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zoom RSS 海抜3000m以上のチベット高地における農耕の開始

<<   作成日時 : 2014/11/22 00:00   >>

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 チベット高地の海抜3000m以上の地域での農耕の始まりに関する研究(Chen et al., 2015)が報道されました。『サイエンス』のサイトには解説記事が掲載されています。この研究はオンライン版での先行公開となります。低酸素で寒冷な高地は、人類の生活には厳しい環境と言えます。チベット高地もそのような場所ですが、アンデス山脈のように、採集狩猟民がそうした高地に1万年以上前に適応した事例も知られています(関連記事)。

 この研究では、チベット高地北東部の53遺跡で発見された人工物・動物の骨・植物が分析されました。そのすべての遺跡で、黍・大麦・小麦の焼けた痕跡が確認されました。それらの分析の結果、3600年前までチベット高地における農耕は海抜2500m以下に限定されており、そり以降により高い高度の地域へと農耕が広まっていき、ついには海抜3400mにまで到達したことが明らかになりました。このように高地での農耕が可能となったのは、大麦が導入されたからではないか、と推測されています。

 この研究により、チベット高地にて大麦の栽培が始まった年代は、4000年前頃までさかのぼることが明らかになりました。それ以前のチベット高地ではおもに黍が栽培されていたのですが、黍は霜に弱いため、海抜2500m以上の地域では農耕が行なわれなかったようです。しかし、大麦・小麦には寒冷耐性があるので、海抜2500m以上のチベット高地でも農耕が広がっていきました。海抜2500m以上の遺跡ではおもに大麦が検出されており、多少は小麦も確認されていますが、黍は見つかっていません。大麦や小麦が原産地の西アジアからチベット高地や中華地域までどのように伝わったのか、現時点では不明です。

 注目されるのは、チベットにおいて大麦の栽培とより高い高度の地域への人類の進出が始まったのは、気候が寒冷化していった時期だということです。これは、人類は温暖な時期に高地へと進出していったのだろう、とする見解に反する事実となります。チベット高地で人類は農耕にのみ依存していたのではなく、牧畜と組み合わせた複雑な社会経済が営まれていており、それが完新世後期における地球規模での温度低下への適応を容易にしたのではないか、とも指摘されています。

 チベット人には高地での生活を容易にするような遺伝的変異(高地適応遺伝子)がいくつか確認されており(関連記事)、その中にはデニソワ人(種区分未定)から継承したと推測されるものもありますから(関連記事)、おそらくチベット人は数万年前には高地適応遺伝子の一つを有していたと思われます。デニソワ人とは、ネアンデルタール人(Homo neanderthalensis)とも現生人類(Homo sapiens)とも遺伝的に異なる系統の人類です。

 しかし上記解説記事では、他の高地適応遺伝子には5500〜2750年前に出現したと推測されるものもある、と指摘されています。これは、チベット高地のより高い高度の地域で農耕が始まった時期と一致しており、さらなる高地への進出が、高地適応遺伝子の定着を促したのかもしれません。おそらく、高地への適応を高めるような人類の遺伝的変異はわりと頻繁に生じており、それが定着するか消え去るかは、生活環境に大きく左右されたのでしょう。


参考文献:
Chen F. et al.(2015): Agriculture facilitated permanent human occupation of the Tibetan Plateau after 3600 BP. Science, 347, 6219, 248-250.
http://dx.doi.org/10.1126/science.1259172

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