アメリカ大陸における大型獣絶滅の要因をめぐる議論

 今年1月23日分の記事にて、『1491 先コロンブス期アメリカ大陸をめぐる新発見』という本を取り上げましたが、同書では、アメリカ大陸における1万年前頃の大型獣絶滅の要因をめぐって、学術的な議論だけではなく、政治的な議論も生じていることが紹介されています。大型獣絶滅の要因については、環境変動や伝染病の流行などが挙げられていますが、人類による大量殺戮説も有力視されてきました。

 アメリカ大陸には更新世末期まで人類が存在しなかったので、人類に慣れていなかったアメリカ大陸の大型獣は、卓越した狩猟技術を有して進出してきた現生人類により、あっという間に絶滅に追い込まれたのだろう、というわけです。しかし、この大量殺戮説は、アメリカ大陸の先住民の印象を貶め、自らの「罪」を相殺し、自尊心を保とうとする「白人」の意識による創作だ、というような批判が先住民運動家などからなされています。人類学や歴史学は、このように政治的議論に巻き込まれやすい学問だと言えるでしょう。


 じっさいにはどうだったのかという問題をめぐっては、『1491 先コロンブス期アメリカ大陸をめぐる新発見』の刊行(原書の刊行は2005年でした)以降にも、研究が公表されています。この研究については、河合信和氏が簡潔にまとめておられますが(過去ログの105)、それを参照しつつ、改めて私なりに要点をまとめておくことにします。

 この研究では、アラスカとカナダのユーコン準州の600以上もの獣と人類の骨などが放射性炭素年代測定法で検査され、馬やマンモスの大量絶滅がおきたのは、13000~10000年前という更新世から完新世への移行期だとされます。この地域では、野生の馬(Equus ferus)が12000年前までに絶滅し、ほぼ同時期に人類の痕跡がはじめて確認されます。11500年前までには、マンモスが絶滅しています。その一方で、バイソンやワピチ(大型の鹿類)やムース(ヘラジカ)は、人類が出現するのとほぼ同時かその直前に、爆発的に数を増やしています。

 馬の絶滅には人類の関与が疑われますが、この地域では人類による馬の狩猟の痕跡は発見されておらず、馬は絶滅前に体型が縮小していました。注目されるのは、バイソンやワピチやムースが激増し、馬やマンモスが絶滅した時期に、この地域の植生が貧栄養の草原に変わったことで、馬とマンモスのいなくなった生態的地位を、バイソンやワピチやムースが埋めたのではないか、ということです。

 バイソンは人類が出現するよりも前の13500年前に激増しましたが、その前の最終氷期最盛期後にも、馬やマンモスよりも少ないながらこの地域に存在したことが判明しています。しかし、バイソンよりも遅れて激増したワピチ(バイソンの1000年後)やムース(ワピチの500年後)は、最終氷期最盛期後にもこの地域には見られません。このことから、ワピチが北ユーラシアからこの地域に進出した後、ムースと人類がほぼ同時期にこの地域に進出したのではないか、とされます。

 また、馬やマンモス以外のラクダやジャイアントビーバーやオオナマケモノやマストドンなどが、18000年前以降には存在が確認できなくなっていることもあわせて考えると、更新世末期から完新世初頭のアメリカ大陸における大型獣の絶滅原因は、人類による大量殺戮ではなく、環境変動あるいはもっと微妙なメカニズムではないか、とされます。


 マダガスカル・オーストラリア・ニュージーランド・ポリネシア諸島でも、人類がはじめて進出したときに獣の大量絶滅が起きていますから、アメリカ大陸での人類による大量殺戮説は、けっして偏見によるものだけではありません。しかし、この研究の提示する証拠にも説得力はあり、今後は、より広範な地域における詳細な検証が期待されます。


参考文献:
R. Dale Guthrie.(2006): New carbon dates link climatic change with human colonization and Pleistocene extinctions. Nature, 441, 207-209.
http://dx.doi.org/10.1038/nature04604

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