『ビジュアル版 人類進化大全』(悠書館、2008年)

 クリス=ストリンガー、ピーター=アンドリュース著、馬場悠男・道方しのぶ訳で、悠書館より刊行されました。人類進化の様相を、じっさいの発掘現場の様子・化石の生成過程なども紹介しながら、包括的に論じた一冊です。図版や人骨などの写真も豊富であり、古人類学に関心のある人にとっては必読の書と言えるでしょう。一般向け書籍としては高価(税別12000円)なのが難点ですが、それだけの価値のある良書だと思います。

 原書の刊行は2005年なので、その後の情報は論文・書籍・報道などで補わなければなりませんが、本書のほとんどの記述は、基本的には今でも通用する内容になっていると思います。碩学による執筆ということで、私がこれまで知らなかったり、曖昧に理解していたり、誤解していたりしたことも少なからずあり、2005年以降の情報が記載されていないとはいえ、読んで得たものが多くありました。とくに、霊長目と類人猿の進化については、これまでの私の知識が乏しかったこともあり、教えられるところが多々ありました。古人類学の研究の進展は速いので、5年に1度くらいこのような本が刊行されることを期待しています。


 本書を読んで興味深いというか疑問に思ったのは、「北ケニアのロサガムからは、中新世末の550万~500万年前のアウストラロピテクス・アファレンシスの下顎骨が出土している。この化石は、当初、アウストラロピテクス・アフリカヌスのものと考えられていた。しかし、アファレンシスの化石が発見されると、年代値を考慮し、アファレンシスに属すると考えられた」との記述です(P118)。中新世にアファレンシスが存在していたとなると、人類進化史の通説を覆すことになるのですが、特筆されているわけではありませんし、P12~13の図表でも、アファレンシスは鮮新世以降の人類とされています。この記述は誤訳のように思われるのですが、原書を読んでいないので、断定は避けておきます。

 ネアンデルタール人による海産資源の利用(ジブラルタルのヴァンガード洞窟)が、115000年前頃までさかのぼることを知ったのも、本書を読んでの大きな収穫でした。アザラシやイルカのような海生哺乳類については、海岸に打ち上げられた死体を食べており、貝は計画的に収集されていた、と推測されています。どの文献だったか失念したのですが、海産資源を恒常的に利用していたのはホモ=サピエンスだけだった、との見解も以前には提示されていました。現生人類アフリカ単一起源説が優勢となって以降、ネアンデルタール人と現生人類との違いを強調する見解が主流になってきましたが、そうした見解のなかには行き過ぎもあったかもしれません。なお本書では、この事例は人類による世界最古の海産資源の利用例とされていますが、南アフリカにおける164000年前頃の海産資源の利用が、原書刊行後の昨年になって報告されました(Marean et al., 2007)。


参考文献:
Marean CW. et al.(2007): Early human use of marine resources and pigment in South Africa during the Middle Pleistocene. Nature, 449, 905-908.
http://dx.doi.org/10.1038/nature06204
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Stringer CB, and Andrew P.著(2008)、馬場悠男、道方しのぶ訳『ビジュアル版 人類進化大全』(悠書館、原書の刊行は2005年)

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