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zoom RSS 遺伝子発現における多様な人体組織間の差異と個人差

<<   作成日時 : 2017/10/14 00:00   >>

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 これは10月14日分の記事として掲載しておきます。遺伝子発現における多様な人体組織間の差異と個人差に関する一連の研究が公表されました。ヒトゲノムには遺伝子発現調節の指令がコードされていますが、遺伝子発現調節は細胞の種類によって異なっており、その結果、それぞれ独自の機能を持つ多様な組織が生じているものの、遺伝子発現調節には個人差もあります。こうした差異を生じさせる遺伝的多様体は、ゲノムの非コード領域内に位置している傾向があり、この非コード領域が遺伝子の発現状態と発現時期を決めている、と考えられています。しかし、遺伝子調節と遺伝子発現のヒト組織間の差異と個人差を詳しく調べる研究は、これまで限定的にしか行なわれていませんでした。

 ヒト組織の遺伝子発現に対する遺伝的影響に関する研究(GTEx Consortium., 2017)では、449人の健常ドナーから44組織(42種類の組織)の7000点以上の死後検体が収集されました。31点の固形臓器組織・10点の脳内小領域・全血・ドナーの血液と皮膚に由来する2つの細胞株を含む、こうした死後検体が検証に用いられ、遺伝子発現の組織間差異と個人間差異が調べられました。その結果、発現量的形質座位(eQTL)マッピングという方法により、ヒト遺伝子の大半がその近くに存在する遺伝子変異の影響を受けているので、遺伝的多様体はその影響を受ける遺伝子の近くに位置していることが明らかになり、別の染色体上にあるなどといった、それよりも遠い位置にある遺伝的多様体の影響を受ける93個の遺伝子も見つかりました。

 ヒトでは稀な遺伝的多様体が豊富に存在し、各個体の疾病リスクに関与すると予想されています。遺伝的関連研究は疾患感受性に関連する一般的な遺伝的多様体の特定には優れているものの、稀な多様体の特定には実用的ではありません。無害で稀な多様体と病原性多様体を識別する取り組みでは、遺伝暗号を利用して有害なタンパク質コード対立遺伝子が特定されていますが、非コード多様体においては類似の遺伝暗号が存在しないので、どういった稀な多様体が表現型に影響を持つのか、確認はたへいん困難です。稀な変異が多数の組織にわたって遺伝子発現に及ぼす影響を検証した研究(Li et al., 2017)では、ゲノムと多数の組織のRNA塩基配列解読のデータを組み合わせての解析により、44のヒト組織で特定の1遺伝子の発現が極端なレベルを示す個体、つまり遺伝子発現で外れ値を示す個体を突き止めました。低発現の外れ値の58%および高発現の外れ値の28%は、その遺伝子の近くに保存された稀な多様体がありますが、外れ値ではない遺伝子では近くに保存された稀な多様体を持つのは8%であることが明らかになりました。さらに、新たな統計モデルの開発により、ゲノム注釈付けのみを用いるモデルよりも高精度で稀な多様体の調節における影響を予測できるようになりました。

 A-to-I(アデノシンからイノシンへの)RNA編集は、ADAR酵素が仲介する保存された転写後の機構の一つで、RNA分子中のヌクレオチドを選択的に変換することによりトランスクリプトームを多様化させます。近年、多くの編集部位が発見されていますが、大半の部位がどの程度編集されるかということや、異なった生物学的状況の下で編集が調節される仕組みについては、完全には解明されていません。哺乳類におけるRNA編集の動的な状況と調節を検証した研究(Tan et al., 2017)は、552人の53の身体部位から得た8551のヒト試料と、他の霊長類およびマウス由来の数百の試料について、RNAのA-to-I編集のプロファイルを詳しく調べ、動的な時空間パターンと新しいRNA編集調節因子群を発見しました。と明らかになりました。その結果、非反復コード領域の編集レベルは、反復領域の編集レベルと比較して、組織間の違いが大きい、と明らかになりました。全体的に見て、ADAR(A-to-I RNA編集酵素)1は反復部位を、ADAR2は非反復コード部位を主に編集し、触媒活性を持たないADAR3はおもにRNA編集の阻害因子として作用します。いくつかの組織における生物種間のRNA編集の比較の結果、編集レベルのおもな決定因子は組織の種類ではなく、生物種であると明らかになり、ほとんどの部位についてはRNA編集にシス調節がより強力に働いていることが示唆されましたが、少数の保存されたコード部位にはトランス調節がより強力に働いていました。さらに、ADAR1とADAR2の膨大な数の標的の詳細な解析により、 in vivo (遺伝子を編集する酵素をコードするDNAを直接人体に注入する方法)では多くの編集部位がADAR酵素により異なった組織特異的調節を受けていることが示されました。さらに、編集を調節している可能性がある因子がいくつか判明し、たとえばAIMP2は、ADARタンパク質の分解を促進して筋肉での編集を抑制します。これらの結果を総合することにより、A-to-I編集の複雑なシス調節・トランス調節についての手掛かりが得られます。

 雌の哺乳類細胞では、X染色体不活性化(XCI)により、2本のX染色体のうちの1本の転写が抑制されて、XXである雌とXYである雄の間での発現量のバランスが取られています。しかし、XCIはヒトでは不完全で、女性の細胞ではX染色体遺伝子の約1/3は活性化X染色体(Xa)と不活性化X染色体(Xi)の両方から発現しており、不活性化を「回避」する程度は遺伝子間や個体間で異なっています。細胞や組織の間でXCIがどの程度分配されるかについてはよく分かっておらず、不完全なXCIが遺伝子発現や表現型形質において検出可能な性差として現れる程度も、同様に分かっていません。この問題を検証した研究(Tukiainen et al., 2017)は、449人の29組織から得た5500以上のトランスクリプトームと940の単一細胞トランスクリプトームを統合し、ゲノム塩基配列データと組み合わせて、XCIを系統的に調べました。683のX染色体遺伝子でのXCIは、ヒト組織全般で概して同等でしたが、組織間・個体間・細胞間で不均一性の例がいくつか見つかりました。この研究は、不完全なXCIがX染色体遺伝子の少なくとも23%に影響を及ぼすことを示し、複数方面からの証拠を裏づけとしてXCIを回避する7つの遺伝子を明らかにして、XCIの回避は遺伝子発現の性別による偏りを引き起こすと実証しました。これらにより、不完全なXCIは表現型の多様性をもたらす可能性が高い機構である、確認されました。総合的に、多数のヒト組織にわたるXCIの最新カタログは、XCIの維持における不完全性の程度や影響についての理解を深めるのに役立つ、と指摘されています。

 これらの新知見を総合すると、ヒトの疾患に関連する遺伝的多様性の基盤となる遺伝子と機構の解明を目的とした研究で収集された、多数の個人と生体組織に由来するデータは貴重だと強調されていることが分かる、と指摘されています。これらの研究では、死後検体の入手に伴う倫理的・法的・技術的課題を克服するための一致団結した共同作業が行なわれました。GTEx Consortiumが作成した詳細なカタログにより、ゲノムの調節コードの解読に一歩近づき、遺伝的多様性の遺伝子発現への影響が徐々に解明されてきている、と指摘されています。これらの研究は、人類進化史の解明にも貢献することになりそうで、今後の研究の進展が期待されます。以下は『ネイチャー』の日本語サイトから引用(引用1および引用2)です。


【ゲノミクス】全てのヒト組織における遺伝子の活性を解読する

 遺伝子発現について、さまざまな人体組織間の差異と個人差を示す包括的なアトラスを明らかにした一連の論文が、今週NatureとNature Geneticsに掲載される。これらの論文に示された新知見は、健常組織における遺伝的多様性と遺伝子発現の関連を洞察するための新たな手掛かりをもたらしており、各種疾患の分子的起源に関する新たなヒントとなる可能性もある。

 ヒトゲノムには、遺伝子発現調節の指令がコードされているが、遺伝子発現調節は、細胞の種類によって異なっており、その結果、それぞれ独自の機能を持つ多様な組織が生じているのだが、遺伝子発現調節には個人差もある。こうした差異を生じさせる遺伝的バリアントは、ゲノムの非コード領域内に位置している傾向があり、この非コード領域が遺伝子の発現状態と発現時期を決めていると考えられている。しかし、遺伝子調節と遺伝子発現のヒト組織間の差異と個人差を詳しく調べる研究は、これまで限定的にしか行われていなかった。

 GTEx(Genotype-Tissue Expression)コンソーシアムは、449人の健常ドナーから44組織(42種類の組織)の7000点以上の死後検体を収集して研究を行った。今回、このコンソーシアムの研究チームは、こうした死後検体(31点の固形臓器組織、10点の脳内小領域、全血、ドナーの血液と皮膚に由来する2つの細胞株が含まれる)を用いて、遺伝子発現の組織間差異と個人間差異を調べた。この研究では、発現量的形質座位(eQTL)マッピングという方法を用い、ヒト遺伝子の大半がその近くに存在する遺伝子変異の影響を受けており、そのため遺伝的バリアントは、その影響を受ける遺伝子の近くに位置していることが明らかになり、それよりも遠い位置にある(例えば、別の染色体上にある)遺伝的バリアントの影響を受ける93個の遺伝子も見つかった。この研究成果を報告する論文が、今週Natureに掲載される。

 Natureに同時掲載される別の論文では、遺伝子発現におけるまれなバリアントの役割を調べた結果が報告されており、これとは別の2編の論文では、GTExのデータを用いて、RNA編集とX染色体不活性化の現象が、遺伝子発現と関連する遺伝的バリアントによってどのように調節されるのかを調べた結果が示されている。また、これらの論文と関連したNature GeneticsのCommentaryでは、GTExプロジェクトを拡張して、遺伝的な差異が分子表現型を介してヒトの健康に連鎖反応的な影響を及ぼす過程を研究するための情報資源を提供することを目的とするEnhancing GTExプロジェクトが紹介されている。

 以上の新知見を総合すると、ヒトの疾患に関連する遺伝的多様性の基盤となる遺伝子と機構を解明することを目的とした研究で収集された多数の個人と生体組織に由来するデータが貴重なことが強調されていることが分かる。同時掲載のMichelle WardとYoav GiladのNews & Viewsには以下のように記されている。「この研究では、死後検体の入手に伴う倫理的、法的、技術的課題を克服するための一致団結した共同作業が行われた。 <中略> 今回GTExコンソーシアムが作成した詳細なカタログによって、ゲノムの調節コードの解読に一歩近づいた。遺伝的多様性が遺伝子発現に及ぼす影響が徐々に解明されてきている」。


Cover Story: ヒトであるということ:健常組織における遺伝子発現に対する遺伝子変異の影響のカタログを作る

 GTEx(Genotype-Tissue Expression)コンソーシアムは、死後提供者から得られた正常な健常組織を幅広くサンプリングして、人体のさまざまな組織について、多数の個体にわたる遺伝子発現レベルの参照カタログと関連する組織バイオバンクを確立した。今回のArticleで、GTExコンソーシアムは、449人の提供者から得られた44種類のヒト組織の7051例の標本を含む、複数の組織と個体にわたるこれまでで最も大規模な遺伝子発現の調査結果を提示している。彼らは、さまざまな組織や個体での遺伝子変異と遺伝子発現の関係の特徴を調べ、遺伝子の大半が、それらに近い場所の遺伝子変異によって調節されていることを見いだした。関連するLetterでは、A BattleとS Montgomeryたちが、ヒトの組織の遺伝子発現に対するまれな遺伝子変異の影響を調べている。また、D MacArthurたちは、ヒトの組織のX染色体不活性化の全体像を系統的に調べている。さらに、J Linたちは、哺乳類でのアデノシンからイノシンへのRNA編集の包括的な種間分析を行っている。News & Viewsでは、M WardとY Giladが、こうした最新の結果を分かりやすく説明し、今回の知見がヒトゲノムの調節コードの解読にどのように役立つか論じている。



参考文献:
GTEx Consortium.(2017): Genetic effects on gene expression across human tissues. Nature, 550, 7675, 204–213.
http://dx.doi.org/10.1038/nature24277

Li X. et al.(2017): The impact of rare variation on gene expression across tissues. Nature, 550, 7675, 239–243.
http://dx.doi.org/10.1038/nature24267

Tan MH. et al.(2017): Dynamic landscape and regulation of RNA editing in mammals. Nature, 550, 7675, 249–254.
http://dx.doi.org/10.1038/nature24041

Tukiainen T. et al.(2017): Landscape of X chromosome inactivation across human tissues. Nature, 550, 7675, 244–248.
http://dx.doi.org/10.1038/nature24265

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