ボイセイの食性

 パラントロプス=ボイセイ(アウストラロピテクス属に分類する見解もあります)の食性についての研究(Ungar et al.,2008)が報道されました。ボイセイは、大きく厚いエナメル質の歯と頑丈な頭蓋骨・下顎骨を有しており、その咀嚼筋は強力だったと考えられています。こうしたことから、ボイセイは堅果や塊茎など固いものを食べていた、と考えられてきました。しかしこの研究によると、こうした通説の見直しが必要になってきそうです。

 この研究では、高倍率の顕微鏡が使用され、ボイセイと他の古人類(アウストラロピテクス=アフリカヌスやパラントロプス=ロブストス)や現生霊長目の歯の微視的使用痕が比較されました。この研究で調べられたボイセイの標本は七つでしたが、そのいずれも、ボイセイは死亡する数日前には固いものを食べていないことを示しており、その歯の痕跡は果物を食べる動物のそれと一致していました。同じくパラントロプス属のロブストス(アウストラロピテクス属に分類する見解もあります)は、ボイセイと比較するとより固いものを食べていたようです。

 この分析結果は通説と矛盾するものですが、リームの逆説に一致していると言えそうです。リームの逆説とは、高度に派生した形態が特化した食性を反映している必要はないとする見解で、動物は他の食資源を見つけられるとき、その形態に適したものを食べることを避けるかもしれない、と説明されます。この論文の著者の一人であるピーター=アンガー博士は、ゴリラは噛み切りにくい葉を食べられるような頑丈な形態を有しているけれど、葉と果物を与えられた場合は、果物を食べるだろう、と説明します。

 これまで、形態からその人類種の食性が推測されることが多かったのですが、アンガー博士が指摘するように、形態が示しているのは何を食べられたかということであり、必ずしも何を食べたかということを示すものではありません。この研究により、近年になって提唱されているパラントロプス属の食性の見直しがさらに進むでしょうし、他の人類の食性についても、形態からの安易な予断を慎まねばならない、との合意が定着する契機になることでしょう。


参考文献:
Ungar PS, Grine FE, Teaford MF (2008) Dental Microwear and Diet of the Plio-Pleistocene Hominin Paranthropus boisei. PLoS ONE 3(4): e2044.
http://dx.doi.org/10.1371/journal.pone.0002044

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