあったので、そうした懸念を払拭しようとしたわけです。

 この新たな3遺跡の年代測定の結果、暦年代では、アントン洞窟のムステリアン層I〜Kが37100年以上前となる一方で、アブリゴデラボーヤの最古のオーリナシアンは36500年以上前よりもさかのぼりません。そのためこの研究は、エブロ川以南のイベリア半島においては、中部旧石器時代〜上部旧石器時代の移行は37000〜36500年前頃に起き、この移行年代は他のイベリア半島南部・西部の遺跡の証拠とも整合的なので、移行が42000〜40000年前頃に起きたヨーロッパの他地域と比較して、イベリア半島南部・西部では移行が少なくとも3000年遅れている、との見解を提示しています。オーリナシアン1が他の場所で見られる時代に、イベリア半島南部・西部ではムステリアンが続いており、ネアンデルタール人が生存していた、というわけです。この研究は、エブロ川以南のイベリア半島の37000年前以前の人為的痕跡は、すべてネアンデルタール人またはその祖先の所産だろう、と指摘しています。

 この研究は、こうしたイベリア半島南部・西部における中部旧石器時代〜上部旧石器時代の移行の遅れは、エブロ川を境とする生態系の違いが障壁として作用したからだろう、と推測しています。さらにこの研究は、イタリアのフレグレイ平野の39850年前に起きたカルデラ爆発が、当時ヨーロッパにいた現生人類とネアンデルタール人に打撃を与え、ヨーロッパにおける現生人類の西進を停滞させたのではないか、と推測しています。またこの研究は、このカルデラ爆発の後のグリーンランド亜間氷期8に気候が改善し、イベリア半島南部において森林が顕著に拡大したことも、エブロ川の境界としての効果を強めただろう、と指摘しています。

 上述したように、ネアンデルタール人は絶滅したとはいっても、それは現生人類との交雑を通じての置換もしくは同化です。その様相は地域により異なっており、均一ではない、とこの研究は強調しています。現生人類が近隣まで侵出してきたら、ネアンデルタール人は直ちに衰退して置換もしくは同化されたのではなく、環境の違いにより、その過程にはさまざまな展開があり得た、というわけです。その意味で、ネアンデルタール人と現生人類との最初の接触と交雑が起きたであろう西アジア、とくにレヴァントにおいて、どのような過程で現生人類からネアンデルタール人への置換、もしくはネアンデルタール人の現生人類への同化が最終的に起きたのか、たいへん興味深く、研究の進展が期待されます。


参考文献:
Zilhão J. et al.(2017): Precise dating of the Middle-to-Upper Paleolithic transition in Murcia (Spain) supports late Neandertal persistence in Iberia. Heliyon, 3, 11, e00435.
https://doi.org//10.1016/j.heliyon.2017.e00435
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テレビが壊れる

2017/11/20 00:00
 これは11月20日分の記事として掲載しておきます。8年前に37インチのフルハイビジョン液晶テレビ「REGZA 37Z9000」を購入したのですが(関連記事)、ついに故障してしまいました。今月(2017年11月)17日に、B-CASカードが正しく挿入されていない、との表示が出てBS放送が見られなくなり、その後に操作していないのに画面が映らなくなり、すぐに画面が映るようになる、という現象が数分間隔くらいで複数回起き、ついには画面が映らなくなりました。コンセントを抜いて差し直し再起動すると、10分くらいは正常に映っているのですが、その後はまた画面が消えたり映ったりして、ついには画面がまったく映らなくなります。

 検索したところ、典型的な故障の症状で、購入してほぼ8年経過し、保証期間もとっくに過ぎていることから、買い替えることにしました。本当は、4K放送が本格的に始まるまで「REGZA 37Z9000」を使い続けるつもりだったのですが、ほぼ8年使っていただけに、仕方のないところでしょうか。テレビに接続していたハードディスクの録画データが消えてしまうのは惜しいのですが、おもだった番組は録画機に接続しているハードディスクにコピーしていますし、再視聴する機会もめったにないでしょうから、もうすべて消去し、これまでテレビで使用していたハードディスクは、可能ならば今後購入するテレビに接続することにします。

 「REGZA 37Z9000」は、それなりに長い時間をかけて調べて購入したこともあり、総合的にはなかなか満足しているので、テレビが映らなくて困るとはいっても、長く使うものだけに、慌てて購入するのは避けたいところです。ただ、20〜24インチ程度のデスクトップパソコン用の安価なモニターをとりあえず購入し、しばらく代用してもよいかな、とも思います。録画機はまだ故障していないので、録画機経由で地上波とBSの放送および録画データを視聴する、というわけです。できれば、HDMI端子が2個以上あるとよいのですが、高価なものを購入するわけにはいかないので、不便ではあるものの、1個あれば満足すべきでしょうか。まあ、今時HDMI端子のないモニターはそうそう見つからないでしょうが。音声入力装置も必須となるので、条件に合致する安価なモニターをこれから探します。

 一時は故障かと思っていた冷蔵庫は、たんに扉を開けっぱなしだったのが原因だったようでその後はとくに問題はなかったので、デスクトップパソコンの買い替えを優先しようと考えていたのですが、今年4月以降に悩まされたKernel-Power 41問題」は、さまざまな対策が功を奏したのか(関連記事)、今年6月8日を最後に発生していませんし、ワードが重いことに不満とはいっても、オーバークロックすれば快適性は向上しますし、普段はダウンクロックしてもそれなりに快適に使えていますので、とりあえず当分は使い続けることにしました。ただ、今年10月に新たなセキュリティソフトを導入したところ、安価とはいえ、以前のものよりもかなり重いので、テレビが故障しなければ、今年中にデスクトップパソコンを買い替えていたかもしれません。
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小林武彦『DNAの98%は謎 生命の鍵を握る「非コードDNA」とは何か』

2017/11/19 00:00
 これは11月19日分の記事として掲載しておきます。講談社ブルーバックスの一冊として、講談社から2017年10月に刊行されました。本書は、ヒトのDNAのうち98%を占めると推定されているタンパク質をコードしていない領域(非コードDNA領域)について解説しています。本文は200ページにも満たない新書サイズですが、遺伝の基礎から非コードDNA領域の役割まで丁寧に解説されており、遺伝に関する一般向けの良書になっていると思います。ただ、たいへん充実した内容なので、私の見識・能力では一度読んだだけでおおむね把握できたとはとても言えず、今後何度か再読していく必要があります。

 非コードDNA領域はタンパク質をコードしていないことから、かつては軽視されていたそうですが、近年では、遺伝子発現の調整や遺伝子の安定性など多くの役割を担っていると明らかになってきて、たいへん注目されているようです。本書は三毛猫のように身近な事例も挙げつつ、非コードDNA領域の多様な役割を解説しています。長大な非コードDNA領域が、活性酸素や放射線や化学物質によるDNAの損傷を引き受けることにより、人体への悪影響を小さくするなど、タンパク質をコードしていなくとも、その役割はひじょうに重要だと了解されます。

 本書は進化にも1章を割いており、非コードDNA領域がヒトの進化にも重要な役割を果たしてきたことが解説されています。非コードDNA領域の変化は遺伝子の発現量を変えることもあり、それが表現型にも大きく影響を及ぼす、というわけです。また、非コードDNA領域だと思われていたDNA領域が、じつはコード領域だと判明したこともあるそうで、今後の研究の進展が注目されます。やや気になったのは、Y染色体について、500万年後には消滅するという仮説が取り上げられている一方で、それに否定的な見解(関連記事)は言及されていないことです。とはいえ、それが本書の価値を大きく下げていることにはならないと思います。


参考文献:
小林武彦(2017)『DNAの98%は謎 生命の鍵を握る「非コードDNA」とは何か』(講談社)
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水資源保全対策における文化の違い

2017/11/18 00:00
 これは11月18日分の記事として掲載しておきます。水資源保全対策における文化の違いに関する研究(Castilla-Rho et al., 2017)が公表されました。地下水は、気候変動に直面する世界の食糧安全保障と、数百万世帯の農村生活の維持に重要です。農業のための水資源の濫用は世界中で深刻に懸念されていますが、地下水利用者による保全政策への遵守を促すものが何かということについては、ほとんど分かっていません。地下水保全のモニタリングおよび執行は長い時間とコストを要し、政治的に困難な側面があります。文化によって異なる考え方を理解することは、費用効果の高い管理法の立案において重要です。

 この研究は、農民による灌漑のための地下水利用を、地下水の汲み上げの抑制が必要な3地域(オーストラリアのマレーダーリング盆地、アメリカ合衆国カリフォルニア州のセントラルバレー、インド・パキスタン国境付近のパンジャーブ地方)を対象にモデル化を行ないました。さまざまな地域における協力および法令遵守に対する社会的態度に関するデータを集めた結果、パンジャーブ地方のような協力的とされる文化においては強い懲罰的な手段が有効であるものの、マレーダーリング盆地やセントラルバレーのように個人主義がより強いとされる文化では、懲罰的な手段はそれほど有効ではない、と明らかになりました。

 この研究は、地下水の保全に対する社会規範を変化させる最も有効な介入法は、ロールモデルとなる法令遵守者の数を集団中に増やすことである、と明らかにしましたが、社会における受け入れの規模を変えるために必要な法令遵守者の数は地域差が大きい、とも指摘しています。この研究は、同様のモデルは水産物や森林といった他の共有天然資源にも適用できる、と指摘しています。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。


水資源保全の文化を理解する

 水資源の保全法に対する人々の反応に文化の違いがどのように影響するかということと、そうした知見を踏まえて各国の文化に適した有効な介入手段を見つける方法が、今週のオンライン版に掲載された論文で報告されている。

 地下水は、気候変動に直面する世界の食糧安全保障、および数百万世帯の農村生活の維持に重要である。農業のための水資源の濫用は世界中で深刻に懸念されているが、地下水利用者による保全政策への遵守を促すものが何かということについてはほとんど分かっていない。地下水保全のモニタリングおよび執行は長い時間を要し、コストを要し、政治的に困難な側面がある。文化によって異なる考え方を理解することは、費用効果の高い管理法の立案においてカギとなる。

 Juan Carlos Castilla-Rhoの研究チームは、農民による灌漑のための地下水利用を、地下水の汲み上げの抑制が必要な3つの地域(オーストラリアのマレー・ダーリング盆地、米国カリフォルニア州のセントラル・バレー、インド・パキスタン国境付近のパンジャーブ地方)を対象にモデル化を行った。さまざまな地域における協力および法令遵守に対する社会的態度に関するデータを集めた結果、協力的な文化(パンジャーブ地方)においては強い懲罰的な手段が有効であるが、個人主義のより強い文化(米国やオーストラリア)においては、懲罰的な手段はそれほど有効ではないことが分かった。研究チームは、地下水の保全に対する社会規範を変化させる最も有効な介入法は、ロールモデルとなる法令遵守者の数を集団中に増やすことであることを見出したが、社会における受け入れの規模を変えるために必要な法令遵守者の数は地域差が大きい。研究チームは、同様のモデルは、水産物や森林といった他の共有天然資源にも適用できると結論している。



参考文献:
Castilla-Rho JC. et al.(2017): Social tipping points in global groundwater management. Nature Human Behaviour, 1, 640–649.
http://dx.doi.org/10.1038/s41562-017-0181-7
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地域により異なる新石器時代以降の不平等化の進展(追記有)

2017/11/17 00:00
 これは11月17日分の記事として掲載しておきます。新石器時代以降の地域間の不平等化の進展に関する研究(Kohler et al., 2017)が報道されました。この研究はオンライン版での先行公開となります。この研究は、北アメリカ・メソアメリカ・ユーラシアを対象として、考古学的遺跡からジニ係数を推定して富の不平等化の進展の指標とし、新石器時代以降の地域間の不平等化の進展の違いと、その要因を検証しています。

 一般的に、ジニ係数は狩猟採集社会では低く、農耕が発達していくと高くなります。遊動性の狩猟採集社会では、世代を超えて富を蓄積していくことが困難だからです。大まかなジニ係数は、狩猟採集社会では0.17、規模が小さく素朴な栽培段階の社会では0.27、大規模で本格的な農耕社会では0.35となります。狩猟採集社会よりも農業社会の方が不平等性は高い、というわけです。しかし、この研究は、農耕社会でも、ユーラシアと北アメリカおよびメソアメリカでは、不平等化が異なることを明らかにしています。ユーラシアでは不平等化が上昇していったのにたいして、北アメリカおよびメソアメリカでは不平等化は停滞していた、というわけです。

 この研究はその要因として、大型動物の家畜化を挙げています。ユーラシア大陸ではウマやウシなど大型動物の家畜化が発達したのにたいして、アメリカ大陸では大型動物の家畜化はほとんど進みませんでした。大型動物の家畜化により、耕作地の拡大と新たな土地への進出が進み、不平等化が進展したのではないか、との見解をこの研究は提示しています。また、ユーラシアにおける大型動物の家畜化、とくにウマの場合、移動・軍事での利用により、アメリカ大陸ではヨーロッパ勢力の侵出前には困難だっただろう、大規模な政治組織の結成・維持を可能としたことも、不平等化を進展させたのではないか、と指摘されています。富の不平等は一般的に、植物の栽培化と動物の家畜化および増大する社会政治的規模と共に上昇していく、というわけです。

 この研究は、不平等な社会の危険性を指摘しています。不平等な社会では健康状態が悪化する一方で、平等な社会では平均寿命や社会への信頼性や他者への関心が高く、他者を助けようという利他的な意欲を有しています。しかしこの研究は、社会の平等化がたいへん困難であることも指摘しています。社会の平等化は多くの場合、伝染病・革命・大規模な戦争・国家崩壊により実現するからです。社会の平等化という観点からの研究は、さらに対象地域を拡大して進展していくことが期待されます。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。


【考古学】富の不平等はどのように生まれたのか

 新石器時代以降の旧世界の社会は、新世界の社会よりも富の不平等が拡大していたことを明らかにした論文が、今週掲載される。今回の研究は、この新知見を植物の栽培化と動物の家畜化が盛んになったことと関連付けており、不平等の起源を解明する上で役立つ。

 今回、Timothy Kohlerたちの研究グループは、家屋の大きさ(面積)を富の代理指標として用いて、考古学上明らかになっている北米とヨーロッパ、アジアの63の社会とアフリカの2つの社会の数千軒の家屋を分析した。これらの社会によって、狩猟採集民の集落、古代都市など、過去1万1000年間にわたるさまざまな経済システムが網羅されている。富の不平等は時とともに拡大し、この点は予想どおりだったが、北米よりもユーラシアではるかに顕著に拡大したことは予想外だった。非常に都会的な新世界の社会でも家屋は同じような大きさだった。

 こうした貧富の格差が生じた理由について、Kohlerたちは、大型の家畜(ウマ、ウシ、ブタなど)がユーラシアに存在し、北米にほとんど存在していなかったことを挙げる。これらの家畜は、畑を耕し、物資を輸送するために利用でき、戦闘時の乗り物として使える可能性があるため、エリート騎馬兵士の養成につながり、その結果、ユーラシアの社会が領地を拡大し、より多くの富を獲得できたと考えられている。



参考文献:
Kohler TA. et al.(2017): Greater post-Neolithic wealth disparities in Eurasia than in North America and Mesoamerica. Nature.
http://dx.doi.org/10.1038/nature24646


追記(2017年11月30日)
 本論文が『ネイチャー』本誌に掲載されたので、以下に『ネイチャー』の日本語サイトから引用します。



考古学:ユーラシアでの新石器時代以後の貧富の差は北米およびメソアメリカよりも大きかった

考古学:富の不平等の拡大の歴史

 好況や不況などの経済的変動に関する数々のニュースの裏には、富の不平等というさらに根深い問題がある。しかし、その歴史はどのようなもので、さまざまに異なる富の分配を決定付ける、より大きな社会的要因とは一体何なのだろうか。今回T Kohlerたちは、家屋のサイズを代理指標として用いて富の不平等の指標となるジニ係数を算出し、約1万1000年前の新石器時代以降の世界的な不平等の進化を調べている。その結果、当然ではあるが、富の不平等は全体として拡大してきたことが分かった。しかし意外にも、不平等の拡大は、旧世界(ヨーロッパおよびアジア)の方が新世界(北米および中米)よりもはるかに大きかった。新世界では、都市部の遺跡でも家屋のサイズは概して似通っており、旧世界の都市状況から連想されるような巨大な宮殿は存在しない。著者たちは、そうした不均衡は、大型の家畜によってもたらされる必然的な富によって説明できると示唆している。例えば、馬の家畜化は、それを乗り回して他者から富を獲得することを可能にした。
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クロアチアのネアンデルタール人の高品質なゲノム配列と古代の近親交配

2017/11/16 00:00
 これは11月16日分の記事として掲載しておきます。ネアンデルタール人(Homo neanderthalensis)では2例目となる高品質のゲノム配列を報告した論文(Prüfer et al., 2017)を、先月(2017年10月)このブログで取り上げました(関連記事)。その後、この論文が『サイエンス』本誌に掲載されたので、以前の記事で触れていなかったことを中心に、より詳しく見ていくことにします。追記で対応しようかとも考えたのですが、人類進化史における近親交配の問題にも触れることにし、やや長くなりそうだったので、新規の記事とします。

 これまで、ネアンデルタール人の高品質なゲノム配列としては、南西シベリアのアルタイ山脈のデニソワ洞窟(Denisova Cave)で発見された女性個体(デニソワ5)のもの(網羅率50倍)が知られていました(関連記事)。現生人類(Homo sapiens)ではない人類の高品質なゲノム配列としてはこの他に、同じくデニソワ洞窟で発見された種区分未定のデニソワ人(Denisovan)の女性個体(デニソワ3)のもの(網羅率30倍)が知られています。

 クロアチアのヴィンディヤ洞窟(Vindija Cave)遺跡で発見された5万年前頃のネアンデルタール人女性の高品質なゲノム配列(網羅率30倍)は、上述したようにネアンデルタール人の高品質なゲノム配列としては2例目という点でも貴重なのですが、確認されているネアンデルタール人の活動範囲としては東限と言ってもよいだろうデニソワ洞窟の個体にたいして、ずっと西方のネアンデルタール人個体であるという点でも、貴重だと言えるでしょう。ネアンデルタール人の各地域集団間の違いは、形態学(関連記事)でも遺伝学(関連記事)でも以前より指摘されており、東西のネアンデルタール人の高品質なゲノム配列は、地域集団間の違いを詳しく解明するうえで、たいへん重要な手がかりになりそうだからです。

 ヴィンディヤ洞窟のネアンデルタール人標本のうち高品質なゲノム配列が得られたのはヴィンディヤ33.19(Vindija 33.19)で、同じくヴィンディヤ洞窟で発見されたネアンデルタール人標本であるヴィンディヤ33.15(Vindija 33.15)の21番染色体のヘテロ接合部位の99%が「Vindija 33.19」と共有されているので、両者は同一個体のものと推測されています。放射性炭素年代測定法により、ヴィンディヤ33.19の年代は非較正で45500年以上前と推定されています。X染色体の網羅率は常染色体と類似していたので、ヴィンディヤ33.19は女性と推定されました。ヴィンディヤ洞窟のネアンデルタール人標本のうちヴィンディヤ33.19と異なる2点は、ヴィンディヤ33.19と同じミトコンドリアDNA(mtDNA)を有しているので、近い世代で母系祖先を共有しているかもしれません。

 デニソワ洞窟で発見されたネアンデルタール人(デニソワ5)とデニソワ人(デニソワ3)のヘテロ接合性は、アフリカ系現代人の1/5、ユーラシア系現代人の1/3で、現代人よりも人口規模がずっと小さかったことを示唆しています。ヴィンディヤ33.19の常染色体のヘテロ接合性はアルタイ地域ネアンデルタール人(デニソワ5)とほぼ同じで、デニソワ人(デニソワ3)よりわずかに低くなります。このことから、古代型ホモ属において低いヘテロ接合性は特徴的であり、ネアンデルタール人とデニソワ人は、約3000人の有効人口規模の孤立した小規模集団だった、と推定されています。

 低いヘテロ接合性に加えて、東方ネアンデルタール人(デニソワ5)は長いホモ接合性領域の割合が多く、両親が半きょうだい(片方の親のみを同じくするきょうだい)のような近親関係にあったのではないか、と推測されています(関連記事)。ヴィンディヤ33.19ではこのような配列はほぼなく、デニソワ5のような水準の近親交配はネアンデルタール人の間では普遍的ではなかっただろう、と推測されています。しかし、この研究は、ヴィンディヤ33.19のゲノムには、孤立したアメリカ大陸先住民集団並のやや長いホモ接合性領域が見られる、と注意を喚起しています。

 以前は、ネアンデルタール人の高品質なゲノム配列としては東方ネアンデルタール人(デニソワ5)の例しか知られておらず、一方で現生人類社会においては上部旧石器時代の時点で近親交配を回避する配偶行動が見られると解釈できるような事例もあるため、ネアンデルタール人絶滅の一因として近親交配が想定されたこともありました(関連記事)。しかし、少なくとも西方ネアンデルタール人社会において両親が近親ではなかっただろう個体が存在したわけですから、この研究が指摘しているように、近親交配はネアンデルタール人社会の普遍的行動ではなかった可能性もじゅうぶん考えられます。

 近親交配が行なわれる理由としては、人口密度が希薄で、交通手段の未発達やそれとも関連する1世代での活動範囲の狭さなどにより、他集団との接触機会が少なかったことが考えられます。人類にも、近親交配を避けるような認知メカニズムが生得的に備わっている可能性は高いと思うのですが、それはさほど強い抑制ではなく、人類の配偶行動は状況により柔軟に変わるのでしょう。その他に近親交配が行なわれる理由としては、何らかの閉鎖性が考えられます。それは、宗教的だったり社会身分的なものだったりするのでしょうが、高貴性と財産の保持という観点からの、古代エジプトや古代日本の王族の事例がよく該当すると言えそうです。また、更新世よりもずっと人口密度が高く、他地域よりもむしろ移住が活発で、交通手段も発達していたのに、アラブ地域やイランのように、王族のような最上級の階層に限らず、広範に長期にわたって近親婚が推奨されてきた地域もあります(関連記事)。

 デニソワ3(デニソワ人)・デニソワ5(アルタイ地域ネアンデルタール人)・ヴィンディヤ33.19(西方ネアンデルタール人)という3点の古代型ホモ属の高品質なゲノム配列が得られたことにより、現代人と現生類人猿との塩基置換数から、これら古代型ホモ属3個体の年代も推定されました。その結果、ヴィンディヤ33.19は52000年前頃、デニソワ5は122000年前頃、デニソワ3は72000年前頃と推定されました。しかし、これは暫定的な推定だと、この研究は注意を喚起しています。

 ネアンデルタール人系統とデニソワ人系統の分岐年代は44万〜39万年前頃、ネアンデルタール人およびデニソワ人の共通祖先系統と現生人類の祖先系統との分岐年代が63万〜52万年前頃、西方ネアンデルタール人(ヴィンディヤ33.19)系統と東方ネアンデルタール人(デニソワ5)系統の分岐年代が145000〜130000年前頃と推定されています。これらの推定分岐年代は、現生人類系統とネアンデルタール人およびデニソワ人の共通祖先系統との分岐は751690年前頃、ネアンデルタール人系統とデニソワ人系統の分岐年代は744000年前頃という最近の研究の推定年代(関連記事)よりも大きく繰り下がります。ネアンデルタール人的な形態学的特徴と、デニソワ人よりもネアンデルタール人と類似するゲノム配列を有する個体群が遅くとも43万年前頃には出現していたことからも(関連記事)、この研究の推定分岐年代は新しすぎるように思われます。

 これまで、東方ネアンデルタール人(デニソワ5)はデニソワ人やヴィンディヤ洞窟の西方ネアンデルタール人とは異なり、10万年前頃に現生人類と交雑していたのではないか、と推測されていました(関連記事)。しかし、ヴィンディヤ33.19とデニソワ5では、アフリカ系現代人との派生アレルの共有で顕著には異ならないことから、ネアンデルタール人と現生人類との交雑は、西方ネアンデルタール人(ヴィンディヤ33.19)系統と東方ネアンデルタール人(デニソワ5)系統の分岐(145000〜130000年前頃)よりも前ではないか、と推測されています。

 ヴィンディヤ33.19と黒海沿岸で発見されたネアンデルタール人標本のメズマイスカヤ1(Mezmaiskaya 1)は、東方ネアンデルタール人(デニソワ5)よりも多くのアレルを非アフリカ系現代人とアレルを共有しており、非アフリカ系現代人におけるネアンデルタール人由来と推定されるゲノム領域の大半は、ヴィンディヤ33.19系統およびメズマイスカヤ1系統から10万〜8万年前頃に分岐したネアンデルタール人系統に由来する、と推測されています。オセアニア以外の非アフリカ系現代人のゲノムに占めるネアンデルタール人由来の領域の割合は、以前の1.5〜2.1%よりもやや高い1.8〜2.6%と推定されました。そのなかでも、東アジア系現代人のゲノムに占めるネアンデルタール人由来の領域は、西ユーラシア系現代人の1.8〜2.4%よりもやや高く、2.3〜2.6%と推定されています。


参考文献:
Prüfer K. et al.(2017): A high-coverage Neandertal genome from Vindija Cave in Croatia. Science, 358, 6363, 655–658.
http://dx.doi.org/10.1126/science.aao1887
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