さかのぼる押圧剥離の起源

 南アフリカのブロンボス洞窟で発見された中期石器時代の石器には、動物の骨またはいくつかの物体を用いて石片の縁付近を押圧し、比較的小さな石片を剥ぎ取る押圧剥離の技法が用いられている可能性を示した研究(Mourre et al., 2010)が公表されました。押圧剥離の技法は2万年前以降に出現する石器技法とされていたので、この研究の見解が妥当だとすると、押圧剥離の起源が大幅にさかのぼることになります。ブロンボス洞窟は、人類の象徴的思考・現代的行動の起源をめぐる問題で言及されることの多い洞窟で、上部旧石器時代・後期石器時代以降の「先進的」と考えられてきた遺物が出土することで有名です。

 この研究では、ブロンボス洞窟の75000年以上前の中期石器時代の層から発見された複数のシルクリートの先端部が顕微鏡で詳細に分析されました。これらのスティルベイ型両面尖頭器は、槍先に装着されて狩猟の武器として用いられたのではないか、と考えられています。この研究では、これらの尖頭器の複製実験が行われ、その結果、ブロンボス洞窟の75000年以上前の層から発見された石器は、過熱したシルクリートからの製作の最終段階で押圧剥離が用いられたのではないか、と推測されています。押圧剥離が用いられることにより、両面尖頭器の先端は薄く狭く鋭くなります。

 この論文の著者たちは、柔軟に技術を取り入れたことが、6万年前以降に出アフリカを果たした人類集団に利益をもたらしたのではないか、と考えています。「現代的行動」の起源がどこまでさかのぼるのか、という問題は古人類学上で現在高い関心を集めていますが、それが上部旧石器時代・後期石器時代以降ではなく、中期石器時代にさかのぼる、とする近年では優勢になりつつある見解と整合的な研究だと言えるでしょう。ただ、押圧剥離の起源がアフリカ南部にあるかとなると断言はできず、アフリカ東部も主要な候補地となるでしょう。また、アフリカ南部や東部と比較して発掘・研究が大きく遅れている中央・西部アフリカでも、押圧剥離の起源に限らず、「現代的行動」の起源に関する重要な遺物が今後相次いで発見される可能性は低くないだろう、と私は考えています。


参考文献:
Mourre V, Villa P, and Henshilwood CS.(2010): Early Use of Pressure Flaking on Lithic Artifacts at Blombos Cave, South Africa. Science, 330, 6004, 659-662.
http://dx.doi.org/10.1126/science.1195550

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この記事へのコメント

2010年10月31日 22:03
これはご教示ありがとうございます。じつに興味深い研究テーマで、今後の成果が楽しみです。

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