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ひかりTVのチューナー交換と録画

2017/03/31 00:00
 ひかりTVのシングルチューナーPM-700を7年ほど使用してきましたが、交換するようお報せが来たので、無償ということもあり、今週(2017年3月28日)交換しました。交換を申し込んでから、これまでに録画したデータを視聴できなくなるのではないか、と気づき、もったいないことをしたなあ、とも思ったのですが、再視聴するだけの時間をなかなか作れそうにありませんし、ハードディスクが3台空くことを考えると、まあそんなに悔やむことでもないかな、と考えが変わりました。

 新たに届いたのはトリプルチューナーのST3400で、操作方法が前のシングルチューナーとは変わっているので、やや戸惑いましたが、USB3.0も使えるようになるなど、かなり高性能化しているようです。嬉しい誤算だったのは、過去の録画データも視聴できることで、利用者からの要望に応えたのでしょう。1台のハードディスクに関しては、一部引き継げなかった作品もあったようですが、使用していて最後の方には録画があまり上手くいかなかったので、ハードディスクの寿命の問題なのかもしれません。

 ST3400になり、ハードディスクに録画していた番組をBDにダビングできるようになりました(関連記事)。私のPC環境では、「PC TV Plus」というソフトを導入すれば、BDにダビングできるようです。まあ、2TBのハードディスクは50GBのBDで約40枚分となるわけで、設置場所と利便性を考えると、とりあえずハードディスクに保存したままでよいかな、と思います。以前のチューナーでフォーマットしたハードディスクだと、新たなチューナーではダブル録画のさいに失敗することもあるようなので、近いうちにUSB3.0対応のハードディスクを導入しよう、と考えています。
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カメ類が甲羅に収納する機構を発達させた理由

2017/03/30 00:00
 カメ類が甲羅に収納する機構を発達させた理由に関する研究(Anquetin et al., 2017)が公表されました。これまで、カメ類が甲羅に収納する機構を発達させたのは、頭と首を防護する選択圧のためだとされてきました。現生カメ類の2系統は、それぞれ異なる収納機構を発達させました。曲頸亜目のカメは、首を横に曲げて収納するのに対して、潜頸亜目のカメは、首を垂直方向に曲げ、頭を真っすぐ引いて収納します。この二つの機構は、1億6100万年〜1億4500万年前頃のジュラ紀後期以降に独立に進化したと考えられています。

 この研究は、ジュラ紀後期に現在のドイツとスイスに相当する地域に生息していた、初期の曲頸亜目のカメ(Platychelys oberndorferi)の第6頸椎と第8頸椎について報告しています。この曲頸亜目のカメは、潜頸亜目の現生種と同じ機構を用いて首を垂直方向に曲げ、頭を部分的に甲羅に収納していました。また、頭を部分的にしか収納できなかったことから、この機構が進化したのは主に、カメが頭を素早く伸ばして、すばしこく動き回る獲物を捕獲する能力への選択圧のためだという見解が提示されています。この研究は、現生のカメ類が食物を摂取するさいに頭を制御する機構をさらに調べることにより、この見解を検証していく必要がある、と指摘しています。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。


【進化】初期のカメが首を垂直方向に曲げて甲羅に収納していた理由

 一部のカメでは、首(頸部)を甲羅に収納する能力が、頭を素早く伸ばして獲物を捕らえるために進化したという見解を示すJeremy Anquetinの研究チームの論文が、今週掲載される。Anquetinたちは、頭を甲羅の中に完全に収納して防護することは、この進化過程の二次的利益だったと考えている。

 従来の学説では、カメ類が甲羅に収納する機構を発達させたのは、頭と首を防護するためだとされてきた。現生カメ類の2つの系統は、それぞれ異なる収納機構を発達させた。つまり、曲頸亜目のカメは、首を横に曲げて収納するのに対して、潜頸亜目のカメは、首を垂直方向に曲げ、頭を真っすぐ引いて収納する。この2つの機構は、ジュラ紀後期(約1億6100万年〜1億4500万年前)以降に独立に進化したと考えられている。

 この論文では、ジュラ紀後期に現在のドイツとスイスに当たる地域に生息していた初期の曲頸亜目のカメ(Platychelys oberndorferi)の第6頸椎と第8頸椎について説明している。Anquetinたちは、P. oberndorferiが潜頸亜目の現生種と同じ機構を用いて首を垂直方向に曲げ、頭を部分的に甲羅に収納していたことを発見した。また、Anquetinたちは、頭を部分的にしか収納できなかったことに着目し、この機構が進化したのは主に、カメが頭を素早く伸ばして、すばしこく動き回る獲物を捕獲する能力を高めるためだという考えを示している。さらに、Anquetinたちは、現生のカメが食物を摂取する際に頭を制御する機構をさらに探究することによって、この学説をさらに検証する必要があると指摘している。



参考文献:
Anquetin J, Tong H, and Claude J.(2017): A Jurassic stem pleurodire sheds light on the functional origin of neck retraction in turtles. Scientific Reports, 7, 42376.
http://dx.doi.org/10.1038/srep42376
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霊長類の脳サイズと食性の関係

2017/03/29 00:00
 これは3月29日分の記事として掲載しておきます。霊長類の脳サイズと食性の関係についての研究(DeCasien et al., 2017)が公表されました。霊長類の脳サイズの進化に関するこれまでの研究では、種の典型的な集団の平均的な構成個体数と体の大きさに対する脳サイズとの間に相関が見出されています。しかし、種が一夫一妻制かどうかなど、社会的複雑性に関する別の尺度を考えると、結果には一貫性がなく、環境中の他の潜在的推進要因が探られていません。この研究は、非ヒト霊長類の脳サイズに関して、これまでに異なる140種以上から集めた最大のデータセットをまとめ上げ、脳サイズと複数の社会性尺度(集団サイズ・社会システム・配偶行動)および摂餌習慣の関係を調べました。その結果、脳サイズにはどの社会性尺度とも関係が認められず、食餌の予測力の方がはるかに強力である、と明らかになりました。

 この研究は、それぞれの種の進化的近縁度と相対的な体の大きさを考慮し、果実を食べる霊長類の脳組織が草や葉を食べる種と比較して約25%大きいことを明らかにしました。この分析では、果実食が大きな脳の進化につながる理由は明らかにされていませんが、この研究は、果実の位置の想起および手作業での果肉の取り出しに関連する認知的要求と、低エネルギーの草や葉と比較した高エネルギーの果実の消費と関連するエネルギー報酬との組み合わせにより、脳サイズ増大の進化が促進された可能性を示唆しています。確定したとはまだとても言えませんが、この研究の提示した見解はたいへん注目されるので、今後の検証の進展が大いに期待されます。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。


果実は大きな脳の進化を促進する

 霊長類の脳サイズを的確に予測するのは、社会生活の複雑さよりも食餌である、という論文が、今週のオンライン版に掲載される。この種の分析としてはこれまでで最大のものとなった今回の研究は、ヒトおよび一部の霊長類群が他の多くの動物と比較して大きな脳を進化させた理由を説明する従来の仮説に対し、疑問を投げ掛けている。

 霊長類の脳サイズの進化を調べたこれまでの研究は、種の典型的な集団の平均的な構成個体数と体の大きさに対する脳サイズとの間に相関を見いだしている。しかし、社会的複雑性に関する別の尺度(たとえば、種が一夫一妻制かどうかなど)を考えると、結果には一貫性がなく、環境中の他の潜在的推進要因が探られていない。

 Alex DeCasienたちは、非ヒト霊長類の脳サイズに関して、これまでに異なる140種以上から集めた最大のデータセットをまとめ上げ、脳サイズと複数の社会性尺度(集団サイズ、社会システム、および配偶行動)と摂餌習慣の関係を探った。その結果、脳サイズにはどの社会性尺度とも関係が認められず、食餌の予測力の方がはるかに強力であることが分かった。

 それぞれの種の進化的近縁度および相対的な体の大きさを考慮して、研究チームは、果実を食べる霊長類の脳組織が草や葉を食べる種と比較して約25%大きいことを発見した。その分析では、果実食が大きな脳の進化につながる理由は明らかにされていないが、研究チームは、認知的要求(果実の位置の想起および手作業での果肉の取り出しに関連)とエネルギー報酬(低エネルギーの草や葉と比較した高エネルギーの果実の消費と関連)との組み合わせによってそれが促進された可能性を示唆している。

 関連するNews & Views記事では、Chris Vendittiが次のように述べている。「今回の研究によって霊長類や他の哺乳類の認知的複雑性を解明する研究に改めて注目が集まり、この分野が再び活気づくことは間違いないだろう。しかし、残されている問題はまだ多い」。



参考文献:
DeCasien AR, Williams SA, and S JP.(2017): Primate brain size is predicted by diet but not sociality. Nature Ecology & Evolution, 1, 0112.
http://dx.doi.org/10.1038/s41559-017-0112
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大河ドラマ『おんな城主 直虎』第12回「おんな城主直虎」

2017/03/28 00:00
 これは3月28日分の記事として掲載しておきます。今川からの呼び出しに応じて駿府に向かった直親(亀之丞)は、道中で今川方の兵たちに取り囲まれ、討たれます。申し開きの場さえ与えられず、騙し討ちで殺害されたことに、井伊家中は憤激します。直親の妻の「しの」は、次郎法師(直虎)が小野政次(鶴丸)を成敗しなかったのでこうなったのだ、と次郎法師を責め立てます。今川は直親の嫡男である虎松(井伊直政)を殺すよう命じ、新野左馬助は虎松助命のために駿府に赴きます。激昂する今川氏真の出した助命の条件は、松平元康(徳川家康)を討ち取ることでした。

 今川への忠誠を誓う政次は、松平と三河の一向宗門徒との対立を煽るよう、氏真に進言します。政次の目論見通り、三河では一向一揆と松平との対立が激化し(松平の家臣団の中には一向一揆に走る者もいました)、松平の勢いは殺がれます。今川の命により、直平・左馬助・中野直由たちは今川に敵対する勢力との戦いに赴き、相次いで討ち死にします。これは今川と政次の思惑通りということなのでしょう。井伊家中の要人が相次いで討ち死にすると、政次が井伊谷に戻って来て、家督たる虎松の後見人を自分が務めるよう、今川から命じられた、と次郎法師の母である千賀に告げます。次郎法師は政次に裏切ったのか問い質しますが、政次は、井伊は終わるべくして終わったのだ、と次郎法師を突き放します。

 千賀は南渓和尚に虎松の後見人になるよう要請しますが、南渓和尚は次郎法師を後見人にしようと考えていました。無力な自分を思い知らされて自暴自棄になりかけた次郎法師を、南渓和尚は穏やかに諭します。次郎法師は直親の遺志を継ぐ決意を固め、井伊直虎として、今川の目付もいるなか、領地を治めると宣言します。いよいよ直虎が主人公らしく動いてきそうで、今後が楽しみです。やはり、直虎と、井伊を裏切ったように見える政次との関係が今後の見どころになりそうです。直虎は幼馴染の政次を敵視するようになりましたが、本作における政次の描かれ方からすると、単純に政次を主人公の敵役とするわけではなく、ひねった展開になりそうな気がします。直虎と政次との関係は、どのような結末を迎えるのでしょうか。
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大相撲春場所千秋楽

2017/03/27 00:00
 これは3月27日分の記事として掲載しておきます。稀勢の里関が「日本出身」力士として久々に横綱に昇進して初めての場所を迎えたことで、今場所は大いに盛り上がったように思います。稀勢の里関は12日目まで無敗を守り、単独首位に立ちました。ただ、相撲内容自体は、攻め込まれることも多く、あまり褒められたものではないと思っていたので、13日目に日馬富士関に敗れたことは意外ではありませんでした。まあ、攻め込まれることが多かったとはいっても、余裕のある残し方が多かったので、好意的に解釈すれば、横綱相撲と言えるかもしれませんが。稀勢の里関は13日目に日馬富士関に敗れて負傷し、強行出場したものの、やはり力を出せる状態ではなく、14日目に鶴竜関に敗れ、14日目が終わった時点で、優勝争いは1敗の照ノ富士関と2敗の稀勢の里関に絞られました。

 正直なところ、私は照ノ富士関があっさり2回目の優勝を決めると確信しており、14日目が終了した時点でほぼ記事を執筆し終えていたのですが、稀勢の里関が本割と決定戦で連勝して2場所連続2回目の優勝を果たし、かなり書き直さざるを得ませんでした。千秋楽の稀勢の里関に関しては、本割で変化したことも含めて、本割・決定戦ともに相撲内容はよくなったのですが、勝因は、照ノ富士関が稀勢の里関の怪我を悪化させまいとして気を遣い過ぎたことにあるのではないか、と思います。確かに、稀勢の里関の怪我は深刻なものであり、本割での変化は、何とか勝とうとしての苦肉の策なのでしょうが、14日目の対戦相手の鶴竜関もそうだったであろうように、対戦相手に状態を気遣わせることはあってはならず、ましてや横綱なのですから、14日目と千秋楽は休場すべきだったと思います。これで怪我が悪化し、稀勢の里関の現役生活を縮めるようなことがなければよいのですが。

 照ノ富士関に関しては、もう以前の力を取り戻せないのではないか、と心配していただけに、今場所の復活には喜んでいます。鶴竜関とは異なり、相手の状態を気遣いつつ勝つような器用さがなかったのが、優勝を逃した要因でしょうか。照ノ富士関は、大怪我の前に一度は実力で稀勢の里関を完全に上回り、稀勢の里関よりも横綱にずっと相応しい、と私は考えていましたし、今の横綱・大関陣は照ノ富士関を除いて全員30代であり、20代半ばの照ノ富士関がこのまま復活できなければ、数年後たいへん厳しい状況になるのではないか、と懸念していたので、照ノ富士関に横綱昇進への道が再び開かれ、安心しました。もっとも、照ノ富士関は先場所が4勝11敗、昨年は大関として33勝48敗9休という成績だっただけに、来場所全勝優勝を果たしたとしても、もう1場所様子を見て横綱に昇進させるか否か、決めるほうがよいと思います。

 ただ、照ノ富士関は復活したとはいえ、力任せの雑な相撲は以前と変わらないので、また負傷するのではないか、との懸念は払拭できません。また、琴奨菊関との取り組みでの変化とその後の表情などもあり、横綱に昇進したとしても、悪役として人気が低迷しそうなのも、懸念されます。稀勢の里関に逆転で優勝を許した一因として、琴奨菊関との一番で観客を敵に回してしまい、それが重圧になったこともあるのではないか、と思います。まあ、照ノ富士関に色々と問題もあるとはいえ、以前の力を取り戻せたとしたら、照ノ富士関が次の横綱にもっとも相応しいことは確かであり、安易に変化することなく、豪快な相撲で人気を得ていってもらいたいものです。

 鶴竜関と日馬富士関はともに10勝5敗で、まあこんなものだろう、と思います。日馬富士関の方は、やはり状態が悪いようなので、後1回優勝できるかどうか、といったところでしょうか。鶴竜関の方は、白鵬関が復活できず、稀勢の里関が今場所の強行出場により実力を大きく落とすとしたら、今後数回優勝できるかもしれません。ただ、白鵬関が復活し、稀勢の里関の怪我が深刻なものではないとしたら、もう優勝できないかもしれません。高安関は12勝3敗で、来場所再度大関昇進に挑戦することになります。現時点で、高安関がもっとも大関に近い力士であることは間違いないでしょうが、今場所もそうだったように、集中力が途切れるのか、終盤に失速することがあり、この点が懸念されます。
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『最古の文字なのか? 氷河期の洞窟に残された32の記号の謎を解く』

2017/03/26 00:00
 これは3月26日分の記事として掲載しておきます。ジェネビーブ=ボン=ペッツィンガー(Genevieve von Petzinger)著、櫻井祐子訳で、文藝春秋社より2016年11月に刊行されました。原書の刊行は2016年です。著者の見解は地上波の番組でも取り上げられたことがあり、すでにある程度知られているのではないか、と思います。このブログでも、著者の見解を取り上げたことがあります(関連記事)。

 本書は、おもにヨーロッパを対象として、後期更新世のさまざまな記号を区分し、その意味・役割を解明しようとしています。本書は、こうした記号で同じように見えるものでも、時代・地域により意味が異なっていたのではないか、と慎重な姿勢を示しつつ、こうした記号が何らかの補助的な記憶装置の役割を果たしており、その中には地図として機能したものがある可能性も指摘しています。もっとも、本書も認めるように、後期更新世の記号の意味を明らかにすることは永久に無理だと思われます。それでも、著者が取り組んでいるように、対象地域を拡大してさまざまな記号をデータベース化し、神経心理学・言語学の知見やその当時の環境を考慮することにより、可能性のより高い仮説を絞り込むことはできるでしょうし、本書を読んで、この分野の研究は今後大いに進展するのではないか、と期待されます。

 本書は、記号として分類されているものだけではなく、動物を描いたものや彫像など、さまざまな更新世の人為的作品を取り上げています。ヨーロッパの上部旧石器時代以降の、現生人類(Homo sapiens)が残したと思われる作品については、完全に現代人と同等の抽象的・象徴的思考能力を有した人々の所産だ、と本書は強調しています。本書はさらに、150万年以上前から用いられた握斧(Handaxe)のなかに、一度も使用された痕跡のないものがあることや、ジャワ島の54万〜43万年前頃の線刻のある貝殻(関連記事)や、43万年前頃のスペイン北部の「骨の穴(Sima de los Huesos)洞窟」遺跡の未使用の赤い握斧などから、現代人と同じではないにしても、抽象的・象徴的思考能力の萌芽が50万年以上前までさかのぼる可能性を指摘しています。

 表題の「最古の文字なのか」という問題について本書は、後期更新世のさまざまな記号は文字ではない、との見解を提示しています。文字体系とは「耐久性のある面に書かれた、視覚的で慣習化された記号を利用する、相互コミュニケーションのシステム」であり、後期更新世のさまざまな記号は「耐久性のある面」と「視覚的な記号」という条件は満たしているものの、「慣習化」という条件は満たしていなかった、というわけです。しかし本書は、後期更新世のさまざまな記号が、その場限りの意思伝達手段である音声言語や身振り手振りとは異なり、時空を超えて意味を伝える手段として、後の文字体系の前駆として考えられることの意義を強調しています。本書は、学術的な議論だけではなく、各遺跡の風景や人間模様なども紹介しており、一般向け書籍として良書と言えるでしょう。一般向け書籍ながら、参考文献が明示されているのもよいと思います。


参考文献:
Petzinger G.著(2016)、野中香方子訳、更科功解説『最古の文字なのか? 氷河期の洞窟に残された32の記号の謎を解く』(文藝春秋社、原書の刊行は2016年)
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鳥類のくちばしの形状の進化

2017/03/25 00:00
 これは3月25日分の記事として掲載しておきます。鳥類のくちばしの形状の進化に関する研究(Cooney et al., 2017)が公表されました。この研究は、2000種を超す鳥類の分析から、くちばしの形状の多様性は、鳥類の進化がより沈静化した状態に落ち着く以前の初期段階に拡大したことを明らかにし、ダーウィンの「くさび」式の自然淘汰説を支持しています。しかし、このパターンは時間的変動とは連動しておらず、初期の進化の速度はその後の進化とさほど変わりませんでした。また、系統樹の枝に沿って進化速度が急上昇した例がいくつか発見され、こうした例では極端なくちばし形態を持つ種数のごく少ないクレードが生じていたことも明らかになりました。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。


進化学:鳥類の適応放散の巨大進化動態

進化学:鳥類のくちばし形状の進化

 生物学的多様性は何によって形作られているのだろうか。今回、2000種を超す鳥類の研究から、くちばしの形状の多様性は、鳥類の進化がより沈静化した状態に落ち着く以前の初期段階に拡大したことが示され、ダーウィンの「くさび」式の自然淘汰説が支持された。しかし意外だったのは、このパターンが時間的変動とは連動していないことで、初期の進化の速度はその後の進化とさほど変わらなかった。また、系統樹の枝に沿って進化速度が急上昇した例がいくつか発見され、こうした例では極端なくちばし形態を持つ種数のごく少ないクレードが生じていたことが分かった。



参考文献:
Cooney CR. et al.(2017): Mega-evolutionary dynamics of the adaptive radiation of birds. Nature, 542, 7641, 344–347.
http://dx.doi.org/10.1038/nature21074
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大きく変わるかもしれない恐竜の系統樹

2017/03/24 00:00
 これは3月24日分の記事として掲載しておきます。恐竜の系統樹の見直しに関する研究(Baron et al., 2017)が公表されました。恐竜は過去130年間ほど、鳥式骨盤を特徴とする鳥盤目と爬虫類に似た骨盤を持つ竜盤目という2主要分類群(クレード)に分類されてきました。鳥盤目には鳥脚亜目(イグアノドンなど)と装甲恐竜(トリケラトプス、ステゴサウルスなど)が含まれ、竜盤目には肉食の獣脚亜目(ティラノサウルス=レックスなど)と巨大な竜脚亜目(ディプロドクスなど)が含まれています。

 この研究は、さまざまな初期恐竜74分類群を調べ、457種類の特徴を分析し、解剖学的類似性と解剖学的差異を検証しました。その結果、鳥盤目と獣脚亜目を含み、共通祖先から受け継いだ21種類の特徴(顎骨の鋭い突起、独特の中足骨など)とその他のいろいろな共通の特徴を有する新しいクレードが作り出されました。もう一つの新しい分類群には、竜脚亜目とヘレラサウルス科の肉食恐竜が含まれており、肉食の獣脚亜目は除外されました。この研究は、第2の新分類群と肉食の獣脚亜目には類似した特徴があるものの、それらは独立に進化した、との見解を提示しています。

 この研究で提示されたモデルは、恐竜の進化に関する新たな手掛かりになっている、と指摘されています。たとえば、初期恐竜は小型の雑食恐竜であり、二足歩行し、物体を把持できる手を持っていたことが示唆されています。また、この研究では、恐竜の起源がゴンドワナ大陸ではなく北半球だった可能性があると明らかになりましたが、恐竜の進化に関して時期と地理的環境の再評価が必要になる、との見解も示されています。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用(引用1および引用2)です。


【化石】恐竜の系統樹を大きく揺さぶる新しい仮説

 恐竜の進化的関係の推移に関する新しい仮説を紹介する論文が、今週掲載される。この仮説は、1世紀以上続いた定説に疑問を投げ掛けており、恐竜を2つの新しい主要分類群に分けるという大胆な提案をしている。その正当性が確認されると、現在の恐竜の系統樹を書き替える必要が生じる可能性がある。

 これまでの約130年間、恐竜は、鳥式骨盤を特徴とする鳥盤目と爬虫類に似た骨盤を持つ竜盤目という2つの主要分類群(クレード)に分類されてきた。鳥盤目には鳥脚亜目(イグアノドンなど)と装甲恐竜(トリケラトプス、ステゴサウルスなど)が含まれ、竜盤目には肉食の獣脚亜目(ティラノサウルス・レックスなど)と巨大な竜脚亜目(ディプロドクスなど)が含まれている。

 今回、Matthew Baronの研究チームは、さまざまな初期恐竜(74分類群)を調べて、457種類の特徴を分析し、解剖学的類似性と解剖学的差異を検証した。その結果、Baronたちは、鳥盤目と獣脚亜目を含み、共通祖先から受け継いだ21種類の特徴(顎骨の鋭い突起、独特の中足骨など)とその他のいろいろな共通の特徴を有する新しいクレードを作り出した。もう1つの新しい分類群には、竜脚亜目とヘレラサウルス科の肉食恐竜が含まれており、肉食の獣脚亜目は除外された。(Baronたちは、この第2の分類群と肉食の獣脚亜目には類似した特徴があるが、それらは独立に進化したものだと考えている。)

 このBaronたちのモデルは、恐竜の進化に関する新たな手掛かりとなっている。例えば、初期恐竜は小型の雑食恐竜であり、二足歩行し、物体を把持できる手を持っていたことが示唆されている。また、今回の分析で、恐竜の起源がゴンドワナ大陸ではなく北半球だった可能性があることが明らかになったが、Baronたちは、恐竜の進化に関して時期と地理的環境の再評価が必要になっているという考えを示している。


古生物学:恐竜の類縁関係と初期進化に関する新仮説

Cover Story:恐竜の分類:進化系統樹を根本的に書き換える

 表紙は、始祖鳥科の非対称な風切羽が落ちてくるのを見上げている鳥盤類恐竜Kulindadromeusの想像図である。こうした風切羽は、獣脚類でしか知られていないが、M Baronたちが今回提示した恐竜の類縁関係についての仮説が裏付けられれば、こうした分類は見直さなければならなくなるだろう。彼らは、「恐竜は竜盤目と鳥盤目の2群に分けられる」という現在広く認められている進化系統樹を書き換える必要性を示している。竜盤目には、ティラノサウルス・レックスなどの肉食獣脚類やディプロドクスなどの巨大な竜脚類が含まれており、鳥盤目には、イグアノドンなどの鳥脚類やトリケラトプスやステゴサウルスなどの角や装甲を持つ恐竜が含まれる。著者たちは、初期の鳥盤類に基づいてこの分類に異議を唱え、竜脚類を、初期の肉食性のヘレラサウルス類と同じ群に分類し、鳥盤類と獣脚類を同じ群に分類すべきであると提案している。



参考文献:
Baron MG, Norman DB, and Barrett PM.(2017): A new hypothesis of dinosaur relationships and early dinosaur evolution. Nature, 543, 7646, 501–506.
http://dx.doi.org/10.1038/nature21700
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高地に順応する方法を「記憶」している血液細胞

2017/03/23 00:00
 これは3月23日分の記事として掲載しておきます。赤血球が高地へ順応する仕組みについての研究(Song et al., 2017)が公表されました。ヒトの体は、低酸素状態を生き延びるために適応応答を起こして、体内組織への酸素供給を促進します。そうした適応応答の一つがアデノシンという化学物質の放出で、これにより血管漏出が防止され、炎症が軽減されて、血管が拡張して組織の損傷が減ります。これまでの研究では、高地に繰り返して行くことで低酸素環境への適応が加速されることが明らかになっていましたが、このように応答が増進することの分子基盤は分かっていませんでした。

 この研究は、アデノシンシグナル伝達を増強する重要な構成要素が発見されたことを報告しています。この研究では、高地に移動したヒトと低酸素環境下のマウスの両方において、赤血球タンパク質の一つであるeENT1が分解されていることが明らかになりました。eENT1が失われると、アデノシンが血漿中に急速に蓄積し、低酸素症による組織損傷が抑制されました。ヒトの場合には、最初の登山時によるeENT1の減少が二度目の登山でも起こり、この赤血球による「低酸素症の記憶」が順応の加速につながりました。

 この研究は、eENT1分解経路を治療標的とすることが、低酸素症の有害な影響と闘う活動の指針になる可能性を示しています。低酸素症は、高地への登山時だけでなく、心血管疾患や呼吸器疾患などといった一定範囲の疾患においても起こる可能性があります。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。


【生物科学】高地に順応する方法を「記憶」している血液細胞

 ヒトは最初の登山より2度目の登山の時の方が素早く高地に順応できるのが一般だが、その原因は、赤血球が前回の登山を「記憶」しており、再度の登山時には素早く適応できる点にあるとする研究報告が、今週掲載される。今回の研究では、この応答に関係する重要な分子経路がマウスとヒトの両方で同定されたが、これが低酸素症(生体の組織に十分な酸素が行き渡らない状態)の有害な影響を軽減するための治療法にとって有益な情報となる可能性がある。

 私たちの体は、低酸素状態を生き延びるために適応応答を起こして、体内組織への酸素供給を促進する。そうした適応応答の1つがアデノシンという化学物質の放出で、これによって血管漏出が防止され、炎症が軽減され、血管が拡張して組織の損傷が減る。これまでの研究では、高地に繰り返して行くことで低酸素環境への適応が加速されることが明らかになっていたが、このように応答が増進することの分子基盤は分かっていなかった。

 今回、Yang Xiaの研究チームは、アデノシンシグナル伝達を増強する重要な構成要素が発見されたことを報告している。この研究で、高地に移動したヒトと低酸素環境下のマウスの両方において、赤血球タンパク質の1つであるeENT1が分解されていることが明らかになった。eENT1が失われると、アデノシンが血漿中に急速に蓄積し、低酸素症による組織損傷が抑制された。(ヒトの場合には)最初の登山時によるeENT1の減少が2度目の登山でも起こり、この赤血球による「低酸素症の記憶」が順応の加速につながった。

 Xiaたちは、eENT1分解経路を治療標的とすることが、低酸素症の有害な影響と闘う活動の指針になる可能性を示している。低酸素症は、高地への登山時だけでなく、一定範囲の疾患(例えば、心血管疾患や呼吸器疾患)においても起こる可能性がある。



参考文献:
Song A. et al.(2017): Erythrocytes retain hypoxic adenosine response for faster acclimatization upon re-ascent. Nature Communications, 8, 14108.
http://dx.doi.org/10.1038/ncomms14108
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ファミリー劇場HDリマスター版『太陽にほえろ!』618話〜620話

2017/03/22 00:00
618話「コンピュータ計画」5
 今回は2時間スペシャルとなります。今回のメインゲストは水木刑事で、この後間もなく、マイコン刑事として一係に赴任することになります。若手刑事がレギュラーとなる前にテスト出演することは本作の定番となっていますが、同一人物だったことはありません。レギュラーとして起用される前に同一人物で出演していたとなると、早瀬婦警だったマミーも同様ですが、マミーの場合は、早くてもロッキーとの結婚あたりまでは、レギュラーとしての起用は考えられていなかったように思います。その意味で、マイコンは異例の起用だったと思います。話の方はすっかり忘れていましたが、当初は犯人の目的が謎めいていたところは楽しめました。しかし、全体的には、水木刑事の人物造形がさほど魅力的ではなかったこともあり、いまいちでした。今回は当時の技術とその認知度が窺えて興味深く、やはり本作の映像資料としての価値は高い、と改めて思ったものです。今となっては、というか20世紀末の時点では懐かしい死語扱い(だったと思います)のマイコンを21世紀になって改めて聞くと、気恥ずかしさのようなものもあります。


619話「犯人の顔」5
 久しぶりのラガー主演作となります。ある女性が襲われて気絶し、部屋に隠していた300万円が盗まれます。女性は、300万円を部屋に隠していたことを二人の友達に話していましたが、自分を襲った犯人は友達ではない、と証言します。一係は、この二人の友達のどちらかが共犯者ではないか、と疑います。容疑者二人の交友関係は広く浅いので、捜査は難航します。そんな中で同様の事件が発生し、襲われた老人が殺されます。ラガーは、偶然隣の部屋から電話での話し声が聞こえてきたことから、被害者の隣の男性が犯人ではないか、と推理します。謎解き要素と都会の希薄な人間関係が軸となり、まずまず楽しめましたが、盛り上がりに欠けた感は否めません。


620話「素晴らしき人生」10
 歩道橋で衆人環視のなか男性が刺されて死亡し、犯人の男性は逃走します。ところが、犯人は翌日自首します。犯人は、肩が触れて揉めたのが動機だと自白します。山さんは、犯人は真の動機を隠しているのではないか、と疑います。山さんは、犯人が世話になったレストランの店長から話を聞き、この店長と犯人との間に何かあるのではないか、と推理します。しかし、犯人はなかなか自白せず、捜査は難航します。山さんは粘り強く捜査を進め、レストランの店長と犯人との間に何かが隠されている、と確信します。けっきょく、レストランの店長は娘の治療費のための殺人を犯人の男性に目撃されたと思い、犯人の男性が偶然レストランを訪れたことから疑心暗鬼になり、犯人の男性に親身になった結果、犯人の男性は更正した、という真相が明らかになります。殺された男性は、レストランの店長の娘の治療のために薬を横流しし、そのことでレストランの店長を強請っていました。それを見た犯人の男性は、世話になったレストランの店長のために男性を殺した、というわけです。何とも苦い真相でしたが、自嘲する犯人の男性を、更生してからの6年間は素晴らしかったではないか、と山さんは諭します。謎解きの要素もなかなか面白かったのですが、偶然が紡いだ人間模様は上手く構成されているな、と感心しました。このような大人向けの作品もあったことが、本作の長寿放送を可能とした一因なのでしょう。
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大河ドラマ『おんな城主 直虎』第11回「さらば愛しき人よ」

2017/03/21 00:00
 これは3月21日分の記事として掲載しておきます。瀬名(築山殿)が処刑されようとしたところに、その夫である松平元康(徳川家康)からの使者である石川数正が到着します。数正は、松平側が取った今川方の人質と瀬名およびその二人の子供との交換を要求し、瀬名と二人の子供は夫である元康のいる岡崎に赴くことになります。次郎法師(直虎)から寿桂尼の様子を聞いた直親(亀之丞)は、今川家の前途は危ういと考えます。

 元康は次郎法師に瀬名助命の奔走のお礼を、直親には書状を送ります。その書状には、鷹狩への誘いが書かれていました。直親は小野政次(鶴丸)に、松平に付く決意を明かし、政次も同意します。しかし、元康と名乗って直親と会った人物は、元康ではありませんでした。これは今川の罠で、駿府に呼び出された政次は、井伊が松平に内通しているのではないか、と寿桂尼に問い質されます。決定的な証拠を提示されて、政次は今川への忠誠を誓います。

 直親は南渓和尚を岡崎に派遣し、松平と組んで今川と対抗しようとしますが、元康は、余力がないと断ります。次郎法師は瀬名に頼み込み、人質になってもらい、元康と交渉しようとしますが、母の想いにこたえて今川を手に入れようとしている瀬名に拒絶されます。直親は駿府に呼び出され、なかなかそれに応じませんでしたが、今川は政次の進言にしたがい派兵してきます。井伊家中は徹底抗戦を訴えますが、直親は、自分の失態であることから、駿府に赴く決意を固めます。

 今回は、心理戦・謀略戦とともに、序盤の主要人物である次郎法師・直親・政次の人間関係と、元康の非情さ・瀬名の決意といった人間模様が描かれ、かなり面白くなっており、これまでで最も楽しめて視聴できました。ただ、次郎法師・直親・政次という序盤の主要人物のうち、早くも次回で直親が退場することになりそうで、意外と展開が早いように思います。瀬名の扱いが大きいので、後半は、瀬名と元康の関係に次郎法師(直虎)を絡めて、話が展開するのでしょうか。
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歴史は妄想であってはならない(「聖徳太子」表記をめぐる議論)

2017/03/20 00:00
 これは3月20日分の記事として掲載しておきます。新学習指導要領案で、「聖徳太子」について、小学校では「聖徳太子(厩戸王)」、中学校では「厩戸王(聖徳太子)」と表記が変更になる件は、抗議する団体がいたり、国会でも取り上げられたりするなど、一部?で話題になったようです。このブログでも4年前(2013年)に、高校日本史教科書での「聖徳太子」表記の問題を取り上げたことがあります(関連記事)。表題の記事では、「後世、聖徳太子と呼ばれている人物は、生きていた当時はそんな名ではなく、厩戸王だった。だから、歴史教科書では、いわば両論併記で厩戸王(聖徳太子)と書くように変更しようとしたわけです」と指摘されています。

 これが「リベラル派」やアンチ「ネトウヨ」派の一般的な認識かどうかは分かりませんが、「厩戸王」も不適切だということは、『聖徳太子 実像と伝説の間』(関連記事)の著者である石井公成氏がブログでも指摘しています。現時点の知見では、「厩戸王」は江戸時代後期まで見られない表記ですが、「聖徳太子」は8世紀半ば頃成立の『懐風藻』に見えます。さらに、『日本書紀』には「聖徳太子」という名称そのものはありませんが、「敏達紀(巻廿)」には「東宮聖徳」、「推古紀(巻廿二)」には「上宮太子」とあるので、『日本書紀』成立の頃には、「聖徳太子」という表記が用いられる要素は出そろっていた、と言えそうです。

 確かに、『日本書紀』では、後世の作文ではないかと疑われている十七条憲法は聖徳太子の作と明示されているのにたいして、準同時代史料の『隋書』で確認のとれる冠位十二階や遣隋使については聖徳太子の関与が明示されていないことなど、通俗的に漠然と思い描かれてきた聖徳太子像を見直す必要はあるでしょう。しかし、だからといって、「厩戸王」が「正しい表記」で、「聖徳太子」は「後世の造語」だ、という見解は妥当ではないでしょう。

 ただ、「聖徳太子」よりも「厩戸王」の方がまだしも妥当な表記だ、との見解にも一定以上の説得力があるかもしれません。通説とまでは言えないかもしれませんが、7世紀初頭のヤマト政権には後世の皇太子制のようなものはなかった、との見解が有力だと思われるからです。その意味で、太子という表記は適切とは言えないかもしれません。もっとも、これもすでに多くの人が指摘しているでしょうが、それならば、「欽明天皇」や「推古天皇」のような表記も問題視されるべきではあるでしょう(天皇号の成立については、天武朝説が有力ではあるものの、それよりも前との説も根強くあるようです)。

 ただ、『隋書』によると、当時の倭国には太子が存在したことになっています。これが中華王朝の知識層の常識(皇帝や王などの君主がいるならば太子もいるだろう)による誤認なのか、当時すでに後の皇太子制に類似したものがあったのか、門外漢には判断の難しいところです。おそらく当時の王(大王)は、群臣・王族の有力者の力関係に基づく協議により、(多くの場合は)複数の有力候補者の中から選ばれたのではないか、と思います。

 まとまりのない記事になってしまいましたが、元服・出家・還俗など人生の節目に新たな名を名乗ることの多かった前近代の日本の人物を、義務教育の水準において「当時の(正しい)名前」で表記することに拘るのにあまり意味があるとも思えないので、「聖徳太子」から「厩戸王」に表記を変更したり、両者を併記したりする必要はなく、「聖徳太子」のままでよいのではないか、と思います。その意味で、「北条政子」や「日野富子」もとくに表記を改める必要はない、と考えています。ついでに述べると、北条政子や日野富子を具体例に、日本における夫婦同姓は西洋の物真似にすぎず、100年ていどの歴史しかない「創られた伝統」だ、との見解にも問題が多いと思います(関連記事)。まあこんなことを言うと、「リベラル派」から嘲笑・罵倒されそうですが。
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『カラー図解 進化の教科書 第2巻 進化の理論』

2017/03/19 00:00
 これは3月19日分の記事として掲載しておきます。カール=ジンマー(Robin Dunbar)、ダグラス=エムレン(Douglas J. Emlen)著、更科功・石川牧子・国友良樹訳で、講談社ブルーバックスの一冊として、2017年1月に講談社より刊行されました。原書の刊行は2013年です。第1巻については、すでにこのブログで取り上げています(関連記事)。第2巻はとくに淘汰を重点的に解説しており、第5章「進化のメカニズム─遺伝的浮動と自然淘汰」・第6章「量的遺伝学と表現型の進化」・第7章「自然淘汰」・第8章「性淘汰」という構成になっています。

 第2巻も、具体的な事例を豊富に引用しつつ、進化の基本的な仕組みを的確に解説しており、私のように、進化についてある程度以上関心のある門外漢にとって、たいへん優れた入門書になっていると思います。ボトルネック(瓶首効果)と創始者効果については、ある程度以上理解しているつもりでしたが、本書のような的確で簡潔な解説は自分にはとてもできず、これまでの理解に曖昧なところが多分にあったのだな、と思い知らされました。ボトルネックと創始者効果に限らず、第2巻の内容も人類の進化を理解するうえで重要なものばかりであり、当然のことではありますが、人類の進化を進化学全体の知見のなかで把握しなければならない、との思いを改めて強くしました。

 第2巻も、進化の具体的な事例の一部として人類が取り上げられており、門外漢の読者の関心を惹くような構成になっていて、一般向け書籍としての工夫が感じられます。第2巻では、近親交配の具体的な事例としてハプスブルク家が取り上げられていますが、古代日本の支配層など他の事例についても、興味深い結果が得られそうです。定番と言ってもよいだろう、現代人の乳糖耐性の進化に関する解説も興味深いものでした。人類の活動が淘汰に大きな影響を及ぼしていることについても、本書の的確な解説で理解がずっと深まったように思われ、有益でした。農薬とその抵抗性の進化への対策として農薬を用いない「避難所」を一部作ることが取り上げられており、興味深い実例でした。性淘汰にも1章割かれており、有性生殖の生物である人類の進化についても、性淘汰は重要な観点となるだろう、と改めて思ったものです。


参考文献:
Zimmer C, and Emlen DJ.著(2017)、更科功・石川牧子・国友良樹訳『カラー図解 進化の教科書 第2巻 進化の理論』(講談社、原書の刊行は2013年)
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化学物質に汚染されている海洋最深部

2017/03/18 00:35
 海洋最深部の汚染に関する研究(Jamieson et al., 2017)が公表されました。この研究は、太平洋のマリアナ海溝とケルマデック海溝の最深部に生息する生物の試料を引き揚げるために、両海溝の水深の測定が可能な深海探査船を利用しました。分析の結果、端脚目甲殻類の脂肪組織には、絶縁油として一般的なポリ塩化ビフェニル(PCB)や、難燃剤として広く使用されるポリ臭化ジフェニルエーテル(PBDE)など、残留性有機汚染物質(POP)が極めて高レベルで発見されました。

 マリアナ海溝とケルマデック海溝は互いにほぼ7000 km隔てられ、工業地帯から遠く離れており、深さは10 kmを超えます。そうした地球最深級の二つの海溝において、北西太平洋で有数の汚染された工業地帯である駿河湾に匹敵する水準の汚染が発見されたわけです。汚染物質は、海底へ沈降する汚染されたプラスチックデブリや動物遺骸片に乗って海溝へたどり着き、そこで端脚類に摂取された可能性が高い、とこの研究は示唆しています。深海は隔絶された場所ではなく、表層水と大いにつながっており、かなり高濃度の人工的汚染物質にさらされてきた、というわけです。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。


海洋最深部で化学物質に汚染された甲殻類を発見

 地球最深級の2つの海溝で極めて高レベルの汚染が見つかったという論文が、今週のオンライン版に掲載される。工業地帯から遠く離れ、互いにほぼ7000 kmも隔てられた深さ10 kmを超える海溝のそうした高レベルの汚染について、今回の研究成果は、地球表面の人為的な汚染が地球の最果てにまで届き得る証拠となることを示唆している。

 Alan Jamiesonたちは、水深1万mに生息する端脚目甲殻類が、北西太平洋で有数の汚染された工業地帯である駿河湾に匹敵するレベルで汚染されていることを発見した。研究チームは、太平洋のマリアナ海溝とケルマデック海溝の最深部に生息する生物の試料を引き揚げるために、両海溝の水深の測定が可能な深海探査船を利用した。分析の結果、端脚類の脂肪組織には、絶縁油として一般的なポリ塩化ビフェニル(PCB)や、難燃剤として広く使用されるポリ臭化ジフェニルエーテル(PBDE)など、残留性有機汚染物質(POP)が極めて高レベルで発見された。

 汚染物質は、海底へ沈降する汚染されたプラスチックデブリや動物遺骸片に乗って海溝へたどり着き、そこで端脚類に摂取された可能性が高いと研究チームは示唆している。

 関連するNews & Views記事では、Katherine Daffornが次のように述べている。「Jamiesonたちは、深海が隔絶された場所ではなく、表層水と大いにつながっており、かなり高濃度の人工的汚染物質にさらされてきた、ということを明確に裏付ける証拠を示した」。



参考文献:
Jamieson AJ. et al.(2017): Bioaccumulation of persistent organic pollutants in the deepest ocean fauna. Nature Ecology & Evolution, 1, 0051.
http://dx.doi.org/10.1038/s41559-016-0051
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最古の新口動物

2017/03/17 00:00
 これは3月17日分の記事として掲載しておきます。最古の新口動物に関する研究(Han et al., 2017)が公表されました。新口動物には脊椎動物・ヒトデ類・ギボシムシ類・被嚢動物などさまざまな異なる生物が含まれています。このように多種多様であり、形態上の中間的生物が現存していないため、初期の新口動物がどのようなものであったか、解明は困難です。この研究は、中国の陝西省で発見された、カンブリア紀最初期の微小な化石群を報告しています。この化石群は袋状の体を持っている一方で肛門を持っておらず、その原始的な特徴から、既知の新口動物類の中で最も基部に位置する、と推測されています。この新口動物は「Saccorhytus coronarius」と命名され、小さな水底の無脊椎動物だった、と考えられています。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。


進化学:中国陝西省のカンブリア系基底部に由来するメイオファウナ新口動物

Cover Story:化石の証拠:知られている限り最古の新口動物が見つかり、系統樹の根が広がった

 表紙は、今回発見されたカンブリア紀最初期にさかのぼる新口動物であるSaccorhytus coronariusを再現したものである。新口動物には、脊椎動物、ヒトデ類、ギボシムシ類、被嚢動物などさまざまな異なる生物が含まれる。このように多種多様であり、形態上の中間的生物が現存していないため、初期の新口動物がどのようなものであったかを解明するのは困難である。今回、S Morrisたちが中国で発見した微小な化石群から、袋状の体を持ち肛門を持たない生物が明らかになった。これらの標本に見られる原始的な特徴から、著者たちは、Saccorhytusは既知の新口動物類の中で最も基部に位置すると解釈し、その最初期の歴史がメイオファウナの中にあったと示唆している。



参考文献:
Han J. et al.(2017): Meiofaunal deuterostomes from the basal Cambrian of Shaanxi (China). Nature, 542, 7640, 228–231.
http://dx.doi.org/10.1038/nature21072
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40万年前頃のポルトガルの人類頭蓋

2017/03/16 00:00
 これは3月16日分の記事として掲載しておきます。40万年前頃のポルトガルの人類頭蓋に関する研究(Daura et al., 2017)が報道されました。この研究はオンライン版での先行公開となります。この研究が分析したのは、ポルトガルのアロエイラ洞窟(Gruta da Aroeira)で発見された中期更新世のホモ属頭蓋(アロエイラ3)です。アロエイラ洞窟の中期更新世の層では、人類化石とともに、豊富な(人類ではない)動物化石や、石器群が発見されています。この石器群はアシューリアン(Acheulian)で、握斧(Handaxe)も含まれています。動物の骨のなかには焼けたものもあり、制御された火の使用の可能性が指摘されています。

 中期更新世のホモ属頭蓋アロエイラ3においては、後頭部骨が失われているものの、頭蓋冠の右半分のほとんどと、鼻腔底の一部および2個の断片的な臼歯のある断片的な右上顎が残っています。臼歯には摩耗が見られます。アロエイラ3の性別・死因は不明です。アロエイラ3の年代は、堆積物のウラン系列法から436000〜390000年前頃と推定されています。アシューリアン石器群と共伴するような中期更新世のホモ属の人骨で年代の確実なものは少ないことから、アロエイラ3は中期更新世のヨーロッパにおける人類進化の研究に大きく貢献する、とその意義が指摘されています。ヨーロッパにおけるアシューリアンの出現に関しては、90万年前頃までさかのぼる可能性が指摘されています(関連記事)。

 この研究は、アロエイラ3の特徴を分析するとともに、ヨーロッパの他の中期更新世のホモ属頭蓋と比較しています。たとえば、アシューリアン石器群と関連した、スペイン北部の「骨の穴(Sima de los Huesos)洞窟」遺跡(以下、SHと省略)や、イギリス南東部のスウォンズクーム(Swanscombe)遺跡です。これらの遺跡の年代は、海洋酸素同位体ステージ(MIS)11〜12となる50万〜40万年前頃です。こうしたヨーロッパの中期更新世のホモ属については、エレクトス(Homo erectus)の亜種やハイデルベルゲンシス(Homo heidelbergensis)や初期ネアンデルタール人(Homo neanderthalensis)などと区分されており、それぞれのホモ属化石の分類が確定しているわけではありません。

 この研究は、ヨーロッパの中期更新世のホモ属頭蓋を3区分しています。分類Aはほぼ完全なネアンデルタール人で、おもに20万年前頃以降の化石です。分類Bは、眼窩上隆起や側頭骨や下顎でネアンデルタール人の特徴が見られるものの、神経頭蓋はネアンデルタール人的ではなく、モザイク状の進化を示します。SH頭蓋はBに分類されます。分類Cはイタリアのチェプラーノ(Ceprano)遺跡などのホモ属頭蓋で、残存領域にネアンデルタール人の特徴が見られないか、曖昧です。

 アロエイラ3は、ドイツのビルツィングスレーベン(Bilzingsleben)遺跡のホモ属頭蓋と類似した連続して厚い眼窩上隆起や、ドイツのシュタインハイム(Steinheim)頭蓋のような短い乳様突起が見られ、アロエイラ3頭蓋はCに分類される頭蓋によく似ている、とこの研究は評価しています。この研究は、アロエイラ3頭蓋とSH頭蓋など、地理的・年代的には近接しているものの、形態は明確に異なる頭蓋が見られることから、中期更新世のヨーロッパにおいては、人類集団間または集団内の多様性と複雑な人口動態が見られると指摘し、さまざまな水準の孤立と交雑を伴う多様な集団置換を想定しています。

 またこの研究は、中期更新世のヨーロッパにおいて、ともにアロエイラ遺跡で確認されている、アシューリアン石器群の拡大と制御された火の使用という二つの重要な技術革新が見られるものの、この時期の人類頭蓋の多様性から、こうした技術革新は形態学的多様性にほとんど依存していないだろう、と指摘しています。技術と人類系統とを強く結びつける見解は今でも広範に支持されているようにも思われますが、そうした見解には慎重でなければならないでしょう。


参考文献:
Daura J. et al.(2017): New Middle Pleistocene hominin cranium from Gruta da Aroeira (Portugal). PNAS, 114, 13, 3397–3402.
http://dx.doi.org/10.1073/pnas.1619040114
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シルクロードの形成過程

2017/03/15 00:00
 これは3月15日分の記事として掲載しておきます。シルクロードの形成過程に関する研究(Frachetti et al., 2017)が公表されました。現在の中国から地中海東岸、さらにその先まで伸びる複雑な交易路網であるシルクロードは、その途中でいくつもの苛酷な山岳地帯を通り抜けています。シルクロードがどのように形成されたのか、どのような要因がシルクロードの地理的特性に影響を与えたのか、まだ確証はありません。これまで、シルクロードの形成をモデル化しようとした研究はありますが、経路網上の既知の地点を結んで全体像を作り出そうとしたことから環論法に陥り、限定的な成果しか得られていない、と指摘されています。

 この研究は、水文学的流動アルゴリズムを応用し、豊かな高地の牧草地における「遊牧民の流動」のシミュレーションを行なうことで、古代の山岳遊牧民の移動パターンをモデル化しました。この研究は、より詳細なシルクロードのネットワークの地図を作成した結果、新鮮な牧草を求めて山岳地帯を上り下りした遊牧民とその家畜の通り道からじょじょにシルクロードが生じた、との見解を提示しています。遊牧民の季節移動からランダムではない経路が生じ、そこからシルクロードの地理的特性が決まった、というわけです。以下は『ネイチャー』の日本語サイトから引用(引用1および引用2)です。


【地理学】遊牧民の通り道がシルクロードの始まりだった

 中央アジアの都市を結ぶ古代の交易路であるシルクロードは、4000年前以降の遊牧民の移動パターンによって形づくられてきたことを明らかにした論文が、今週掲載される。この研究は、シルクロードの出現を時間と生態の両方の観点から初めて定量化したものであり、人類の歴史で最も大規模な生物学的変化と経済的変化のネットワークの1つが構築される際に都市社会以外の社会が果たした役割を明確に示している。

 シルクロードは、中国から地中海東岸、さらにその先まで伸びる複雑な経路網であり、その途中でいくつもの苛酷な山岳地帯を通り抜けている。シルクロードがどのように形成したのか、どのような要因がシルクロードの地理的特性に影響を与えたのかといった疑問は、ほとんど晴れていない。今回、Michael Frachettiの研究チームは、古代の山岳遊牧民の移動パターンをモデル化し、新鮮な牧草を求めて山岳地帯を上り下りした遊牧民とその家畜の通り道からシルクロードが生じたと結論づけている。遊牧民の季節移動からランダムでない経路が生じ、そこからシルクロードの地理的特性が決まったというのだ。

 これまでにもシルクロードの形成をモデル化しようとした研究があるが、限定的な成果しか得られていない。その原因は、研究者が経路網上の既知の地点を結んで全体像を作り出そうとしたことにあると考えられている。Frachettiたちは、これとは別の方法、すなわち水文学的流動アルゴリズムを応用して、豊かな高地の牧草地での「遊牧民の流動」のシミュレーションを行い、これまでより詳細なシルクロードのネットワークの地図を作成した。


考古学:遊牧生態が形作ったアジアのシルクロードの高地地理

考古学:シルクロードの謎を解くブックマーク

 シルクロードは、はるか昔から続く、中央アジアを横断する古代の交易路ネットワークである。では、シルクロードはどのように始まったのだろうか。従来のモデルでは通常、このネットワークの一部であったことが知られている遺跡同士を結ぶ最も楽な道を推測することから始まる。しかしこれは、既知の事柄へと結果を偏らせるため、循環論法を招いてしまう。今回、M Frachettiたちは、別の手法を用いて、山岳地域での経路ネットワークが、季節に応じて高地と低地の間で家畜を移動させる牧畜民同士の数百年にわたる相互作用によって形作られてきたことを明らかにしている。これにより、シルクロードのネットワークが遊牧民の古来の局地的な移動パターンから徐々に出現したことが示唆された。この知見は、考古学での古代の接続性の発展に関する研究において、より繊細な説明を可能にすると考えられる。



参考文献:
Frachetti MD. et al.(2017): Nomadic ecology shaped the highland geography of Asia’s Silk Roads. Nature, 543, 7644, 193–198.
http://dx.doi.org/10.1038/nature21696
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新生児は成人と同様に視覚処理ができる

2017/03/14 00:00
 これは3月14日分の記事として掲載しておきます。新生児の視覚処理に関する研究(Deen et al., 2017)が公表されました。成人の大脳皮質の視覚野は、顔・物体・風景など目に見えるもの全てをそれぞれ処理する領域に分かれています。ただ、こうした領域が周辺環境にさらされたために形成されたのか、それとも若い頃から存在していたのかは、まだ明らかになっていません。この研究は、9人の乳児(生後4〜6か月)を機能的磁気共鳴画像装置の中に寝かせたままで、さまざまな画像を見せて画像データを取得しました。このデータから、これらの乳児と成人の視覚野では、同じような視覚刺激を与えられたさいの応答が類似している、と明らかになりました。

 この結果は、乳児の視覚野に早ければ生後4ヶ月で特定の視覚カテゴリー(たとえば、顔と風景)を処理する領域が形成されることを示しています。その後の追跡実験では、視覚刺激の特徴(たとえば、色の種類、色の明るさ)が原因となってこうした結果が生じたのではない、と実証されました。この研究で乳児の脳に見られた機能的応答には、成人の脳に見られる微妙な差異が認められなかったものの、この研究結果からは、視覚野におけるカテゴリー選好の大規模な構成が、生後わずか4ヶ月の時点での視覚刺激への曝露後に成人とすでに同程度になっている、と示唆されています。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。


神経科学:赤ん坊の脳は大人の脳のように視覚処理ができる

 新生児は、早ければ生後4か月で成人と同じように顔と風景の視覚処理ができるようになることを明らかにした論文が掲載される。

 成人の大脳皮質の視覚野は、顔、物体、風景など目に見えるもの全てをそれぞれ処理する領域に分かれている。ただし、こうした領域が、周辺環境にさらされたために形成したのか、それとも若い頃から存在していたのかは分かっていない。今回、Ben Deenの研究チームは、生後数か月で視覚野の構造的構成が成人並みになっていることを示す証拠を得た。

 Deenたちは、9人の乳児(生後4〜6か月)を機能的磁気共鳴画像装置の中に寝かせたままで、さまざまな画像を見せて画像データを取得した。このデータから明らかになったのは、これらの乳児と成人の視覚野では、同じような視覚刺激を与えられた際の応答が類似していたことだった。この結果は、乳児の視覚野に早ければ生後4か月で特定の視覚カテゴリー(例えば、顔と風景)を処理する領域が形成することを示している。その後の追跡実験では、視覚刺激の特徴(例えば、色の種類、色の明るさ)が原因となってこうした結果が生じたのではないことが実証された。

 この研究で乳児の脳に見られた機能的応答には、成人の脳に見られる微妙な差異が認められなかったが、今回の研究結果からは、視覚野におけるカテゴリー選好の大規模な構成が、生後わずか4か月の時点での視覚刺激への曝露後に成人とすでに同じ程度になっていることが示唆されている。



参考文献:
Deen B. et al.(2017): Organization of high-level visual cortex in human infants. Nature Communications, 8, 13995.
http://dx.doi.org/10.1038/ncomms13995
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大河ドラマ『おんな城主 直虎』第10回「走れ竜宮小僧」

2017/03/13 00:00
 これは3月13日分の記事として掲載しておきます。小野政次(鶴丸)は奥山朝利を殺してしまい、次郎法師(直虎)を頼ってきます。次郎法師は負傷した政次を寺で匿うことにします。直親(亀之丞)の妻で朝利の娘である「しの」は嘆き悲しみます。井伊家中は憤激し、政次を成敗しようとします。しかし、「しの」の妹で政次の弟である玄蕃の妻の「なつ」は家中融和を訴え、直親は、朝利が政次を殺そうしたのではないか、と推測し、井伊家中は蟠りを残しつつも、政次へのお咎めなしということでまとまります。次郎法師は、家中融和のために動き回ります。直親と「しの」の間には虎松(井伊直政)が生まれ、家中は久しぶりに明るい話題で盛り上がります。

 桶狭間の戦いの後、岡崎城に入った松平元康(徳川家康)は、今川家から離反して今川方の城を攻め始めます。松平軍は快進撃を続け、西三河を制圧します。今川氏真は激怒し、駿府にいる元康の妻の瀬名(築山殿)は窮地に立ちます。次郎法師は親友の瀬名の身を案じ、駿府へと赴き、寿桂尼に瀬名とその二人の子供の命を助けるよう懇願しますが、寿桂尼は冷ややかで、松平元康に今川家と和睦させることを瀬名助命の条件とします。ところがその直後、寿桂尼の孫が松平元康に攻め殺されたとの情報が入り、瀬名に引導を渡すよう、寿桂尼は次郎法師に命じます。瀬名は氏真から切腹を命じられ、すっかり諦めますが、次郎法師はあがき続けます。

 今回はここまでとなり、連続ドラマとしてなかなか上手い区切り方で、工夫されていたと思います。次郎法師は井伊家中の融和のために「竜宮小僧」として駆け回り、ほとんど事績の伝えられていない次郎法師を、主人公として目立たせるための構成になっています。抜群に面白いとまでは言えないのですが、工夫が感じられて悪くはない、と思います。瀬名は子役の頃から目立っており、扱いが大きいので、後半は瀬名の死が山場になりそうです。視聴率が上向くような内容ではなかったと思いますが、まずまず楽しめて視聴できているので、感想記事の執筆も続けられそうです。
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渡邊大門『おんな領主 井伊直虎』

2017/03/12 00:00
 これは3月12日分の記事として掲載しておきます。中経の文庫の一冊として、2016年9月にKADOKAWAより刊行されました。大河ドラマ『おんな城主 直虎』関連本としては読んだのは本書で2冊目となります。以前に読んだ関連本(関連記事)は、門外漢にはかなり奇抜な内容に思えたので、もう一冊関連本を読むことにしました。中世〜近世移行期にはまっていた十数年前ならば、もっと多くの関連本を読んだでしょうし、そうする方がよいに決まっているのですが、今は中世〜近世移行期の優先順位が下がってしまったので、現在の能力・経済力・気力ではもう一冊読むのが限度といったところです。

 本書は大河ドラマ関連本として無難な内容になっており、安価で携帯性にも優れているので、私のように井伊直虎のことを手軽にもっと知りたいと考えている門外漢にとって、手頃な一冊になっていると思います。しかし、本書を読んで改めて思い知らされたのは、直虎(次郎法師)の生涯について確定的なことはほとんど分かっていない、ということです。確実な史料から人物像を推測することも難しいようです。そもそも、井伊家についても、直政以前の事績には不明なところが多く、本書も含めて今年の大河ドラマの関連本の著者は苦労しているのだろうな、と推察されます。

 まあそれでも、中世〜近世移行期の「勝ち組」でも上位に位置するだろう井伊家は、まだ史料に恵まれているのかもしれません。井伊家のように一定以上重要な役割を果たした武士の家でも、まだほとんど史実が解明されていないような場合も珍しくないのでは、とも思います。本書は、井伊家について平安時代から室町時代にかけての動向にも簡潔に言及しつつ、戦国時代の井伊家を、関わりの深い周辺勢力の動向を取り上げつつ描き出しています。直虎についての一般向け解説としては、もっとも無難な構成と言えるでしょう。

 本書の描き出す戦国時代の井伊家の動向は、桶狭間の戦いや一族の謀殺や雌伏の時期や直政の代での飛躍など数々の起伏があり、優秀な作家ならば物語として面白くできそうだ、と思います。今年の大河ドラマは、現時点では視聴率が低迷しているようで、まあ確かに地味な感は否めませんが、本書を読むと、桶狭間の戦いの後の展開はかなり面白い物語になるのではないか、との期待も抱きたくなります。

 とくに、本書でも取り上げられている、後世の編纂史料では逆臣・佞臣とされる小野但馬がどのように描かれるのかは、大いに注目されます。今年の大河ドラマの小野但馬は、井伊直親(亀之丞)・主人公の直虎とともに、前半の主要人物とされています。第9回までの時点では、小野但馬は単純な悪人として造形されておらず、むしろ爽やかイケメンで屑の直親や狭い世界の厭らしさを体現している井伊家中との対比で、視聴者の同情を誘うように工夫されていると思います。小野但馬の今後と最期は、今年の大河ドラマ最大の見どころになりそうで、楽しみです。
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急速に拡散した最初期のオーストラリア人(追記有)

2017/03/11 00:00
 これは3月11日分の記事として掲載しておきます。オーストラリア先住民のミトコンドリアDNA(mtDNA)を解析した研究(Tobler et al., 2017)が報道されました。この研究はオンライン版での先行公開となります。この研究は、1928年から1970年代にかけてオーストラリア先住民から集められた111点の髪からmtDNAを解析しました。注目されるのは、オーストラリア先住民社会から合意・協力を得て研究が進められ、オーストラリアにおける先住民政策にも活かされていることです。今では、こうした研究のやり方が主流になりつつあるのではないか、と思います。

 オーストラリアへの人類最初の移住については、5万年前頃までさかのぼるのではないか、と推測されています。この頃、オーストラリアとニューギニアとタスマニア島は陸続きで、サフルランドを形成していました。この研究は、111点の髪から得られたmtDNAを解析した結果、オーストラリア先住民の祖先集団はオーストラリア北部に上陸した後、それぞれ東西の海岸沿いに急速に拡散し、49000〜45000年前までに南オーストラリアに到達して遭遇した、という見解を提示しています。オーストラリア先住民集団において、各地域で特徴的なmtDNAのハプログループの分岐年代が4万年以上前までさかのぼるからです。

 さらにこの研究は、オーストラリア全体への植民後、人口構造で強い地域的パターンが発達し、後期更新世〜完新世にかけての相当な気候的・文化的変化にも関わらず、この地理的人口構造が5万年近く継続してきた、との見解を提示しています。このように、長期にわたって各地域集団が継続してきたことが、オーストラリア先住民社会における言語と表現型の多様性の要因ではないか、と指摘されています。オーストラリアは、サハラ砂漠以南のアフリカ以外では、ニューギニアなどと共に、地域的な人口構造の継続期間がたいへん長い地域となるなのでしょう。

 オーストラリア先住民のY染色体の分析では、オーストラリア先住民の祖先集団はサフルランドへ上陸した後、そのY染色体系統は急速に分岐していった、と推測されており(関連記事)、この研究と整合的と言えそうです。ただ、完新世における南アジアからオーストラリアへの遺伝子流動(関連記事)や、完新世におけるオーストラリア北東の地域集団の拡大とオーストラリア他地域への遺伝子流動(関連記事)といった可能性も提示されています。完新世におけるオーストラリア北東の地域集団の拡大は、言語学的に推定されるパマ-ニュンガン語族(Pama–Nyungan languages)の拡大とも一致しています。後期更新世〜完新世のオーストラリアにおいては、強固な地域的人口構造が継続しつつも、遺伝子流動が一定水準以上起きていたのではないか、と考えられます。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。


【ゲノミクス】オーストラリアの地域多様性を解明する手掛かりとなる先住民のゲノム

 100点以上のオーストラリア先住民(アボリジナル)のミトコンドリアゲノムの解析が行われ、オーストラリアでの定住は、東西両海岸に沿った一度の急速な移動によってなされ、その流れがオーストラリア南部に到達したのが早くて49,000年前頃だったことが明らかになった。この新知見は、オーストラリア先住民の集団が明確に区分された地域内で約50,000年にわたって定住を続けたことを示唆している。この研究成果を報じる論文が、今週掲載される。

 (かつてサフールという1つの陸塊だった)オーストラリアとニューギニアに初めてヒトが住みついたのは約50,000年前のことだったことが考古学的証拠に示されている。しかし、オーストラリア国内において言語と表現型の多様性が極めて大きいことの背後にある過程については解明されていない。

 今回、Alan Cooperの研究チームは、1920〜1970年代に3つのオーストラリア先住民のコミュニティー(サウスオーストラリア州の2つとクイーンズランド州の1つ)で111人から集めた毛髪試料からミトコンドリアゲノムを抽出した。Cooperたちは、このミトコンドリアゲノムを解析して、ヨーロッパ人が定住するまでのオーストラリア先住民の集団間の遺伝的関係と歴史的関係を詳細に再構築した。その結果、オーストラリア先住民がオーストラリア北部に上陸してから東西両海岸沿いに急速に移動して、約49,000〜45,000年前にオーストラリア南部で出会ったことが分かった。ミトコンドリアDNAの多様性のパターンには地域性が色濃く見られ、このことは、オーストラリア先住民が、約50,000年前の時点で、著しい文化的変化と気候変動(例えば、最終氷期極大期の広範囲にわたる乾燥化と寒冷化)があったにもかかわらず、集団ごとに明確に異なった地域で定住していたことを示している。



参考文献:
Tobler R et al.(2017): Aboriginal mitogenomes reveal 50,000 years of regionalism in Australia. Nature.
http://dx.doi.org/10.1038/nature21416


追記(2017年4月13日)
 本論文が『ネイチャー』本誌に掲載されたので、以下に『ネイチャー』の日本語サイトから引用します。



進化学:アボリジニのミトゲノムから明らかになった、オーストラリアにおける5万年間にわたる地域性

進化学:アボリジニの最初の移動経路ブックマーク

 オーストラリアのアボリジニは、現在知られている中で最も長く続いている文化複合体の1つで、考古学的証拠から、オーストラリア大陸への人類の最初の定着は約5万年前とされている。A Cooperたちは今回、過去に採取され長く保存されていたオーストラリア・アボリジニの111例の毛髪試料について、ミトコンドリアゲノムの塩基配列を解読して遺伝的解析を行い、オーストラリアに到達した人類がその後大陸内でどのように移動したかをたどった。その結果、人類はオーストラリア北部に上陸した後、東西に分かれて海岸沿いに急速に広がり、4万9000年前にはオーストラリア南部で再び出会っていたことが明らかになった。ミトコンドリアDNAの多様性に著しい地域的パターンが見られることから、移動をやめた人々はそこにとどまって文化的な根を下ろし、そうした根は5万年間にわたり、文化や気候の大規模な変化に耐えて存続してきたことが示唆された。
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歯石から推測されるネアンデルタール人の行動・食性・病気(追記有)

2017/03/10 00:00
 これは3月10日分の記事として掲載しておきます。ネアンデルタール人(Homo neanderthalensis)の歯石のDNAを分析した研究(Weyrich et al., 2017)が報道されました。『ネイチャー』のサイトには解説記事(Callaway., 2017)が掲載されています。この研究はオンライン版での先行公開となります。ヒトの歯石には、体内の多数の微生物や食事などで歯に付着した生物のDNAが多数保存されています。この研究は、DNA解析技術の発展により、化石人類の歯石のDNA解析に成功しました。この研究が分析対象としたのは、ベルギーのスピ(Spy)洞窟とスペインのエルシドロン(El Sidrón)洞窟で発見されたネアンデルタール人5個体分の歯石です。これらのネアンデルタール人化石の年代は50000〜42000年前頃です。

 食性に関しては、スピ洞窟とエルシドロン洞窟で対照的な解析結果が得られました。スピ洞窟のネアンデルタール人は肉食への依存度が高く、草原環境の野生のヒツジやケブカサイが含まれていました。これは、草原環境での狩猟もしくは死肉漁りを示しているのでしょう。一方、エルシドロン洞窟のネアンデルタール人の食性では肉が検出されず、キノコ・松の実・コケが確認され、これは森林での採集活動を示唆しています。なお、肉食への依存度の高かったスピ洞窟のネアンデルタール人も、キノコを食べていたようです。食性、とくに肉食は、口腔微生物叢に影響を及ぼすことも指摘されています。口腔微生物叢に関して、エルシドロン洞窟のネアンデルタール人がチンパンジーやアフリカの採集祖先集団と類似している一方で、スピ洞窟のネアンデルタール人は初期狩猟民と類似しています。

 口腔微生物叢のDNA解析では、興味深いことも明らかになっています。エルシドロン洞窟のネアンデルタール人1個体には、歯性膿瘍と慢性胃腸病原体(Enterocytozoon bieneusi)が見られました。この個体には、抗炎症・解熱・鎮痛に効果のあるサリチル酸が含まれているポプラと、分析された他の個体には見られない、ペニシリンの原料となる天然抗生物質のアオカビも含まれていました。このことから、ネアンデルタール人は薬用植物(ポプラやアオカビの付着した植物)の効用をよく理解して治療のために使用していたのではないか、と推測されています。

 口腔微生物叢では、古細菌のメタノブレウィバクテル属の一種(Methanobrevibacter oralis)のほぼ完全なゲノムも確認されました。この古細菌は現代人の口腔にも見られるので、ネアンデルタール人と現生人類(Homo sapiens)との間での接吻や食物の共有が想定されています。ネアンデルタール人と現生人類との交雑は現在ではほぼ通説として確立していると言えるでしょうが、口腔微生物叢の分析もその傍証になる、と言えそうです。

 たいへん興味深い研究ですが、この研究に関わっていないボチェレンズ(Hervé Bocherens)博士は、歯石のDNAが食性の違いを識別できるのか、まだ確証はない、と指摘しています。これまでの研究は、エルシドロン洞窟とスパイ洞窟のネアンデルタール人の双方がおもに肉食だったことを示唆しているからです。また、食性により口腔微生物叢が変わるということは、人類化石の口腔微生物叢は死亡時からさほどさかのぼらない期間の食性を反映しているとも考えられるわけで、今後の研究の進展が期待されます。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。


【進化】先史時代のネアンデルタール人の食生活が歯石から判明

 ネアンデルタール人の食事に明確な地域差があることが、古い時代の歯石(固くなった歯垢の一種)に保存されていたDNAから明らかになった。歯沈着物の遺伝的解析は、現生人類に近縁のヒト族の食習慣(肉の摂取量を含む)に関する手掛かりをもたらす可能性がある。この研究成果を報告する論文が、今週のオンライン版に掲載される。

 ネアンデルタール人の食事に関する過去の研究では、それぞれの地域での食料の入手可能性が重要なことが明確に示されたが、ネアンデルタール人が食べていた動植物に関する具体的なデータは少なかった。今回、Laura Weyrichの研究チームは、ヨーロッパで出土したネアンデルタール人の歯石標本(5点)から採取したDNAの配列解析を行い、ネアンデルタール人の食事と健康を遺伝的に再構築した。その結果分かったのは、スピ洞窟(ベルギー)のネアンデルタール人がケブカサイや野生のヒツジを食べていたのに対して、エルシドロン洞窟(スペイン)のネアンデルタール人がマツノミ、コケ、キノコを食べていたことだった。また、Weyrichたちは、口腔内マイクロバイオームを再構築して健康と疾患に関する評価を行った。その結果からは、スペインのネアンデルタール人に歯性膿瘍と慢性の胃腸病原体が見られ、天然の鎮静剤であるポプラや抗生物質を産生するペニシリウム属菌類によるセルフメディケーションを行っていたことが示唆されている。

 Weyrichたちは、こうした食事に関する知見に加えて、口腔細菌種の1つについて、ほぼ完全なゲノムを同定した。この口腔細菌は約48,000年前のもので、これまでに同定された微生物の概要ゲノムの中で最古のものとなった。



参考文献:
Callaway E. et al.(2017): Neanderthal tooth plaque hints at meals — and kisses. Nature, 543, 7644, 163.
http://dx.doi.org/10.1038/543163a

Weyrich LS. et al.(2017): Neanderthal behaviour, diet, and disease inferred from ancient DNA in dental calculus. Nature, 544, 7651, 357–361.
http://dx.doi.org/10.1038/nature21674


追記(2017年3月11日)
 ナショナルジオグラフィックでも報道されました。



追記(2017年4月20日)
 本論文が『ネイチャー』本誌に掲載されたので、以下に『ネイチャー』の日本語サイトから引用します。



進化学:古代の歯石DNAから示唆された、ネアンデルタール人の行動、食餌および疾患

進化学:先史時代の歯垢から明らかになるネアンデルタール人の食生活

 ネアンデルタール人の食餌に関しては、肉を多く含む食餌の証拠があるのに対して、それよりも多彩な食餌を示唆する歯の摩耗の証拠もあり、盛んな議論が続けられている。L Weyrichたちは今回、ヨーロッパ各地に由来するネアンデルタール人5個体の歯石から得たDNAの塩基配列を解読し、その食餌および健康状態を遺伝学的に再構築した。その結果、ベルギーのスピーで出土したネアンデルタール人はサイやヒツジの肉を食べていた一方、スペインのエル・シドロンで出土した別のネアンデルタール人はマツの実や蘚類、キノコ類を食べていたことが分かった。また、スペインのネアンデルタール人で歯性膿瘍および腸管病原体が認められた個体が、天然の鎮痛薬であるポプラ、および抗生物質を産生するアオカビ属細菌によるセルフメディケーションを行っていたことも示唆された。さらに、現時点で最古となる約4万8000年前の微生物Methanobrevibacter oralisのゲノムも見いだされた。
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食虫植物の進化(追記有)

2017/03/09 00:00
 食虫植物の進化に関する研究(Fukushima et al., 2017)が公表されました。オーストラリアの嚢状葉植物であるフクロユキノシタ(Cephalotus follicularis)は、獲物の動物を消化することができる液体で満たされた捕虫葉と非捕虫葉(普通葉)の両方を作ります。これは、両者の比較により食虫性がどのように発達したのか分かることを意味しています。この研究は、フクロユキノシタのゲノム塩基配列を解読し、両タイプの葉の全ゲノム的な発現パターンを比較することにより、獲物の誘引・捕獲・消化など、食虫植物の独特の適応の一部を明らかにしました。

 次にこの研究は、フクロユキノシタの捕虫葉の消化液を、他の近縁でない食虫植物3種(アデレーモウセンゴケ・フィリピンのウツボカズラ・ムラサキヘイシソウ)の消化液と比較しました。その結果、他の植物ではストレス応答に関係している遺伝子が、調べた4種の食虫植物すべてにおいて消化液のタンパク質として働くように転用されていることが明らかになりました。4種の植物すべてでタンパク質およびアミノ酸の同じ組み合わせが消化能力につながっており、食虫性がそれぞれの種で独立して複数回にわたって進化したのではないか、と指摘されています。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。


食虫植物の進化の謎が明らかにされた

 オーストラリアの嚢状葉植物の全ゲノム塩基配列が今週のオンライン版で発表される。これは、食虫植物が獲物を消化する能力をどのように進化させたのかを明らかにするものである。

 オーストラリアの嚢状葉植物フクロユキノシタ(Cephalotus follicularis)は、獲物の動物を消化することができる液体で満たされた捕虫葉と非捕虫葉(普通葉)の両方を作る。このことは、その両者を比較することによって食虫性がどのように発達したのかが分かることを意味している。福島 健児(ふくしま けんじ)、Victor Albert、李 帥成(Shuaicheng Li)、長谷部 光泰(はせべ みつやす)たちは、C. follicularisのゲノム塩基配列を解読し、両タイプの葉の全ゲノム的な発現パターンを比較することにより、獲物の誘引や捕獲、消化など、食虫植物の独特の適応の一部を明らかにした。

 次に研究チームは、C. follicularisの捕虫葉の消化液を、他の近縁でない食虫植物3種(アデレーモウセンゴケ、フィリピンのウツボカズラNepenthes alata、およびムラサキヘイシソウ)の消化液と比較した。その結果、他の植物ではストレス応答に関係している遺伝子が、調べた4種の食虫植物全てにおいて消化液のタンパク質として働くように転用されていることが分かった。4種の植物全てでタンパク質およびアミノ酸の同じ組み合わせが消化能力につながっており、食虫性がそれぞれの種で独立して複数回にわたって進化したことが指摘された。



参考文献:
Fukushima K. et al.(2017): Genome of the pitcher plant Cephalotus reveals genetic changes associated with carnivory. Nature Ecology & Evolution, 1, 0059.
http://dx.doi.org/10.1038/s41559-016-0059


追記(2017年3月14日)
 以下に『ネイチャー』の日本語サイトから引用します。



食虫植物フクロユキノシタのゲノムから明らかになった、食虫性に関連する遺伝的変化

 食虫植物は動物を栄養源として利用しており、その食虫性に関連する形質の起源や進化については長年の疑問となっている。今回我々は、食虫性の分子基盤を調べるため、異形葉性の食虫植物フクロユキノシタ(Cephalotus follicularis)のゲノム塩基配列を解読し、さらに、捕虫葉と非捕虫葉(平面葉)の発生の切り替えを制御することに成功した。この2種類の葉のトランスクリプトームを比較し、遺伝子レパートリーを解析することにより、被食者の誘引、捕獲、消化および栄養素吸収に関連する遺伝的変化が明らかになった。フクロユキノシタが分泌する消化液タンパク質と、それ以外の系統で独立に食虫性が生じた3種の食虫植物の消化液タンパク質を分析した結果、ストレス応答性のタンパク質群が繰り返し転用され、収斂的なアミノ酸置換と相まって、消化生理機能が獲得されたことが分かった。これらの結果は、植物の食虫性進化のために取り得る道筋が限られていたことを意味している。
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肥満と糖尿病の関係

2017/03/08 00:16
 肥満と糖尿病の関係についての研究(Wahl et al., 2017)が公表されました。肥満は2型糖尿病や関連する代謝疾患の主要なリスク因子です。遺伝子関連研究により肥満に関連するゲノムの座位が明らかにされており、最近の研究でもDNAメチル化との関連が示唆されています。この研究では、ボディーマス指数(BMI)に関してエピゲノム全体にわたる検証が行なわれ、血液および脂肪組織では187の座位でDNAメチル化との関連が明らかになりました。また、これらのメチル化の変化は肥満の結果として生じ、従来のリスク因子とは無関係に2型糖尿病発症のリスクの増大にも関連していることが明らかになりました。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。


肥満:ボディーマス指数のエピゲノム規模の関連研究と肥満の有害転帰

肥満:体脂肪と糖尿病リスク

 肥満は2型糖尿病や関連する代謝疾患の主要なリスク因子である。遺伝子関連研究により肥満に関連するゲノムの座位が明らかにされており、また、最近の研究でもDNAメチル化との関連が示唆されている。今回、ボディーマス指数(BMI)に関してエピゲノム全体にわたる関連研究が行われ、血液および脂肪組織では187の座位でDNAメチル化との関連が明らかになった。また、これらのメチル化の変化は肥満の結果として生じ、従来のリスク因子とは無関係に2型糖尿病発症のリスクの増大にも関連していることが分かった。



参考文献:
Wahl S. et al.(2017): Epigenome-wide association study of body mass index, and the adverse outcomes of adiposity. Nature, 541, 7635, 81–86.
http://dx.doi.org/10.1038/nature20784
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ファミリー劇場HDリマスター版『太陽にほえろ!』614話〜617話

2017/03/07 00:00
614話「17才」5
 強盗致傷事件が発生し、少年課の吉野刑事の証言から、容疑者はすぐに特定されます。この不良少年は女性にもてるのですが、今はある不良少女と親しい、とのことでした。ドックとマミーは少女から少年の居場所を聞き出そうとしますが、少女は教えようとはしません。不良少年・少女の屈折した心情は本作でもしばしば描かれてきており、普遍的な題材とも言えますが、それだけに、陳腐な話に終わってしまう危険性もあります。今回は、少女も少年もマミーを信じて自首しようとしたのに、偶発的な出来事から少年が悲劇的な最期を遂げた、と思わせておいて、実は少年がマミーから拳銃を奪い、少女を人質にとって強盗を計画していた、というオチになっていたところは話に工夫が見られてよかった、と思います。ただ、全体的には陳腐な感が否めず、少女がマミーを信頼する過程が駆け足だったように思えたのは残念でした。


615話「相棒」7
 強盗事件が発生し、ブルースは犯人の一人を追いますが、逃げられます。ブルースは犯人を撃つつもりはなかったのですが、跳弾によりその犯人は負傷していました。ブルースは、負傷した犯人と親しい男性と組んで、犯人と共犯者を探すことにします。このブルースの「相棒」は軽くて胡散臭く、ブルースとのやり取りは喜劇調になっていて、なかなか楽しめました。ブルースのアクションシーンも見られ、娯楽ドラマとして面白かったのですが、話の方は、あまり深みはありませんでした。まあ、重い話から娯楽性を重視した作品まで、多様な話を提供してきたことが本作の長期放送を可能としたのでしょう。


616話「カエルの子」6
 トシさんの自宅に、息子を誘拐した、と電話がかかってきて、3000万円が要求されます。しかし、犯人の行動から、本気で身代金を狙っているわけではない、と一係は推理します。トシさんの息子の居場所を知らせる電話が入りますが、そこにはトシさんの息子はいませんでした。捜査は難航すると思われたところ、トシさんの息子は母親と姉の待つ自宅に戻って来ます。トシさんは息子に誘拐された時のことを尋ねますが、息子は反発して答えようとしません。何とも謎めいた事件でしたが、トシさんの息子の親友の父親が、トシさんの息子を利用した事件で、トシさんの息子は誘拐されたわけではありませんでした。トシさんの家庭事情も交えて、まずまず面白くなっていました。


617話「ゴリさん、見ていてください」6
 この時期の話は少なくとも一度は視聴しているはずなのですが、内容はほとんど覚えていません。しかし今回は、ゴリさんへの想いが描かれていたので、一部の場面はよく覚えていました。ただ、マミーが危機的状況に陥ったことなど、話の全体的な流れはすっかり忘れてしまっていましたが。ブルースが七曲署一係の新参として、疎外感に悩むという設定はなかなかよかったのですが、加入後すでに1年以上経過しているわけで、前年の話だったらもっと説得力があってよかったと思います。ゴリさんの回想もあり、この時点でゴリさんの殉職から2年ほど経過していたのだと考えると、感慨深いものがあります。まあ、テレビ埼玉の再放送ではテキサス・ボンの共演期で、ゴリさんはまだすっかりベテランという感じでもないので、懐かしさはありませんでしたが。
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大河ドラマ『おんな城主 直虎』第9回「桶狭間に死す」

2017/03/06 00:00
 これは3月6日分の記事として掲載しておきます。今回は桶狭間の戦いの後の混乱が描かれました。桶狭間の戦い自体はあまり描かれず、この点でまた、「口うるさい本格派」の大河ドラマ視聴者層が不満を声高に語りそうです。こういう層は概して声が大きいので目立ちますが、実のところ、大河ドラマの視聴者層で「本格的な」合戦場面を期待している割合がどの程度なのかというと、誰も正確には把握できていないのではないか、と思います。まあ、次回以降、回想で桶狭間の戦いがもっと詳しく描かれる可能性もあるとは思いますが。

 桶狭間の戦いは井伊家にとって衝撃的な結果となりました。今川軍が敗北し、今川義元は討ち死にします。さらに井伊家当主の直盛も討ち死にし、井伊家は大混乱に陥ります。これまで、本作は次郎法師(直虎)・直親(亀之丞)・小野政次(鶴丸)の三人の人間模様が軸となってきたのですが、今回はややその側面が弱かったように思います。桶狭間の戦いの後の混乱において、この三人の関係はどう変わってくるのでしょうか。

 直盛はとりあえず中野直由を表に立てるよう遺言を残していました。遠江が混乱するだろう状況で直親を守ろうとしたのだ、と直盛の意図を直ちに解説した政次にたいする疑念を抱く者もいました。その一人である奥山朝利は、政次が井伊家を乗っ取ろうとしていると疑心を募らせ、政次の弟で、桶狭間の戦いで戦死した玄蕃の妻である娘の「なつ」を奥山家に引き取ろうとします。「なつ」は小野家に残ろうとし、朝利は政次への疑心をますます募らせます。朝利は政次を自宅に呼び、痛いところを突かれて返答に窮し、政次に斬りかかります。政次は負傷しつつ逆に朝利を斬ってしまい、次郎法師を頼ってきます。

 井伊家以外の人間模様も描かれ、松平元康(徳川家康)は桶狭間の戦いの後、岡崎城に入り、今川家からの独立を図ろうとします。桶狭間の戦いの結果、大きく物語は動くことになりそうで、今後の展開にはなかなか期待できそうな予感もあります。話が盛り上がるとよいのですが。すでに織田信長役は発表されていますが、今川家の没落から終盤にかけては武田家も重要な役割を担うでしょうから、信玄や勝頼の配役も気になるところです。今川家の没落のさいには北条家も重要な存在となりますが、一般人気の高くなさそうな北条家の登場はないでしょうか。
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『カラー図解 進化の教科書 第1巻 進化の歴史』

2017/03/05 00:00
 これは3月5日分の記事として掲載しておきます。カール=ジンマー(Robin Dunbar)、ダグラス=エムレン(Douglas J. Emlen)著、更科功・石川牧子・国友良樹訳で、講談社ブルーバックスの一冊として、2016年11月に講談社より刊行されました。原書の刊行は2013年です。本書は、進化の具体的な過程とともに、進化の基本的な仕組みについての解説にもなっており、進化の入門書としてたいへん優れていると思います。豊富な具体的な事例が本書の特徴で、一般層にも面白く読める構成にしよう、との意図が窺えます。進化の奥深さ・面白さが感じられる一冊になっていると思います。

 生物多様性の変遷と種形成・絶滅の解説は、本書を読んでとくに考えさせられたところで、自分の進化に関する理解の曖昧さを改めて思い知らされました。大量絶滅についても、漠然とした理解でしかなかったのですが、本書を読んで、それぞれの大量絶滅の仕組み・要因の違いについて、多少なりとも理解が進んだと思います。現在、「第6の大量絶滅」が進行中ではないか、とも言われており、本書でも取り上げられていますが、現時点では過去の大量絶滅と比較して絶滅率がまだ低いとしても、絶滅危惧種を考慮に入れると、楽観視できる状況ではないようです。

 本書を読もうと思ったのは、人類の進化に関する理解を深めるためには、進化学をもっと知らねばならない、と思ったからで、期待通りに本書からは得るところが多かったと思います。本書は人類の進化についても1章を割いており、なかなか詳しく解説されています。原書の刊行は2013年なので、人類の進化についての解説で古くなっているところもありますし、進化学も進展の速い分野なので、人類の進化以外の解説でも古くなっているところがあるだろう、とは思います。しかし、進化についての基本的な概説書として、本書は当分の間、文句なしに推薦されるべき一冊だと言えるでしょう。


参考文献:
Zimmer C, and Emlen DJ.著(2016)、更科功・石川牧子・国友良樹訳『カラー図解 進化の教科書 第1巻 進化の歴史』(講談社、原書の刊行は2013年)
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12万〜10万年前頃の「許昌人」の頭蓋

2017/03/04 00:00
 これは3月4日分の記事として掲載しておきます。中国で発見された上部更新世前期のホモ属頭蓋に関する研究(Li et al., 2017)が報道されました。この研究が分析したのは、中華人民共和国河南省許昌市(Xuchang)霊井(Lingjing)遺跡で発見された、125000〜105000年前頃の頭蓋です。この頭蓋に関しては、9年前(2008年)にこのブログで取り上げ(関連記事)、その後に補足となる追加記事を掲載したことがあります。

 この研究は、「許昌人」の2個の頭蓋について、複数の人類系統と特徴を共有しており、モザイク的だ、と報告しています。脳の大型化はホモ属の進化において広く見られる傾向で、許昌人にも見られます。許昌人の頭蓋の一方の脳容量は推定1800㎤で、ネアンデルタール人(Homo neanderthalensis)と現代人の上限近くに位置します。一方で、許昌人の頭蓋には、低く平らで下方に広い神経頭蓋を持つという、祖先的特徴も見られます。

 許昌人の頭蓋には、後頭部の局所的なへこみや内耳骨において、ネアンデルタール人の頭蓋との共通点が見られ、これらは現生人類(Homo sapiens)とは異なります。しかし、ネアンデルタール人と同じく眼窩上隆起があるとはいっても、ネアンデルタール人より薄く、頭蓋骨がネアンデルタール人よりも華奢な点で、初期現生人類(やそれに類似したアフリカのホモ属化石)と類似しています。その意味で、頭蓋からは、許昌人の分類が難しくなっています。

 許昌人の頭蓋は、60万〜10万年前頃の東アジアの他のホモ属化石と頭蓋底の特徴を共有しており、この点も許昌人の分類を難しくしています。この研究では、許昌人の頭蓋と中国の河北省の許家窯(Xujiayao)遺跡で発見された10万年前頃の頭蓋(関連記事)との類似性も指摘されており、東アジアにおける人類進化の地域的連続性の可能性が提示されています。一方で、上述したような許昌人とネアンデルタール人や現生人類との類似性も考慮すると、東アジアにおける後期ホモ属の地域的継続性と、地域間の比較的低水準の交雑が想定されるのではないか、とこの研究は指摘しています。

 何とも謎めいた許昌人の分類ですが、現時点では、まだその分類やホモ属の進化史における位置づけを断定できる段階にはない、と言えるでしょう。東アジアにおける人類進化の地域的連続性についても、蓋然性が高いと言えるのか、まだ慎重になるべきだと思います。この研究に参加していないハブリン(Jean-Jacques Hublin)博士は、許昌人が種区分未定のデニソワ人(Denisovan)である可能性を指摘していますが、この研究に参加したトリンカウス(Erik Trinkaus)博士は、DNAのみで定義されたデニソワ人という区分に許昌人を分類することには慎重です。許昌人の頭蓋からのDNA解析にはまだ成功していないとのことで、DNA解析の成功により研究が大きく進展することを期待しています。


参考文献:
Li ZY. et al.(2017): Late Pleistocene archaic human crania from Xuchang, China. Science, 355, 6328, 969-972.
http://dx.doi.org/10.1126/science.aal2482
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オルドビス紀における海洋生物多様性爆発の要因

2017/03/03 00:00
 これは3月3日分の記事として掲載しておきます。オルドビス紀における海洋生物多様性爆発の要因に関する研究(Lindskog et al., 2017)が公表されました。オルドビス紀の4億7100万年前頃には海洋生物の多様性が大きく増加したとされています。これはGOBE(Great Ordovician Biodiversification Event)と呼ばれており、ほぼ同時期に起こったと推測されている地球上での激しい隕石爆撃現象に関連したものと考えられていました。

 この研究は、隕石が含まれるスウェーデンの堆積層で採取されたジルコン結晶の年代を決定し、これと関連性を有する隕石物質の宇宙線照射年代に関する既報のデータと比較して、隕石爆撃が始まったのは4億6800万年前頃だった、と明らかにしました。これは、GOBEの開始時期が地球上での激しい隕石爆撃現象の始期よりも少なくとも200万年早かったことを示しています。この研究により、オルドビス紀における海洋生物多様性爆発の要因に関する議論が再燃することになりそうです。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。


【進化】オルドビス紀の多様性爆発における小惑星の役割が否定される

 地球上の生命の歴史において最も重要な海洋生物多様性の増加の1つがオルドビス紀に起こっており、これまでの学説では隕石爆撃に結び付けて考えられていたが、今週掲載される論文によれば、そのような結び付きはなかったという。

 Great Ordovician Biodiversification Event(GOBE)とは、地球上の海洋動物と海洋植物の多様化が爆発的に起こり、地球上の生命にとっての大きな進化段階となった事象のことで、約4億7100万年前に始まった。これまでGOBEの開始は、それとほぼ同時期に起こったと考えられている地球上での激しい隕石爆撃現象に関連したものと考えられていた。

 今回、Anders Lindskogの研究チームは、隕石が含まれるスウェーデンの堆積層で採取されたジルコン結晶の年代を決定し、これと関連性を有する隕石物質の宇宙線照射年代に関する既報のデータと比較して、隕石爆撃が始まったのが約4億6800万年前だったことを明らかにした。今回の研究による年代決定は、GOBEの開始時期が、地球上での激しい隕石爆撃現象の始期よりも実際には少なくとも200万年早かったことを示している。

 今回の研究結果は、GOBEが始まった原因が隕石爆撃ではなかったとしており、その頃に海洋生物の多様化が爆発的に起こった原因に関する議論を再燃させている。



参考文献:
Lindskog A. et al.(2017): Refined Ordovician timescale reveals no link between asteroid breakup and biodiversification. Nature Communications, 8, 14066.
http://dx.doi.org/10.1038/ncomms14066
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ヨーロッパの初期人類の食性

2017/03/02 00:00
 これは3月2日分の記事として掲載しておきます。ヨーロッパの初期人類の食性に関する研究(Pérez-Pérez et al., 2017)が報道されました。この研究が分析対象としたのは、スペイン北部のアタプエルカで発見されたホモ属の人骨群(120万〜80万年前頃)です。アタプエルカでは、「象の穴(Sima del Elefante)」遺跡で120万年前頃のホモ属化石(種区分未定)が、グランドリナ(Gran Dolina)遺跡で96万〜80万年前頃のホモ属化石が発見されています。グランドリナ遺跡のホモ属に関しては、エレクトス(Homo erectus)などの初期ホモ属とは異なるアンテセッサー(Homo antecessor)という種に区分する見解も提示されています。アンテセッサーに関しては、食人の可能性が指摘されています。

 この研究は、象の穴遺跡とグランドリナ遺跡のホモ属の歯を、更新世の他のホモ属の歯と比較しています。比較対象となったのは、アフリカの150万〜70万年前頃のエルガスター(Homo ergaster)、ヨーロッパとアフリカの60万〜20万年前頃のハイデルベルゲンシス(Homo heidelbergensis)、イベリア半島の5万〜3万年前頃のネアンデルタール人(Homo neanderthalensis)です。これらのホモ属の頬側の歯のエナメル質の微視的使用痕が分析・比較されました。現代の狩猟採集民と農耕民の研究から、頬側の歯のエナメル質の微視的使用痕の密度と長さは、噛んだ食物の種類に依存することが判明しています。

 これらの人類の頬側の歯のエナメル質の微視的使用痕の分析・比較の結果、象の穴遺跡とグランドリナ遺跡のホモ属の歯の溝の密度は、分析された他の更新世ホモ属よりも高いことが確認されました。歯のエナメル質の溝から、直ちに食性を正確に復元できるわけではありませんが、アタプエルカの前期更新世後半の人類は、硬くて砕けやすい、歯を研磨するようなものを食べていた可能性が高い、と推測されています。たとえば、プラントオパール(植物の細胞組織に充填する非結晶含水珪酸体)を含むような植物や土壌粒子の痕跡を伴う塊茎や、コラーゲンまたは結合組織や骨または生肉です。人類の肉食に関しては、脳サイズを巨大化し、それを維持することに役立ったのではないか、と指摘されています。

 このような歯のエナメル質の微視的使用痕の違いについては、120万〜80万年前頃のアタプエルカの大きく変動する厳しい自然環境に起因するのではないか、と指摘されています。また、自然環境だけではなく、文化的要因も指摘されています。120万〜80万年前頃のアタプエルカの人類の石器製作技術は、伝統的な区分(関連記事)では真のホモ属(エレクトスもしくはエルガスター)出現前から用いられていた様式1(Mode 1)でした。様式1の石器では、食品加工が促進されず、骨を噛むのに歯が用いられたのではないか、と指摘されています。また、120万〜80万年前頃のアタプエルカの人類が火を使用していなかったことも、食品加工が進まず、歯の摩耗を促進したのではないか、と指摘されています。生態学的・文化的条件の違いが、歯のエナメル質の微視的使用痕の違いを生じさせたのではないか、というわけです。


参考文献:
Pérez-Pérez A. et al.(2017): The diet of the first Europeans from Atapuerca. Scientific Reports, 7, 43319.
http://dx.doi.org/10.1038/srep43319
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真核生物の性質を持つ古細菌

2017/03/01 00:00
 真核生物の性質を持つ古細菌(アーキア)に関する研究(Zaremba-Niedzwiedzka et al., 2017)が公表されました。真核細胞が祖先の原核細胞からどのように生じたのか、まだ明らかになっていませんが、真核生物の起源は原核生物の1群である古細菌だと徐々に明らかになってきています。最近の研究では、ロキアーキオータ(Lokiarchaeota)門やThorarchaeota門などの古細菌分類群には、真核生物に特異的と考えられていた多くのタンパク質をコードする遺伝子が含まれていることも明らかになっています。

 この研究は、ロキアーキオータ門・Thorarchaeota門・Odinarchaeota門・Heimdallarchaeota門からなる新たなアーキア分類群をAsgard上門として定義し、真核生物の起源を調べました。Asgard上門には、そのゲノムに真核生物で膜輸送装置を構成する複数のタンパク質のホモログをコードしているものがあったことから、真核生物の祖先となった古細菌にはすでに、真核細胞の特徴である細胞の複雑性を進化させる能力がじゅうぶん備わっていた、と示唆されています。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用 です。


微生物学:Asgard上門アーキアによって明らかになる真核細胞の複雑性の起源

微生物学:真核生物の性質を持つアーキア

 真核細胞が、祖先である原核細胞からどのように生じたのかはいまだに謎だが、真核生物のルーツは原核生物の1群であるアーキアにあることが徐々に明らかになってきている。最近報告された、ロキアーキオータ(Lokiarchaeota)門やThorarchaeota門などのアーキア分類群には、真核生物に特異的と考えられていた多くのタンパク質をコードする遺伝子を持つ原核生物が含まれることも明らかになっている。今回T Ettemaたちは、ロキアーキオータ門、Thorarchaeota門、Odinarchaeota門、Heimdallarchaeota門からなる新たなアーキア分類群を「Asgard」上門として定義し、真核生物のルーツの探索を行った。Asgard上門アーキアには、そのゲノムに真核生物で膜輸送装置を構成する複数のタンパク質のホモログをコードしているものがあったことから、真核生物の祖先となったアーキアにはすでに、真核細胞の特徴である細胞の複雑性を進化させる能力が十分備わっていたことが示唆される。



参考文献:
Zaremba-Niedzwiedzka K. et al.(2017): Asgard archaea illuminate the origin of eukaryotic cellular complexity. Nature, 541, 7637, 353–358.
http://dx.doi.org/10.1038/nature21031
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