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zoom RSS 狩猟の違いがもたらしたかもしれない現生人類とネアンデルタール人の芸術活動の違い

<<   作成日時 : 2018/02/12 00:00   >>

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 これは2月12日分の記事として掲載しておきます。狩猟の違いが、現生人類(Homo sapiens)とネアンデルタール人(Homo neanderthalensis)の視覚表現の違いに影響した可能性を論じた研究(Coss., 2018)が報道されました。現生人類は投槍を用いて狩猟を行ない、じゅうらいより安全に大型動物を狩ることができるようになりましたが、サハラ砂漠以南のアフリカにおける投槍の起源は279000年以上前までさかのぼる可能性があります(関連記事)。投槍は投槍器を用いることでさらなに威力が増加し、(獲物からより遠方で槍を投げられるようになるので)より安全に狩猟できるようになりますが、その起源については不明なところもあり、ヨーロッパでは5万〜4万年前頃に投槍器の使用が始まった、との見解も提示されています(関連記事)。

 一方、ネアンデルタール人が投槍を用いた確実な証拠は得られていません。しかし、フランスのノルマンディー地方で発見された226000〜183000年前頃の初期ネアンデルタール人もしくはその近縁集団の1個体は、日常的に投擲を行なっていたと推測されています(関連記事)。したがって、投槍器を用いていたわけではないとしても、ネアンデルタール人が槍を投げて狩猟を行なっていた可能性は低くないと思います。ただ、上述したように確実な証拠はないので、本論文は、ネアンデルタール人が獲物に接近して槍を突きさすような狩猟を行なっていた、との見解を前提としています。

 本論文は、現生人類とネアンデルタール人の狩猟対象の違いを指摘します。現生人類の起源地はアフリカですが、そのアフリカでは現生人類の狩猟対象となるような動物は警戒心が強く、現生人類はそれに対応した狩猟が要求されるようになります。これは、アフリカ起源の現生人類が更新世後期〜末期にかけて世界中へと拡散する過程で、大型動物の大量絶滅に地域的違いがあったことと関連しているかもしれません。

 更新世後期よりも前には現生人類どころかそもそも人類自体存在していなかったオーストラリア大陸(更新世の寒冷期にはニューギニアやタスマニア島と陸続きでサフルランドを形成していました)やアメリカ大陸では、現生人類が拡散してきた頃に大型動物が大量に絶滅しており、ユーラシア大陸でも、現生人類の拡散以降に大型動物が絶滅しています。こうした大型動物の絶滅は、あるいは現生人類の拡散とさほど関係ないかもしれませんが、やはり、人類への警戒心の弱かった大型動物の多い地域で、高度な狩猟技術とじゅうらいよりも高い人口密度を有する現生人類の狩猟により絶滅していった、と考えるのが妥当だと思います。

 一方、アフリカでは、人類との共存期間が長かったためか、人類への警戒心が強い動物が多く、更新世後期〜末期にかけて大型動物の大量絶滅は見られません。たとえばシマウマは、ユーラシアの野生ウマほどには人類に接近しません。本論文は、ネアンデルタール人が狩猟対象とした動物もしくはその近縁種が完新世に現生人類の家畜になっていたことからも、それらは人類への警戒心が弱く、ネアンデルタール人はそうした動物に接近して槍を突きさすような狩猟をしていたのではないか、と指摘します。ネアンデルタール人社会において投槍が(ある程度は用いられていたとしても、現生人類ほどには)発展しなかったのは、狩猟対象となる動物の性質にも起因するのではないか、というわけです。

 一方、アフリカの現生人類は、人類への警戒心の強くなった動物を狩るために、狩猟方法を発展させていきます。本論文はその一例として投槍を重視し、投槍の威力を増すには視覚イメージ(槍がどのように飛んでいくか)と運動共同作用(槍を投げるための手・腕などの複数部位の一連の動き)の統合が強化される必要があることから、そのような選択圧が作用して視覚イメージと運動共同作用を統合する頭頂葉皮質が拡大し、ネアンデルタール人など他のホモ属には見られない、現生人類特有の球状の頭蓋が形成されていったのではないか、と推測しています。現生人類の脳は漸進的に球状になっていき、現代人の変異内に収まるようになった時期は100000〜35000年前頃ではないか、との見解も提示されています(関連記事)。

 本論文は、こうした投槍を用いるさいに必要な視覚イメージと運動共同作用を統合する能力は、具象的な線画を描く能力と類似しており、警戒心の強い動物への対処としての狩猟方法の革新が、ネアンデルタール人とは異なる現生人類の芸術活動を可能にしたのではないか、との見解を提示しています。ネアンデルタール人の所産と考えられる線刻はすでに報告されているので(関連記事)、単なる線刻(原初的・素朴な芸術)と具象的な線画との間に大きな違いを見出している、ということなのでしょう。確かに、ネアンデルタール人が具象的な線画を描いていた証拠は得られていないので、本論文の見解にも説得力はあると思います。ただ、更新世の現生人類で具象的な線画を残した集団は稀であり、具象的な線画の有無が、現生人類とネアンデルタール人との生得的な能力の違いに起因するのかというと、まだ検証が必要ではないか、と考えています。


参考文献:
Coss RG.(2018): Drawings of Representational Images by Upper Paleolithic Humans and their Absence in Neanderthals Might Reflect Historical Differences in Hunting Wary Game. Evolutionary Studies in Imaginative Culture, 1, 2, 15–38.
https://doi.org/10.26613/esic/1.2.46

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