『イリヤッド』におけるネアンデルタール人(2)

 前回の続きです。
http://sicambre.at.webry.info/201208/article_12.html

 60話「聖杯伝説」にてはじめて、ネアンデルタール人と本題との関係を読者が想定することが可能になりました。60話については、108話「聖杯の心」を取り上げた記事で簡単に述べています。
http://sicambre.at.webry.info/200611/article_6.html

 この60話での入矢と柴田との会話にてアーサー王が話題となったのですが、アーサーの語源は熊だと指摘した入矢は、「面白いのは、我々ホモサピエンス以前の人類・・・・・・ネアンデルタール人は“熊”を神聖視していた可能性がある点です」と述べています。秘密結社と聖杯との関わりは、1話前の59話「菊花の約」にてハインリヒ=ヒムラーから語られており、アーサー王を通じて、ネアンデルタール人が人類の禁忌に関わっているのではないか、と読者に予想させるという話の構造になっています。

 59話にて、43話「グラン・ラパン」から始まった赤兎博士の長い物語は終わったのですが、そこでのネタ振りが、1話完結的性格の強いこの60話にて次のネタへと発展していき、次々回に始まる中編物語へとつながっていっています。中編・長編の物語の終盤で提示されたネタが次の中編・長編のネタの前振りになっているという、『イリヤッド』の特徴がよく表れている58話・59話となっています。序盤の時点で始皇帝とアトランティスとの関わりが提示されていたことなどから考えて、おそらく連載開始の時点で物語の基本的な構想は固まっていたのでしょうが、それが、ネタをネタでつないでいくという『イリヤッド』の面白さを可能にしたのでしょう。

 60話の次にネアンデルタール人について言及されたのは、65話「1936年のレスリングマッチ」です。ここで入矢は、テンプル騎士団の信奉したバフォメッドがネアンデルタール人であるという仮説をサボーに語っています。この発言だけを取り上げると、唐突な思いつきのようですが、上述のように、入矢はアーサー王とネアンデルタール人との間に関係のある可能性を考えており、これは入矢の学識・直観力が優れていることを示す発言だと思います。おそらく、エンドレ財団理事長のコバチが秘密結社の一員であるオコーナーと通じていたことから、グレコ神父は入矢のこの仮説をも知ることができたでしょう。79話「ヘラクレスの洞窟」にて、グレコ神父は入矢を以前は過小評価していた、と述べていますが、グレコ神父が入矢を見直す契機となったのが、入矢のバフォメッドはネアンデルタール人という仮説を知ったことにあるのではないか、と思います。

 65話の次にネアンデルタール人について言及されたのは、72話「ゼウスの洞窟」です。72話については、100話まで連載が進んでいた時に、詳しく取り上げたことがありますが、
http://sicambre.at.webry.info/200607/article_15.html
『イリヤッド』全123話中、1話単位では私のもっとも好きな話です。クレタ島のゼウスの洞窟の壁画には、複数の人間に囲まれた中央に奇妙な外見の人間が描かれていました。中央にいるこの奇妙な外見の人間について、グレコ神父はシャーマンと解釈し、テルジス博士はネアンデルタール人だと考えました。グレコ神父が一度はテルジス博士を毒殺しようと考えたことから判断して、ネアンデルタール人説は正解なのでしょうが、だからといってシャーマン説と矛盾するものではなく、おそらくネアンデルタール人のシャーマンということなのでしょう。終盤になって、ネアンデルタール人は現生人類に夢を見る力を与えた存在だと明かされていますが、そうした関係が壁画として残された、ということなのだと思います。

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