『類人猿を直立させた小さな骨―人類進化の謎を解く』

 アーロン=G=フィラー著、日向やよい訳で、東洋経済新報社より2008年に刊行されました。昨年10月13日分の記事で取り上げた論文(Filler.,2007)の著者である、フィラー博士による一般向けの単行本です。直立二足歩行の起源は2000万年以上前までさかのぼる、とするフィラー博士の見解は衝撃的だったのですが、私の学識ではじゅうぶん理解できたとは言いがたいだけに、フィラー博士の見解への理解を深めるには最適の一冊だと思い、迷うことなく読んでみました。

 本書では、その研究にも触れられていますが、もっと広く、進化史全般についてフィラー博士の見解が述べられています。本書の基調は、断続平衡説的立場からの進化学「主流派」への批判なのですが、本書の主張と「主流派」の見解とに大きな隔たりがあるようには思われない(人類進化のような個別の問題ではなく、生物進化という大きな枠組みにおいて、という意味で)、というのが私の率直な感想で、「主流派」の見解が戯画化されているのではないか、との疑問も残ります。

 学説史や解剖学に詳しくない私には、本書の主張がどこまで妥当なのか、判断の難しいところですが、きわめて注意して読まねばならない一冊なのは、間違いのないところだろうと思います。ただ、だからといって本書がトンデモ本だというわけではなく、フィラー博士の解剖学・発生学・学説史の学識には敬服すべきところが多々あると思いますし、物語風の学説史は面白い読み物でした。また、恐竜絶滅についての見解にも興味深いものがあります。

 フィラー博士の人類進化の見解については、すでに上記論文で知っていたのでとくに意外な感はありませんでした。人類と大型類人猿を含むヒト上科において、2000万年以上前のモロトピテクス=ビショッピ以降、二足歩行はありふれたものであり、移動に関する形態について、人間が原始的な形態を保持しているのにたいして、ゴリラやチンパンジーのほうがむしろ特殊化したのだ、との見解は通説とは大いに異なります。

 私は解剖学に詳しくないだけに判断の難しいところですが、ナックルウォーキングとして一括されてきたチンパンジーとゴリラとの歩行形態は、解剖学的見地からそれぞれ独立して発生したと考えられる、との本書の見解は、じゅうぶん検討するに値すると思います。

 人類とチンパンジーの共通祖先が二足歩行をしていたとすると、人類系統と考えられてきた、中新世~鮮新世の二足歩行のヒト上科化石が多数発見されているのにたいして、チンパンジーの祖先と考えられるナックルウォーキングをしていた生物の化石が、50万年前頃までくだらないと発見されないという謎を、より合理的に説明することができます。

 もちろん、だからといって、人類進化についての本書の主張がただちに証明されるわけではありませんが、本書の主張が、通説では説明の苦しかった事象を説明できていることは否定できません。今後、直立二足歩行の起源や人類の定義も含めた人類進化の追及において、フィラー博士の見解は無視できないだろう、と私は考えています。


参考文献:
Filler AG.(2007): Homeotic Evolution in the Mammalia: Diversification of Therian Axial Seriation and the Morphogenetic Basis of Human Origins. PLoS ONE, 2(10), e1019.
http://dx.doi.org/10.1371/journal.pone.0001019
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