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zoom RSS 22000年前頃のパンダのmtDNA解析(追記有)

<<   作成日時 : 2018/06/19 17:17   >>

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 22000年前頃のジャイアントパンダ(Ailuropoda melanoleuca)のミトコンドリアDNA(mtDNA)解析結果を報告した研究(Ko et al., 2018)が報道されました。本論文は、現在では野生のパンダの存在しない、中華人民共和国広西チワン族自治区百色市楽業県(Leye County)の慈竹坨洞(Cizhutuo)で発見されたジャイアントパンダ(以下、パンダと省略)の頭蓋のmtDNAを解析し、他の現生パンダ・138頭の現生熊・32頭の古代熊と比較しました。慈竹坨洞パンダは、放射性炭素年代測定により較正年代で21910〜21495年前と推定されており、パンダのDNA解析としては最古の事例となります。

 mtDNA解析・比較の結果、慈竹坨洞パンダは他の熊よりも現生パンダの方と類似していましたが、現生パンダの多様性の範囲内には収まりませんでした。mtDNAにおいて、現生パンダの間の推定合着年代72000年前(95%の信頼性で94000〜55000年前)となりますが、慈竹坨洞パンダと現生パンダとの推定分岐年代は183000年前(95%の信頼性で227000〜144000年前)となります。慈竹坨洞パンダは、現生パンダ系統とは異なる独自の進化史を有する、と考えられます。しかし、より詳しいパンダの進化史解明のためには、核DNA解析が必要だ、と指摘されています。mtDNAでは、パンダと他の熊との推定分岐年代は1000万年前(95%の信頼性で1200万〜800万年前)です。ヨーロッパで発見されたジャイアントパンダ系統のKretzoiarctos標本は1200万〜1100万年前頃、中国では現時点で最古のパンダとなる元謀(Yuanmou)標本は800万〜700万年前頃と推定されています。

 慈竹坨洞パンダのmtDNAにおいては、コード領域に46ヶ所の同義置換と18ヶ所の非同義置換が確認されました。18ヶ所の非同義置換は、呼吸と関連する6ヶ所の遺伝子に位置しており、現生パンダとは異なる環境への適応の結果である可能性も指摘されています。慈竹坨洞パンダの存在した22000年前頃は最終最大氷期(LGM)で、広西チワン族自治区も現在とは異なる環境だった、と推測されます。慈竹坨洞パンダと現生パンダとで異なる環境への適応と関連した遺伝的相違が見られたとしても不思議ではありませんが、その詳細な解明は、現生パンダ系統の更新世標本も対象とした、核DNA解析・比較が必要となるでしょう。また、かつては現在よりも広範に分布していたパンダの古代DNA解析数を蓄積していくことも必要だと思います。

 慈竹坨洞パンダのmtDNA解析の成功は、亜熱帯環境、それも更新世の標本からということで、たいへん意義深いと思います。慈竹坨洞とさほど変わらない緯度の中華人民共和国雲南省の馬鹿洞(Maludong)では、放射性炭素年代測定法による較正年代では14310±340〜13590±160年前となるホモ属遺骸が発見されており、現生人類(Homo sapiens)なのか、それとも異なる系統のホモ属種なのか、議論が続いています(関連記事)。馬鹿洞人遺骸は慈竹坨洞パンダ頭蓋より8000年ほど新しいので、DNA解析の成功が期待されます。

 私はパンダにはとくに思い入れがないので、現生個体間のmtDNAにおける推定合着年代が現代人の間のそれよりも新しいことさえ知りませんでした。パンダにとくに思い入れのない私は、東京都の上野公園でのパンダの動向に大騒ぎする傾向を以前から苦々しく思っていました。その一つは、和歌山アドベンチャーワールドでは上野公園を大きく上回る繁殖実績を挙げているのに、全国規模の報道機関では上野公園の動向よりもずっと扱いが小さいことです。些細なことかもしれませんが、これは地域間格差の固定化・拡大の象徴とも言えるのではないか、と考えています。

 もう一つは、希少動物のパンダを高額で外国の動物園に貸し出していることです。これは、「パンダ外交」と揶揄されるような中華人民共和国政府の方針にも問題がありますが、中央政府・自治体など受け入れ側の国の行政機関と、パンダが間近で見られることを歓迎する受け入れ側の国の住民の方も、中国政府と同等以上に罪深いのではないか、と思います。見た目の愛らしい希少動物を間近で見られることを喜び歓迎するような心性は、現代日本社会における、鰻や鮪など激減と絶滅の可能性さえ指摘されている生物を平然とじゅうらい通り確保・調理し、食べる行為と根底で相通じているのではないか、と思います。

 欲望の抑制は格差の固定・拡大にも容易につながりかねないので(逆に、欲望の解放も格差の固定・拡大にも容易につながりかねませんが)、安易に主張したくはありませんが、見た目の愛らしい希少動物であるパンダを間近で見たい、という欲望を現代日本社会は抑えるべきだと思います。この議論は、そもそも動物園は倫理的に許されるのか、という大問題ともつながるのですが、そこまで社会的反発の大きそうな具体策にまでいかずとも、まずは、希少動物の外国への貸し出し・受け入れは抑制することが重要だと思います。今はネットで高画質の映像を視聴することも可能なのですから、パンダの生息地域にある保護・研究機関が映像を提供することで、日本も含めて諸外国の国民は当面満足すべきだと思います。まあ、私も悪しき欲望の抑制がじゅうぶんだとはとても言えませんが、たとえ特定の問題に関連する分野に限定しても、倫理的に潔癖でなければある社会問題を提起する資格がない、とはまったく考えていないので、以前からの雑感を述べた次第です。


参考文献:
Ko AMS. et al.(2018): Mitochondrial genome of a 22,000-year-old giant panda from southern China reveals a new panda lineage. Current Biology, 28, 12, R693–R694.
https://doi.org/10.1016/j.cub.2018.05.008


追記(2018年6月20日)
 ナショナルジオグラフィックでも報道されました。

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