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zoom RSS ホモ属における脳容量増大の要因

<<   作成日時 : 2018/05/24 17:21   >>

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 ホモ属における脳容量増大の要因に関する研究(González-Forero, and Gardner., 2018)が報道(McElreath., 2018)されました。現代人の脳は、その身体サイズのわりに脳がひじょうに大きい、と明らかになっています。現代人の脳容量は、他の有胎盤哺乳類と比較すると、その身体サイズからの推定値の6倍近くあります。人類進化史において、ホモ属系統で顕著に脳容量が増大し、ホモ属の前に存在した(そして、おそらくはその一部がホモ属の祖先となった)アウストラロピテクス属(その一部はホモ属の一部とも共存していました)から現生人類(Homo sapiens)までで、脳容量は3倍に増大しました。

 脳は代謝コストが高く、脳を有さずに繁栄している生物は珍しくありません。脳の代謝コストの高さが原因で、現代人においては身体発達が遅延した、とも指摘されています。現代人の脳は10歳までに成長を止め、その時点では身体は成熟していません。他の類人猿(現代人も類人猿の一種と言えるでしょう)では、現代人のように脳の成長が優先されているわけではなく、現代人の成長パターンは身体サイズを長期間小さなままにしておくことになります。これは、身体サイズが生存競争において大きな要素であることを考えると、不利だと言えるでしょう。

 そのため、ホモ属系統で身体サイズに比して著しく脳容量が増大した理由については長年議論され、複数の仮説が提示されてきました。そうした仮説の前提となるのは、脳容量の増大により認知能力が向上し、それが代謝コストの増大を上回るような利益をもたらした、との認識です。やや異なる観点からは、ホモ属系統において肉食が本格的に始まり、消化に要するエネルギーを節約でき、脳により多くのエネルギーを渡すことができた、との見解が提示されています(「不経済組織」仮説)。この「不経済組織」仮説は、他の仮説と競合するというよりは、相互補完の関係にある、と言えるでしょう。

 その他には、生態・社会・文化の観点から仮説が提示されていますが、いずれも脳容量の増大による認知能力(知性)の向上が指摘されています。生態仮説では、食料発見のような環境的競争が重要とされます。社会仮説では、同種の他個体との協力と競争が重要とされます。文化仮説ではこれら2説が統合され、食料発見のような生態的知性に関連する技術の社会的学習が重要とされます。これまで、ホモ属系統における脳容量の増大に関して、このような仮説が提示されてきましたが、それらの仮説は一般的に相関解析を用いて評価されており、脳容量の進化の原因を明確に示すことは困難だ、と本論文は指摘します。

 そこで本論文は、脳の代謝コストの実験的推定値に基づき、形式化された社会的仮説から脳容量および身体サイズを定量的に予測するモデルを開発しました。本論文は、脳容量の進化に関係しそうな選択圧を4タイプに区分し、脳容量と身体サイズの比較から、4タイプがそれぞれどのような割合で各ホモ属種の脳容量と身体サイズの進化の要因となったのか、推定しました。この4タイプとは、生態(個体vs自然)、協同(個体群vs自然)、個体間競争(個体vs他の個体群)、集団間競争(特定の個体群vs他の個体群)です。

 その結果、現生人類の脳容量の進化要因の割合については、生態が60%、協同が30%、集団間競争が10%と推定されました。ネアンデルタール人(Homo neanderthalensis)では、生態が80%、協同が20%です。ハイデルベルゲンシス(Homo heidelbergensis)では、生態が40%、協同が60%です。エレクトス(Homo erectus)では、生態が80%、協同が20%です。エルガスター(Homo ergaster)では、生態が50%、協同が50%です。ハビリス(Homo habilis)では、生態が10%、協同が60%、集団間競争が20%、個体間競争が10%です。

 現生人類をはじめとして、後期ホモ属における生態的要因の推定割合の高さと、ホモ属全般における個体間競争の割合の低さが注目されます。ホモ属の脳容量進化の要因として重要なのは個体間競争や集団間競争ではなく、生態学的課題の方だった、との見解を本論文は提示しています。社会的複雑性はホモ属の脳容量増大の要因ではなく結果である可能性が高く、人間性の本質は社会的駆け引きではなくて、生態学的課題の解決と文化の蓄積である可能性が高い、というわけです。なお、上記報道では、協同は脳容量増大の要因となり得るものの、他個体の知性を潜在的に自由に使えるため、脳容量を減少させる可能性もある、とも指摘されています。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用(引用1および引用2)です。


【進化】どうしてヒトの脳はこんなに大きくなったのか

 ヒトの大きな脳が進化した主たる要因が生態学的課題であったとする論文が、今週掲載される。この研究は、ヒトの進化に関する主要な論争への情報提供の一助となる。

 ヒトの脳が進化によって異常に大きくなった理由を巡る論争は、研究者の間で数十年間も続いている。一定数の学説が提起されており、例えば、複雑さを増す社会生活に対応していく上で役立つように脳が大型化したとする「社会的な脳」仮説、肉食によって大きな脳が進化し、そのために消化管が本来の大きさより小さくなったとする「不経済組織」仮説などがある。ところが、これらの学説は相関データに依存しており、原因と影響を分けて考えることができないという根本的な問題を抱えている。

 今回、Mauricio Gonzalez-ForeroとAndy Gardnerが報告した新しい予測モデルによれば、ヒトの脳の大きさは、いくつかの異なる要因に応答して進化したものであり、それらの要因のうちの60%が生態学的課題に、30%が協力行動に、10%が集団間の競争に関連しており、個人間の競争は比較的重要でないとされている。この新知見は、社会的複雑性がヒトの大型の脳が進化した原因ではなく結果である可能性が高く、人間性の本質が社会的駆け引きではなく、生態学的課題の解決と文化の蓄積である可能性が高いとする点で興味深い。


人類学:ヒトの脳サイズ進化の生態学的および社会的駆動要因に関する推測

人類学:ヒトの脳サイズ進化の駆動要因

 ヒトはなぜ、単位体重当たりの脳がこれほど大きいだろう。その説明としては、「不経済組織」仮説(肉食によって脳が腸を犠牲にして進化することができた)から、「社会脳」説(集団での生活が知能を促進する)まで、後付けの説が複数唱えられている。しかし、さまざまな要因を考慮し、化石記録に照らして結果を検証できる、ヒトの脳サイズの増加だけでなく減少にも対応したモデルは欠落していた。今回M González-ForeroとA Gardnerは、ヒトの脳サイズが、異なる複数の要因に応答して進化したことを明らかにしている。主な要因は、生態学的要因(60%)および協同(30%)であり、集団間競争(10%)がそれに続く一方、個人間競争は重要でなかった。



参考文献:
González-Forero M, and Gardner A.(2018): Inference of ecological and social drivers of human brain-size evolution. Nature, 557, 7706, 554–557.
https://dx.doi.org/10.1038/s41586-018-0127-x

McElreath R.(2018): Modelling provides clues to the evolution of human brain size. Nature, 557, 7706, 496–497.
https://dx.doi.org/10.1038/d41586-018-05197-8

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