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zoom RSS 漢籍と日本史料に見える異文化の名前・称号の理解

<<   作成日時 : 2018/03/24 00:00   >>

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 これは3月24日分の記事として掲載しておきます。隋や唐の日本(倭)にたいする理解について、ツイッターで最近述べたことや過去のネットでの発言を再構成します。遣隋使をめぐる『隋書』と『日本書記』の相違についてはよく知られているでしょうが、10年以上前(2008年3月4日)に関連論文を取り上げたことがあります(関連記事)。『隋書』や『旧唐書』や『新唐書』などといった中華地域の漢文史料と、『日本書紀』など日本史料との相違は議論となっていますが、以下の東野治之『遣唐使』(関連記事)の以下の指摘(P23)は重要と言えるでしょう。

なお、この時の使いが「阿毎多利思比狐」の使者とされているので、これが当時の君主の名や一般的な称号であるとする意見が昔から有力だが、これに続く使者の言葉とともに、あまり額面どおり受け取るのは考えものである。そもそも古代の中国文献については、これを全面的に信頼できるものとして一字一句を取り上げ、日本側史料の批判に使う研究者が少なくない。しかしそれは極めて危険であり、中国文献が正しいという保証はない。むしろ外国に関する知識が通訳や翻訳を介して伝達された場合、なんらかの誤りが生じるのが普通である。それは近世初期のキリスト教宣教師宣教師や、江戸時代、長崎に来航していたオランダ人、あるいは明治初年の外国人などの書き残したものをみれば、一目瞭然である。

 さらに同書P24では、『隋書』に見える「阿毎多利思比狐(アメタリシヒコ)」を、当時の倭国における君主の名や一般的な称号とする見解にたいして、遣隋使となった小野妹子の祖先が「天帯彦国押人命(アメタラシヒコクニオシヒトノミコト)」だったところから、対応した隋側が君主の名と間違って記録した、という辻善之助氏の解釈を見直すべきだろう、と提言されています。

 「正史」がそんなことを間違うはずがない、との批判もあるとは思いますが、異文化の名前・称号の仕組みを理解するのは難しく、錯誤があっても不思議ではないでしょう。現代の日本でも、すでに前近代の名前・称号の仕組みが理解されなくなっており、それ故に、夫婦別姓容認の議論において、「良心的」な人々(の大半?)において、現代の夫婦同氏(同姓)は明治になっての西洋の物真似にすぎなかった、などといった的外れな見解が浸透しているくらいです(関連記事)。辻説が妥当と断定できるわけではありませんが、真剣に検証すべき仮説だとは思います。

 異文化の名前・称号の仕組みの理解の難しさは、隋・唐と日本(倭)との関係においても散見されます。7世紀以前よりも日本列島の人々の漢文能力が高くなっただろう8世紀後半において、遣唐使の真人興能(おそらくは甘南備清野)について、真人とは官(名)を氏としたのだろう、と『新唐書』は誤解しています。また、玄宗代における唐から日本への国書より、その時の唐は日本国君主の名を「主明楽美御徳」と誤解していたことが分かります。「主明楽美御徳」は「スメラミコト」で、日本国君主の称号の訓読みです。もっとも、この件については、日本側が意図的に唐に誤解させようとした可能性が高いとは思いますが。

 なお、「中国文献が正しいという保証はない」ことが『日本書紀』の信憑性を相対的に高めるというものでもなく、基本的に『日本書紀』は、7世紀末〜8世紀初頭の支配層の価値観・歴史認識・常識によって「あるべき歴史」を描いた作品であり、中華地域の漢文史料との間に相違がある場合、倭国・日本国側の(しばしば意図的な)錯誤によるものである可能性もじゅうぶん考えられるとは思います。「阿毎多利思比狐」をめぐっても、日中双方の錯誤が想定されるので、さまざまな可能性が考えられるべきでしょう。

 ただ、『日本書紀』において、たとえば初代にさかのぼって「天皇」号が用いられていることなどを、隠蔽・改竄と断定して憚らないのは、近代的な心性にとらわれすぎではないか、とも思います。それは、歴史認識の問題に関しては、考証学などを経て近代歴史学の成果を受け入れた結果を経て形成されたものだと思います。また、近代的な心性を大前提として『日本書紀』を読むと、当時の編纂者・支配層には思いもよらなかった陰謀・隠蔽・改竄を見出すことになるのではないか、とも考えています。三王朝交替説や聖徳太子非実在説(関連記事)や天武の年齢が不明なのは異常だといった見解(関連記事)は、近代的な心性を大前提としてしまったが故の誤認だと思います。

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