ネアンデルタール人の絶滅要因

 ネアンデルタール人の絶滅要因についての研究(Banks et al., 2008)が報道されました。ネアンデルタール人絶滅の要因として、それほど単純に区分できるわけでもないのですが、気候変動説と現生人類との競争説が提唱されており、議論が続いています。この研究では、考古学的データと古気候データとが統合され、「環境・文化的適所モデル」が用いられて、ネアンデルタール人絶滅の要因が推測されています。

 分析の対象となる時期は、ヨーロッパにおける中部旧石器時代~上部旧石器時代への移行期で、この時期に、現生人類(解剖学的現代人)がヨーロッパで拡大する一方で、ネアンデルタール人は衰退していき、やがて絶滅します。もっとも、ネアンデルタール人の絶滅時期は、この研究がおもに対象としている年代より新しくなりそうです。なお、以下の年代はすべて較正された暦年代となります。

 この移行期は、43000~35000年前となります。この間の人工遺物とその担い手との関係についてですが、ヨーロッパにおけるムステリアン(ムスティエ文化)の担い手はネアンデルタール人のみという点については、学界でほぼ合意事項となっています。シャテルペロニアン(シャテルペロン文化)の担い手がネアンデルタール人で、典型的なオーリナシアン(オーリニャック文化)の担い手が解剖学的現代人だ、という見解についても、学界ではおおむね合意が得られています。

 ヨーロッパのオーリナシアンは41000年前よりもさかのぼらないだろう、という見解には異論もあり、現生人類によるもっと早期のヨーロッパへの植民を想定する研究者もいますが、シャテルペロニアンがヨーロッパ最初のオーリナシアンよりも古く40500~39000年前よりも新しくならないことはほぼ確実とされます。また、フランスのムステリアン遺跡のうち年代的に信頼できるものが40500年前より新しくならない、ということもほぼ確実とされます。


 こうした考古学的・形質人類学的移行期に対応する気候区分として、この研究では以下の3つが挙げられています。

(1)グリーンランド亜間氷期9~11(43300~40200年前)・・・2つの短期間の寒冷期により区分される、短期間の温暖な時期です。この時期のヨーロッパは、大西洋岸では比較的湿潤で、地中海岸では比較的乾燥していました。

(2)ハインリッヒ=イベント4(40200~38600年前)・・・この時期の西地中海岸はきょくたんに寒冷で乾燥しており、半ば砂漠化していましたが、それよりも北では、草原の拡大の結果としてさほど不毛な土地にはなっていませんでした。

(3)グリーンランド亜間氷期8(38600~36500年前)・・・比較的長く、大西洋岸では穏やかで湿潤な気候で、落葉林の弱い発達も見られました。地中海西岸では、暖かく乾燥した夏と、湿った冬が森林を生み出しました。

 この研究では、環境・文化的適所モデルが用いられ、(1)~(3)の時期のネアンデルタール人と現生人類との適所の推移が推定されています。その結果、(1)~(2)までは、違いがあるとはいえ、ネアンデルタール人と現生人類との適所の広さに大きな差はありませんでしたが、(3)になると、ネアンデルタール人の適所の範囲が激減しているのにたいして、現生人類の適所は以前には含まれなかった地域にも拡大しています。たとえば、(2)まではネアンデルタール人の適所ではあっても、現生人類の適所には含まれていなかったイベリア半島南西部も、(3)になると現生人類の適所になったと考えられます。

 (2)~(3)にかけて気候が穏やかになったにもかかわらず、ネアンデルタール人の適所の範囲が激減したのは、解剖学的現代人の拡大にネアンデルタール人が対応できなかったからだと考えられます。したがって、ネアンデルタール人の絶滅要因としては、気候ではなく現生人類との競争が原因と考えられます。なおこの研究では、ネアンデルタール人と現生人類との接触は確実とされ、両者の文化的・遺伝的交換の可能性も指摘されています。


 以上、ざっとこの研究について見てきましたが、ネアンデルタール人絶滅の要因として現生人類との競争を想定する見解自体は、ありふれたものと言えます。しかし、考古学的データと古気候データとの統合により、両者の環境・文化的適所の推移を推定していくという手法は、なかなか興味深いものだと思います。ただ、その前提となる暦年代については、まだ流動的なところが多分にあるのではないか、との懸念も残ります。


参考文献:
Banks WE, d'Errico F, Peterson AT, Kageyama M, Sima A, et al. (2008) Neanderthal Extinction by Competitive Exclusion. PLoS ONE 3(12): e3972.
http://dx.doi.org/10.1371/journal.pone.0003972

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