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zoom RSS 後期ホモ属の進化史における系統樹と交雑

<<   作成日時 : 2018/03/12 00:00   >>

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 これは3月12日分の記事として掲載しておきます。近年の古代DNA研究の大きな進展により、後期ホモ属の進化に関する理解はたいへん深まったように思います(関連記事)。そこで、古代DNAが解析されている後期ホモ属について、一度系統・交雑関係をまとめてみます。おもに対象となるのは、現生人類(Homo sapiens)とネアンデルタール人(Homo neanderthalensis)と種区分未定のデニソワ人(Denisovan)とスペイン北部の通称「骨の穴(Sima de los Huesos)洞窟」遺跡(以下、SHと省略)で発見された人骨群です。デニソワ人については、昨年(2017年)、情報を一度整理してみました(関連記事)。SH人骨群の年代は43万年前頃で、mtDNAだけではなく、核DNAも解析されています(関連記事)。

 2年ほど前(2016年)から、一度は後期ホモ属の交雑関係について、自分で図を作成してまとめようと考えていたのですが、怠惰な性分ですから、挫折しかけていました(関連記事)。しかし、稚拙な図と簡略な整理でよいから、一度まとめてみようと気力を奮い立たせて(と言うと大袈裟ですが)、何とかこの記事を執筆しました。取り上げなければいけない情報は他にも多くありますし、そもそも進展の速いこの分野の研究を追い切れていないのですが、重要な情報を網羅しようとすると、いつまで経っても整理できそうにないので、とりあえず暫定的なまとめを作成することにしました。

 当初、現代人内の各地域集団間の系統関係の遺伝学的研究は、解析の容易なミトコンドリアDNA(mtDNA)で始まりました。現在では、DNA解析技術の大きな発展により、核DNAの解析が主流となっています。系統関係をより正確に反映している可能性が高いのは核DNAの方ですが、mtDNAの解析結果の蓄積は厚く、母系遺伝のため人類の移住・交雑に関する性差を反映しているかもしれないという意味でも、核DNAの解析結果との整合・不整合という観点でも注目されるので、この記事では両方取り上げることにします。

 mtDNAの解析結果に基づく進化系統樹では、まずデニソワ人の祖先系統とネアンデルタール人および現生人類の共通祖先系統とが分岐し、その後にネアンデルタール人の祖先系統と現生人類の祖先系統とが分岐したことになります。SH人骨群はネアンデルタール人および現生人類よりもデニソワ人の方と近縁となります。核DNAでもそうですが、mtDNAについても、解析結果に基づく各系統間の現時点での推定分岐年代はあくまでも暫定値で研究により異なっていて、今後変わってくる可能性が高いことに注意しておかねばならないでしょう。

 そうした制約はありますが、昨年7月に公表されたドイツ南西部のネアンデルタール人化石のmtDNAに関する研究(関連記事)では、現生人類およびネアンデルタール人の共通祖先系統とデニソワ人およびSH人骨群の共通祖先系統の分岐が1410000〜720000年前頃、SH人骨群系統とデニソワ人系統との分岐が1060000〜510000年前頃、現生人類系統とネアンデルタール人系統の分岐が468000〜360000年前頃と推定されています。これを自作の図にまとめてみましたが、やはり稚拙なものであり、論文の図の方がはるかに有益です(そもそも、比較の対象になりませんが)。
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 核DNAの解析結果に基づく進化系統樹では、まずデニソワ人およびネアンデルタール人の共通祖先系統と現生人類の祖先系統とが分岐し、その後にデニソワ人の祖先系統とネアンデルタール人の祖先系統とが分岐したことになります。SH人骨群はネアンデルタール人と近縁です。核DNAとmtDNAとで後期ホモ属の進化系統樹に食い違いが生じていることについては、SH人骨群のDNA解析結果から、元々ネアンデルタール人のmtDNAは「デニソワ人型」だったものの、どこかの時点で、ルヴァロワ技術を有する、アフリカ起源の現生人類とより近縁な人類系統からもたらされたmtDNAに置換され(関連記事)、その下限年代は27万年前頃と推測されています(関連記事)。

 これらの推定分岐年代は、アルタイ地域のネアンデルタール人の高品質なゲノム配列の報告(関連記事)では、現生人類の祖先系統とネアンデルタール人およびデニソワ人の共通祖先系統とが765000〜550000年前頃、ネアンデルタール人系統とデニソワ人系統とが473000〜445000年前頃に分岐した、と推定されています。なお、現生人類・ネアンデルタール人・デニソワ人の共通祖先系統と、デニソワ人と交雑したとされる遺伝学的に未知のホモ属系統との推定分岐年代は400万〜100万年前頃です(関連記事)。

 ネアンデルタール人の人口史に関する研究(関連記事)では、現生人類の祖先系統とネアンデルタール人およびデニソワ人の共通祖先系統とが25920世代前(751690年前頃)、ネアンデルタール人系統とデニソワ人系統とが25660世代前(744000年前頃)に分岐した、と推定されています。クロアチアのネアンデルタール人の高品質なゲノム配列の報告(関連記事)では、現生人類の祖先系統とネアンデルタール人およびデニソワ人の共通祖先系統とが630000〜520000年前頃、ネアンデルタール人系統とデニソワ人系統とが440000〜390000年前頃に分岐した、と推定されています。ただ、この年代は、デニソワ人よりもネアンデルタール人の方に近縁なSH人骨群の推定年代が43万年前頃であることから、もっとさかのぼる可能性が高そうです。これらを踏まえて、自作の図にまとめてみました。
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 アフリカ系現代人のゲノムにはネアンデルタール人の影響が皆無に近いかごくわずかなのにたいして、非アフリカ系現代人のゲノムにネアンデルタール人の影響が多少確認されているため、全非アフリカ系現代人の共通祖先集団がネアンデルタール人と交雑したと推測されていますが、そのなかでも、ヨーロッパ系現代人よりも東アジア系現代人の方が平均的にはわずかながらネアンデルタール人由来の領域の割合が高いことから、東アジア系現代人の祖先集団はヨーロッパ系現代人の祖先集団と分岐した後に、再度ネアンデルタール人と交雑したのではないか、との見解が提示されています(関連記事)。じっさい、現代人への影響は皆無に近いかもしれないとしても、おそらくはヨーロッパにおいて、現生人類が再度ネアンデルタール人と交雑した可能性が指摘されています(関連記事)。オセアニア以外の非アフリカ系現代人のゲノムに占めるネアンデルタール人由来の領域の割合は1.8〜2.6%と推定され、そのなかでも、東アジア系現代人のゲノムに占めるネアンデルタール人由来の領域は、西ユーラシア系現代人の1.8〜2.4%よりもやや高く、2.3〜2.6%と推定されています(関連記事)。

 西アジア系現代人も、東アジア系現代人よりネアンデルタール人の遺伝的影響が小さいのですが(関連記事)、東ユーラシア系現代人と比較しての西ユーラシア系現代人におけるネアンデルタール人の遺伝的影響の小ささは、西ユーラシア系現代人が「基底部ユーラシア人」系統の遺伝的影響を強く受けたためではないか、との見解も提示されています(関連記事)。「基底部ユーラシア人」とは、まだ化石の確認されていない仮定的な存在で、(非アフリカ系現代人の主要な遺伝子源となった)出アフリカ後の現生人類集団において最初に分岐した、ネアンデルタール人の遺伝的影響をほとんど受けなかった系統で、もう一方の系統は、その後に現代につながる非アフリカ地域の各地域集団に分岐していった、と想定されています。

 ネアンデルタール人集団(の一部)と(非アフリカ系現代人の主要な遺伝子源となった)現生人類集団との交雑の年代は60000〜50000年前頃と推定されていますが(関連記事)、他の現生人類系統とおそらくは20万年前頃に分岐した初期現生人類系統が、アルタイ地域の東方系とクロアチアの西方系に分岐する(推定で145000〜130000年前頃)前のネアンデルタール人と交雑した可能性も指摘されています(関連記事)。この初期現生人類系統が現代に子孫を残しているのか否か、明確ではありません。西方ネアンデルタール人のうち、クロアチア系統と10万〜8万年前頃に分岐した系統が、(非アフリカ系現代人の主要な遺伝子源となった)現生人類集団と交雑したのではないか、と推測されています(関連記事)。

 デニソワ人由来と推測されている現代人のゲノム領域に関しては、オセアニアで突出して高く、東アジアでわずかながら確認される一方で、ヨーロッパやアフリカではほとんど確認されていません(関連記事)。南シベリアのアルタイ地域でしか確認されていないデニソワ人の現代人における遺伝的影響がおもにオセアニアで見られ、基本的には高緯度地帯で確認されている更新世の現生人類のDNA解析では、デニソワ人との交雑の痕跡が現時点では確認されていないことからも(関連記事)、現生人類とデニソワ人との交雑は南アジアもしくは東南アジアで起きた可能性が高そうですが、デニソワ人という分類群に関しては、異論もあります(関連記事)。

 デニソワ人は、現生人類・ネアンデルタール人・デニソワ人の共通祖先と100万年以上前に分岐した遺伝学的に未知の人類系統と交雑したと推測されていますが(関連記事)、これまでに確認されているデニソワ人個体のうち、そうした交雑が確認されているのは一個体だけです(関連記事)。もっとも、他の個体に関しては、交雑が否定されているわけではなく、高品質のゲノム配列が得られていないので交雑の有無が判断できない、という状況です。

 なお、アフリカ系現代人に関しては、現代人・ネアンデルタール人・デニソワ人の共通祖先系統と200万〜150万年前頃に分岐したと推定されている、遺伝学的に未知の(おそらくは)ホモ属と交雑した可能性が指摘されています(関連記事)。現代人のうち、サハラ砂漠以南のアフリカ人のみが「純粋な」現生人類(Homo sapiens)だとの認識もネットでは見られますが(関連記事)、おそらくはアフリカ系現代人も、非アフリカ系現代人にはほとんど遺伝的影響を及ぼしていない、遺伝学的に未知のホモ属と交雑した可能性は低くないと思います。また、非アフリカ系現代人集団は基本的に主要な1回の出アフリカ集団の子孫であるものの、パプア人のゲノムの少なくとも2%は、その主要な出アフリカ以前にアフリカ系現生人類集団と分岐し、出アフリカを果たした現生人類集団に由来する、と推測されています(関連記事)。

 以上の情報を踏まえて、交雑関係も取り入れた後期ホモ属の進化系統樹を作成してみましたが、あまりにも稚拙で見づらいものとなったので、昨年公表された論文(関連記事)のを提示するだけでよいかな、とも思いました。ただ、この論文の後に公表された研究の情報も取り入れているため、自作の図にもごくわずかながら意味があるかな、とは思います。いつかは、もっとましな図を作成したいものではありますが・・・。
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 以上、ひじょうに不充分ながら、系統関係と交雑の観点から後期ホモ属の進化史をまとめてみました。ただ、ここで述べた後期ホモ属の進化史は、かなり単純化されたものです。上述したように、後期ホモ属の各分類群の間の交雑は複雑だとしだいに明らかになってきており、現生人類・ネアンデルタール人・デニソワ人といった分類群が、実態以上に類型化されたものである可能性は低くないと思います。もちろん、交雑の様相はもっと複雑なものだったでしょう。形質人類学の観点からも、ヨーロッパ(関連記事)と東ユーラシア(関連記事)における後期ホモ属の多様性が指摘されています。後期ホモ属(に限らず人類史全般でそうなのでしょうが)の進化はかなり複雑で、それを的確に記述できることは永久に無理としても、それなりに「実態」に近づくこともかなり困難だと思われ、将来、現時点での有力説が大きく修正されている可能性は低くないと思います。

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現生人類とデニソワ人との複数回の交雑
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2018/03/17 20:46
後期ネアンデルタール人の新たなゲノム配列
 これは3月23日分の記事として掲載しておきます。後期ネアンデルタール人(Homo neanderthalensis)の新たなゲノム配列についての研究(Hajdinjak et al., 2018)が報道されました。この研究はオンライン版での先行公開となります。古代DNA研究を制約しているのは、時間経過と、微生物および現代人のDNAによる試料汚染です。時間経過に関しては、環境が大きな要因となっており、同じくらい古い年代でも、高温多湿環境よりも寒冷乾燥環境の方がDNAは多く保存されています。... ...続きを見る
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2018/03/22 12:19

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